金市場ニュース

ニュースレター(2023年5月19日)米債務上限協議進展観測と良好な経済指標で金価格は一時7週ぶりの低さへ

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1961ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から2.9%安と3週ぶりの下落となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から0.8%安のトロイオンスあたり23.67ドルと2週連続の週間の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から4.3%安のトロイオンスあたり1071ドルと週間の下落となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は1.3%安のトロイオンスあたり1526ドルと週間の下げとなっています。

金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、米債務上限の協議が進展しているという観測と、良好な経済指標で軒並み下げて、安全資産の需要で高い水準で推移していた金は大きく下げて、それに伴って下げた銀も共に昨日7週ぶりの低さへ下げていました。

しかし、金曜日午後に債務上限関連のバイデン大統領側とマッカーシー共和党下院議長の協議が壁に突き当たったとのレポートが伝えられ、今週3月半ばの高さまで上昇したドルインデックスと長期金利が共に高い水準ながらも下げたことで下げ幅を削って、良好な経済は需要の高まりを意味し、工業用途の需要割合が高いプラチナとパラジウムにおいては前週終値比上昇で終える傾向となっています。

今週の金相場の動きはドルが強含んだことからでもあり、ドル建て以外の主要通貨建て、特に日本円建てにおいては、引き続き高い水準で推移していることが分かる、それぞれの通貨建て金価格を2013年を100としたインデックスで表示したチャートを下記に添付します。

主要通貨建ての金価格の推移 出典元 ブリオンボールト

今週の金相場の動きと背景について

月曜日は大きなイベントや経済指標が無い中で、米債務上限問題関連ニュースを見守る中で、狭いレンジの取引で、トロイオンスあたり2014ドルへ多少前週末比上昇して終えていました。

同日バイデン大統領サイドは、協議進展を示唆していたものの、マッカーシー下院議長サイドは協議が難航していることを示唆していたことが、金の上昇をサポートしていた模様です。

火曜日金相場は、同日予定されている米債務上限のバイデン大統領と共和党マッカーシー下院議長との協議を待つ中で、ロンドン午後に発表された米小売売上高が前月比予想を下回っていたことで、FRBの利上げ停止観測が一旦広がったものの、自動車を除く数値は予想と同水準で、前回のマイナス値からは改善していたことからも、上げ幅を戻してトロイオンスあたり2011ドル前後を推移していました。

その後、クリーブランド連銀のメスター総裁が対高インフレのためにもさらなる利上げの可能性を示唆し、ロンドン時間夕方に米長期金利が上昇したことで、2000ドルを割ったことで売りが売りを呼び、1989ドルへと下げて終えていました。

水曜日金相場は前日の下げ基調を引き継ぎトロイオンスあたり1982ドルと5月2日以来の低さへ下げて終えていました。

同日の下げは、米債務上限問題解決へ進展するという期待が背景となっていました。これは、前日のバイデン大統領との会談後に共和党のマッカーシー下院議長が「互いの立場に隔たりがある」としたものの、6月に政府と野党が合意できないことによって起こる債務不履行については「最終的に回避できる」と述べたことが好感され、株価が上昇するなどリスクオン基調となっていました。

木曜日金相場は、発表された米経済指標が良好な経済を示していることからも、FRBの利上げ継続観測が広がり、ドル高と長期金利高からも、トロイオンスあたり1958ドルと4月上旬の低さへ下げて終えていました。

発表された経済指標は、米新規失業保険申請件数が24.2万件と前回26.4万件と予想の25.4万件を下回り、フィラデルフィア連銀製造業景況指数は-10.4とマイナス数値ながら前回のマイナス31.3と予想のマイナス19.8を下回っていました。

また、ダラス連銀のローガン総裁が、6月のFOMCで利上げを見送るかについて、「まだその段階にない」と語ったことが伝えられ、ほぼ利上げなしと見られていた来月の利上げ観測が広がっている模様です。

また、米債務上限問題についてもマッカーシー下院議長が来週にも合意に至ると見ていると述べたことが伝えられたことも、金の頭を重くしていました。

本日金曜日金相場は、今週広がっていた米債務上限問題協議進展の観測が、協議が中断したことが伝えられて後退し、ドルと長期金利が下げたことで、トロイオンスあたり1974ドルと前日比上昇して推移しています。

また、イエレン米財務相が、銀行業界のトップにさらなる合併が必要と述べたことが伝えられたことも、リスクオフ基調を強めて金をサポートしているもようです。

一週間のドル建て金相場の推移 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 今週プラチナウィークが行われ、主要プラチナ関連企業と団体が需給レポートを発表し、今年の需給バランスが、供給不足となることが予想されていたこと。詳細は、プラチナの記録的な供給不足がプラチナ価格1000ドルを支えるを参照。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの5月9日分が発表され、米消費者物価指数が発表される前に、米債務上限問題への懸念か広がる中で、金は強気ポジションを減少させ、銀とプラチナは強気ポジションを増加させ、パラジウムは14週週連続で弱気ポジションを増加させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から0.8%減で456トンと減少していたこと。この間建玉は、1.7%増と2週連続で増加し、価格は前週比1.7%高でトロイオンスあたり2030.20ドルと上昇していたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは8週連続でネットロングで、前週比0.1%増の4225トンと1月17日の週以来の高さで、価格は3.2%高でトロイオンスあたり25.57ドルと3月初旬以来の高さ。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、4.7%増で34.73トンと3月10日の週以来の高さ。価格は前週比3.4%高でトロイオンスあたり1085ドルと2021年6月初旬以来の高さ。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、0.53%増の3.02トンと14週連続で増加して12月末以来の大きさへ増加。価格は前週比8.05%高でトロイオンスあたり1570ドルと、2週ぶりに上昇していたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で0.6トン(0.1%)減で936.96トンと、3週ぶりの週間の減少の傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.82トン(0.18%)増で455.58トンと昨年11月3日以来の高さで、2週連続の週間の増加傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で48.56トン(0.33%)減で14,573トンと前週の4月24日以来の高さから5月9日以来の低さへ下げて、週間の減少の傾向。
  • 金銀比価は、今週84台前半で始まり、本日83へと下げて、3月末以来の高さからは多少銀の割安が解消されて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、952ドルで始まり、本日898ドルまで下げて4月24日以来の低さで終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、469で始まり、前日400まで下げた後に本日415へ上昇して終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
  • 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週人民元建て価格が前前週の史上最高値から下げる中で、週間の平均では6.29ドルと、前週の2.65ドルから上昇して3週ぶりの高さ。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は昨日までで、前週平均比金は9%減で3週ぶりの低さ、銀は27%減で昨年末以来の低さ、プラチナは33%減で昨年8月半ば以来の低さ、パラジウムは29%減と4月半ば以来の低さであったこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は良好な経済指標やFRBの高官のタカ派的コメントによるFRBの利上げ観測と米債務上限問題関連ニュースで市場は動いていますが、来週もFRBの金融政策に影響を与える指標やFRB高官のコメント、そして6月初旬には債務上限に至るとされていまので、このバイデン大統領と共和党マッカーシ下院議長の協議に市場は注目することとなります。

指標においては水曜日のFOMC議事録、そしてFRBがインフレデータとして注視する金曜日発表の個人消費支出PCEコアデフレーターなどが重要イベント及びデータとなります。

詳細は、主要経済指標(2023年5月22日~26日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

私は、今月5月31日日本時間午後7時から(英国時間午前11時から)日本のコモディティ先物会社のサンワード貿易主催で、日本の貴金属ディーリングの第一人者の日本貴金属マーケット協会代表理事の池水雄一氏と「世界経済と金のこらから」のウェビナーを行います。

下記のイメージをクリックすると開かれるリンクで無料で登録できますので、よろしければご登録してご参加ください。

サンワード貿易のウェビナー登録のページのイメージ

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、今週日本で行われているG7サミットについて、英国がウクライナへの戦闘機供与を含む長期的な安全保障措置を協議したこと、ヘンリー王子夫妻がニューヨークで報道陣に追跡されて「大惨事寸前」の思いをしたことを主張していたこと等が伝えられています。

そのような中、今週ロンドンでは年に一度プラチナ業界で働く人々が会するプラチナウィークが開催されていましたので、その様子をお伝えしましょう。

プラチナウィークはプラチナやパラジウムの業界団体であるロンドン・プラチナム・パラジウム市場(LPPM)が、火曜日にセミナーとカクテルパーティー、水曜日にディナーを主催し、月曜日からの3日間に、様々な企業や団体が関連のイベントを開きます。

私は今回プラチナグループの女性の会(Women in PGMs)のブレックファストミーティング、貴金属専門コンサルタント会社のMetals Focusのネットワーキングミーティング、LPPMのセミナーとカクテルパーティに参加してきましたので、その様子をお伝えしましょう。

Women in PGMsのブレックファーストミーティング

このグループは2019年に南アフリカの精錬会社のアングロアメリカンのサポートの中でプラチナグループの貴金属業界で働く4人の女性によって、この業界で働く女性のネットワークを広げ、この貴金属のビジネスの開発を進める目的で発足されました。

そして、2019年にのプラチナウィークで始めてブレックファーストミーティングがロンドンのフォートナムメイソン開かれ、2020年と2021年はオンラインで開催された後に、昨年から再び対面でフォートナムメイソンで業界の男性も参加して開催されています。

今年は、「水素とプラチナグループ金属の共生」というタイトルでセミナーが行われました。ここでは、三菱商事の燃料電池ビジネス開発責任者のEllie Thompson氏がモデレーターを務め、ジョンソン・マッセイ(JM)社のR&Dの責任者で、JM技術センターの代表であるLiz Roswell博士、Ricardo社の水素ビジネスの責任者のJoanna Richart氏、アングロアメリカのESGの責任者であるYvonne Mfolo氏がパネリストとして登壇しました。

このセミナーでは、今後環境問題からも、水素エネルギー及び水素ビジネスが注目されて、より開発が進むことになるとし、如何にこのビジネスが発展するために、より効率的な技術の研究開発が必要であるか、そしてその技術を最大限に活用できるエンジニアリングが必要で、そのためには、南アフリカにおいてはプラチナグループの貴金属が多く産出され、そのGDPの割合は高いことからも、PGMs業界は電力不足の中でも守られているものの、常に政府を巻き込んだ動きも必要であるとのこと。

Metals Focusネットワーキングミーティング

プラチナウィークの中でも最も人が集まると言われている、貴金属コンサルタント会社のネットワーキングイベント。今年は350人がテムズ川沿いのイベント会場に集まっていました。

この参加者には、プラチナグループの2022年の需給とその2023年の見通しのレポートが配布されます。このレポートを含む、プラチナ需給の詳細に関してはプラチナの記録的な供給不足がプラチナ価格1000ドルを支えるをご覧ください。

LPPM Seminar

LPPMセミナーにおいては、毎年プラチナグループの貴金属の需給に関わりのある議題が取り上げられ、過去には電気自動車販売者数の見通しとそのバッテリー技術等が議題で取り上げられていましたが、今年はほぼ水素エネルギー一色となっていました。

1部ではジョンソン・マッセイ(JM)社のR&Dの責任者で、JM技術センターの代表であるLiz Roswell博士が「二酸化炭素排出量ネットゼロ達成のための触媒としてのプラチナグループの貴金属」という題目で、プラチナが水素エネルギーを利用する燃料電池の触媒として最も効率の良い貴金属であるのかを解説し、アングロ・プラチナム・マーケティング会社のBenny Oeyen氏が「アングロアメリカのPGMsグループ貴金属の将来の市場形成について」として、PGMグループ貴金属の消費を促す水素エネルギーを定着させるための様々な施策、それは三菱自動車のMiraiをドイツではUberで200台利用する等のマーケティングをしているということなどを説明していました。

2部においては、三菱商事のJonathan Butler博士の「水素エネルギーの中のPGMsグループ貴金属の新たな需要の可能性」という題目で、PGMsグループ貴金属がと水素エネルギーを利用する燃料電池と水素を作る電気分解の両者に使われることを解説し、三菱商事が他の企業へ投資をして、水素エネルギーの普及に勤めていることを説明していました。

そして、Metals FocusのDale Munro氏は「鉱山会社の投資の決断が将来のPGMsグループの供給に影響を与えるのか」とし、現在の産出費用と投資の関係等について解説しました。

LPPMカクテルパーティー

ギルドホール内で行われたセミナー後に場所を変えてカクテルパーティーが行われ、改めて業界の方々は親交を深めていました。

その様子の写真を添付します。

LPPMカクテルパーティーのイメー

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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