ニュースレター(2023年2月24日)金価格は年内利下げ観測が消え、年初来の上げ幅を失う
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1812ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から1.20%安で5週連続の下げで12月末以来の低さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から0.59%安のトロイオンスあたり21.09ドルと5週連続の週間の下げで昨年11月以来の低さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から1.51%高のトロイオンスあたり927ドルと6週ぶりの週間の上昇となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は5.96%安のトロイオンスあたり1393ドルと2019年6月以来の低さとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、FOMCの議事録、好調な経済市場、未だ上昇を続けるインフレデータで、米中央銀行による利上げ停止時期が遅れる観測が更に広がり、ドルと長期金利が上昇することで大きく押し下げられることとなりました。
なお、今年1月に貴金属相場が上昇していたのは、FRBや他の主要中央銀行による利上げが近い将来に停止され、今年末には利下げが行われるという観測が広がっていたことからでした。
それが、2月初旬の米雇用統計が大きく予想を上回り、FRB高官のタカ派的コメントが続き、米消費者物価指数と卸売物価指数も予想を上回り、先の利上げ停止観測が大きく後退していたことからでした。
そこで、本日は金価格と市場の米政策金利が現行の水準から年内に下げると予想した割合の推移のチャートをお届けしましょう。
ここで見られるように、米雇用統計が発表される2月初旬までは8割がた年内に利上げが停止し利下げが行われることを予想し、金価格は上昇していました。しかし、それ以降の利下げ観測が大きく下げる中で、金も大きく下げていることがご覧いただけます。
今週の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場は水曜日に前回FOMC議事録、金曜日にFRBが注目するインフレデータが発表され、同日米国市場はプレジデントデーの祝日で休場でもあり、狭いレンジでの動きで、トロイオンスあたり1842ドルで終えていました。
そのような中で、ウクライナ戦争1周年を前にバイデン大統領がウクライナを電撃訪問し、米露、米中間の地政学的緊張も高まっていたことは金相場を支えていた模様です。
火曜日金相場は、同日発表の主要国の経済指標が良好でドルと長期金利が上昇する中でトロイオンスあたり1837ドルと前日終値比下げて終えていました。
この間、同日サプライズで財政収支が前月黒字と発表されて対ドル強含んだポンド建て金相場は、トロイオンスあたり1515ポンドへ下げていた一方、次期日銀総裁の金融政策観測で通貨安が進んでいる日本円はグラムあたり7961円と前週終値を上回る水準で終えていました。
水曜日金相場は、前回FOMC議事録の発表を待つ中で、昼過ぎにトロイオンスあたり1846ドへ一時上昇した後、発表後に下げ幅を広げて1824ドルで終えていました。
ロンドン時間昼過ぎの上昇は、前日発表された米国を含む主要国の製造業及びサービス部門PMIはほぼ予想を上回り、経済の強さを示していたことからも、FRBによる金利引き上げが長期化する観測が広がり、米政策金利に敏感な2年物国債の利回りが昨年11月以来の高さへ上昇していましたが、同日は若干下げていたことで、行き過ぎた動きの調整でロンドン時間午後の金相場の上昇の背景となりました。
FOMCの議事録では、大半のメンバーが25ベーシスポイントの上げを支持したものの、数人は50ベーシスポイントを望んでいたことが明らかとなり、市場がより大幅な利上げを織り込む中でドルと長期金利がそれぞれ今年1月初旬と前年11月以来の高さへ上昇して、金相場は押し下げられることとなりました。
木曜日金相場は、ドルが前日から更に強含む中、長期金利は若干前日の4ヶ月ぶりの高値から下げていたものの、トロイオンスあたり1817ドルと年初来の低さへ一時下げて1826ドルで終えていました。
同日発表された米第4四半期GDPは予想の2.9%から2.7%へと下げていたものの、米新規失業保険申請件数は、前週と予想を下回る労働市場の強さを示しており、FRBの長期の利上げと利上げ幅が再び50ベーシスポイントへと広がる観測は続いており、金相場の頭は重くなっていました。
本日金相場は、FRBがインフレデータとして重視する市場注目の米諸費支出PCEコアデフレーターが発表され、予想を上回る数値でドルと長期金利が上昇する中で、金相場は前日比更に押し下げられて、ロンドン時間午後にトロイオンスあたり1814ドルと12月末以来の低さへ下げています。
本日発表されたデータは前月比0.6%と前回0.3%と予想の0.4%を上回り、前年同月比では4.7%と前回の4.4%と予想の4.3%を上回っていました。そこで、インフレが引き続き上昇をしていることが明らかとなり、ドルインデックスは12月初旬、米10年物利回りは今週火曜日にも達した昨年11月以来の高さへと上昇していました。
また、同日発表の新築住宅販売件数とミシガン大学消費者態度指数も予想を上回り、経済の強さも明らかとなり、FRBによる利上げ継続、そして利上げ停止が今年行われない観測が広がり、米株価も全般下げています。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週同様に派生商品の取引の管理、決済、取引などを行っているION社がサイバー攻撃を受けたことで前前週末発表のデータとともに前前週と前週分も未だ公開されていないこと。今週末には2月3日分から順次行われる予定。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で2.6トン(0.3%)減で917トンと、1月末以来の低さで2週連続の減少傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.3トン(0.07%)減で445トンと、2020年6月初旬以来の低さで、3週連続の週間の下落傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で77.2トン(0.51%)減で15,050トンと、2月半ば以来の低さで、2週ぶりに週間の減少傾向。
- 金銀比価は、今週火曜日に84台で始まり、本日86へと上昇。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、873と921の間を推移。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、579で始まり、本日は508と3年8ヶ月ぶりの低さ。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週間の平均が32ドルと、前週の31ドルから上昇して、昨年11月初旬以来の高さ。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は0.1%減、銀は26%増、プラチナが25%増、パラジウムは53%増と、金以外は昨年2月末にロシアがウクライナに侵攻した週以来の高さの水準。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週市場は水曜日のFOMC議事録、また金曜日のFRBが重要視するインフレデータに注目していましたが、来週も引き続き中央銀行の金融政策に影響を与える指標、そして中央銀行高官のコメントに注目することとなります。
そこで、月曜日の米耐久財受注、水曜日の主要国の製造業PMI、米ISM製造業景況指数、木曜日のユーロ圏消費者物価指数、失業率、欧州中央銀行理事会議事録要旨、米新規失業保険申請件数、金曜日の主要国サービス部門PMI等が重要となります。
その他詳細は、主要経済指標(2023年2月27日~3月3日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年2月20日~24日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年2月27日~3月3日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2022年2月20日)金価格は地政学リスクに押し上げられるものの、ロシアのウクライナ侵攻時の高値からはマイナス10%に
- 金価格により大きな影響を与えたのはプーチン大統領もしくは米連銀なのか
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国ではウクライナ戦争開始から1年目を迎えることからその関連のニュース、また前週お伝えしたスコットランド国民党の新党首選出関連、北アイルランドの問題に絡んでいると見られる北アイルランドの上級警官が拳銃で撃たれて重体であることなどが伝えられています。
そこで本日は、ウクライナ関係のニュースをご紹介しましょう。
まず朝一番にチャールズ国王がロシアの行為を非難しウクライナの人々の勇気を称えるというコメントを発表していました。
そして、午前11時にウクライナの人々のために黙祷が捧げられました。これにはスナク首相とその家族が首相官邸前で、そして英国で訓練を受けているウクライナと英国の軍人が共に黙祷をしている姿が伝えられていました。
昨夜は米国大使館とウクライナ大使館共催でトラファルガースクエアで集会が開かれ、米国とウクライナの大使、ベン・ウォレス英国防長官等がウクライナの音楽演奏の合間に登壇したののことです。
そして、ロシア大使館から遠くない道がウクライナの人々の勇気を称えて、Kyiv Road(キエフ・ロード)と名付けられたとのこと。
そして、本日はピカデリーサーカスの有名な広告スクリーン、そしてロンドン市内の著名ビルにウクライナの国旗の色が投影されるようです。
ちなみに、昨日は英国在住ロシア大使館の前の道をウクライナの国旗の色でペイントで覆う抗議運動が行われたことが伝えられていました。
なお、経済関連のウクライナ戦争の影響については、金価格により大きな影響を与えたのはプーチン大統領もしくは米連銀なのかでまとめています。
英国は本日までに51.3億ドル(約6997億円)と米国の465.6億ドル(約6兆2132億円)に次ぐ軍事関係のサポートをウクライナに行うことを誓約しており、今後も行っていくことをスナク首相は明言しています。
昨日は国連で行われた緊急特別会合で、法的に拘束力はないもののロシアの侵攻を避難する決議案を圧倒的多数で採決していましたが、近い将来のウクライナ戦争終結の見通しは薄く、ウクライナの人々への世界の国々のサポートが更に必要となることでしょう。