ニュースレター(2023年3月24日)金価格は金融システムへの懸念で2000ドルを試す
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1994ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から1.66%高で4週連続の上げで昨年4月半ば以来の高さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から6.01%高のトロイオンスあたり23.20ドルと週間の上げで2月初旬の高さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から0.06%安のトロイオンスあたり978ドルと週間の下げとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は2.58%高のトロイオンスあたり1425と2週連続の上昇となっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週も貴金属相場は、金融システムへの懸念から株式市場が動くことで、金と銀は安全資産の需要で上昇し、プラチナとパラジウムはリセッションの懸念からも頭を抑えられる事となりました。
金融システムの懸念は、今月破綻したシリコンバレーバンクのように、政策金利が急激に上昇することで利回りが上昇し価格が下げて大きな含み損を抱えている中規模銀行からの預金が急激に引き出されていることによる破綻への懸念、それに加えてイエレン財務長官が銀行の預金の保証枠を引き上げる可能性を水曜日に否定し、その翌日に必ずしも完全に引き上げを否定していないと述べるなど政府のスタンスのゆるぎへの懸念、そのような中で高インフレに対応するために主要中央銀行は利上げを続けざるを得ず、それに加えて欧州銀の懸念は米司法省がスイス大手金融機関をロシア制裁に違反した疑いで調べていることが伝えられたことや前週末に緊急救済されたクレディ・スイスの損失の大きさが十分に把握されていないという懸念等も背景になっているようです。
ちなみに、今週は日本円も安全資産の需要で強含んでいることから、日本円建て金相場は週間で0.60%の上げとドル建ての1.66%に劣っていますが、月曜日の史上最高値のグラムあたり8459円から若干下げているものの、8353円と引き続き高い水準を維持しています。
世界指標のLBMA価格は日本円では発表がされていませんが、米国ドル、英国ポンド、ユーロで発表されていますので、この金曜日の価格の推移を今週のチャートとして下記に添付します。ここでも見られるように、ブレグジット後、昨年の小型予算の混乱などからのポンド安からも、ポンド建て金相場が、ドルやユーロと比較しても上昇をしていることがご覧いただけます。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、週末に行われたUBSによるクレディ・スイスの緊急救済で、特定社債市場と銀行株が急落したことで、ロンドン時間早朝に急騰して、ドル建てでトロイオンスあたり2009ドルと昨年のウクライナ戦争勃発時以来の高さをつけ、ポンド建て、日本円建て、豪ドル建て、インドルピー建て、中国人民元で史上最高値を記録していました。
その後、主要中銀の特定社債市場を落ち着かせる声明などもあり、株価が下げを取り戻す中で、当初の上げ幅を失って、1980ドルで終えていました。
火曜日金相場は、世界株式市場が落ち着きを取り戻す中で、トロイオンスあたり1943ドルへと下げて終えていました。
同日はNY時間朝にイエレン米財務長官が米国銀行協会のイベントで「銀行危機が悪化すれば預金をさらに保護する用意がある」と発言したことが伝えられ、金融システム不安への警戒が後退していたことが背景となりました。
水曜日はロンドン夕方に行われるFOMC後の政策金利発表とパウエル議長の記者会見を待つ中で、緩やかに上昇していましたが、FOMC後の発表で一時2000ドルを超えて、パウエル議長の会見後に多少さげたものの1994ドルで終えていました。
FOMC後の発表は、米銀の相次ぐ破綻の中で0.25%の利上げでフェデラルファンドレートは4.75%から5%と9会合連続の利上げで、15年半ぶりの水準となることが決まり、 量的引き締めについては従来の方針を修正せず、参加者が見込む23年末の政策金利が中央値は5.1%と前回12月から変わらず、24年末の政策金利予想は4.3%と前回から0.2ポイントと上方修正されていました。そこで、予想どおりの利上げであるなかで、「継続的な利上げ」が声明から削除されていたこと、またパウエル議長の会見で、今後の利上げに関しては、過去2週間の米中規模銀行の破綻による信用引締めの可能性などからも、前回の会合までの継続的な利上げから数回へと変更すべきだろうとしたことで、今年中の利下げは無いとしたものの、ハト派的との解釈となっていました。
その後、イエレン米財務長官が預金保険上限引き上げを検討しないとしたことで、米株価が下げて金を更に押上ていました。
木曜日金相場は、前日のFOMCとその後のパウエルFRB議長の記者会見後に上昇基調を受け継ぎ、トロイオンスあたり1993ドルと前週終値の水準へと上昇して終えていました。
同日イングランド銀行はほぼ予想どおり0.25%の利上げを発表し、前日下げた米株価は反発していましたが、ドルと2年物利回りは共に下げていたことが、金のサポートとなっていました。
本日金曜日金相場は、金融システム不安への懸念からドイツ銀行等の欧州主力銀行株が軒並み下落し、安全資産の需要で国債価格が上げて利回りが下げる中で、一時トロイオンスあたり2000ドルを超えたものの利益確定の売りもあるようで、1989ドルと前日終値とほぼ同水準へ戻して推移しています。
欧州銀の下げは、信用不安の拡大や景気悪化に加えて、米司法省がスイスの大手金融機関をロシア制裁に反していた疑いからスイスの大手金融機関を調査していると伝えられたことが背景となっている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- 金鉱業界のマーケティング団体のワールドゴールドカウンシルによると、ロシアの中銀が昨年2月から今年の2月までに31トン金準備を増加させていたとのこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、派生商品の取引の管理、決済、取引などを行っているION社がサイバー攻撃を受けたことで公表が遅れていたものの、前週末に3月7日分、週半ばに3月14日分が発表され、今週末には遅れを取り戻す予定であること。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、パウエルFRB議長がタカ派的議会証言を行った3月7日に、プラチナを除く貴金属で強気ポジションを減少させ、シリコンバレーバンクが破綻して銀行業界全般への懸念が高まっていた3月14日にパラジウムを除く全ての貴金属でネットの強気ポジョションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、3月7 日に前週から40%減少して5週連続の減少して11月8日以来の低さとなった後に、14日には254%増と5週分の減少をほぼ取り戻して265トンへと急増していたこと。この間建玉は、前々週からそれぞれ6.9%と10%増と5週連続の減少後に2週連続で増加していたこと。価格は前々週比0.11%安、4.43%高でトロイオンスあたり1908ドルへと上げて1月末以来の高さとなっていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションはネットショートで、3月7日に前週比157%増で昨年10月半ば以来の高さとなっていたものの、14日には79%減で585トンと減少させていたこと。価格はそれぞれ5.74%安と3.49%高でトロイオンスあたり21.64ドルと前年9月初旬の低さから、5週ぶりの高さとなっていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットショートは、3月7日に15%減で、14日にはネットロングに転換して5.2トンなっていたこと。価格はそれぞれ前週比0.63%高と2.9%高でトロイオンスあたり985ドルと3週連続で上昇して5週ぶりの高さ。
- コメックスのパラジウム先物・オプションのネットショートで、3月7日に2.5%増、14日に4%増で2.70トンと6週連続で増加して1月初旬以来の大きさへ増加。価格は前週比それぞれ0.5%高と5.3%高でトロイオンスあたり1495ドルと2019年6月初旬以来の低さから2週連続で上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で4.3トン(0.5%)増で925.4トンと、昨年10月末以来の高さで2週連続の週間の増加傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.91トン(0.21%)増で441.61トンと3月初旬以来の高さで、2週連続の週間の上昇傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で4.28トン(0.03%)増で14,292トンと、4週ぶりの週間の増加傾向。
- 金銀比価は、今週88台で始まり86まで下げて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1000を超えて始まり、900台へ下げたものの、本日1020で終える傾向。これは2020年11月初旬以来の高い水準。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、432で始まり週半ばに407と2018年12月以来の低さへ下げて、本日440で終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週人民元建て価格が史上最高値のをつける中で、週間の平均が18.63ドルと前週の20.55ドルから下げていたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は昨日までで、前週が銀行への不安で全般高かったことから金は18%減、銀は31%減、プラチナが8%減、パラジウムは44%減となっているものの、引き続き金と銀は高い水準。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は前々週からのシリコンバレーバンクの破綻が発端となった銀行全般への懸念、その後クレディ・スイスとそのUBSによる緊急救済への懸念で市場は大きく動き、その後落ち着きを取り戻す中で、水曜日のFOMCと木曜日のイングランド銀行の金融政策発表を注目することとなりました。
そこで、来週も世界の銀行株の動きを含む、主要中央銀行の政策に影響を与えるイベントと経済指標に市場は注目し、FRBがインフレ指標として注目する金曜日の個人消費支出のPCEコアデフレーターは重要で、同日のユーロ圏消費者物価指数へも市場は注目することとなります。
詳細は、主要経済指標(2023年3月27日~31日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週は週末のUBSによるクレディ・スイスの緊急救済後の懸念からも、月曜日にドル建てで金価格はトロイオンスあたり2000ドルを超え、日本円建てを含む主要通貨建てで史上最高値を更新したことで、英国ポンド建て金価格の史上最高値を伝える多くの主要経済紙の記事で、弊社リサーチダイレクター、エイドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。
- テレグラフ「世界の銀行の混乱から投資を守る方法」
この記事は、市場の混乱の中で金が安全な投資先と見られて、ポンド建てで史上最高値をつけたと紹介し、エイドリアンの「貴金属の需要は、中国とインドの消費者の高い需要と中央銀行の金購入からも今後増加する」とコメントを取り上げています。
- This is Money「ポンド建て金価格が史上最高値をつけ、金鉱会社の株価が上昇」
エイドリアンは、専門市場で取引されている地金が最も取引が行い易いコモディティーだと述べ、金市場の流動性の高さと所有権を保有できる安全性が、新たな需要を生み出し、価格を押し上げている」と続けています。
ここでエィドリアンは、「戦争や高インフレの中、金を新たに購入する緊急性が欠いていた中で、銀行株暴落がその環境を一転させた。」とし、すでにある中央銀行や消費者需要に強い投資需要が加わったと述べています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年3月20日~24日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年3月27日~31日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーニュース(2023年3月20日)UBSのクレディ・スイスの緊急救済で無価値となった特定社債市場の急落で金価格が2000ドルを超える
- 中国は記録的な高値で金を購入するが、インドの需要は沈む
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、ジョンソン前首相の新型コロナウィルス規則違反のパーティ問題に関する下院特権委員会の事情聴取について、EU離脱協定見直し案が国会で承認されたこと、そして今週末フランスへ訪問予定であったチャールズ国王の予定が、フランスで行われている年金開始年齢引き上げのデモで延期になったことが大きく伝えられています。
そのような中で、昨日イングランド男子サッカーチームが欧州選手権予選でイタリアにイタリアで1961年以来初めて勝ったことが伝えられていますので、久しぶりにスポーツのニュースをご紹介しましょう。
この昨日行われた欧州選手権の予選の試合は試合としては大きなものではないようですが、キャプテンのハリ-・ケイン選手がペナルティーキックを決めて、国際試合通算で54得点としてイングランド代表で単独最多記録を更新し、これまでの最多のウェイン・ルーニー選手を上回ったことが大きく取り上げられています。
ケイン選手は、昨年のカタールで行われたワールドカップの準々決勝のフランス戦で、ペナルティーを外していたことからも、イングランドチームのサウスゲート監督は、彼の精神力を称えていました。
なお、ケイン選手は29歳と若く、国際試合も81回と過去の最多記録を持っていたルーニー選手の120回、ボビー・チャールトン選手の106回などと比べても出場回数が少ないことからも、この記録が更に大きく更新されることも期待されているようです。
すでに、プレミアリーグではトットナム・ホットスパーチームで204のゴールを決め、最多スコア賞のゴールデンブーツを3回受賞しているものの未だ所属チームの優勝は無いとのこと。
イングランドチームもまた、1966年のワールドカップでの優勝以来大きな大会での優勝は逃し続けています。
ケーン選手率いるチームがこの記録を近い将来に塗り替えてくれること祈っています。