ニュースレター(2023年10月27日)長期金利が16年ぶりの高さへ上昇する中で、金価格は3か月ぶりの高い水準で堅固に推移
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1983ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.3%安と若干ながら2週ぶりの下げとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から1.92%安のトロイオンスあたり22.77ドルと2週ぶりの下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から0.99%高のトロイオンスあたり904ドルと3週連続の上昇となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は2.99%高のトロイオンスあたり1134ドルと3週ぶりの週間の上げとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属市場は、イスラエルとハマスの紛争と米国の巨大化する債務規模への懸念を背景に、16年ぶりの高さへ高騰する長期金利の環境で、金はLBMA価格ベースでは前週比多少下げているものの終値ベースではほぼ前週末の3か月ぶりの高さの水準で推移するなど堅固な動きを見せています。
そこで、本来金と実質金利は負の相関関係がある(一方が上昇すると他方が下げる)とされていますが、今週に入り正の相関関係(二つが同じ方向へ動く)で、昨年のロシアがウクライナへ侵攻した後以来の強さとなっています。
そこで、今週は実質金利(米10年物物価連動債利回り)と金価格のチャートをご覧いただきましょう。
ここで、10月7日のハマスによるイスラエル攻撃後、金が上昇を始め、実質金利と共に上昇していることがご覧いただけます。
なお、銀価格は安全資産の需要もあり金と共に上昇していたものが、今週に入りそのWar Premiumと呼ばれる地政学リスクの上げ幅を失っている模様です。それに対し、プラチナとパラジウムは過去3週ほど上げ幅は限られてたために、今週多少リスクオン基調もあり上昇している模様です。
今週の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場は米長期金利が16年ぶりに5%を超えて、他の主要国の長期金利も上昇していた中で、ドル建て金価格はロンドン時間昼過ぎまでは堅固に推移していたものの、その後はさすがに下げてトロイオンスあたり1973ドルで終えていました。
なお、同日は通常金価格と負の相関関係(逆の動きをする)物価連動債利回りもまた同日は2008年暮れ以来の高さに上昇する中で、この相関関係が昨年11月以来の低さに下げていました。
これは、イスラエルとハマスの紛争や、同日33兆ドルをすでに超えている米国債務からも長期国債需要が減少していることなどが、通常のパターンを崩して長期金利および実質金利の上昇にもかかわらず、金価格をサポートしていた模様です。
火曜日金相場は、前日激しい動きをした長期金利が落ち着きを取り戻す中、トロイオンスあたり1954ドルまで下げたものの1972ドルまで戻して、前日終値とほぼ同じ水準で終えていました。
債券市場が落ち着きを取り戻した背景に、著名債券弱気派の資産家ビル・アックマン氏が前日米国債のショートポジションを解消し、PIMCOのビル・グロース氏も年内のリセッション入りを見越して担保付翌日物調達金利に連動した先物を購入したことを明らかにしたこと等が背景となった模様です。
また、同日今年最も長い下げ相場を記録していた株式市場も全般落ち着きを取り戻していることで、金の安全資産の需要が多少後退していたようです。
なお、同日ビットコインもビットコインの現物を裏付けとする上場投資信託が近く承認される観測で一年半ぶりの高値を付けていました。
水曜日金相場は、長期金利が再び5%へと上昇する中で、トロイオンスあたり1963ドルまで一時下げたものの、その下げ幅を取り戻して1983ドルと前日から上昇して終えていました。
この動きは同日発表された米新築住宅販売件数が予想を上回るもので、前日の米製造業とサービス部門のPMIに続き、米経済の堅固さで長期の高い金利観測が広がったことが背景となった模様です。
しかし、地政学リスクや米財政赤字拡大等からも、金の安全資産需要は下げの局面でサポートとはなっていたようです。
木曜日金相場は、長期金利が再び5%を若干下回る水準で推移する中で、一時トロイオンスあたり1993ドルまで上昇後、良好な米経済指標で下げたものの、ロンドン時間夕方に1984ドルで終えていました。
午前中の金価格の上昇は、イスラエルのネタニヤフ首相が地上戦を時期は明らかにしないものの準備していると述べていることから、地政学リスクが背景であったようです。
その後発表された経済指標は、米第3四半期GDPで4.9%と予想の4.5%を上回り、米経済の強さを示すこととなりました。
なお、欧州中銀は中銀預金金利は単一通貨ユーロが誕生した1999年以来の最高水準ではあるものの、11会合ぶりに政策金利を据え置き、これは対ユーロでドルが強含み金を押しさげる要因ともなりました。
ちなみに、同日は中国人民元建てと日本円建て金価格が史上最高値を更新し、日本円はgあたり9637円をつけていました。
本日金相場は、FRBがインフレ指標として注目する米個人消費PCEコアデフレーターが発表され、株価が上昇に転じる中で、トロイオンスあたり1983ドルと前週終値を若干下回る水準を推移しています。
米個人消費PCEコアデフレーターは3.7%と予想と予想と同水準で、前回の3.9%を下回っていました。
そこで、米国インフレが鎮静化しているという受け止めが広がり、米株価は前日の良好な決算結果のAmazonを筆頭に上昇してリスクオン基調で、金需要が多少後退している模様です。
その他の市場のニュ―ス
- 今週China Gold Association(CGA)が発表した、9月末までの金需要で、中国において引き続き強い金地金及び金貨の需要が確認されたこと。この詳細は中国の金地金と金貨の需要は引き続き堅固に推移で。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの10月17日分が発表され、イスラム組織ハマスとイスラエルの紛争が激化する中で、予想を上回る米小売売上高にもかかわらず価格が上昇していた際に、パラジウムを除く全ての貴金属で強気ポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは2週ぶりにネットロングに転換して130トンと、昨年11月初旬以来の大きなロングへの転換となっていたこと。この間建玉は7.9%増で7月18日以来の高さで、価格は前週比3.8%高でトロイオンスあたり1928.20ドルと前週のLBMAのPM価格において9月19日以来の高さへ上昇していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、2週ぶりにネットロングに転換して780トンとなっていたこと。価格は4.42%高でトロイオンスあたり22.68ドルと9月26日以来の高さへ上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、4週連続でネットショートであったものの6%減の18トン。価格は前週比1.02%高でトロイオンスあたり895ドルと9月26日以来の高さ。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートで、5%増の34.2トンと2006年に取引が開始されて以来の低さへ増加していたこと。価格は前週比0.53%高でトロイオンスあたり1135ドルと、前週の2018年11月半ば以来の低さから上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で1.4トン(0.2%)減で861.80トンと7週連続で週間の減少の傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で1.85トン(0.46%)減で402.36トンと、2020年4月半ば以来の低い水準で、14週連続の週間の減少傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で58.44トン(0.43%)増で、13,802.18トンで2週ぶりの週間の増加傾向。
- 金銀比価は、今週85後半で始まり、本日86後半と米地域銀への懸念が高まっていた3月21日以来の高さへ上昇して終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1084ドルで始まり、本日1078とほぼ2020年8月初旬以来の高さの水準で終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは194ドルと2018年9月以来の低さで始まり、230ドルへ上げて終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)は、人民元建て金価格が本日も史上最高値を付けたこともあり、週平均は35ドルと前週の48ドルから下げていたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は15%減で2週ぶりの低さ、銀は10%減で4週ぶり低さ、プラチナは9%増で10月初旬の高さ、パラジウムは37%増で8月末以来の高さ。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は今週正の相関関係へ転換し0.420と2022年4月以来の高さ。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は9月20日以来の低い負の相関関係で-0.16の弱さで、S&P500種と金の相関関係は負の相関関係であるものの、-0.39と7月初旬以来の強さとなっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は本日のFRBがインフレデータとして重視する米個人消費支出(PCEコア・デフレーター)へ市場は注目し、引き続きハマスとイスラエルとハマスの紛争にも反応をしていました。
来週もイスラエルとハマスの紛争は近隣諸国を巻き込むことになるのか等と市場は注視することとなりますが、それと共に中央銀行の政策金利発表及び米国の重要指標が続き注目することとなります。
これらは、火曜日の日銀、水曜日のFOMC、木曜日のイングランド銀行の金融政策発表、そして金曜日の米雇用統計となります。それに加え、水曜日の米ADP雇用統計と雇用動態調査(JOLTS)求人件数なども、米国の雇用環境を見るうえでも重要となります。
詳細は主要経済指標(2023年10月30日~11月3日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
イスラエルとハマスの紛争で金価格が急騰する中で、主要メディアでブリオンボールトのコメントが紹介されています。
- ファイナンシャルタイムズ「地政学リスクが国債利回り上昇を覆い隠し金価格が高騰」ここで、エイドリアンは、今週の実質利回りの急上昇は、本来金の価格を下げるはずだったと述べた上で、「現在の大きな問題は、誰が金の価格を支えているかということです。 それは中央銀行だと思う。」とコメントしています。
- 時事通信社のコモディティーニュースでも「金急騰は買い戻し主導=新たな購入進まず―英ブリオンボールト」
この記事では、価格の上昇は先物市場の投機筋の買戻しによって主導されていること、金ETFの残高が引き続き減少していることなどからも、先進国の投資家による購入は、高値圏で進んでいないこと、そのような中で、中国の消費者による根強い現物需要や新興国の中央銀行による金準備増加が相場を支えているという、弊社のコメントが紹介されています。先の記事は、コモディティーニュース契約者の方は閲覧できます。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年10月23日~27日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年10月30日~11月3日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年10月23日)金価格はイスラエルとハマスの紛争と米国債務が債券と株価の重荷となり、実質金利との相関関係を崩す
- 中国の金地金と金貨の需要は引き続き堅固に推移
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、引き続きイスラエルとハマスの紛争について大きく伝えらえていますが、それに加え前週末にイングランドチームが1点差で決勝進出を逃したラグビーワールドカップについて、そして、サッカーの元イングランド代表で1966年ワールドカップでイングランドの初優勝に貢献したボビー・チャールトンさんが死去したことなどが、大きく伝えられています。
そのような中、本日は労働党のサディック・カーン・ロンドン市長が、イスラエルとハマスの紛争の停戦を呼び掛けたことがニュースになっていますのでお伝えしましょう。
カーン市長のコメントがニュースになった背景は、スターマー野党労働党党首が停戦に未だ言及しておらず、あくまでも与党保守党、米国、EUと同じスタンスで、イスラエルが過激派組織のハマスを無力化するための行動を起こすのを止めることなく、人道的支援のための一時停止を求めていることからでした。
カーン市長は停戦は「国際社会がこの地域での紛争が長期化し、さらに壊滅的な犠牲者が出るのを防ぐために、より多くの時間を割くことができる」とし、野党党首とは異なるスタンスを明らかにしています。
ちなみにカーン市長は2016年に英国が未だ欧州連合に加盟していた際に、イスラム教徒として初めて欧州連合国の首都の市長に当選したことでも有名となっていました。
野党労働党内にはイスラム教徒の議員も多く、今回スターマ党首がイスラエルがガザへの電力と水の供給を遮断したことが「適切」かというインタビューに対し、「イスラエルにはその権利がある」と答えたことで、少なくとも19人の地方議員が抗議のために労働党を離党し、オックスフォード地方政府は、この辞職によって過半数を失ったとのこと。
また、39人の労働党の国会議員が「敵対行為の即時解除と停止」を求める議会請願に署名したとのことです。
イスラエルがハマスによるテロ行為から自衛し、人質を取り返すために力を尽くすことは理解できますが、まずは人道支援のための一時的でも停戦をすることは、国際社会は一丸となって引き続き強く求めてもらいたいと願います。