ニュースレター(2023年9月29日)金価格は心理的節目を割って米地区銀行破綻以前の低い水準へ下げる
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1870ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から2.98%安と今年3月の米地域銀行破綻以前以来の低さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から2.41%安のトロイオンスあたり23.08ドルと2週ぶりの週間の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から2.37%安のトロイオンスあたり918ドルと2週ぶりの週間の下げとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は0.56%高のトロイオンスあたり1282ドルと3週連続の週間の上げとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属市場は、パラジウムを除き、FRBによる長期の高い金利が維持される観測が広がる中で、金を筆頭に大きく下げることとなりました。
金においては、心理的節目の1900ドルを割ったことで、売りが売りを呼んでいる模様ですが、長期金利が16年ぶりの高さで高止まりし、ドルもまた昨年11月以来の高さをつけることで、金利を生まない、ドル建てコモディティの貴金属は向かい風状況となっている模様です。
そこで、特に金に対するセンチメントが悪化しているようですが、それを表す金のETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアと第2規模のiShareゴールドの残高は、今週も週間の減少で、それぞれ4週連続、10週連続の週間の下げで、月間においては、ともに4か月連続の下げ傾向で、それぞれ2019年8月と2020年4月以来の低さと、ほぼコロナ危機時のの増加分を失っています。
それに対し、銀のETFの最大銘柄のiShareシルバーは今週残高を減少させていますが、月間では増加傾向となっており、工業用途需要が高い銀とプラチナとパラジウムは、投資需要が9割の金とは異なり、政策金利が高止まりすることによる悪影響は限られていることからも、下げ幅を抑えている模様です。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日ロンドン時間昼過ぎまでは金相場は前週終値からほぼ動きがなかったものの、その後ドルと長期金利が強含むことで、トロイオンスあたり1920ドルを割って1916まで下げて終えていました。
これは、前週金曜日にFRB高官二人が政策金利を長く高く維持するとFOMC後のパウエル議長のコメントを繰り返していたこと、また同日原油価格が上昇に転じる中、グールスビーシカゴ連銀総裁もインフレが目標の2%へ戻すまで(FRBの引き締め政策へ)100%のコミットメントするべき」と述べたことで、ドルと長期金利がそれぞれ年初来と2007年来の高さへ再び上昇したことが背景となりました。
火曜日金相場は、ドルが昨年11月以来、長期金利が2007年10月以来の高さに上昇する中で、トロイオンスあたり1901ドルと、ほぼ6週ぶりの低さまで下げて終えていました。
これは、前日米格付け会社のムーディーズが米議会が予算に合意せず米政府機関が閉鎖した場合、格付けが下がる可能性が高いと述べ、FRB高官が引き続き長く高い金利に言及するなど、金融市場のセンチメントを悪化させていたことからも、米株価も全般下げて、S&P500種は3か月ぶりの低さに下げていたことから、資産の現金化も進んでいた模様です。
なお、同日中国の金価格は再び史上最高値へ近づき、プレミアムも9月半ばの最高値の121ドルに近い105ドルをつけていました。
水日金相場はドルが6日連続で昨年11月以来の高さ、米長期金利も2007年8月の高さへ上げる中で、トロイオンスあたり1877ドルと3月以来の低さへと下げて終えていました。
この間米株価も米政府機関閉鎖と全米自動車労組のストライキによる経済への悪影響の懸念もあり下げていたことから、リスクオフ基調が強まっていたようでした。
また、心理的節目の1900ドルを割ることで、さらなる売りも入っていた模様です。
木曜日金相場は、ドルが若干前日終値比下げているものの、米長期金利は再び2007年10月以来の高値を更新し、今年の米地銀破綻以前の3月10日以来の低値のトロイオンスあたり1864ドルへとさらに下げて終えていました。
同日発表された米新規失業保険申請件数は、引き続き予想を下回っていた中、米個人消費は予想を下回るまちまちな結果であるものの、FRBによる長期の高い金利観測は、今週多くのFRB高官がタカ派的発言を続けていたことからも広がっていた模様です。
なお、同日中国のプレミアムは上海黄金交易所の人民元建て金価格の午後の値決め価格時に、プレミアムが午前中の90ドルから42ドルに大きく下げていたことからも、金曜日から来週いっぱいまでの中国の長期の祝日を前に、人民銀行が金の輸入許可を出したようでした。
本日金曜日は、市場注目の米個人消費支出PCEコアデフレーターが発表され、前年同月比3.9%と予想と同水準で前回修正値の4.3%も下回り、前月比0.1%と予想と前回の0.2%を下回ったことで、FRBによる長期の高い金利維持の観測が多少後退し、ドルと長期金利が若干下げる中で、トロイオンスあたり1877ドル前後へと上昇して推移していました。
しかし、その後発表されたミシガン大学消費者態度指数が予想を上回ったことで、ドルが強含んだことで、再び下げに転じて1858ドル前後へと押し下げられています。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの9月19日分が発表され、タカ派的内容となったFOMCの1日前に、すべての貴金属で強気ポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から34%増で207トンと増加していたこと。この間建玉は、1.78%増と3週ぶりに増加し、価格は前週比1.38%高でトロイオンスあたり1934.90ドルと2週ぶりに上げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、5週連続でネットロングであり、99%増の366トンと増加していたこと。価格は3.28%高でトロイオンスあたり23.65ドルと2週ぶりに上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、ネットロングに転換して1.89トン。価格は前週比5.33%高でトロイオンスあたり948ドルと2週ぶりに上昇していたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートであったものの、7.52%減の29.38トンと2週連続で減少していたこと。価格は前週比4.95%高でトロイオンスあたり1272ドルと2週連続で上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で3.8トン(0.4%)減で873.64トンと2019年8月以来の低い水準で、4週連続で週間の減少の傾向。また月間でも16.46トン(1.85%)減で4か月連続の減少傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で13.23トン(3.11%)減で412.84トンと、2020年4月半ば以来の低さへ下げて、10週連続の週間の減少傾向。そして、月間でも17.21トン(4%)減で、4か月連続で減少傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で236.66トン(1.69%)減で13,744.11トンで、3週ぶりに週間の減少傾向。月間では101トン(0.78%)増と2か月ぶりの月間の増加傾向。
- 金銀比価は、今週81半ばで始まり83まで上昇後に、本日81前半と9月半ばの低さへ下げて終える方向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1003ドルで始まり、本日953と6月初旬の低さへ下げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは322ドルで始まり、本日355ドルへと9月半ば以来の高さへ上昇して終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週も火曜日に人民元建て金価格が前週の史上最高値以来の高さに上昇し、プレミアムも105ドルと前週の史上最高値の121ドル以来の高さをつけた後、本日から来週いっぱいの祝日を前に輸入緩和が行われた模様で、昨日プレミアムが42ドルまで下げていたこと。そこで、プレミアムは週平均で83ドルと前週平均の81ドルから若干下げていたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は45%増で7月末以来の高さ、銀は12%増で、プラチナは7%減で、パラジウムは0.3%減。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は今週-0.703へと8月末以来の強さへ上げていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は9月20日以来負の相関関係で-0.65と強め、S&P500種と金の相関関係は正で、4営業日連続で強めて0.54となっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は金曜日のFRBがインフレデータとして注目する個人消費支出PCEコアデフレーターに市場は注目していましたが、来週は米雇用統計が金曜日に発表され、重要イベントとなります。
その他、月曜日の米ISM製造業景況指数、火曜日の米雇用動態調査、水曜日の雇用統計の先行指標のADP雇用統計等も重要となります。
詳細は主要経済指標(2023年10月2日~6日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年9月25日~29日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年10月2日~6日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年9月25日)米国政府機関の閉鎖が近づく中で金は金融危機以前の水準で堅固に維持
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、イギリスですでに建設が進む高速鉄道路線HS2のプロジェクトが予算を大きく超えていることから規模が縮小される可能性について、ロンドン警視庁の警官100人が同僚の基礎に抗議して銃携帯資格を返上していたこと、フランスで行われているラグビーワールドカップや欧州と米国選抜チームの対抗戦のゴルフのライダーカップについて等が大きく伝えられています。
そこで、本日はロンドン警視庁の一部警官が行った抗議行動についてご紹介しましょう。
今回の発端は、黒人男性を射殺した警官が起訴されたことで、これに抗議した約100人の警官が任務中の銃携帯資格を返上していたのでした。
起訴された警官は、昨年ロンドン南部で運転中だった24歳の黒人男性に発砲して死亡させ、その裁判が今月行われていました。
警察の発表によると、この男性が借りて乗っていた車が前日銃に関連していた疑いがあったとのこと。しかし、この男性は銃を保持していなかったとのことです。
そこで、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴えるBlack Lives Matterの団体などを中心に抗議運動を行っていました。
ちなみに、通常英国の警官は拳銃を持たず、訓練された一部の警官のみに職務中の携帯が認められ、ロンドン警視庁では約2500人の警官が銃を携帯して国会や空港や外国公館の警備を行っています。
警察の報道官は、同僚の警官らが「極めて緊迫した状況での(発砲の)決断について、裁かれ方が変わるのではと懸念している」と声明を発表していました。
それに対し、ブレーバーマン英内相は、政府がこの調査を行うことを明言した上で、拳銃を携帯する警官は「瞬時の判断を迫られる」と指摘し、「職務遂行によって罪に問われることを恐れる状況は、あってはならない」と訴え、スナク首相も同様のコメントを出し、銃携帯保持資格を返上した警官の抗議行動は沈静化した模様です。
BBCによると昨年の英国の銃による殺人数は殺人全体の4%と、同年の米国の80.5%と比べても圧倒的に低いものではあります。
しかし、常に事件に巻き込まれる可能性がある最前線で勤務する警官にとって、瞬時の判断を間違うことで、起訴される可能性があるという事実は厳しいものなのでしょう。
それと同時に、黒人であったことが一つの要因で、このような犠牲者となってしまう現状があるのであれば、政府とロンドン警視庁は調査を進めて改善の必要性があれば行うべきなのでしょう。