金市場ニュース

ニュースレター(2023年3月17日)米地銀とクレディ・スイスへの経営懸念の広がりで金は日本円、ポンド建て等で史上最高値を記録

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1963ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から5.47%高で3週連続の上げで昨年4月半ば以来の高さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から8.91%高のトロイオンスあたり21.88ドルと週間の上げで2月初旬の高さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から3.27%高のトロイオンスあたり984ドルと週間の上げとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は1.56%高のトロイオンスあたり1411ドルと前週の2019年5月以来の低さから上昇しています。

金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属は先週のシリコンバレーバンクが発端となった金融システムへの懸念の高まりから、大きく上昇することとなりました。

そこで、シリコンバレーバンクとシグナチュアバンク破綻以降は、米国と欧州及び英国政府及び中央銀行は市場を落ち着かせるために救済案を立て続けに発表していますが、本日も再び懸念が広がり銀行株を中心に株価が下げていることで、日本円、英国ポンド、豪ドル、インドルピー建て金価格は史上最高値を更新しています。

そこで、来週行われるFOMCにおける利上げが当初の25ベーシスポイントから無いとの観測も広がっており、来週以降の金融市場によっては、今後のFRBの利上げ観測も大きく変化する可能性もあると市場は見ているようで、市場のFRBの金利予測は先週のシリコンバレーバンク破綻以前と以降で大きく変化しています。

そのために、直近の政策金利によって最も動くとされている米国債2年物の利回りは下落を始めた先週木曜日から本日ロンドン時間夕方までに22%下げており、当初の3日間の下げ幅はすでに1987年のブラックマンデー以来の急激なものとなっていました。

今週のチャートは、日本円建て金価格がgあたり本日8360円と史上最高値を今週月曜日から4回更新を続けていますので、その過去20年間のチャートを最高値をつけた際のコメントとともに添付します。

過去5年間の日本円建て金価格 出典元 ブリオンボールト

なお、先週はリセッション懸念から下げていた金以外の貴金属は、今週は金の上昇につられて銀が大きく上げ、またプラチナとパラジウムも前週大きく下げていたこともあり、現物資産であることからも上昇をしています。

今週の金相場の動きと背景について

週明け月曜日金相場は、前週のシリコンバレーバンク破綻が発端となった金融システムへの懸念が急激に高まり銀行株が急落する中で、ドル建てで2.3%を超えてトロイオンスあたり1912ドルで終えていました。そこで、2月初旬の雇用統計後のFRBによる長期の高い金利観測による急落の下げ幅を取り戻していました。

世界株価も銀行株とともに下げて、一気にリスクオフ基調となり、国債が買われ利回りが急落し、前週FRBの長い高い利上げ観測で5%を超えていた2年物国債利回りは4%を割って、金融危機以来の下げのペースとなっていたことも金のサポートとなっていました。

火曜日金相場は、市場が先週末からのSVB破綻以降のリスクオフ基調を多少緩める中で、トロイオンスあたり1901へ下げて終えていました。

同日はSVB破綻以前は市場が最も注目していた米消費者物価指数が発表され、前月比予想同水準の0.4%と前回の0.5%から下げ、前年同月比では6.0%とやはり予想どおりで前回の6.4%から下げていました。

これを受けて、来週のFOMCでの利上げ幅は25ベーシスポイントが71.6%と前日の65%から上げ、利上げなしは28.4%と前日の35%から下げていました。

なお、日本円建て金相場は、前日ロンドン時間夕方にgあたり8212円と昨年4月の史上最高値の8174円を更新していましたが、同日8252円と再度史上最高値を更新していました。

水曜日金相場は、前日落ち着きを取り戻しつつあった株式市場が再びリスクオフの下げを見せる中で、トロイオンスあたり1937ドルと2月初旬以来の高値を一時つけて1913ドルで終えていました。

これは、欧州市場でスイスの金融大手のクレディ・スイス・グループの経営不安から一時30%安と過去最大の下落率を記録し、上場来の安値も更新したことで、欧米の金融株を中心に株価が全般下げていたことからでした。

同日はクレディ・スイス・グループの筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンクは同行に追加投資をすることはないと述べたことが伝えられて動向のデフォルト懸念が高まることとなりました。

しかし、ロンドン時間夜にスイス中銀がクレディ・スイスへの流動性を保証したことが伝わり、多少落ち着きを取り戻したことで金は下げていました。

なお、同日日本円建て金相場は、ドルが強含むことで相対的に円が下げて、8263円と再び更新していました。また、ポンド建て金相場もトロイオンスあたり1611ポンドと、今年2月の史上最高値1592ポンドを更新していました。

木曜日金相場は、世界株価が落ち着きを取り戻し全般上昇に転じる中で、トロイオンスあたり1919ドルで終えていました。

同日は市場注目の欧州中央銀行の政策金利発表が行われ、クレディ・スイス懸念で慎重となる観測が広がっていたものの、インフレ抑制を優先するとして0.5%の利上げが発表されていました。

この発表を受けて株価は下げたものの、その後破綻が懸念されている米ファーストリパブリックバンクの救済案の可能性が伝えられ、イエレン財務長官もまた銀行システムについて安心するべきと述べたことが伝えられ、株価が下げ幅を取り戻していました。

そこで、前日安全資産としていて買われていた米国債とドルが売られ、長期金利は上昇して下げてはいたものの、ドルが弱含んでいることが金を支えていた模様です。

本日金相場は、前日落ち着きを取り戻しつつあった銀行株が再び下げに転じる中で、ドルと長期金利が下げる中で、トロイオンスあたり1963ドルへと上昇しています。

この間、長期金利とドルが下げていることからも、金を押し上げている模様です。

昨日は、米地銀のファースト・リパブリック・バンクに大手銀11行が預金の形で資金支援することが発表されて、同行株は上げて終えていましたが、本日再び業績懸念からも下げて、他の地銀やJPモルガン・チェースやゴールドマン・サックス株も下げていることが背景の模様です。

そのような中で、長期金利が下げているのは国債が安全資産として購入されていることからのようですが、ドルが下げているのは、先のようなことから来週のFOMCの利上げ無しの観測が若干増加していることからのようです。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、派生商品の取引の管理、決済、取引などを行っているION社がサイバー攻撃を受けたことで公表が遅れていたものの、前週末に2月21日分、週半ばに2月28日分が発表され、来週には遅れを取り戻す予定であること。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、主要国の製造業及びサービス部門PMIが予想を上回った後の2月21日に銀を除く全ての貴金属でネットの強気ポジョションを減少させ、2月28日の予想を下回る主要経済指標後にも、更に金、銀、パラジウムで強気ポジションを減少させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、2月21 日に減少して前週から8.5%減少させ、28日には更に24%減少させて124トンと、昨年12月初旬の低さへと減少させていたこと。この間建玉は、前週からそれぞれ1.4%と4%と5週連続の減少で昨年12月初旬の低さ。価格は前週比1.4%、0.7%と4週連続でトロイオンスあたり1825ドルへと下げて前年12月20日の週以来の低さへ下げていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、2月21日に前週比0.7%減、2月28日にはネットロングからネットショートへ転換して1103トンと昨年10月半ば以来の高さへ上昇していたこと。価格はそれぞれ0.3%安と5.7%安でトロイオンスあたり20.53ドルで昨年11月初旬以来の低さ経下げていたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットショートは、2月21日に77%増で10.2トンと前年9月末以来の高さ、2月28日には40%減で6.1トン。価格はそれぞれ1.9%安、1.8%高でトロイオンスあたり951ドルと10月末以来の低さ。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットショートで、2月21日に1.9%増、2月28日に1.9%増で2.54トンと4週連続で増加して1月半ばの大きさへ増加。価格は前週比それぞれ3.5%安と7.3%安でトロイオンスあたり1413ドルと2019年6月初旬以来の低さ。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で11.6トン(1.3%)増で914.7トンと、2月末以来の高さで4週ぶりの週間の増加傾向。週間の増加量は昨年3月半ばのウクライナ戦争勃発時以来の高さ。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.24トン(0.05%)増で440.7トンと、2020年5月末以来の低さから増加し、5週ぶりの週間の上昇傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で501.7トン(3.4%)減で14,393トンと、4週連続の週間の減少傾向。週間の減少量は、昨年7月末以来の大きさ。
  • 金銀比価は、今週89で始まり86まで下げたものの、本日88を超えて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、週半ばに914で始まり、本日944と、昨年4月以来の高い水準。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、418で始まり週半ばに500まで上昇したものの、本日451と引き続き2019年5月以来の低い水準。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
  • 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週人民元建て価格が202年8月以来の高さへ上昇する中で、週間の平均が21ドルと前週の昨年10月半ば以来の高さの35ドルから下げていたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は50%増でパンデミック最中の202年3月以来の高さ、銀は42%増、プラチナが3%増、パラジウムは37%増。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は、前週のSVB破綻に続き、クレディ・スイス懸念で市場が大きく動き、木曜日の欧州中央銀行が0.5%政策金利を引き上げたニュースへの反応は限定的となっていましたが、来週も金融システム関連ニュースと主要中央銀行の金融政策関連イベント及び指標は重要となります。

そこで、水曜日のFRBによる政策金利発表とパウエル議長の記者会見へ市場は注目することとなりますが、翌木曜日のイングランド銀行金利発表も重要となります。

また、水曜日の英消費者物価指数、木曜日の米新規失業保険申請件数、金曜日の主要国の製造業及びサービス部門のPMI等へも市場は注目することとなります。

詳細は、主要経済指標(2023年3月20日~24日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、先週末から起きている米シリコンバレーバンク破綻が発端となり、それに加えてすでに問題を抱えていたクレディ・スイス銀行の経営懸念も要因となった世界銀行株の急落、水曜日に発表された英政府予算案、そして今週行われている看護師やジュニアドクターや教師などによるストライキ、そして医療関係者のストライキに関しては解決の可能性がでてきたことについて大きく伝えられています。

そこで、今週は発表された英国政府による予算案について簡単にまとめてみましょう。

まず、予算案以前にハント財務相が誇らしく述べたのは、23年の英国の経済成長率見通しがマイナス0.2%と昨年11月の予測のマイナス1.4%から改善され、23年にテクニカルリセッションに入らないと予算責任局(OBR)が予測したことでした。

しかし、OBRが高インフレが前年第4四半期の10.7%から23年末までに2.9%へ下げると予測しているとはしたものの、インフレを抑え込むために、大規模な財政支出や大幅減税は無く、長く厳しい日々が続くことになるとし、その内容は引き続き緊縮予算となっていました。

主要ポイントは下記のようになります。

  • 税金が課せられない年金枠の107万ポンドを撤廃し、早期定年退職をしている人々(特にシニアドクター等)の職場復帰を促す。
  • 家計の光熱費支援策(典型的な光熱費の上限を年間2500ポンド設定)を3カ月延長するほか、10年間継続している燃料税の凍結をあと1年延長。
  • 経済成長加速に向け、イングランドで2歳未満の子どもへの無料保育を拡大。法人税は25万ポンド以上の収益は19%から20%へ引き上げたものの、企業が設備投資を行った場合、全額を利益と相殺できるようにする新たな投資奨励策も盛り込んだ。
  • 国防予算については、向こう5年間で110億ポンド拡大すると表明。
  • 再生可能エネルギーへの投資として200億ポンドを準備し、原子力発電への投資を拡大する方針。

本来保守党は小さい政府、つまりは税金を低く抑えて財政支出も抑え、市場の規制を緩めて市場の健全な動きを高めて経済を活性化することを目指していますが、パンデミック時の経済を支えるための膨大な財政支出を経て、ウクライナ戦争によるエネルギー費高騰への補助のための支出などからも、政府債務がGDP比で今年92.4%まで上昇する中で、健全な財政基盤を作ることが最優先となっています。

生活を切り詰めることで凌げる人々は止む終えないと思える内容かもしれませんが、高インフレの中で日々の生活が困窮している人々にとって、受け入れるのは厳しいことでしょう。

個人的には健全な財政基盤も大切だと考えますが、インフレをこれ以上大幅に上げること無く、恵まれない人々をサポートしながらも、経済成長をより加速させる様々な政策を英国政府には更に打ち出してもらいたいと希望します。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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