ニュースレター(2023年9月8日)金価格は好調な米経済指標で前週の上げ幅をほぼ失う
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1929ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.6%安と2週ぶりの週間の下げでほぼ4週ぶりの低さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から6.5%安のトロイオンスあたり23.04ドルと3週ぶりの下げでほぼ3週ぶりの低さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から8.4%安のトロイオンスあたり900ドルと2週ぶりの週間の下げで8月半ば以来の低さとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は0.96%安のトロイオンスあたり1215ドルと3週連続の週間の下げで8月半ば以来の低さとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、前週とは異なり予想を上回る堅調な米経済指標を受けて、FRBの政策金利引き上げ、もしくは長期の高い金利観測が広がり、ドルインデックスが3営業日連続で上昇して3月の米地域銀行破綻前の高さへ上昇し、長期金利も先月半ばにつけた昨年11月初旬の高さへと上昇していたことから、ドル建て金価格においては前週の上げ幅をほぼ失う水準まで下げていました。
しかし、他の主要通貨では、今週ベイリーイングランド銀行総裁が将来の政策金利引き上げの必要性は無いとも述べたことで、ポンドが為替市場で下げていたことからも、ポンド建てで0.7%高、ユーロ建てでは0.4%高、日本円建てでも0.4%高とドル建てとは異なっていることが見られています。
ちなみに、今週対ドル16年ぶりの低さへ下げた人民元建て金相場は本日も史上最高値をつけていました。
今週のチャートとしては、この数か月貴金属価格に強い影響がある市場のFRBによる金利予想と金価格の関係を見ていただくためにも、FRBの来年5月の段階の金利予想(緑色)と反転させたドル建て金価格(黄土色)と実際のFRBの政策金利(赤のドット線)の動きを見ていただきましょう。
ここで、反転をさせた金価格とFRBの金利予想が今年6月半ばからほぼ同じ動きをしていることが見られます。つまりは、この数か月はFRBの政策金利が翌年5月の段階で下がる予想が高まると金価格は上昇をし、その反対では下げていたということになります。
なお、今週は中国のサービス部門PMIや貿易収支等の経済指標が中国の景気後退を示唆していたことで、工業用途需要の高い銀、プラチナ、パラジウムは価格をさらに押し下げられていました。
そこで、金銀比価は3週ぶりの高さへ押し上げられ、金に対するプラチナのディスカウントもひと月ぶりの高さへと上昇していました。
今週の金相場の動きと背景について
週明け月曜日ロンドン時間午前中に金価格はドル建てで前週金曜日の上げ基調を受け継ぐ中でトロイオンスあたり1946ドルまで一時上昇し、その間為替市場で日本円と人民元が対ドル弱含んだことからも、日本円建てと人民元建てでそれぞれグラムあたり9152円と465元と、史上最高値を更新していました。
その後、ドル建て金相場は、ドルが多少戻して強含んだことで、上げ幅を失って1937ドルと前週終値を下回る水準で終えていました。
火曜日金相場は、長期金利が急騰する中で、トロイオンスあたり1926ドルへ下げて終えていました。
この長期金利の上昇は、企業の社債発行増増等による米国債の需給緩和懸念が売りを誘ったと分析されていましたが、それに加えて原油産出国の減産継続で原油価格が昨年11月ぶりの高さとなっていたことも、高インフレによるFRB金利引き上げ観測を広げたことが背景となっていました。
なお、同日は前日に続き日本円建てでグラムあたり9152円と史上最高値を更新していました。
水曜日金相場は、米経済指標が予想を上回り、ドルと長期金利が上昇したことからも、トロイオンスあたり1917ドルと8月29日以来の低値へと下げて終えていました。
同日発表された指標は、米ISM非製造業指数で、予想の52.5と前回の52.7を上回る54.5をつけて6か月ぶりの高さとなっていました。
また、同日今年のFOMCでの投票権を持たないボストン連銀のコリン総裁は、次のステップを検討するためにデータを解釈する際に忍耐が必要と述べていたものの、同様に投票権の無いセントルイス連銀のブラード総裁は、今年のもう一回の利上げを織り込むべきと述べていました。
そこで、ドルは3月初旬来の高さ、長期金利(10年物)は8月22日以来の高さへと上昇していました。
木曜日金相場は、前日同様にドルと長期金利が高止まりする中で、トロイオンスあたり1920ドルと若干前日終値からは上昇して終えていました。
同日発表された米新規失業保険申請件数は21.6万件と予想の23.4万件、前回の22.8万件も下回り、前日のISM非製造業指数が大きく上振れしたことで広がったFRBによる追加利上げと長い高い金利観測がさらに広がり、ドルと長期金利を引き上げていました。
また、ウィリアムズNY連銀総裁は、金融政策は現在良い位置にあるとし、引き続きデータを精査して金利の方向性を決めるべきと述べていましたが、グールズビーシカゴ連銀総裁は、FOMC内での議論が、金利をどこまで上げるべきかという議論ではなくどのぐらい持続するかという議論が、急速に近づいているとも述べていましたが、市場への影響は限定的となっていました。
そこで、ドルインデックスは3月初旬の高さへ上昇し、長期金利は若干下げて終えたものの、引き続き8月22日以来の高さとなっていました。
本日金曜日金相場は、ドルが3営業日ぶりに若干下げ、長期金利も同様に下げる中で、トロイオンスあたり1929ドルへと一時上昇していたものの、ロンドン時間夕方に前日終値の水準の1919ドルまで下げて推移しています。
当初のドルと長期金利の動きは、週末を前に今週上昇を強めていたドルと長期金利の調整の下げが、金の上げにつながっていたようですが、ドルと長期金利が下げ幅を削り、金は押し下げられている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- 中国の中央銀行が8月にも10か月連続で金準備を増加させ、29トン増の2165トンとしたことが発表されていたこと。そこで年初からの増加量は155トン。
- それに対し、金ETFの残高は8月も3か月連続で減少し、46トン減で3341トンとしていたこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの8月29日分が発表され、悪化した米雇用動態調査で貴金属価格が上昇した際に、パラジウムを除きすべての貴金属で強気ポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から126%増で181トンと5週ぶりに増加していたこと。この間建玉は、0.46%減と2週ぶりに減少し、価格は前週比1.97%高でトロイオンスあたり1930ドルと5週ぶりに上げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、2週連続でネットロングで、1081%増の2718トンと、7月25日以来の高さ。価格は3.55%高でトロイオンスあたり24.22ドルと上げて8月1日以来の高さ。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、3週ぶりにネットロングへ転換し11.5トンと、6月20日以来の高さ。価格は前週比5.5%高でトロイオンスあたり979ドルと2週連続の上昇で、7月18日以来の高さ。
- コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、8.9%増の29.26トンと増加していたこと。価格は前週比5.04%安でトロイオンスあたり1224ドルと2週ぶりに下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で4.3トン(0.5%)増で890.64トンと前週に5週ぶりの週間の増加後に、再び週間で減少の傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で1.7トン(0.4%)減で428.31トンと、2020年5月6日以来の低さへ下げて、7週連続の週間の減少傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で42.72トン(0.31%)減で13,577.33トンで、2020年5月15日以来の低さで、4週連続の週間の減少傾向。
- 金銀比価は、今週80台半ばで始まり、本日83台と半ばへと3週ぶりの高さへ上昇して終える方向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、983ドルで始まり、本日1021ドルとひと月ぶりの高さへ上昇して終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは275ドルで始まり、本日304ドルと2週間ぶりの高さへ上げて終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、人民元建て金価格が史上最高値を更新する中で、週平均で51ドルと前週の39ドルから上昇していいること。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は1%増でひと月ぶりの高さ、銀も1%増で、プラチナは6%増と10週ぶりの高さ、パラジウムは26%減。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は今週-0.360まで下げて、7月半ば以来の低さへ負の相関関係を弱める。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は今週正の相関関係(二つの数値が同じ方向へ動く)へ転換して0.28、S&P500種と金の相関関係も正でありながら、0.81へと8月半ば以来の弱さとなっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は水曜日のISM非製造業指数や木曜日の新規失業保険申請件数などの予想を上回る指標で、FRBによる長期の高い金利観測が広がることとなりましたが、来週も主要国の指標へ市場は注目することとなります。
そこで、水曜日の米消費者物価指数と木曜日の米卸売物価指数は重要となります。また、木曜日の欧州中央銀行の政策金利発表もまた、為替市場を動かして貴金属市場にも影響を与える可能性がありますので注目となります。
詳細は主要経済指標(2023年9月11日~15日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年9月4日~8日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年9月11日~15日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年9月4日)人民元と円建て金価格が通貨安で史上最高値を更新
- 【金投資家インデックス】金の投資家は金保有を維持する中、新規の買いは未だ見られず
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、英中部の地方都市のバーミンガム市議会が事実上の財政破綻宣言をしたこと、元兵士のテロ容疑者が収監されていた刑務所から昨日配達トラックの下に体を括り付けて脱走して未だ行方の手掛かりがないこと、そして週末にインドの首都ニューデリーで行われるG20サミットにスナク首相が到着し、これはインド系英国首相として初めての同国訪問であることが大きく伝えられています。
そのような中、本日は故エリザベス女王の命日であることが大きく伝えられていますのでご紹介しましょう。
英国王室は本日王族の集まりや行事は計画しておらず、チャールズ国王は本日声明を出して女王の「献身的な奉仕」を振り返るとともに、国民に対してご自身とカメラ王妃に対する国民の「愛情と支援」に謝意を表していました。
そして、女王が最後を過ごしたスコットランドのバルモラル城で「静かな私的な」一日を送る予定とのこと。
そして、ウィリアム王子とキャサリン妃はウェールズのセント・デービット大聖堂で女王のための私的な礼拝を行う予定で、X(旧ツィッター)で故女王陛下の並外れた生涯とレガシーを偲び、「陛下をお慕いしている(We all miss you.)」と女王との写真と共に投稿しています。
そのような中、ヘンリー王子は一人で女王が葬られているウィンザー城のセントジョージ礼拝堂を訪問していたことが伝えられています。
多くのニュース番組は、チャールズ国王の在位一年に関しても分析をしていますが、故エリザベス女王の遺志を継いで、ご自身の考えを抑えて国に仕えている姿からも、予想を上回るものと好意的に伝えているようです。
ちなみに、世論調査を行うYouGovがまとめたチャールズ国王の人気度は今年第2四半期の段階で55%と、故エリザベス女王の76%、ウィリアム王子の67%、アン王女の63%、キャサリン妃の62%は下回っているようですが、一年前の42%からは上昇しており、昨年第3四半期以降は55%を守って推移しているようです。
一年を経て、未だ時折ニュースキャスターがチャールズ国王を皇太子と間違えて呼んでいますが、故エリザベス女王の命日の本日、人々は改めて70年間の在位期間に国や国民のために尽くしてきた女王陛下のレガシーに思いを馳せているようです。