金市場ニュース

ニュースレター(2023年12月8日)金価格は史上最高値記録後に急落して良好な米雇用統計後も2000ドルを維持

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり2011ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から1.64%安で3週ぶりの週間の下げで、月曜日の史上最高値の2143ドルから6.1%下げています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から5.41%安のトロイオンスあたり23.80ドルと3週ぶりの下げで11月20日以来の低さへと週間の下落となっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から1.18%安のトロイオンスあたり918ドルと3週ぶりの週間の下落となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は3.14%安のトロイオンスあたり977ドルと2週連続の週間の下落で11月13日以来の低さとなっています。

金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、金と銀が月曜日のアジア時間開始と共に急騰した後に急落するなど大きく動き、プラチナとパラジウムも多少影響されたもののより狭いレンジでの動きとなっています。

月曜日の動きは金の先物・オプション市場での大規模な取引が薄商いのアジア時間開始直後に出されたことがきっかけとされていますが、この数週間中銀高官のコメントや経済指標がインフレ鈍化を示していたことで、FRBや他の中央銀行の来年早い時期での金利の引き下げ観測が広がっていたことからも、年末を前に大きな動きが出た模様ですが、その後金先物・オプション市場の取引量も大きく下げて、本日は予想を上回る米雇用統計で全般下げてはいるものの、動きは限られています。

貴金属アナリストによると、金は米中央銀行の金利観測にほぼ完ぺきに影響を受けているとのことです。そこで、今週は来年3月のFOMCでの金利予想と金価格の動きを示すチャートをお届けしましょう。

ここで、11月末から来年3月の金利予想が急落するにつれて金価格が上昇していたものの、今週に入りこの金利予想が上昇し、金価格が下げていることを見ることができます。

金価格と2024年3月のFRBの政策金利予想 出典元 ブリオンボールト

なお、パラジウムは今週も前週に続き3%を超えて下げて、トロイオンスあたり1000ドルを割り、プラチナとの差を50ドルほどへと2018年以来の狭さに縮めています。これは、中国の景気懸念が広がる中、ガソリン車の排ガス触媒の需要が8割であるパラジウムの需要減少懸念、ロシアが需要の4割であることで他の金属への代替も進んでいることも背景の模様です。

今週の金相場の動きと背景について

月曜日金相場は早朝にスイスフランくを除くすべての主要通貨建てで金相場は史上最高値をつけ、ロンドン時間昼過ぎにはその上げ幅をすべて失ってさらに下げて終えていました。そこで、ドル建てにおいてはトロイオンスあたり2143ドルの史上最高値を付けた後に2037ドルで終え、日本円建てにおいてはgあたり10083円の史上最高値をつけて9628円で終えていました。

この急激な動きの背景はFRBによる利上げ終焉、早ければ3月にも利下げが行われるという観測が急激に広がった後に、その観測が急激な変化であったことから、調整されると共に後退したからされていますが、コメックスの金先物・オプション市場で大きな売り注文が取引薄のアジア時間に出されたことで、このような動きが出たことの模様です。

火曜日金相場は、前日の急騰後の急落を経て、一時2010ドルと一週間ぶりの低さへ下げた後にトロイオンスあたり2021ドルで終えていました。

同日発表されたFRBが注目する米雇用動態調査JOLTは、予想と前回を下回り2021年3月以来の低さであったことで、FRBの利上げ終焉、早期の利下げ観測が若干前日より広がり、長期金利は8月末の水準へ若干下げていました。

しかし、前週のユーロ圏のインフレ率の鈍化とタカ派で知られている欧州中銀高官のハト派的コメントからも近い将来の欧州中銀の利下げ観測からユーロが対ドル下げていることで、相対的にドルが2週ぶりの高さへ上昇していたことで金の頭を押さえることとなりました。

水曜日金相場は月曜日の大きな動きもあり、小幅な動きでトロイオンスあたり2025ドルの前後5ドルほどの動きで推移し2028ドルで終えていました。

同日は米ADP全国雇用者数が発表され、10.3万人増と市場予想の12.8万人増を下回り、米雇用情勢の軟化を示唆していました。そこで、長期金利は3か月ぶりの低い水準へ下げたものの、ドルインデックスが前日同様に若干上昇していることからも、金相場は動意薄となっていました。

木曜日金相場は、翌日の米雇用統計を待つ中で、トロイオンスあたり2031ドルで終えていましたが、終日前日の終値の水準で動きも少なく推移していました。

同日発表された米新規失業保険申請件数は22万件と予想の22.2万件を下回ったものの、前回修正値の21.9万件を上回っていました。そこで、FRBの早期の利下げ観測を動かすものでもなく、市場への影響は限定的となっていました。

なお、日本円は同日日銀の金融政策が引き締めへ変更になるという観測からも対ドル強含んで4か月ぶりの高値となっていることから、gあたり9390円と月曜日の史上最高値の10083円から6.9%下げて推移していました。

金曜日は、市場注目の米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数は19.9万人と予想の18万人と前回の15万人を上回り、失業率も3.7%と前回と予想の3.9%を下回っていました。平均時給は前月比0.4%と前回の0.2%と予想の0.3%を上回っていましたが、前年同月比では、4.0%と予想と同水準で前回の4.1%から下げていました。

そこで金相場は発表後にFRBの金融政策が緩和的となる観測が後退し、ドルが3週ぶりの高さ、そして長期金利が一週ぶりの高さへ上昇する中で、トロイオンスあたり2002ドルまでほぼ2週ぶりの低さへ一時下げて、2009ドル前後を推移することとなりました。

しかし、LBMA価格で2000ドルを10営業日維持したのは、今年3月に起きた米地銀危機時の9営業日を上回るものとなります。

過去一週間のドル建て金価格チャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • ワールドゴールドカウンシルが、中国中銀の人民銀行が、11月も11.8トン金を購入し、年初来毎月購入して金準備は216トン増の2226トンとなっていたことを明らかにしていたこと。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週金曜日に最新データの11月28日分が発表され、FRBの高官のハト派的コメントからも、ドルと長期金利が下げて価格が上昇する中で、全ての貴金属で強気ポジションが増加していたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは7週連続でネットロングで26%増の449トンと2週連続で増加していたこと。この間建玉は6%減と2週ぶりに減少していたこと。価格は前週比ほぼ1%高でトロイオンスあたり2025.65ドルと5月9日以来の高さへ上昇していたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、7週連続でネットロングで55%増の4027トンと7月18日以来の高さへ増加していたこと。価格は4.8%高でトロイオンスあたり24.65ドルと7月18日以来の高さ。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、3週ぶりにネットロングへ転換して9トンと9月5日以来の高さ。価格は前週比0.3%安でトロイオンスあたり928ドル。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートで、1.6%減の29トンと10月3日以来の低さへ減少していたこと。価格は前週比1.5%安でトロイオンスあたり1059ドルと下げていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で1.7トン(0.2%)増で880.55トンと週間の増加傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で2.42トン(0.6%)増で398.60トンと19週ぶりの週間の増加傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で41.8トン(0.3%)増で、13,521.91トンと週間の増加傾向。
  • 金銀比価は、今週82台前半で始まり、本日85台前半へ上げて11月半ば以来の高さへ上げて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1139ドルで始まり、1104へと若干下げて終える傾向。しかしこの水準は、価格が公表された1990年以来の低さ。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは57ドルで始まり、水曜日に43まで落として、本日57ドルと2018年7月中ば以来の低い水準。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
  • 上海黄金交易所(SGE)は、週平均は29ドルと8月初旬以来の低さで前週の30ドルから下げていたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は13%減、銀は13%減、プラチナは17%増で9月29日の週以来の高さ、パラジウムは39%減。金と銀は月曜日に価格急騰で取引量は急増していたものの、その後急激に下げて週間では前週を下回る。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は11月27日に負の相関関係となり、-0.82と強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は11月21日から負の相関関係へ転換して-0.75と若干関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は正の相関関係に11月27日に転換し、0.81と関係を強めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は月曜日に金価格が主要通貨建てで史上最高値を付けた後に、本日の米雇用統計まで狭いレンジの取引となっていますが、来週は米国、ユーロ圏、英国の中央銀行の政策金利が水曜日と木曜日に発表され、市場は注目することとなります。

それに加え、米国の消費者物価指数が火曜日、卸売物価指数が水曜日と年末を前に重要指標も続くこととなります。

詳細は主要経済指標(2023年12月11日~15日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

先週お伝えした今週5日に行われる予定であった日本のコモディティー先物取引や為替証拠金取引の大手サンワード貿易のウェビナーは12月20日(水)の日本時間午後8時、英国時間午前11時へと延期されました。

そこで今週月曜日の価格の高騰や今週行われたLBMAの年次セミナーの内容も含めて「金市場の今年を振り返り2024年に向けて」という題で日本貴金属マーケット協会の池水代表理事とお話をさせていただきます。参加は無料ですので下記のリンクでぜひお申し込みください。

https://www.sunward-t.co.jp/seminar/2023/12/02_7/index_wh.html

サンワード貿易のセミナーのイメージ

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、引き続きイスラエルとハマスの紛争についてがトップニュースとなる中で、ウクライナ戦争についても再び伝えられています。また、現政権が最優先事項の一つとしている違法難民対策の一つである、ルワンダへ違法難民を移送する政策の進展状況とそれにかかわる政府内の軋轢、そしてパンデミックの政府対応に関する聴講会でボリス・ジョンソン元首相が質問を受けていたことが大きく伝えられています。

そのような中、今週はロンドン貴金属市場協会の年次セミナーとディナーが行われて参加していましたので、それについて簡単にまとめてお届けしましょう。

セミナーではスタンダードチャータード銀行のエコノミストで地政学リスクも専門としているPhilippe Dauba-Pantanacc氏がマクロと地政学に絡めて講演しました。

彼は地政学的な不安定な状況がニューノーマルとなることを予想し、2024年の米国、英国、インド等の選挙によるイベントリスクについても注目していました。

それは、もしトランプ氏が再選された場合、米国は中国に限らず多くの国との貿易戦争へ入り、ウクライナ戦争においては、プーチン大統領に近いことからも、米国のウクライナへのサポートが期待できない等、更なる混乱が予想されるというものでした。

それに加え、イスラエルとハマスの紛争で米国と西欧はあまりにもイスラエルへのサポートを前面に出したことで、世界、特にグローバルサウスと呼ばれる新興国や発展途上国の信頼をある意味失い、Cognitive Warfare(認知戦)で負けたことで、世界の紛争が多発する可能性があるともしていました。

次にMKS Pamp社のNicky Shiels氏が金とプラチナグループメタル市場の先行きを多く受ける5つの質問を中心に話されました。

それは、インフレの金の影響、金が地政学上のヘッジの役割として信頼できるものか、中銀の金購入は金にとって強気か弱気か、2024年の見通し、そして金の弱気シナリオと強気シナリオとこれらのシナリオ上のリスクについて。

興味深かったのは、中銀の金購入は当然強気シナリオとみているが、この数年の記録的な中銀の購入からもすでに価格に織り込まれているとし、これが大幅に減少した場合は弱気シナリオとなるというものでした。

そして、価格の予想としては当初トロイオンスあたり1930ドルであったのを、米銀危機後に上方修正をし、平均予想を2000ドルで、レンジとしては1850ドル~2200ドルとみているとのこと。

そして、彼女もトランプ氏が再選された際のリスクについても注目し、FRBの利下げや解決の兆しが見られない紛争、経済の停滞等からも更なる高値圏の可能性があると見ていました。

それに対し、リスクは粘着的インフレでFRBの金利が高く長く据え置かれること、アジアの現物需要の減少、中国のハードランディング、中銀の金準備のマネタイズ等(つまりは金需要の減少さらには売却)を上げていました。

セミナー後の年次ディナーは金融街の中心にあるマンションハウスというロンドン市長の官邸で、市長が主催する毎年恒例の晩餐会や財務大臣が演説を行うディナー等で利用される場所で業界関係者が300人ほどが招待されて行われました。

ディナーの写真もお届けします。

LBMAの年次ディナーの写真 出典元 LBMA

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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