金市場ニュース

ニュースレター(2023年9月1日)金価格は経済指標の悪化でドル建てでひと月ぶりの高さ、日本円建てで史上最高値へ

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1940ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から1.3%高と2週連続の上昇でほぼ4週ぶりの高さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から1.9%高のトロイオンスあたり24.64ドルと3週連続の上げでほぼひと月ぶりの高さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から3.4%高のトロイオンスあたり981ドルと2週連続の週間の上げでひと月ぶりの高さとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は0.51%安のトロイオンスあたり1227ドルと2週連続の週間の下げとなっています。

金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、重要指標が相次ぐ中で、火曜日と水曜日発表の指標の悪化で上昇をし、本日の指標で多少上げ幅を削っていますが、金はドル建てではほぼ4週ぶりの高さへ上昇しています。

そのような中で、今週金価格は日本円建てにおいては、7月の史上最高値を、月曜日から3営業日連続で更新して、水曜日にグラムあたり9141円をつけていました。

これは、指標の悪化によってFRBの利上げ継続観測が後退して、ドルと長期金利が下げる中でドル建て金価格が上昇し、そして政策金利が5%越えのFRBとマイナス金利を継続する日銀の金利差からも、日本円が対ドル弱含んだことが背景となりました。

そこで、今週のチャートとしては、日本円建てを含む主要通貨建て月末金相場を指数化した8月末日までのチャートをお届けしましょう。

ここで、日本円建て金価格(赤)が、年初来の他の主要通貨建ての上昇幅(ドル建て7.2%、ポンド建て1.8%、ユーロ建て5.3%)を超えて18.3%と大きく上昇していることがご覧いただけます。主要通貨建ての月末金価格 出典元 ブリオンボールト

今週他の貴金属は、金の動き同様の背景もありますが、それに加えて中国政府の経済刺激策を好感してパラジウムを除き上昇しています。パラジウムに関しては中国市場の景気後退観測がガソリン車の排ガス処理装置への需要の高さからも、頭を押さえている模様です。

今週の金相場の動きと背景について

英国祝日明けの火曜日金相場は、ロンドン時間午後に発表された経済指標が予想を下回り、トロイオンスあたり1938ドルへと前日から17ドル一時上昇して1936ドルで終えていました。

この悪化していた経済指標は、米雇用動態調査(JOLTS)で、予想の946.5万件を大きく下回る882.7万件と2021年3月以来の低水準であったこと、そして米消費者信頼感指数も106.1と予想の116を下回っていたことからですが、これによってFRBによる利上げ継続観測が一気に後退し、ドルと長期金利が下げたことで、金を押し上げることとなりました。

そこで、CMEnoFEDWatchツールでは、来月の利上げ観測が前日の22%から13.5%へ下げ、11月と12月の利上げ観測もそれぞれ10%ほど下げていました。

ちなみに、月曜日英国が祝日中に日本円建て金相場はグラムあたり9067円と史上最高値をつけて、消費税込みの日本国内価格は史上初の1万円を超えていましたが、同日は日本円が対ドル147円と9か月ぶりの安値へさらに弱含んだことで、消費税抜き価格が再び9108円と史上最高値をつけていました。

水曜日金相場は、前日に続き経済指標の悪化でドルと長期金利が下げる中で、一時トロイオンスあたり1949ドルと8月2日以来の高さへと上昇して1944ドルで終えていました。

同日市場を動かした経済指標は米ADP全国雇用者数で17.7万人と前回修正値の37.1万人と予想の19.5万人を下回っていました。また米第2四半期GDPが2.1%と予想と前回の2.4%を下回っていました。そこで、FRBによる長期にわたる高い金利観測がさらに後退し、ドルインデックスは8月半ば以来の低さ、長期金利は8月9日以来の低さへ下げていました。

そのような中、日本円建て金相場はグラムあたり9141円と史上最高値を再び更新し、人民元建て金相場もグラムあたり462元と史上最高値を更新していました。

木曜日金相場は、FRBが注目する米インフレデータがほぼ予想と一致し、ドルが多少強含む中で長期金利は若干下げ、トロイオンスあたり1939ドルと前日終値から若干下げて終えていました。

このインフレデータである7月個人消費支出PCEコアデフレータは、前月比0.2%と予想と前回と同水準で、前年同月比では4.2%と前回の4.1%は上回っていたものの、予想と同水準となっていました。それに対し、同日発表の新規失業保険申請件数は22.8万件と、前回修正値の23.2万件と予想の23.5万件を下回っていました。

本日金曜日市場注目の米雇用統計後、ドルと長期金利が急落したことで、金価格はトロイオンスあたり1952ドルへと10ドル弱上昇していましたが、その後発表された経済指標が予想を上回り、1938ドルへと下げて推移しています。

発表された非農業部門雇用者数は18.7万人と予想の17万人と前回修正値の15.7万人を上回っていましたが、失業率は3.8%と前回と予想の3.5%を上回り、平均時給は前月比0.2%と前回の0.4%と予想の0.3%も下回り、前年同月比でも4.3%と高い水準ながら、前回と予想の4.4%を下回っていました。

その後発表された米製造業PMIとISM製造業景況指数は、ともに経済活動の拡張と収縮の境である50を下回っていたものの、それぞれ47.9と47.6と予想の47を上回り、ドルが3か月ぶりの高さ、長期金利が3営業日来の高さへ上昇し、金を押し下げているようです。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの8月22日分が発表され、悪化したPMIで貴金属価格が上昇する前に、金とパラジウムは強気ポジションを削っていたのに対し、銀とプラチナは増加させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から65%減で85トンと5週連続で減少して、米地域銀行危機以前の3月初旬以来の低さだったこと。この間建玉は、0.9%増と2週連続で増加して7月25日以来の高さで、価格は前週比0.58%安でトロイオンスあたり1892.75ドルと5週連続で下げて、3月初旬以来の低さとなっていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、2週ぶりにネットロングへ転換して230トンと、前週の3月初旬以来のネットショートの1040トンから大きく動いていたこと。価格は4.37%高でトロイオンスあたり23.39ドルと上げて3月半ば以来の低さから上昇していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、3週連続でネットショートで、18%減の16.9トンと、昨年9月初旬以来の高さから下げていたこと。価格は前週比4.27%高でトロイオンスあたり928ドルと4週ぶりの上昇で、昨年9月末以来の低さから上昇していたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、1.2%増の26.86トンと増加していたこと。価格は前週比3.45%高でトロイオンスあたり1289ドルと2週連続で上昇していたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で6.1トン(0.7%)増で890.10トンと5週ぶりの週間の増加傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で3.44トン(0.79%)減で430.05トンと、2020年5月13日以来の低さへ下げて、6週連続の週間の減少傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で193.97トン(1.4%)減で13,642.77トンで、2020年5月19日以来の低さで、3週連続の週間の減少傾向。
  • 金銀比価は、今週79台半ばで始まり水曜日に78台と前半へと6週ぶりの低さへ下げて79で終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、955ドルで始まり、本日963ドルへ若干上昇して終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは278ドルで始まり、本日249ドルと2018年11月以来の低さへ下げて終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
  • 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、人民元建て金価格が史上最高値をつける中で、週平均で39.28ドルと前週の51.55ドルと2016年に記録がつけられて以来の高さからは下げていいること。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は3%減、銀は23%減、プラチナは42%増と10週ぶりの高さ、パラジウムは42%減。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は今週-0.617まで下げて、7月末以来の低さへ負の相関関係を弱める。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金も-0.34へ、前週の-0.78から弱め、S&P500種と金の相関関係も0.89から0.82へと正の相関関係ながらその関係を若干弱めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は火曜日の雇用動態調査(JOLT)、水曜日のADP全国雇用者数、木曜日のFRBが注目するインフレ指標の個人消費支出コアデフレーター、そして本日の米雇用統計と重要指標が続いていましたが、来週も主要中央銀行の金融政策に影響を与える指標に注目することとなります。

それは、火曜日の主要国のサービス部門PMI、水曜日の米国サービス部門PMIとISM非製造業景況指数、米地区連銀経済報告、木曜日のユーロ圏の第2四半期GDPと新規失業保険申請件数等となります。

詳細は主要経済指標(2023年9月4日~8日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

私は5月に続き9月6日水曜日日本時間19時から(英国時間11時から)サンワード貿易(株)主催の「世界の金融市場の動きから見る金のこれから」というウェビナーで日本貴金属マーケット協会(JBMA)の代表理事の池水雄一様とお話をさせていただきます。

無料で参加いただけますので、こちらのリンクでぜひご登録ください。

サンワード貿易の金投資ウェビナーのイメージ

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、引き続き国民保健サービスで働く医師や鉄道のストについて、そして排ガス規制のための「超低排出ゾーン(ULEZ)」がロンドン市全域に拡大されたこと、そして本日は質の悪い気泡コンクリートが使われた可能性があることで100を超える公立の学校が一部閉鎖される必要があることが大きく伝えられています。

そこで今週は、ロンドン全域に今週導入されたULEZとその問題についてお伝えしましょう。

このULEZは2019年4月に市内の大気汚染を軽減して市民の健康を改善することを目的に、現ロンドン市長のサディク・カーン氏によって導入されました。

この規制では、ある一定の排ガス規定を満たしていない車両に対して通行量の支払い義務を課す設定された区域を意味し、当初はロンドン中心部に限られていましたが、その後2021年10月にその範囲が拡大され、今週からは当初の3倍のエリアであるロンドン全域に広がったのでした。

そこで、今週からはこのULEZ域内に排ガス基準を満たさない車で入る場合は、1日あたり12.50ポンド(約2300円)の通行料が発生することとなります。

反対派の人々は、インフレやエネルギー費高騰しているこの時期に、通行料を課す制度は公正とは言えず、経済的な打撃をもたらすと主張しています。

そこで、反対派と思われる人々によって、ULEZに実効性を持たせるために設置された監視カメラが、先月1日の時点で盗まれたカメラが164台、壊されたカメラが185台で、その後も多くのカメラが使用不可能な状態に壊されているようです。

そのような中で行われた今年7月の、新たにULEZ規制が導入されるロンドン西部の補欠選挙では、保守党が予想を覆して僅差で勝利し、その理由はカーン市長が掲げるULEZの拡大への反対が要因であったと、野党第一党の労働党党首も認めていました。

その後も、規制が拡大される地域の5つの地方政府が、この規制を導入を拒むために司法審査を求め、結果的にはロンドン市長の施策が認められましたが、地方政府レベルでも反対意見は多いようです。

環境問題が重要視される中で、強い反対を受けながらも今回の規制の導入を行ったカーン市長ですが、今後もさらに科学的な根拠を示して、人々の理解を深めることが必要ではあるようです。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

注意事項: ここで発信される全ての記事は、読者の投資判断に役立てるための情報です。しかし、実際の投資にあたっては、読者自身にてリスクを判断ください。ここで取り扱われる情報及びデータは、すでに他の諸事情により、過去のものとなっている場合があり、この情報を利用する際には、必ず他でも確証する必要があることを理解ください。Gold Newsの利用については、利用規約をご覧ください。

SNSで最新情報を入手

Facebook   TwitterYoutube

 

貴金属市場のファンダメンタルズ