金市場ニュース

ニュースレター(2023年2月3日)金相場は大幅に予想を上回る米雇用統計で主要中央銀行の政策金利発表後の上昇幅を失って急落

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1878ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から2.33%安で2週連続の下げで3週ぶりの低さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から1.03%安のトロイオンスあたり23.48ドルと2週連続の週間の下げとなっています。プラチナは本日午後3時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から0.54%安のトロイオンスあたり1005ドルと4週連続の週間の下落となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後3時の弊社チャート上での価格は1.4%高のトロイオンスあたり1665ドルと3週ぶりの週間の上昇となっています。

2022年の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週は水曜日のFRB、木曜日のイングランド銀行と欧州中央銀行の予想通りの利上げを経て、さらなる利上げを示唆しながらも、ディスインフレ(インフレ鈍化)を認識した中央銀行による利上げペース減速もしくは停止観測が広がり、貴金属価格は全般上昇していました。

しかし、本日の米雇用統計が予想を遥かに上回る労働市場の過熱、賃金インフレが感じられるものであったことから、前日までの金利引き上げ停止観測は一気に後退し、それぞれ9ヶ月ぶりと2週ぶりの低さへ下げていたドルと長期金利が上昇し。金は9ヶ月ぶりの高さから3週ぶりの低さ、銀も9ヶ月ぶりの高さから7週ぶりの低さへ下げる等と価格に大きく調整が入っています。

今週のチャートは、今週FRBの利上げ観測が大きく変化したことが分かる、CMEのFEDWatchツールの利上げ予想のチャートを下記に添付します。

FRBの5月金融会合の金利予想の変化 出典元 CMEのFEDWatchツール

次回3月のFOMCで0.25%の利上げ予想は本日の雇用統計前に83%が97%とほぼ変わりなありませんが、その次のFOMCの5月においては、昨日の段階で利上げなし(現行の4.75%~5.00%)が60%近くへ増加していたものが、本日のデータ発表後に44%まで下げ、0.25%のさらなる利上げ(5.00%~5.25%)が55%と前日の30%から急増していることが見られます。

今週の金相場の動きと背景について

今週は、FRB、欧州中銀、イングランド銀行の政策金利発表、欧州の消費者物価指数、米雇用統計と重要イベントと指標が相次いでいたことからも、週明け月曜日ドル建て金相場は狭いレンジで、前週終値から多少下げる水準のトロイオンスあたり1922ドルで終えていました。

同日は、スペインの消費者物価指数が発表され、市場予想を上回る数値となっていたことで、前週金曜日の米インフレ指標のPCEコアデフレーターが予想を下回っていたことからも、ユーロ圏のインフレ高止まり懸念が際立ち、欧州中央銀行の大幅な利上げ継続観測でユーロが対ドル上昇したことも、ドルを引き下げ金をサポートしていました。

火曜日金相場は、翌日のFOMC後の政策金利とパウエルFRB議長の記者会見を待つ中で、一時トロイオンスあたり1901ドルまで下げたものの、1927ドルまで戻して終えていました。

このロンドン午前中の下げは、翌日のFOMC後の結果を警戒したドルインデックスの動きに反応でしたが、1900ドルでは買いが入る模様で、また同日発表された米第4四半期雇用コスト指数が1.0%と前回の1.2%と予想の1.1%を下回ったことで、インフレ減速、利上げ減速観測が広がったことも背景となりました。

水曜日金相場は、金相場は、ロンドン時間夜に発表されるFOMC後の政策金利とパウエルFRB議長の記者会見を待つ中で、トロイオンスあたり1922ドルと前日終値から下げていました。

これは、同日発表された金曜日の米雇用統計の先行指標と見られているADP全国雇用者数が、10.6万人と予想の17.8万人と前回修正値の25.3万人を下回り、ISM製造業景況指数も前回と予想を下回り、2020年5月来最低で3ヶ月連続の50割れの経済縮小となっていたものの、パウエル議長が注目するJOLT労働調査は、1101.2万件と昨年7月以来の高さで、予想の1025万件と前回修正値の1044万件を上回っていたことで、労働市場の逼迫、賃金インフレ観測もあり、まちまちの指標内容で、FRBの利上げ減速観測が多少ながら後退していました。

その後発表されたFOMC後の金融政策は、0.25%の利上げと予想通りでフェデラルファンドレートは4.5%から4.75%でした。この発表後の市場の反応は限定的でしたが、パウエル議長の記者会見で上昇貴重となり、1952ドルで終えていました。

これは、パウエル議長が記者会見で、インフレの鈍化(ディスインフレ)のプロセスが始まったと述べたことで、早期の利上げ停止観測の広がりから、ドルと米長期金利が大きく下げて金が押し上げられたことからでした。

木曜日金相場は、前夜のFRBの政策金利発表後のパウエル議長の会見後の上昇基調を受け継ぎ、トロイオンスあたり1959ドルと昨年4月以来の高さを一時つけたものの、ロンドン午後にその上げ幅を失って1916ドルで終えていました。

これは、同日はイングランド銀行と欧州中央銀行も金融政策をロンドン昼過ぎに発表し、それぞれ0.5%の利上げで4%と3%と予想どおり引き上げ、欧州中銀のラガルド総裁もインフレ鈍化に触れたことで、欧州国債利回りが下げ、ユーロが下げたことで、相対的にドルと米長期金利が上昇したことが背景となりました。

また、同日ポンド建て金相場はイングランド銀行の金融政策が発表される前にポンド安からもトロイオンスあたり1592ポンドと史上最高値をつけていました。

金曜日金相場は、市場注目の米雇用統計が大きく予想を上回るもので労働市場の逼迫、賃金インフレが継続していることを示唆したことから、トロイオンスあたり1882ドルへと30ドル近く急落して推移しいます。

発表された、米雇用統計の非農業部門雇用者数は51.7万人と予想の18.5万人と前回の22.3万人を大きく上回り、失業率は3.4%と53年ぶりの低い水準で、予想の3.6%、前回の3.5%から改善し、平均時給は、前年同月比4.4%と前回の4.6%からは鈍化したものの、予想の4.3%を上回っていました。

そこで、FRBの利上げ減速観測が大きく後退し、この発表を受けてドルインデックスは3週間ぶりの高さ、長期金利は数日ぶりの高さへ上昇していました。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス


  • 今週金業界団体のワールドゴールドカウンシルは2022年第4四半期と通年の金の需給レポートを発表し、中央銀行の金購入が昨年1967年以来の高水準となったことに牽引されて、通年の金需要は前年比18%増と2011年以来の高さとなっていたこと。

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週火曜日1月24 日に米製造業PMIデータが予想を上回り、FRBの金利引き上げ減速観測が広がり、ドルと10年物米国債利回りが数カ月ぶりの低値へ下げて金価格が上昇する中で、金とパラジウムで強くポジションが増加し、銀とプラチナで強気ポジションが減少していたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、14%増の332トンと8週連続で増加して昨年4月末以来の高さとなっていたこと。ロングは8.1%増で昨年4月半ばの高さで、ショートは2.9%減で昨年4月半ば以来の低さ。建玉は前週から0.36%増で、昨年5月初旬以来の高さ。

  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週比25%減の3254トンへと減少し昨年12月6日以来の低さ。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションは、ネットロングで21.8%減の20.5トンと減少し、昨年10月末以来の低さ。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットショートであったものの、4.7%減で2.4トンと昨年12月半ば以来の低さ。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で1.7トン(0.19%)増で920トンと、3週連続の週間の増加傾向。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.73トン(0.16%)増で453トンと、5週連続で週間の上昇。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で121トン(0.81%)増で14,815トンで、先週シルバースクイーズ以来の大量の増加をした後に、週間の減少の傾向。

  • 金銀比価は、今週81半ばで始まり火曜日に82台へ上昇後に81台へ下げて終える傾向。2022年平均は83.39と前年の71.83からは増加。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)

  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、木曜日に948と9ヶ月ぶりの高さに上昇後に894まで下げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。

  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、605と656の間を推移。605は2019年9月以来の低さ。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。

  • 上海黄金交易所(SGE)は、人民建て金価格が2020年8月以来の高さへ上昇する中で、週間の平均が16.09ドルと前週の13.70ドルから上昇。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。

  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は21%減、銀は9%増、プラチナが22%増、パラジウムは27%増。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は、FRBの金融政策発表が水曜日、欧州中央銀行とイングランド銀行が木曜日、米雇用統計が金曜日と主要イベント及び指標発表が続きました。

また、来週は比較的静かな週となりますが、木曜日の米新規失業保険申請件数と金曜日のミシガン大学消費者態度指数等とともに、引き続きFRB高官の発言が注目されることとなります。

その他詳細は、主要経済指標(2023年2月6日~10日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、スナク政権の主要閣僚の解任について、引き続き様々な業種で行われているストライキ、イングランド銀行の政策金利引き上げ、そしてオーストラリアが新紙幣にチャールズ国王の肖像画ではなく、アボリジニなど先住民族の歴史や文化を象徴する図柄に変更する方針を発表したことなどが伝えられています。

そこで、本日は昨年10月に就任以来問題が多発しているスナク政権について、その支持率の低さも含めて簡単にまとめてみましょう。

今回問題となったのは、保守党の幹事長であったナディム・ザハウィ氏の税務処理で、倫理問題を扱う顧問に調査を命じた結果、閣僚の行動規範に関する重大な違反があったとして、解任したものの、この判断が遅かったという批判が高まっています。

ザハウィ氏はインターネットベースの市場調査会社YouGovの共同設立者であり、この会社売却益関連の税金支払に関して、税務当局との和解の一環として480万ポンド(役7億7000万円)規模の罰金を支払ったことが新聞の報道等で明らかとなり、その規模とザハウィ氏が財務相という税務当局の責任者という立場にあった際に起きたこと等が問題視されていました。

インフレで生活苦を訴える国民が多い中での、一般の人にとっては想像を超える額の罰金額、つまりは収入があったことをメディアも大きく伝えていたことからも、人々の神経を逆なでしていたようにも見受けられました。

今週水曜日には昨年から多発しているストライキでも最大の学校教員や公共交通機関職員等による50万人規模の同時ストライキが行われ、人々の生活費急騰への危機感、不満は大きく、すでに政権への批判は高まっています。

そこで、スナク政権の支持率は、YouGovによると、現段階で支持するが12%で支持しないが70%を大きく下回っています。

2020年4月パンデミック最中には、ロックダウン下で働くことができない人々への所得補助等の対応策等が評価されて、支持率は44%と支持しないの35%を上回っていたものの、それ以降、2021年3月にロックダウン解除関連の政府対応もあり多少支持率が上昇した以外は下落傾向で、昨年のトラス前政権が財源なき減税の小型補正予算発表で、ポンド安、債券安、株安を引き起こした際に支持率最低の7%へ下げた際が最低となっています。

また、野党第一党の労働党との支持率の差はは、ボリス前政権のロックダウン中のパーティ問題発覚2021年12月以降広がるばかりで、本日の段階で次回総選挙で労働党へ投票すると答えた人々の割合が48%であるに対し、スナク首相率いる保守党は24%と大きく差をつけられています。

隣国フランスでも、年金受給年齢引き上げ法案に反発した大規模なストライキが今週行われていましたが、英国における大規模ストライキの解決の兆しはなく、インフレ鈍化による生活費危機懸念の後退の気配は感じられず、スナク政権が支持率を取り戻すきっかけが見えない日々が続くことになりそうです。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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