ニュースレター(2023年5月5日)金価格はFOMC後に主要通貨建てで史上最高値をつけた後に良好な米雇用統計で上げ幅を削る
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり2005ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から1.12%高と2週連続で上昇しています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から4.50%高のトロイオンスあたり25.88ドルと2週ぶりの週間の上げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から2.72%安のトロイオンスあたり1045ドルと2週連続の週間の下落となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は2.51%安のトロイオンスあたり1459ドルと2週連続の週間の下げとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週金と銀相場は、ファースト・リパブリックの緊急救済後も米中堅銀行への懸念が収まらない中で、FOMC、欧州中銀の金融政策発表と本日の米雇用統計を終えて、今週の大幅な上昇分を戻しながらも、週間では上昇で終える傾向となっています。
それに対し、プラチナとパラジウムは世界景気後退の懸念からも、週間の下げで終える傾向となっています。
今週の主要イベントであったFOMC後の記者会見ではパウエル議長が年内の利下げを否定し、インフレ次第では利上げはあるとコメントしながらも、米中堅銀行への懸念などから、市場は利上げ停止、年内利下げを折り込みながら、主要通貨建てで史上最高値を更新していました。
金価格は3月に入り、米中堅銀行やクレディ・スイス破綻で金融システムへの懸念と、それによる中銀の利上げ停止観測からも、主要通貨建てで上昇をしていました。
そこで、今週のチャートとしては、ドル建て(緑)、ポンド建て(ピンク)、ユーロ建て(青)、円建て(赤)の月末金価格の2001年から先月末までの動きを表すものをお届けしましょう。2013年の価格を100としたチャートで、日本円建て価格が今年に入り円安もあり大きく上昇していることがご覧いただけます。
今週の金相場の動きと背景について
英祝日明け火曜日の金相場は、月曜日のファースト・リパブリック(FRC)のJPモルガンによる緊急救済買収後も米地銀株価の急落が続いていたことからも、トロイオンスあたり2019ドルと4月半ば以来の高値を一時つけて、2016ドルで終えていました。
前日英国が休場中にFRCの破綻とJPモルガンによる救済が発表されて金価格は上昇したものの、その後発表されたISM製造業景況感指数が予想を上回り、FRBの25ベーシスポイントの利上げに変化はないという判断でその上げ幅を戻して、1981ドルで終えていました。
翌火曜日はニューヨーク時間開始とともに米地銀株価の急落と最もボラティリティが高く30%近く下げたPacWestとWestern Allianceの取引が一時停止されたことからも、FRBの今月の利上げ無し観測も多少広がり、米国債が買われ長期金利が下げたことで、金が急騰していました。
この間、円建て金相場は先週金曜日の日銀の金融政策で継続緩和が確認されて円が主要通貨建てで下げていたことからも、金曜日と月曜日と火曜日の3営業日連続で史上最高値を更新し、同日はgあたり8859円を付けていました。
水曜日金相場は、ロンドン時間夕方に発表されるFOMCの結果発表を待つ中で、前日の上げ幅を広げてトロイオンスあたり2024ドル前後で推移していました。
同日発表された金曜日の米雇用統計の先行指標ともされているADP全国雇用者数は29.6万人と予想の14.8万人を上回るものでした。
しかし、前日の米地銀株の急落後に同日米株価は大分落ち着きを取り戻しているものの、地銀への懸念は残っていることからも、米国債の利回りを抑えて、金をサポートしていました。
その後発表されたFOMCでは市場の予想通り0.25%の利上げが発表されましたが、声明文から今後の利上げの可能性が言及されていた箇所が削除され、利上げ停止が示唆されたことからも、パウエル議長は記者会見で利上げの可能性、早期の利下げを否定したものの、一時2078ドルへ急騰し、ドル建て金相場の史上最高値を更新していました。
この際に、ポンド建て(トロイオンスあたり1653ポンド)、日本円建て(gあたり8993円)、また豪ドルと加ドルにおいても史上最高値を付けていました。
木曜日金相場は、前日のFOMC後に上昇した終値をほぼ維持して、トロイオンスあたり2050ドルで終えていました。
同日は欧州中銀が0.25%の利上げを行いましたが、欧州中銀はインフレ対応のためにもさらなる利上げを示唆していました。
また、今週懸念が広がっている米中堅金融機関の破綻に関しては、同日も引き続き地域銀行のパックウェストとウェスタン・アライアンスを筆頭に株価が大きく下げて、米株価指数は4日続落していました。
そこで、米ドルが弱含み、長期金利が低い水準で抑えられていることが金をサポートすることとなりました。
金曜日金相場は、市場注目の米雇用統計が良好であったことから、FRBによる継続利上げ観測の広がりから、トロイオンスあたり2000ドルを一時割って下げた後に、2015ドル前後を推移しています。
米雇用統計では非農業部門雇用者数は25.3万件と前回の修正値16.5万件と予想の17.9万件を上回っていました。失業率も前回と予想の3.5%を下回る3.4%と1969年以来の低さで、平均時給は前月比0.5%と予想と前回の0.3%を上回り、前年比4.4%と予想の4.2%と前回修正値の4.3%を上回っていました。
この雇用市場の強さと、賃金上昇率は、FRBが懸念しているインフレの高止まりを示唆し、米中堅銀行懸念による利下げ停止観測を後退させ、米景気悪化への過度な警戒が和らぎ、米株価が反発し、ドルと長期金利が上昇していることも背景の模様です。
その他の市場のニュ―ス
- ワールドゴールドカウンシルが2023年第1四半期の金需給レポートを発表し、この四半期の需要は1081トンと、前年同期比13%減であったこと。その中で中銀需要強く前年同期比176%増の228トン、地金と金貨の需要は5%増の302トンで、宝飾品需要は2%減の508トンであったことが伝えていたこと。供給は金鉱産出量が2%増でリサイクルも5%増であったことから、全体では1%増の1174トン。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの4 月25日分が発表され、前日にファースト・リパブリック・バンクの1000億ドル強の預金引き出しのニュースで銀行株を中心に株価が下げる中で、金は3週連続で強気ポジションを減少させ、銀とプラチナは強気ポジションを増加させ、パラジウムは12週週連続で弱気ポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から0.8%減少して414トンと3週連続で減少させていたこと。この間建玉は、5.9%減と5週ぶりの低さで、価格は前週比0.6%安でトロイオンスあたり1987ドルと3週連続で下げて3月初旬の低さとなっていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは6週連続でネットロングで、前週比16%増の3914トンと1月半ば以来の高さで、価格は0.76%安でトロイオンスあたり29.90ドルと7週ぶりに昨年4月半ば以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、32.8%増で37.96トンと3月8日の週以来の高さへ増加していたこと。価格は前週比0.65%高でトロイオンスあたり1080ドルと前週の1月10日の週以来の高さ。
- コメックスのパラジウム先物・オプションのネットショートで、0.79%増の2.98トンと12週連続で増加して12月末以来の大きさへ増加。価格は前週比8.2%安でトロイオンスあたり1494ドルと、前週の2月7日の週以来の高さから下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で3.8トン(0.4%)増で930.03トンと、2週連続の週間の増加の傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.74トン(0.16%)減で452.43トンと前週の昨年11月初旬以来の高さから7週ぶりに週間の下落傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で43.16トン(0.3%)減で14,521トンと、週間の減少の傾向。
- 金銀比価は、今週79台後半で始まり、本日79前半で終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、930ドルで始まり、本日997ドルまで上げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、408で始まり水曜日に366ドルと2018年末以来の低さに下げた後に、本日412へ上昇して終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週人民元建て価格が史上最高値を連日更新する中で、週間の平均が2.61ドルと昨年6月半ば以来の低さで、前週の6.85ドルから下げていたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は昨日までで、金とパラジウムは27%と0.6%と前週から上げて、銀とプラチナは21%と2%減少してていたこと。金の取引量は3月末以来の高さ。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週はFOMCと欧州中銀の金融政策発表と本日の米雇用統計で市場が大きく動いていますが、来週も主要中銀の政策金利に関わる指標、また、米地銀や債務上限問題関連のニュースも重要となります。
そこで、注目指標は水曜日の米消費者物価指数、木曜日のイングランド銀行金利発表、米卸売物価指数等となります。
詳細は、主要経済指標(2023年5月8日~12日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年5月1日~5日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年5月8日~12日)来週の予定をまとめています。
- 【金投資家インデックス】月間平均金価格が2000ドルと記録を更新する中で米投資需要が急増
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では明日行われるチャールズ国王の戴冠式の準備と当日の詳細、昨日行われた地方選挙で与党保守党が大きく議席数を減らしていることが大きく伝えられています。
そのような中で、弊社が共催している大英博物館の新たなエキジビション「Luxury and power: Persia to Greece」が今週から始まり、そのプレス向けイベントとスポンサーを対象としたオープニング前のイベントに参加してきましたので、お伝えしましょう。
今回のエキジビションは紀元前5世紀にアテネとその同盟国がペルシャ帝国を打ち破った際に、ギリシャ兵士が目にした驚くほど豪華な宝飾品と、それに対して民主主義の規律と自制によって勝利を収めたギリシャの堅実な装飾品との比較、その後ペルシャ文化の影響を受けて変化した品々などが展示されています。
今回の展示で最も注目されているのは、現在のブルガリア(古くはトラキア)から出土されたパナギュリシテ宝物で、今回は9つの金製品が展示されています。
これは、1949年に地元の労働者の兄弟が偶然に見つけたもので、8つの角杯(Rhyton)と一つのアンフォラ様の金製品で、総純金量が6キロを超えるものときらびやかなものです。
この宝物はブルガリアの国立歴史博物館の所蔵品が貸し出されたものとのことで、オープニングにはブルガリア副大統領が来賓として招かれて、オープニングのスピーチを行っていました。
紀元前のペルシャやギリシャで使われていた品々は歴史を超えて今も当時の生活や、この地域が如何にアジアと欧州をつなぐ重要な地域であったことを物語っており、改めて2000年を超える歴史を感じる時間となりました。