金市場ニュース

ニュースレター(2023年3月10日)金相場は良好な雇用統計の中で米銀破綻の金融懸念で上昇

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1860ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から1.04%高で2週連続の上げとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から4.74%安のトロイオンスあたり20.09ドルと週間の下げで昨年11月初旬以来の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から2.84%安のトロイオンスあたり950ドルと2週ぶりの週間の下げとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は9.80%安のトロイオンスあたり1390ドルと2019年5月以来の低さとなっています。

金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、重要イベントの火曜日と水曜日に行われたパウエルFRB議長の半年に一回の議会証言、そして本日の米雇用統計に注目していました。

そこで、火曜日のパウエル議長の議会証言で、インフレ高と底強い米経済からも今後のFRBによる長く高い金利が示唆され、貴金属価格は大きく下げていました。

その後、本日の雇用統計は非農業部門雇用者数は予想を上回ったものの、失業率が前回から上昇し、前回のような驚くほどの強さは無いものとなりました。

そして、その間昨日米株価が、金融セクターへの懸念から銀行株が3年ぶりの大幅な下げ幅を見せる中で、長期金利とドルが下げており、リスクオフで金の需要を高めている模様です。

なお、この金融セクター懸念を引き起こした米銀SVBは、ロンドン時間夕方に破綻したことが伝えられており、この破綻の規模は過去2番目の規模とのことで、市場への影響が懸念されているようです。

ちなみに、市場のFRBの利上げ観測を示すFEDWatchツールによると、パウエル議長の議会証言前に3月の25ベーシスポイント(bsp)の割合は7割、50 bpsは3割となっていましたが、火曜日の証言後にほぼ逆転し、50 bps7割で25 bpsが3割となっていました。

しかし、本日の強すぎない雇用統計及び金融セクターへの懸念などからも、この割合が再びが逆転しています。

そこで、今週のチャートはこの変化がご覧いただけるものを下記に添付します。濃い色の棒グラフが本日の予想で、その次の棒グラフが昨日まで。その次の棒グラフが1週間前で、市場予想がほぼ1週間前のものへと戻していることが分かります。

3月のFOMCでの利上げ予想の推移 出典元 FEDWatchツール 

なお、金以外の貴金属は、工業用途需要の多さからも、中央銀行の長期の金利高によるリセッションや、金融セクターへの懸念が経済全般への懸念にもなっている模様で、火曜日の下げ幅を十分に回復することができずに推移しています。

今週の金相場の動きと背景について

週明け月曜日金相場は、翌日のパウエルFRB議長の議会証言、金曜日の米雇用統計と大きなイベントがあったことからも、狭いレンジの動きを経てトロイオンスあたり1845ドルで終えていました。

この間、先週の金価格上昇を支えたとも一部アナリストによって分析されていた実質金利を引き下げる将来の期待インフレ率は前週金曜日につけた2.52%の昨年11月初旬以来の高さから多少下げて推移していました。

火曜日金相場は、市場注目のパウエルFRB議長の議会証言で、タカ派的コメントがでたことで、ドルインデックスが昨年12月の水準へと上昇し、トロイオンスあたり1813ドルと前週達した昨年末の水準へと下げることとなりました。

しかし、株価も全般下げていたことで安全資産の買いも入っていた模様で、長期金利はパウエル議長の発言後の上げ幅を削って前日比若干下げていたことも金相場を支えていました。

なお、パウエル議長の発言は「利上げのペースを加速する用意がある」、インフレの動向が「一ヶ月前に見られていた何か傾向が一部逆転した」、そして、「最新の経済データは予想を上回る強さで、最終的な政策金利の水準が従来の予想よりも高くなる可能性があることを示唆している」という全般タカ派的なものとなっていました

水曜日金相場は前日の下げ幅を多少削って一時トロイオンスあたり1824ドルをつけた後に1815ドルで終えていました。

金の頭が重たかったのは前日と同日のパウエルFRB議長の長い高い金利、金融政策はデータ次第を含むタカ派的コメント、同日の米ADP全国雇用者数も予想を上回り労働市場が引き続き逼迫していることを示唆したことからも、前日のパウエル議長のコメントが裏付けられたことからでした。

しかし、ドルが前日の昨年12月初旬以来の高値から多少下げていること、近い将来のリセンションを示唆する米長短金利の逆転の幅も1981年以来の幅へと広がっていることで景気停滞の懸念、また低値での買い等が背景で金は多少上昇していた模様です。

ちなみに、市場の今月のFOMCでの金利引き上げ幅は、FedWatchツールでは、パウエル議長の発言前と後で7割近い予想であった25ベーシスポイントと3割だった50ベーシスポイントが見事に逆転して50ベーシスポイントが7割となっていました。

木曜日金相場は、ドルと長期金利が多少下げる中で、トロイオンスあたり1834ドルへと上昇して終えていました。

これは、同日発表された米新規失業保険申請件数が予想を上回り増加していたことで、今週大きく下げた調整が翌日の米雇用統計を前に入っていた模様です。

この新規失業保険申請件数は、21.1万件と前週19万件と予想の19.5万件を上回り、昨年12月以来の高さとなっていました。そこで、労働市場の逼迫が多少緩んだと見られるデータで、賃金インフレ懸念が多少後退することとなりました。

本日金曜日金相場は、市場注目の雇用統計が前回ほど強くなかった中で、前日に広がった米銀行業界への懸念もあり、トロイオンスあたり1861ドル前後へ上昇して前週終値の水準で推移しています。

米雇用統計は非農業部門雇用者数が31.1万人と予想の20.5万人を上回ったものの、前回の51.7万人が50.4万人へと下方修正されていました。また、失業率は前回と予想の3.4%を上回る3.6%で、平均時給は前月比0.2%と予想と前回の0.3%を下回り、前年比では4.6%と前回4.4%を上回ったものの、予想の4.7%を下回っていました。

なお、前日米国の銀行株が約3年ぶりの大幅安となった背景は、米金融持ち株会社でシリコンバレーを中心に事業を展開しベンチャーキャピタルが支援するスタートアップの約半分と取引があるSVBファイナンシャル・グループの株価が62%超急落し、金融セクター全体への懸念が広がったことからでした。

このスタートアップのセクターは、インフレ対策の利上げで株価の評価が下がり資金繰りに追われているとのこと。

現在ロンドン時間午後5時過ぎですが、日経新聞は米連邦預金保険公社がSVBが経営破綻して事業を停止したと伝えています。

ドル建て金相場の一週間のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • ワールドゴールドカウンシルが、1月にシンガポール中央銀行も45トン金準備を追加していたことから、全体が77トンとなっていたことを伝えていたこと。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、派生商品の取引の管理、決済、取引などを行っているION社がサイバー攻撃を受けたことで公表が遅れていたものの、前週末に2月7日分、週半ばに2月14日分が発表され、今後も順次発表される予定。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、予想を大きく上回る米雇用統計後の2月7日に全ての貴金属でネットの強気ポジョションを大きく減少させ、2月14日の予想を上回る米消費者物価指数後に更に小幅ながら強気ポジションを減少させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、2月7 日に9週ぶりに減少して前週から47%減少させ、14日には更に2.5%減少させて178トンと、昨年4月半ば以来の高さから昨年12月半ばの低さへと大幅に減少させていたこと。この間建玉は、前週からそれぞれ6.2%と2.4%と3週連続の減少で6週ぶりの低さ。価格は前週比2.8%、0.4%と2週連続でトロイオンスあたり1864ドルへと下げて前々週の4月半ば以来の高さから3週ぶりの低さへ下げていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、2月7日に前週比77%減、2月14日に9%減で859トンへと減少させて昨年11月始め以来の低さへ下げていたこと。価格はそれぞれ2.4%安と2.3%安でトロイオンスあたり21.71ドルで昨年11月末以来の低さ経下げていたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、2月7日に86%減で1.7トン、2月14日にはネットショートへ転換して5.8トンと昨年10月以来のネットショートの高さ。価格はそれぞれ3.4%安、1.9%安でトロイオンスあたり952ドルと11月初旬以来の低さ。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットショートで、2月7日に1.4%増、2月14日に1.1%増で2.44トンと昨年12月半ば以来の低さから増加。価格は前週比それぞれ1.1%安と3.4%安でトロイオンスあたり1580ドルと2019年9月初旬以来の低さ。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で9トン(1%)減で903トンと、2020年1月末以来の低さで4週連続の減少傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で2.42トン(0.55%)減で440トンと、2020年5月末以来の低さで、5週連続の週間の下落傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で5.7トン(0.04%)減で14,895トンと、3週連続の週間の減少傾向。
  • 金銀比価は、今週87で始まり、本日91を超えて6ヶ月ぶりの高さで終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、週半ばに869まで下げたものの、本日894と2週間ぶりの高さへ上げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、木曜日に426と2018年12月以来の低さへ下げて、435で終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
  • 上海黄金交易所(SGE)は、週間の平均が35ドルと前週とほぼ同水準で、昨年10月半ば以来の高さ。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は40%増で4週ぶりの高さ、銀は5%増、プラチナが12%増、パラジウムは9%増。

主要イベント及び主要経済指標

今週は月曜日と火曜日のパウエルFRB議長の議会証言、本日の米雇用統計が市場を動かしましたが、来週以降も中央銀行の金融政策に絡んだイベント及び指標が重要となります。

そこで、火曜日の米消費者物価指数、その他水曜日の米卸売物価指数、木曜日の欧州中銀政策金利発表、金曜日のユーロ圏消費者物価指数等が重要となります。

詳細は、主要経済指標(2023年3月13日~17日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、英国政府の移民対策強化のための新たな法整備について、そしてそれに対する野党労働党や難民保護団体等による様々な反応、そして本日は移民問題の討議も含めた英仏首脳会談について大きく伝えられています。

そこで、本日は英国で昨今大きな問題となっている英仏海峡をボートで渡る移民・難民問題と、英政府の今回の法整備、それにかかわる議論についてお伝えしましょう。

英国への英仏海峡をボートで渡って来る人々は昨年45,756人と、2018年に記録をつけ始めて最高で、前年比60%増となっています。

そして、多くの人々は小さなボートで人数超過でライフジャケットなども付けずに渡ってくるために、昨年12月には4人が死亡が確認され、6人が1月の段階で行方不明などと、犠牲者の数も増えています。

そのために、スナク政権はこの現状を打開することに高い優先順位をつけており、今回の法整備に関する発表が行われたのでした。

なお、英国政府は過去12ヶ月間にも下記のような施策を発表しています。

  • 英仏海峡を超えるボートの手配などを行っている人々を取り締まるための新たな部署(Small Boat command Centre)と設置して、軍と国際犯罪対策庁と連携させ、その予算も準備。
  • アルバニアからの違法難民が昨年9月までの12ヶ月に15000人であったことから、アルバニア政府の合意のもとに、英国移民局からのスタッフを同国の首都へ配置して、認められなかった亡命希望者の返還処理を早急に行えるようにする。
  • 亡命希望者をルワンダへ移送して、5年のトライアル期間で同地へ亡命手続きさせる。高裁は違法ではないとの判断をしたものの、法的な異議申し立てが人権団体などから起きているために実施されていない。
  • これらの亡命希望者が船でフランスを発つのを防ぐために、英国政府が必要経費を支払ってフランス政府に協力を求めることは協議中。

ちなみに、英国への亡命申請をしている人々の数は、現段階では166,000人とのこと。そして、過去に亡命希望者はこの判断が降りるまでに平均的に15.5ヶ月待っており、この間働くことが許されていないために、この人々の費用は一日あたり、550万ポンド(8.9億円)と膨大なものになっています。

また、収容されているホテルや施設のある地域の人々との問題、アルバニアからの亡命者が英国でマフィア組織を作っているとも伝えられており、経済的問題、社会不安などの観点からも、一日も早い問題解決が必要とされています。

そこで、今週発表された新たな法律は、英仏海峡をボートで渡るなど、違法に英国に入った人々の入国を禁止するというものでした。

そこで、新法では違法で英国に入った場合は亡命申請ができなくなり、母国もしくは安全な第三国へ送還されることとなります。

これに対し、人権団体や難民支援団体は反対をするとともに、法的な異議申し立てを行う方向であるようです。

なお、英国への亡命申請数は先でも述べたように20年ぶりの高水準ですが、欧州連合の平均よりは少なく、ドイツにおいては昨年申請件数は24万件を超えていたとのこと。

本日の英仏首脳会談も、多くの時間はこの問題に割かれたようですが、お互いに解決方法を見つけることに努力するとはしたものの、フランスを介した違法亡命者の返還は合意される可能性はほぼ無く、この問題の解決への道は長いものとなりそうです。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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