金市場ニュース

ニュースレター(2023年3月3日)金価格は2月の大幅な下げの調整もあり週間の上昇へ

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1843ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から1.75%高で5週ぶりの上げとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から0.05%高のトロイオンスあたり21.10ドルと5週ぶりの週間の上げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から5.47%高のトロイオンスあたり979ドルと2週連続の週間の上昇となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は4.03%高のトロイオンスあたり1450ドルと前週の2019年6月以来の低さから上昇しています。

金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属は、ドルと長期金利が週間の上げを記録し、長期金利は昨年11月以来の高さの4%を超える中で、数週間ぶりに週間の上昇となっています。

2月はFRBの利上げ停止が遅れる観測が広がることで、ドルインデックスは約3%上昇し、米10年物国債利回りは11%と大きく上昇したことからも、金はLBMA価格ベースで5.5%安、銀は11.9%、プラチナは5.7%、パラジウムは12.7%下げていたことからも、調整で上昇をしている模様です。

ちなみに、ドルが強含んだことで貴金属は下げ幅を広げていましたが、他の主要通貨はドル建てで弱含んでいたために、その通貨建てでは下げ幅をある程度抑えて、ポンド建てで3.9%安、ユーロ建てで3.4%安、日本円建てで0.9%安となっていました。

今週のチャートはドルとドル建て金相場の推移をお届けしましょう。ここでも分かるように、ドル建てコモディティの金は、ドルインデックスとほぼ逆相関関係にあり、ドルが強含むと金が押し下げられていることが直近ではかなり明確となっています。

ドル建て金価格とドルインデックスの推移 出典元 LBMAとInvesting.comのデータからブリオンボールトが作成

今週の金相場の動きと背景について

週明け月曜日金相場は、狭いレンジで推移して前週末比多少上げてトロイオンスあたり1818ドルで終えていました。

同日米耐久材受注が発表され、-4.5%と予想の-3.9%を下回り米経済の悪化を示し、2月初旬の雇用統計以来の良好な経済指標、逼迫した労働市場によるFRBの長い利上げ観測が多少後退していました。

火曜日金相場は、ドルと長期金利が高止まりする中で、米経済指標が予想を下回るものであったことからも、月末とこれまでの下げの調整もありトロイオンスあたり1823ドルと前日、前週末から上げて終えていました。

同日発表されたケースシラー米住宅価格指数、シカゴ購買部協会景気指数、リッチモンド連銀製造業指数、米消費者信頼感指数は全て予想を下回っていました。

水曜日金相場は、ドルは前日から多少下げたものの、長期金利が4%へとより近づく中で、トロイオンスあたり1,835ドルと前日終値から上昇して終えていました。

同日は市場注目の米ISM製造業景況指数が発表されて、47.7と前回47.4を上回り、予想の48.0を若干下回っていました。しかし、仕入れ価格指数が前月から上昇するなど、インフレがいまだ上昇していることを示したことで、FRBによる長い利上げ観測が広がったことが、長期金利を引き上げていました。しかし、同日中国の製造業PMIが予想を上回ったことで、中国の経済の強さによる中国の金需要増観測と、ドイツの消費者物価指数が上昇して欧州中央銀行の利上げ観測が広がりユーロが強含み、ドルが若干下げたことなどが金のサポートとなっていました。

木曜日金相場は、前日下げたドルが上昇に転じ、長期金利も4%を超えて昨年11月以来の高さへと上昇する中で、前日の終値から若干上げてトロイオンスあたり1839ドルで終えていました。

同日発表されたユーロ圏の消費者物価は前日のドイツの指標同様に、インフレがいまだピークアウトしていないことが確認されていましたが、同日発表の米労働単価が予想を大きく上回りインフレが引き続き上昇していること、そして米新規失業保険申請件数が予想を下回り、労働市場が継続して逼迫していることも見られたことが、ドルと長期金利を押上げて、金の頭を重くしていました。

本日金曜日金相場は、ドルと長期金利が多少ながら下げる中で、トロイオンスあたり1847ドルと5営業日連続での上昇で一週間を終える傾向です。

この背景は、前日にアトランタ連銀のボスティック総裁が次回のFOMCで「0.25%の利上げに断固賛成する」と述べたと伝えられたことからの模様です。

また、本日発表された米サービス部門PMIとISM非製造業景況指数は共に予想を上回ったものの、総合PMIは前回を多少下回っていたことで、FRBによる長期で大幅な利上げという行き過ぎた警戒感を多少後退させているようです。

ドル建て金相場のチャート 出典元 ブリオンボールト 

その他の市場のニュ―ス

  • 今年1月も中央銀行は金準備を全体で31トン積みましていたことをワールドゴールドカウンシルが伝えていたこと。中国は1月に15トン積み増し、3ヶ月連続の増加。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、派生商品の取引の管理、決済、取引などを行っているION社がサイバー攻撃を受けたことで公表が遅れていたものの、1月31日分が前週末に発表されたこと。今後も順次発表される予定。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、1月31 日に2月のFOMCを前に金を除く貴金属価格が下げる中で、プラチナを除く貴金属で強気ポジションが増加していたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、4.6%増の347トンと9週連続で増加して昨年4月半ば以来の高さとなっていたこと。ロングは2.7%増で昨年4月半ば以来の高さで、ショートは1.2%減で昨年4月半ば以来の低さ。建玉は前週から9.8%減で3週ぶりの減少で、昨年5月初旬以来の高さから下げていたこと。価格は前週比0.16%高で前年4月半ば以来の高さ。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週比19%増の3864トンへと増加し、前週の昨年12月6日以来の低さから増加していたこと。価格は3%安の前年12月初旬の低さ。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションは、ネットロングで44%減の11.5トンと3週連続で減少し、昨年10月半ば以来の低さ。価格は4.2%安で12月20日以来の低さ。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットショートであったものの、1.9%減で2.4トンと昨年12月半ば以来の低さ。価格は前週比5%安で2019年9月半ばいライン低さ。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で4.6トン(0.5%)減で913トンと、1月半ば以来の低さで3週連続の減少傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で1.1トン(0.24%)減で444トンと、2020年6月初旬以来の低さで、4週連続の週間の下落傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で104.7トン(0.7%)減で14,901トンと、2月初旬以来の低さで、2週連続の週間の減少傾向。
  • 金銀比価は、今週火曜日に88を超えて4ヶ月ぶりの高さとなった後に87台で終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、水曜日に868と1月半ば以来の低さへ下げて877で終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、水曜日に459と2019年6月以来の低さへ下げて466で終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
  • 上海黄金交易所(SGE)は、週間の平均が35ドルと、前週の32ドルから上昇して、昨年10月半ば以来の高さ。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は9%減、銀は37%減で今年最小、プラチナが18%減、パラジウムは75%減で1月半ば以来の低さ。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週も市場は主要中央銀行の金融政策に影響を与えるイベントや経済指標に注目をしていますが、来週もこの傾向は続くこととなります。

そこで、金曜日の日銀の金融政策、そして同日発表される米雇用統計は、前回予想以上に良好な数値が大きなサプライズとなり、それ以降FRBによる長期の利上げ観測が広がることとなったために重要となります。また、その先行指標の水曜日発表の米全国雇用者数や木曜日の中国と金曜日のドイツの消費者物価指数等へも市場は注目することとなります。

詳細は、主要経済指標(2023年3月6日~10日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

週末の英主要紙タイムズの「不安定な時代に金を持つことが得策なのか?」という記事で弊社リサーチの分析と、リサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。

この記事では、弊社リサーチがまとめた株と債券を60対40で保有するポートフォリオに金を加えることで利益率が上昇するという分析と、エイドリアンは「金所有は最悪事態に備えるというよりも、投資リスクを分散させる方法として人気が高まっている。」と述べています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、ブレグジット後の英領北アイルランドの貿易関連問題について英国とEUが歩み寄って合意に至ったこと、パンデミック中の閣僚間のSNSアプリ上の会話が漏洩されたこと、4月に減額される予定の政府のエネルギー費関連の補助が現在の水準で維持される可能性があること等が大きく伝えられています。

そこで、日本ではあまり伝えられていないようですが、北アイルランドの貿易関連問題の今回の合意についてご紹介しましょう。

北アイルランドは英国領で、1920年にイギリスからの植民地の子孫の宗教的にはプロテスタントの英国に留まることを望むユニオニストが大半であったことで、アイルランドが分割されて誕生しました。

しかし、アイルランド共和国の多数派は、アイルランドの統一を望むアイルランド民主主義者(ナショナリスト)でカソリック教徒の人々で、北アイルランド誕生以来、ユニオニストとナショナリストが暴力でぶつかり合い、多くの犠牲者がでていました。

それが、1998年のベルファスト合意で北アイルランドとアイルランド共和国の自由往来が保障され、国境検問が廃止されて、過激派によるテロが収まっていました。

しかし、今回ブレグジットが起きたことで、北アイルランドとアイルランドにEU内外という新たな壁ができたことで、和平プロセスにさらなる危機が起こっていました。

そして、ブレグジット後の取り決めでは、北アイルランドとアイルランド共和国に貿易障壁が生じないように、他の英本土とは別に、北アイルランドだけはEU規制の提供を続けることで合意していました。

これによって、アイルランド島内の物と人の動きが自由であり続けるという、ベルファスト合意内容を維持したものの、北アイルランドと英本土に国境ができることとなり、英本土から北アイルランドへの輸送に膨大な書類や手続きが必要となり物流が停滞していました。

そこで、今回の合意では、EU諸国に輸出されない北アイルランドへの物品にこれらの手続きが撤廃されることとなり、一部のEU法は北アイルランドに引き続き適用されるものの、一定の条件を満たせば、英国が拒否できることも盛り込まれています。

最大野党の労働党は今回の合意を支持していますが、肝心の北アイルランドのユニオニストの民主統一党(DUP)は前進したことを評価しているものの、賛否は留保しており、未だ今回の合意が英国議会で議論される日程が決まっていません。

私がロンドンに移住した頃は、地下鉄の駅などが北アイルランド関係のテロの可能性でいきなり閉められることも多くあり、英国内でも緊張が続いていました。

しかし、ベルファスト合意以来そのようなこともなくなり、北アイルランドとアイルランド共和国の経済成長は目の見張るものがありました。

北アイルランド問題は宗教や民族問題が絡み複雑ですが、和平プロセス後のテロの心配のない日々、そして安定した経済成長が継続できるように、何らかの解決法が見出されることを祈りたいと思います。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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