ニュースレター(2023年4月28日)銀行不安とスタグフレーション懸念等もあり、金価格は根固めをしながら堅固に推移
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1984ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.52%高と2週ぶりに上昇しています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から1.29%安のトロイオンスあたり24.83ドルと2週連続の週間の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から4.69%安のトロイオンスあたり1075ドルと3週ぶりの週間の下落となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は7.46%安のトロイオンスあたり1507ドルと2週ぶりの週間の下げとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、来週共に利上げが予想されている米欧中銀の政策金利発表からも頭が抑えられる状況の中で、再燃した米国の銀行不安と高インフレと景気後退が同時並行するスタグフレーションの懸念等もあり金はサポートされ、工業用途の多い銀、そして前週中国の景気回復等を背景に大きく上昇をしていたプラチナ、パラジウムは下げ幅を広げることとなりました。
今週米銀行懸念を再燃させた、第1四半期に1000億ドルの預金流出が明らかとなったファースト・リパブリック・バンクの株価は、今週火曜日に50%下げて3月8日のシリコンバレーバンクの破綻以来95%下げていますが、この影響で、S&P米銀株価指数は3月の銀行不安が広がった際の2年半ぶりの低値の水準へと今週下げていました。
そこで、今週はS&P500株価指数(青)とS&Pの米銀株価指数(白)の過去10年間の動きを示すチャートを下記に添付します。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、今週注目の日銀金融政策発表や米GDPやインフレデータを待つ中で、ロンドン時間昼過ぎまでに1986ドル前後の10ドルという狭いレンジでの取引となっていました。
しかし、ニューヨーク時間に発表された決算報告で米中堅銀行のファースト・リパブリック・バンクから大規模な預金流出があったことが明らかとなり、中・小規模銀行への懸念が再度高まり、同銀行株を筆頭に米株価が全般下げていることから安全資産としてのドルと米国債の需要が高まり、1995ドルまで上昇して終えていました。
火曜日金相場は、前日のファースト・リパブリック・バンクからの多額の預金流出をきっかけとした銀行全般への懸念で、ドルが強含む中で長期金利は下げ、ロンドン午前中にトロイオンスあたり2000ドルを一時つけた後に、ドルが上昇幅を広げる中で上げ幅を失って1976ドルまで下げたものの、2000ドルを取り戻して終えていました。
なお、同日発表された米主要指標のリッチモンド連銀製造業指数と消費者信頼感指数は予想を下回り、新築住宅販売件数は予想を上回ったものの、株価は全般下げるなどと市場センチメントは悪化していました。
水曜日金相場はロンドン時間昼過ぎにトロイオンスあたり2009ドルと前週木曜日以来の高値をつけたものの、その後上げ幅を失って1991ドルで終えていました。
ロンドン午前中の上げは、今週懸念が高まっているファースト・リパブリック・バンクの株価急落等で銀行不安が再燃したこと、そしてFRBよりも大幅な利上げを行うと予想されている欧州中銀の金利差からも、ドルが対ユーロ弱含んでドルが下げていることが背景となりました。
しかし、その後発表された米耐久財受注が予想を大きく上回り、前日発表のマイクロソフトなどの主要テクノロジー会社の決算は予想を上回っていたこともあり、前日株安で安全資産として買われていた米国債が売られて利回りが上昇したことで、金を押し下げることとなりました。
木曜日金相場は発表された米経済指標に反応し、トロイオンスあたり1974ドルへ一時下げて、1987ドルまで戻して終えていました。
同日発表された指標は、米第1四半期GDPで予想を下回る1.1%であったもののの、個人消費支出(PCE)が前四半期の4.4%を上回り4.9%と、景気後退とインフレ高止まりのスタグフレーションの可能性が示唆される中で、翌日のFRBがインフレデータとして注目する個人消費支出PCEコアデフレーターを前に、このデータが予想を上回ることでFRBが利上げを継続する観測からも警戒感が高まっていたことが背景でした。
そこで、ドルインデックスは前日の下げから反発し、長期金利は2営業日連続で上昇していたことが金を押し下げることとなりました。
本日金曜日は、市場注目のFRBが重視するインフレデータがインフレの高止まりを示唆したことで、トロイオンスあたり1976ドルへ一時下げたものの、その後下げ幅を多少戻して1991ドル前後で推移しています。
このインフレデータの米個人消費支出PCEコア・デフレーターは4.6%と、前月修正値4.7%からは下げたものの、予想の4.5%を上回っていました。また、米雇用コストも前月の1.1%から1.2%へと上昇していました。
しかし、今週再燃した米地銀への懸念はファースト・リパブリック・バンクの株価がシリコンバレーバンク破綻以来95%安と継続していることや、インフレと景気後退が同時進行するスタグフレーションへの懸念は広がりつつあり、金の底値を支えている模様です。
なお、本日の日銀の金融政策決定会合で大規模な金融緩和の維持が発表されて、日本円は対主要通貨で下げていることから、日本円建て金相場はgあたり8707円と4月14日以来の2週間ぶりの高さへと上昇しています。
その他の市場のニュ―ス
- シンガポール中銀が金準備を3月に17.3トン増加させ、第1四半期に68.7トン増加させて、222.4トンと前年末比45%増としていたことがワールドゴールドカウンシルによって伝えられていたこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの4 月18日分が発表され、前日にタカ派的FRB高官のコメントと良好な経済指標で割っていた2000ドルを再度超えた際に、金は2週連続で強気ポジションを減少させる中で、銀とプラチナは強気ポジションを増加させ、パラジウムは11週週連続で弱気ポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から2.4%減少して418トンと2週連続で減少させていたこと。この間建玉は、1.7%増と前年4月半ば以来の高さで、価格は前週比0.2%安でトロイオンスあたり1999ドルと2週連続で下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは5週連続でネットロングで、前週比13%増の3383トンと前週の1月末以来の高さで、価格は0.1%高でトロイオンスあたり25.09ドルと7週連続に上昇して昨年4月半ば以来の高さとなっていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、227%増で28.6トンと1月10日以来の高さへ増加していたこと。価格は前週比7.2%高でトロイオンスあたり1073ドルと前週の1月10日の週以来の高さ。
- コメックスのパラジウム先物・オプションのネットショートで、1.14%増の2.96トンと11週連続で増加して12月末以来の大きさへ増加。価格は前週比13.7%高でトロイオンスあたり1628ドルと2月7日の週以来の高さ。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で2.6トン(0.3%)増で926.28トンと、2週ぶりの週間の増加の傾向。しかし、月間では1.7トン(0.2%)減で月間の減少傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.3トン(0.07%)増で453.17トンと昨年11月初旬以来の高さで、7週連続の週間の上昇傾向。月間でも8.8トン(1.98%)増と2ヶ月ぶりに月間の増加傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で178.60トン(1.24%)増で14,593トンと、週間の増加の傾向。月間では、117.27トン(0.83%)増で月間の増加の傾向。
- 金銀比価は、今週79台前半で始まり、水曜日に80台を超えた後に再び79台へ下げて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、880ドルで始まり、本日911まで上げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、484で始まり水曜日に413と3月半ば以来の低さまで下げて本日は425へ上昇して終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週人民元建て価格が前前週の史上最高値か下げた前週の水準で推移する中で、週間の平均が6.85ドルと前週の5.90ドルから多少上昇していること。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は昨日までで、金と銀は2%と25%前週から上げて銀は昨年11月以来の高さへ増加し、前週価格が大きく上昇して取引量が増加していたプラチナとパラジウムは8%と2%減少して、それぞれ3月末と2月末以来の高さから下げていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週は水曜日にFOMC、木曜日に欧州中央銀行の政策金利発表が行われ、金曜日には米雇用統計と重要イベントと指標が続くこととなります。
その他、月曜日には米ISM製造業景況指数と製造業PMI、火曜日には主要国の製造業PMIとユーロ圏の消費者物価指数、米雇用動態調査(JOLTS)、水曜日には米雇用統計の先行指標のADP雇用統計とサービス部門PMI、木曜日には中国のCaixin製造業PMIと主要国のサービス部門PMI、米新規失業保険申請件数等とこれらも十分に市場を動かす可能性があるものとなります。
詳細は、主要経済指標(2023年5月1日~5日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年4月24日~28日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年5月1日~5日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年4月24日)重要な米国データを前に金は10ドルのレンジで取引され、ユーロ建てでは6週間ぶりの安値をつける
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、軍と準軍事組織の武力衝突が続くスーダンとそこから英国民を緊急退避させていることについて、そして引き続き看護師や教師のストライキ等が大きく伝えられています。
そのような中、先週日曜日はロンドンマラソンが開催され、英国でも最も多くの記録を残し、人気の高いアスリートの一人でもあるモハメド・ファラー選手が、今回9月に引退する前にロンドンマラソンがマラソン最後のレースで出走したことが伝えられていましたのでご紹介しましょう。
ファラー選手は、2012年と2016年のオリンピックでの5000メートルと1万メートルでそれぞれ4つの金メダルを獲得したことを含めて、ワールドアスレティックスファイナルでも同距離で10個の世界タイトルをトラック競技で得るなど、この距離ではほぼ負け無しで、2017年にマラソンに転向していました。
ロンドンマラソンは、2018年に始めて出走し、2時間6分22秒で3位に入り、英国の記録を塗り替え、同年シカゴマラソンでは2時間5分11秒と英国記録を再び塗り替えて自己ベストを出していました。
その後、トラック競技で再度2020年の東京オリンピックを目指すことを宣言したものの選考から漏れ、今年40歳を迎えていることもあり引退を決断したようです。
そして、今回のロンドンマラソンの記録は、2時間10分28秒で9位というものでした。
レース後にインタビューを受けていたファラー選手は必ずしも金メダルを獲得した当時の輝くような笑顔ではありませんでしたが、彼の言葉は心に響くものがありましたのでご紹介しましょう。
沿道で応援をしてくれた人々への感謝の気持ち述べて、「もし観客がいなかったら脱落していたかもしれない。」とし、「それがあったから続けられた。泣きたくなるような気持ちにもなった。でも雨の中道に並ぶ人たちはすごかった。それが私のキャリアを通して、長い間私を支え続けてくれたのです。」と話していました。
そして、今年引退することで「この感覚が恋しくなる。」とし、「ロンドンは長年にわたって僕にとってとても素晴らしい場所だったので、ここで観客に感謝の言葉を伝えたかったんだ。」とインタビューを締めくくっていました。
ロンドンマラソン当日は朝から雨が振り続け、気温は午後に雨が上がるまでは10度に至らない肌寒いものでした。その中を、多くの人々が沿道に繰り出して応援をしていましたが、ファラー選手が走って来た際の歓声の大きさは一段と高いものでした。
一人の天才的アスリートが引退することを寂しく感じながらも、10年以上も第一線で活躍し、多くのファンに感動を与え続けて行きたファラー選手の最後のマラソンレースを沿道で応援のをする事ができたことを、感慨深く思っているところです。