ニュースレター(2023年12月15日)FOMC後に米中銀の政策金利予想が大きく下げて金価格は再び2000ドル超えへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり2033ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から1.27%高となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から1.77%高のトロイオンスあたり24.21ドルと週間の上げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から3.47%高のトロイオンスあたり948ドルと週間の上昇となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は15.66%高のトロイオンスあたり1127ドルと2週ぶりの週間の上昇で10月末以来高さとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、今週行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)後のメンバーによる今後の金利予想(ドットチャート)で来年3度の利下げが予想されていることが確認され、またパウエルFRB議長が記者会見で、利下げについて議論されたと述べたことで、金融緩和への期待が高まり、長期金利が下げてドルが弱含むことで、ドル建て価格で大きく上昇することとなりました。
本日はウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁が近い将来の利下げを否定したことで、今週大きく上昇した米株価市場では多少その観測は調整されているようですが、金は前日の終わり値を若干上回る水準、工業用途需要が多いことからもリスク資産ともみなされる銀とプラチナは下げて、今年他の貴金属比大きく下げているパラジウムは上昇して推移しています。
そこで今週のチャートは、今週大きく変化したFOMCメンバーによる政策金利予想とCMEの先物市場で見られる市場予想と金価格の推移を示すチャートをお届けしましょう。
金利を生まない貴金属にとって、金利上昇はネガティブ要因となりますが、FRBの2024年末の政策金利予想が、今週5.1%から4.6%に下がったことで、金価格がトロイオンスあたり60ドルほど急騰していることがご覧いただけます。しかし、先物市場の政策金利予想は3.8%とより低い水準を織り込んでおり、かなり先走りとなっていることも見られます。
今週の金相場の動きと背景について
週明け月曜日はロンドン時間昼過ぎまでは前週終値を若干下回る水準で推移していましたが、中国のデフレを示す経済指標や、日銀の金政策が引き締めへの転換が近い将来がないというコメントも一部メディアで伝えられる中で、前週の堅調な雇用統計からも、ドルが強含み、長期金利も上昇する中で、底値を試しながら3週ぶりの低さのトロイオンスあたり1985ドルへと押し下げられて終えていました。
火曜日の金相場は、市場注目の米消費者物価指数がヘッドライン数値では多少ながら鈍化していたことで、トロイオンスあたり1996ドルまで発表直後に上昇したものの、その後押し戻されて1976ドルを一時つけて、1980ドルを試す中で1985ドルで終えていました。
消費者物価指数は前年同月比で3.1%と前回と予想の3.2%を下回ったものの、前月比0.1%と前回と予想の0.0%を上回っていました。また、コアにおいても前月比は0.3%と前回を上回っていたことで、FRBによる金融政策を早い段階で緩和へ変更するものではないという判断となった模様です。
水曜日金相場はFOMCの結果が発表されるまで前日終値のトロイオンスあたり1980ドル前後を推移していましたが、FOMC後発表されたドットチャートで来年の利下げが確認されて、一気に35ドルほど急騰し、2039ドルで終えていました。
同日の発表では政策金利は予想通り22年ぶりの高さの5.25~5.5%で3会合連続で据え置かれましたが、メンバーによる今後の政策金利予想を示すドットチャートでは、金利見通しは24年末の中央値で4.6%と0.25%の利下げが3回行われることを示唆していました。
そこで、米長期金利がほぼ4%までと9月初旬の低さまで下げ、ドルインデックスも8月初旬の低さへ下げたことから、金を大きく押し上げることとなりました。
また、パウエル議長も記者会見で「政策金利が今回の引き締め局面のピークか、それに近い水準にあると考えている」とし、「利下げ開始がいつ適切になるかについて今回のFOMC会合で議論した」と述べたことも、これまで利下げを議論するべき時期ではないというスタンスと比べてハト派的という解釈を強めることとなりました。
木曜日金相場は、イングランド銀行と欧州中央銀行の政策金利発表後に一時的にトロイオンスあたり2047ドルまで上昇後、前日のFRBの政策金利発表後の上げ幅を維持して2038ドル前後で推移しています。
午後の上げ幅を失った背景は、同日発表の米小売売上高が予想の-0.1%を上回る0.3%であったこと、また新規失業保険申請件数も予想を下回る経済の堅調さを示唆していたことで、前日のFOMC後のFRBによる早期の利下げ観測が若干調整された模様です。
しかし、ドルインデックスと長期金利は前日の下げ幅をさらに広げて、7月以来の低さへ下げていたことは、金をサポートしていたようです。
なお、同日のイングランド銀行と欧州中央銀行の政策金利発表では、共に予想通り政策金利は据え置かれ、それぞれ5.25%の2008年以来の高水準、4.5%の単一通貨ユーロ誕生以来の最高値が維持されました。また、共に利下げには慎重な姿勢を示し、パウエルFRB議長が利下げについて議論したと述べたものよりタカ派的との判断で、ポンドとユーロは全般対ドル含んでいました。
また、FRBのハト派的スタンスで日本円は対ドル強含みドル建て金相場は、gあたり9217円と先週金曜日につけた10月半ば以来の低さへ一時下げて、9297円で終えていました。
本日金曜日の金相場は、ドルが多少ながら上昇し長期金利も前日水準を維持する中で、トロイオンスあたり2037ドル前後を推移しています。
本日は、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁が、2024年3月の利下げについて「考えることすら時期尚早」と述べたことが伝えられたことで、前日まで急激に翌年の少なくとも3回の利下げ観測が広がっていたことからも、その調整が起きて今週史上最高値を記録していたダウ工業株30種と年初来の最高値を記録していたS&P500種とナスダック総合等の米株価指数が下げる中で、ドルが強含んでいる模様です。
また、本日発表の米経済指標は、ニューヨーク連銀製造業景気指数は大きく予想を下回ったものの、米国の鉱工業生産と製造業PMIは若干予想を下回り、サービス部門PMIは上回るとまちまとなったことも、調整を進めた模様です。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週金曜日に最新データの12月5日分が発表され、金価格が前日に多くの主要通貨建てで史上最高値を記録後その上げ幅以上を下げた翌日に、全ての貴金属の強気ポジションが減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは8週連続でネットロングで8%減の412トンと2週ぶりに減少していたこと。この間建玉は2.3%減と2週連続で減少していたこと。価格は前週比0.1%安でトロイオンスあたり2023.55ドルと前週の5月9日以来の高さの水準ではあったこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、8週連続でネットロングで12%減の3564トンと前週の7月18日以来の高さから下げていたこと。価格は1.5%安でトロイオンスあたり24.27ドルと前週の7月18日以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、前週の3週ぶりのネットロングから再びネットショートへ転換して2.4トンとなっていたこと。価格は前週比2.2%安でトロイオンスあたり908ドルと2週連続で下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートで、16%増の33トンと増加していたこと。価格は前週比8.9%安でトロイオンスあたり965ドルと1000ドルも割って、2018年8月以来の低さへ下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で2.9トン(0.3%)減で877.67トンと週間の減少傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.3トン(0.08%)増で398.90トンと2週連続の週間の増加傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で209.35トン(1.55%)増で、13,731.26トンと2週連続の週間の増加傾向で11月下旬以来の高い水準。
- 金銀比価は、今週86台後半で始まり、本日84台前半へ下げて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1071ドルで始まり、1080ドルへと若干上昇して終える傾向。しかし、この水準は記録が始まった1990年の初旬以来の高さ。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは20ドルと2018年7月中ば以来の低さで始まり、本日184ドルへと11月初旬以来の高さへ上昇して終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週平均は44ドルと前週の29ドルと8月初旬以来の低さから上昇していたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は19%減、銀は8%減、プラチナは30%増、パラジウムは6%増。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は11月27日に負の相関関係となり、-0.42と弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は11月21日から負の相関関係へ転換して-0.44と若干関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は正の相関関係に11月27日に転換し、0.20と関係を弱めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は主要中央銀行の金融政策発表が相次ぎ、貴金属価格が大きく動いていますが、来週は欧米がクリスマス休暇に入る前に、火曜日に日銀の政策金利発表とユーロ圏のインフレ率、水曜日には英国のインフレ率、そして木曜日には米GDP、金曜日にFRBがインフレデータとして注目する米個人消費支出コア・デフレーターが発表され、市場は注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2023年12月18日~22日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週5日に行われる予定であった日本のコモディティー先物取引や為替証拠金取引の大手サンワード貿易のウェビナーは来週12月20日(水)の日本時間午後8時、英国時間午前11時へと延期されました。
そこで今週のFOMC後のメンバーによる金利予想で大きく基調が変化している金市場と業界関係者や弊社顧客へ毎年年末に行っているアンケートからみられる2024年の見通し等も含めて「金市場の今年を振り返り2024年に向けて」という題で日本貴金属マーケット協会の池水代表理事とお話をさせていただきます。参加は無料ですので下記のリンクでぜひお申し込みください。
https://www.sunward-t.co.jp/seminar/2023/12/02_7/index_wh.html
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年12月11日~15日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年12月18日~22日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年12月11日)中国デフレの深刻化が明らかになる中で、金は2000ドル割れ、銀は先週のピークから13%下落
- 【金投資家インデックス】記録的な高値の中で金の利益確定売却は鈍化する
- 金・銀・プラチナ価格の年間の動きのパターンについて
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、スナク政府の最優先課題の一つであるドーバー海峡を渡って入る違法移民を減らすためのルワンダ強制移送案の下院での採決について、イングランド銀行の政策金利発表について、アラブ首長国連邦のドバイで行われていた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)についてなどが大きく伝えられています。
そのような中で、今年の言葉が、オックスフォード英語辞典を出版するオックスフォード大学は12月初旬、ケンブリッジ英語辞典を出版するケンブリッジ大学は11月下旬と、すでに11月初旬にお伝えしたコリンズ英語辞典の出版会社同様に発表していますので、簡単にまとめてお伝えしましょう。
オックスフォード英語辞典
今年の言葉は「Rizz」でインターネット上で多く使われ、ロマンチックな魅力や魅力を意味するとのこと。カリスマの短縮形でもあるようです。
その他の候補となったのは、「Beige flag」で パートナーや潜在的なパートナーが退屈であったり、独創性に欠けていたりすることを示す性格的特徴とのこと。「Situationship」は、 正式または確立されたものとはみなされない恋愛関係または性的関係。「Parasocial」は、 視聴者、ファン、フォロワーが、有名人や著名人(典型的にはメディアの有名人)に対して感じる、一方的で感謝されない親密感によって特徴づけられる関係を指し、フォロワーやファンはその有名人を友人として知っていると(偽って)感じるようになること。その他、「Heat dome (気候変動による熱気ドーム)」や、歌手テイラー・スウィフトの熱狂的なファンを指す「Swiftie」、人工知能プログラム、アルゴリズムなどに与えられる命令の「Prompt」。コリンズでも取り上げられていた「de-influencing」で、ソーシャルメディアを通じて物質的な商品の消費を控えるよう促したりすること等となっています。
ケンブリッジ英語辞典
同社が選んだのは「Hallucinate」で、本来は健康状態や薬物を服用したために、存在しないものが見えたり、聞こえたり、感じたり、臭ったりするように見えること」であるものの、新しい追加定義は「人工知能が幻覚を見るとき」ということで、それは偽の情報を生成するということからとのこと。
その他の今年多く使われた言葉としては、「Implosion(突然完全に故障する状況)」でタイタン潜水艦の事件をきっかけとのこと。「Ennui(倦怠感)」はフランスでヘリコプターで脱獄した囚人がその理由をEnnuiとしたことから、また「Grifter(詐欺師)」これは、ハリー王子とメガン妃等がメディア上でGrifterと非難されたことなどから。そして、「GOAT:Great of All Timeの短縮形」カタールで行われたサッカーのワールドカップでサッカー界のGOATは誰かという議論があったことからとのこと。
これらを見ると、やはりインターネット上の言葉やAI関連の言葉が今年はその使用度が急増していたようです。