ニュースレター(2023年12月30日)2023年の貴金属相場と市場のまとめ
私は昨日から日本に入っています。そこで、本日1日遅れで年間のまとめのニュースレターをお届けします。
なお、日本に滞在中の1月の3週間は簡易的なニュースレターをお届けしますことをご了承ください。
それでは、素晴らしい新年をおむかえください。
週間市場ウォッチ
今週金曜日午前10時半の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり2063ドルと、前週金曜日のLBMA価格のAM価格(午前10時半)から0.39%高で3週連続の上昇で史上最高値をつけた12月4日以来の高さとなっていました。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から1.78%安のトロイオンスあたり23.76ドルと2週ぶりの週間の下げとなっていました。プラチナは午前10時半の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのAM価格から4.88%高のトロイオンスあたり1004ドルと3週連続の週間の上昇で6月半ば以来の高さとなっていました。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムAM価格と比較して、金曜日午前10時半の弊社チャート上での価格は1.30%安のトロイオンスあたり1115ドルと2週ぶりの週間の下落となっていました。
年間の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今年一年の貴金属相場について、年間の価格動きをまとめて、その背景について解説します。
まず、今年の最低値と最高値とそのつけた日付は下記のようになります。
注 先の価格はブリオンボールトのリアルタイムチャートのデータより。日本円の価格はgあたりの価格で、その他はトロイオンスあたり価格。
金においては12月4日に主要4通貨で最高値をつけることとなりました。これは、12月のFOMCで来年の少なくとも3回の利下げをFRB高官が予想していたことが明らかとなり、2024年の利下げ観測が広がり、ドルと長期金利が下げる中、同日月曜日のアジア時間開始直後の薄商いの際に価格が急騰したことからでした。
それに対し、より工業用途の需要が大きい銀、プラチナ、パラジウムの相場は、需要高まりで価格が上昇し、景気後退懸念で下げることから、金とは異なる時期に最高値、最低値をつけています。銀は3月初旬の米地域銀行の破綻後の懸念の拡大時に最低値をつけ、プラチナは中国の景気後退の懸念等からも11月に最低値をつけ、パラジウムはガソリン車の排ガス用触媒需要が8割であることからも、将来的な需要減観測で今年後半に大きく下げることとなりました。
それでは、次に前年末から今年末までの価格の動きについて見てみましょう。
* 金、プラチナ、パラジウム価格は2022年12月30日のLBMAのAM価格。銀はLBMA価格。
** 金、プラチナ、パラジウム価格はブリオンボールト価格チャートの午前10時半の価格。銀は12時の価格。
金価格はすべての主要通貨で大きく上昇していることが分かります。特に円建てにおいては、前年の14%近い上昇に続き、今年は円安が進む中で25%を超えることとなりました。
それに対し、銀は年間で若干下げ、プラチナは前年10%を超えて上昇したものの、今年は年間としては下げ、パラジウムは前年の7%の下げに続き、37%と急落することとなりました。
なお、今年の金価格の上昇は、中央銀行の前年に続く史上最高の需要にサポートをされる中で起きていますが、機関投資家や個人投資家が利用する金のETFの残高においては減少傾向で、投機家が利用するコメックスの金先物・オプションのネットロングポジションが過去5年平均を下回る中で起きており、これらの投資商品への資金流入が起きることでさらなる上昇の可能性はあることとなります。
それぞれの投資商品の年間の動きについては、下記のその他の市場のニュースで詳細について記載しています。
今週の金相場の動きと背景について
今週金相場は、欧米がクリスマス休暇であった月曜日はほぼ動きが無く、火曜日は米国が市場に戻る中で、欧州やオーストラリアやニュージーランドが引き続き休場である中で、トロイオンスあたり2065ドルで終えていました。
そして木曜日には、米国の7年物国債の入札が低調であったことからドルと長期金利が下げて、2088ドルまで上昇したものの、利益確定や年末を前の調整からも2066ドルへ戻して終えていました。
ドルインデックスは同日7月下旬以来の低さ、長期金利も7月半ばまで下げていました。
そして、同日発表のリッチモンド連銀製造業指数が予想を下回る数値であったことも、FRBによる近い将来の速いペースの金利引き下げ観測が広がる要因となっていた模様です。
そこで、CMEのFEDWatchツールでは、1月のFOMCでの利下げ観測も20%を割る水準まで上昇し、3月の利下げは90%を超えていました。
なお、世界指標とされているLBMA価格において、同日は2069.40ドルをつけて過去最高値を更新したことがロンドン貴金属市場協会(LBMA)によって発表されていました。
昨日金曜日は、多くの市場参加者が年末を前に休暇に入る、もしくはLBMA価格も午前中のみの発表となっていたことからも、半日のみの取引ともなり薄商いの中で、月末、四半期末、半期末、年末のポジションの調整が行われていたようで、トロイオンスあたり2062ドルへ下げて終えていました。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、昨日金曜日に最新データの12月26日分が発表され、クリスマス休暇の後に金価格が引き続きFRBの翌年の金利引き下げ観測の広がりで上昇する中で、全ての貴金属で強気ポジションを2週連続で増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは2週連続で19日までに18%増、26日までに3%増加して421トンと3週ぶりの高さとなっていたこと。価格は前前週に3.1%高、前週は1.4%高でトロイオンスあたり2069.40ドルと、LBMA価格では史上最高値。2023年の平均はネットロングで286トンと2022年平均の178トンを上回ったものの、5年平均の354トンの19%減。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、19日までに82%増で、26日までに5%増と2週連続で増加してネットロングで1797トン。価格も前々週は4.14%高、前週は0.54%高で24.04ドルと2週ぶりの高さ。ちなみに2023年の年間平均はネットロングの1797トンで、2022年の1682トンを上回ったものの、5年平均の3564トンを50%下回る。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは19日の週にネットロングへ転換し、26日には43%増の26トンとなっていたこと。価格は前前週3.2%高、前週は2.7%高とトロイオンスあたり976ドルと4か月ぶりの高さへ上昇していたこと。 2023年年間平均はネットロングで7.3トンと2022年の2.6トンから増加していたものの、5年平均の12トンを39%下回る。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートであったものの19日の34%減と26日に11%減少して18トンと7か月ぶりの少なさ。価格は19日までに26%高と3か月ぶりの高さの後、26日までに2%安で1174ドル。2023年年間平均はネットショートで21.8トンと、2022年の2.7トンを上回っていたこと。5年平均はネットロングで6.8トン。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週1週間で0.9トン(0.1%)増で879トンと週間の増加。月間でも2.6トン(4.4%)増で2か月連続の増加。年間では、38.53トン(4.4%)減ではあるものの、2022年の57.2トン(5.9%)減、2021年の195トン(6.8%)減より減少ペースは落ちる。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週週間で0.3トン(0.08%)減の398.6トンと週間の減少。月間では2.42トン(0.61%)増で6か月ぶりに月間増。年間では2023年は50トン(11.6%)減で、2022年42トン(8.9%)と2021年の36トン(7%)を超える早いペースで減少。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週71.2トン(0.52%)減と13,719.87トン。しかし、月間ベースでは100.21トン(0.74%)増で4か月連続の増加。2023年は年間では936.56トン(6.44%)減であったものの、2022年の1937トン(12.2%)減よりは遅いペースで、2021年の867トン(4.2%)減よりも早いペース。
- 金銀比価は、今週86台半ばで終え、2023年年間の平均は83.27。2022年は83.39とほぼ同水準。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1058ドルで終え、2023年の平均は975と、2022年の840を上回る。2021年平均は708.82ドルで5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは111ドルで今週終える。2023年平均は371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。2021年の平均は1305ドル。5年平均は924。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週平均は32ドルと38ドルから下げていたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇していたこと。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週前週平均比で、金は16%減で前年12月末以来の低さ、銀は12%減と前年12月末以来の低さ、プラチナは35%減で10月末以来の低さ、パラジウムは43%減で7月末以来の低さ。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は11月27日に負の相関関係となり、-0.49と強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は11月21日から負の相関関係へ転換して-0.70と関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は正の相関関係に11月27日に転換し、0.37と関係を若干強めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週はクリスマス休暇もあり、重要経済指標の少ない週となりましたが、来週は欧米は2日から通常業務となり、火曜日には主要国の製造業PMI、水曜日には米ISM製造業景況指数、米雇用動態調査(JOLTS)求人件数とFOMC議事録、木曜日に主要国のサービス部門PMIと米ADP全国雇用者数、新規失業保険申請件数、金曜日には米雇用統計等、市場が注目する指標が続くこととなります。
詳細は主要経済指標(2024年1月1日~5日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
2023年の最終営業日の本日の金相場を解説する時事通信のコモディティーニュースで、ブリオンボールトのリサーチのデータ及びコメントが引用されていました。
ここでは、ブリオンボールトが分析した年間の金価格のパターンにおいて1月は過去20年間で14回、平均2.9%上昇していること、その背景として「年初は投資家が資産構成比率を調整するため、金への投資が増加する傾向がある」という分析が引用され、弊社の顧客を対象とした調査で2024年末の価格予想が2342ドルで、前年の同調査は2023年末で2012ドルと「ほぼ的中」させていることも紹介されています。
この記事全文は、コモディティーニュース契約者の方は閲覧できます。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年12月25日~29日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年1月1日~5日)来週の予定をまとめています。
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今年最後の今週のロンドンだよりでは、1年を振り返り、ここで取り上げたニュースをまとめてみました。
この内容を見ると、ウクライナ戦争やイスラエルとハマスの紛争もあり、政治関連が10回を超えて群を抜いていました。その他、スポーツ関連が6回、王室関連が3回と続くこととなりました。
来年は英国からより明るいニュースを伝えられることを希望しています。
1月 日本貴金属マーケット協会(JBMA)主催の日本で行われた新年ネットワーキングイベントについて
2月 スナク政権が面していた問題と支持率の低迷について、英国の緊急災害委員会(DEC)について、スコットランド自治政府のスタージョン首相の辞任について、ウクライナ戦争1年目を迎えてウクライナ関連ニュース
3月 北アイルランドの貿易関連問題の進展について、英仏海峡を不法に渡る難民問題について、英国政府の予算案について、サッカー男子の欧州選手権予選でのイングランドチームの活躍について、ウィンブルドンテニス選手権の開催団体がロシアとベラルーシ国籍の選手のエントリーを認めたこと
4月 「となりのトトロ」劇場版が英国の舞台賞を受賞したこと、チャールズ国王の戴冠式の詳細について、ラーブ副首相兼大法官の辞任について、ロンドンマラソンでモハメド・ファラー選手がマラソンの引退をしたこと
5月 ブリオンボールトが共催した大英博物館のエキジビションについて、チャールズ国王の戴冠式関連情報について、ロンドンで行われたプラチナウィークについて、英国サイクリング協会がトランスジェンダーの女性をカテゴリーから禁止したこと
6月 日本帰国中でロンドン便りはお休みをいただいていました。
7月 ウィンブルドンテニストーナメントの話題について、英国の高インフレとストライキについて、スナク政権がLGBT(性的少数者)で解雇されたり嫌がらせを受けた退役軍人に謝罪をしたこと、英国元政治家ファラージ氏の銀行口座が理不尽に銀行によって閉鎖された問題について
8月 スナク首相の自宅の屋根に環境活動家が上って抗議した背景について、英仏海峡を渡る違法難民対応のスナク政権の政策について、サッカーの女子ワールドカップ関連ニュース、大英博物館の所蔵品の一部が紛失、盗難していたことについて
9月 ロンドン全域に広がった排気ガスの「超低排出ゾーン(ULEZ)」について、故エリザベス女王の命日関連ニュースについて、アメリカの同時多発テロ以来行われているBCGのチャリティーイベントについて、スナク首相の環境関連政策の方向性の変化について、ロンドン警視庁が行った警官への判決に対する抗議運動について
10月 スナク政権の党大会で発表した新たな政策について、英国の補欠選挙の結果について、カーン・ロンドン市長がイスラエルとハマス紛争の停戦を呼び掛けたことについて
11月 コリンズ辞書が発表した今年の言葉について、英国の戦没追悼の日に親パレスチナのデモが行われることへの政府対応の問題について、英国政府内閣改造について、スナク政府の秋季財政報告について
12月 クリスマス向け話題企業のコマーシャルについて、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)のセミナーとディナーについて、著名英国辞書が発表した今年の言葉について、英国大衆紙が選んだトップニュースについて