ニュースレター(2023年7月7日)まちまちな米雇用統計を経て金価格は週間で上昇
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1923ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.6%高と3週ぶりの上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から1.07%高のトロイオンスあたり22.71ドルと2週ぶりの週間の上げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から1.34%高のトロイオンスあたり909ドルと7週ぶりの週間の上昇となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は0.67%安のトロイオンスあたり1246ドルと3週連続の下げで2018年の12月以来の低さとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、引き続きFRBなどの主要中央銀行の長期に渡る引き上げ観測が、FOMC議事録要旨や主要経済指標データで動くことに反応することとなりました。
大きくは水曜日のFOMC議事録がよりタカ派であったことで下げ、昨日の米ADP雇用者数が大幅に予想を上回り更に下げ、本日の雇用統計がまちまちではあるものの、非農業部門雇用者数が予想を下回り今週の下げ幅を回復して上昇して終える傾向です。
そのような中、今週米長期金利は4.08%を超えて今年3月来の高さ、また直近の政策金利の動きに反応する2年物は5.12%を超えて、金融危機発生時の2007年以来の高さをつけていました。
しかし、本来金利を産まない貴金属が週間で全般上昇しているのは、金の強さは、株価が今週下げていること、高インフレ、景気後退リスへの懸念による、安全資産の需要、銀は金の動きに呼応していること、そしてプラチナとパラジウムは年初からそれぞれ15.6%と31.5%と大きく下げ幅を広げていたので、その調整もあるようです。
ちなみに、通常米国債2年物と10年物の利回りを繋ぐ形で形成されるイールドカーブは通常は年限が長いほどリスクプレミアムが高くなるために右上がりとなりますが、昨年7月から長期国債の利回りが短期国債の利回りを下回る逆イールドとなっています。
これは、近い将来の景気後退を通常示唆するものとされていますが、今週はこの逆イールドのは場が一時109.50ベーシスポイントと1981年以来の大きさに達しています。
この懸念もまた、株価の下げに影響されているとも分析されていますので、今週はこのチャートをお届けしましょう。
ここで、灰色で示されているのは、過去の景気後退時で、それぞれイールドカーブがマイナスに下げた後に起きていることがご覧いただけます。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、ロンドン時間午前中に下げていたものの、昼過ぎに発表された米ISM製造業指数が3年以上ぶりの低さへ下げたことで、米景気後退、それによるFRBによる長期の利上げ観測が後退した模様で、ドルと長期金利が下げて、トロイオンスあたり1930ドルを一時つけて、1921ドルで終えていました。
火曜日金相場は米国が独立記念日で休場であることからも、狭いレンジでの動きで、トロイオンスあたり1926ドルへ緩やかに上昇して終えていました。
同日は、米2年物と10年物国債の利回りの差のイールドカーブの逆転幅が1981年以来の大きさの110ベーシスポイントへと拡大していました。この逆イールドカーブは2022年の7月から続いているものの、その幅が拡大していることは、近い将来の景気後退を示唆するとも言われていることからも、多少懸念は広がっていた模様です。
なお、この逆イールドカーブの背景は近い将来の金利に反応する2年物の利回りが上昇する中で、より流動性の高い10年物が安全資産として買われて利回りが下げる状況であり、金価格のサポートともなっていた模様です。
水曜日金相場は、同夜発表のFOMC議事録を待つ中で、警戒感からも世界株価が下げたことに反応し、ロンドン時間午後にトロイオンスあたり1935ドルまで上昇した後に、上げ幅を失って1916ドルで終えていました。
株価の下げは、同日発表の中国、欧州のサービス部門PMIが予想を下回っていたこと、また、同日のFOMC議事録の内容がタカ派であることへの警戒感があったようですが、ロンドン時間午後にドルと米長期金利が上昇に転じたことで、金価格が下げることとなりました。
その後発表されたFOMC議事録では、6月の利上げ停止反対意見もあったというタカ派的内容で金価格は下げで反応していました。
木曜日金相場は、市場注目の米ADP全国雇用者数が予想を大きく上回ったことで、FRBの長期の利上げ継続観測が広がり、トロイオンスあたり1902ドルまで一時下げた後に、1911ドルまで戻して終えていました。
ADP全国雇用者数は49.7万人と前回修正値の26.7万人と予想の22. 8万人を上回っていました。そこで、米10年物国債利回りが一時4%を超えて3月以来の高さ、2年物国債利回りは2007年以来の高さの5.12%と急騰したことで、金は押し下げられることとなりました。
しかし、1900ドルの底値は堅固なものもあり、その後押し戻されていました。
本日金曜日は、市場注目の米雇用統計が発表され、予想を下回っていたことで、発表直後にトロイオンスあたり10ドル強急騰し、その後神経質な動きをしながらも、ロンドン時間午後に1931ドルへ上昇して推移しています。
雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月比20.9万人と前回修正値の30.6万人と予想の22.5万人を下回っていました。しかし失業率は3.6%と前回の3.7%から下げ、平均時給も前月比で前回修正値と同じ0.4%で予想の0.3%を上回り、前年同月比は4.4%とやはり前回修正値と同じで予想の4.2%を上回っていました。
そこで、雇用者数としては前日のADP雇用者数が大幅に予想を上回っていたことからも、サプライズの減少でしたが、他の指標が引き続き堅固な労働環境と賃金インフレを表していたことが、データ発表後の神経質な動きを起こしていた模様です。
その他の市場のニュ―ス
- ワールドゴールドカウンシルによると、中国の中央銀行が6月も21トン金準備を増加させ、8ヶ月連続で165トン増の2113トンとしていたことが明らかになったとのこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの6月27日分が発表され、米耐久財受注や米住宅データが予想を上回っていたことからFRBのさらなる利上げ観測が広がり、貴金属価格が下げていた際に、金とプラチナはネットロングポジションを減少させ、銀は若干ではあるもののネットロングを増加させ、パラジウムは7週連続で弱気ポジションを減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から8.6%減で269トンと3月14日の週以来の低い水準へ再び減少していたこと。この間建玉は、5%減と2月末依頼の低さへ減少し、価格は前週比0.6%安でトロイオンスあたり1918.90ドルと3月半ばの低さまで下落していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週比3%増の1809トンへ増加していたこと。価格は3.9%安でトロイオンスあたり22.84ドルと2週連続で下げて3月21日以来の低さとなっていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、80%減で3.66トンと3月末以来の低さ。価格は前週比4.05%安でトロイオンスあたり925ドルと昨年10月末以来の低さへ下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、4.13%減の2.615トンと7週連続で減少して3月初旬の低さとなっていたこと。価格は前週比2.81%高でトロイオンスあたり1315ドルと前週の1279ドルの2018年12月31日以来の低さから上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で4トン(0.44%)減で917.86トンと、3週連続の週間の減少。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で1.9トン(0.43%)減で446.79トンと、6週連続の週間の下げ。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で51.38トン(0.36%)減で14,509トンと、2週連続の週間の減少傾向。
- 金銀比価は、今週84 台前半で始まり、木曜日に82台まで下げたものの、本日は84に戻して終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1015ドル強で始まり、その水準を維持して本日1006ドルで終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、329ドルで始まり、330ドルで終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週人民元建て価格が木曜日まで3営業日連続で上昇して6月20日以来の高さで、人民元が対ドル昨年11月以来の弱さへ下げる中で、週間の平均では13.31ドルと3月24日の週以来の高さで、前週の11.04ドルから上昇していたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週平均比で前週が数週ぶりの高さである中で、金は16%増、銀は11%減、プラチナは39%減、パラジウムも23%減。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週も本日午後に発表された米雇用統計等の米雇用や経済環境を示唆する指標が、米国中央銀行のFRBの金利先行き観測に影響を与えて、貴金属価格を動かしていました。
来週もこの傾向は続き、水曜日の米消費者物価指数は最も重要な指標となり、その他、木曜日の米卸売物価指数や新規失業保険申請件数、そして金曜日のミシガン大学消費者物価指数等へも市場は注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2023年7月10日~14日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年7月3日~7日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年7月10日~14日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年7月3日)「ペーパーゴールド」センチメントは低下してコメックス金先物と金ETFのロングは縮小する中、金価格は1920ドルを超える
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
一月ほどロンドンを留守にしていましたが、先週土曜日に戻ってきました。
今週久しぶりの英国では、月曜日から始まったテニスのウィンブルドン選手権について、木曜日に行われたスコットランドでのチャールズ国王の戴冠式、そして、私が留守にしていた6月が記録的な暑さで、平均温度が15.8度と記録が残る1884年以降最も暑い6月となったこと等が伝えられています。
そこで、今週はこの時期のロンドンの風物詩であるウィンブルドンの話題についてお伝えしましょう。
1. ロシアとベラルーシの選手の参加が認められる
今年は前年度とは異なり、ウクライナ戦争は継続していますが、ロシアとベラルーシの選手が、政治的に中立を守ることを前提で出場が許されています。
これは、昨年他の四大大会で唯一両国選手が除外されたことで、世界ランキングのポイントが付与されなかったことで、これを繰り返すことを避けるために、ウィンブルドンを運営するオールドイングランドクラブが両国選手の参加を認めざるを得なかったということのようです。
2. フェデラー選手を称えるセレモニーがセンターコートで行われる
昨年現役を引退したロジャー・フェデラー選手はウィンブルドン選手権の男子シングルで史上最多8度の優勝をしており、またそのオールラウンダー的テニスのスタイルや礼儀正しい人柄からも、英国では最も人気があるテニス選手の一人でもあります。
セレモニーの際にはスタンディングオベーションで観客は彼を迎えていました。
3.環境活動家の妨害行為で2試合が中断
英国では、環境保護団体の活動家がこのような大きなイベントで妨害行為を行うことが、残念ながら頻繁に起きつつあります。そこで、事前にこの選手権を主催するオールドイングランドクラブは警備を強化していたことも明らかにしていました。
しかし、水曜日の試合中にオレンジ色の紙吹雪やジグソーパズルをコートに撒き散らし、2試合が中断することになりました。その1試合は日本の島袋将選手が出場していた男子シングルス一回戦であったようです。
4.ジョコビッチ選手が四大大会24勝を目指す
すでに全仏大会で男子最多の23勝を飾っているとのことで、今回優勝すると女子最多のマーガレット・コート選手(オーストラリア)に並ぶとのこと。
現在までで2試合連続のストレート勝ちで、四大大会シングルス通算350勝と、フェデラー選手の369勝とセリーナ・ウィリアム選手の365勝に次ぐ史上3人目の勝ち星とのこと。
また、今回ウィンブルドンを制覇すると、フェデラー選手の大会史上最多8勝に並ぶとのこと。
本日は、怪我から復帰したかつてウィンブルドンを2度制覇した英国のアンディ・マリー選手が2回戦をギリシャの若手24歳でシード5位のステファノス・チチパスと戦っています。昨日3セットを戦って時間が遅くなったことから、本日に繰り延ばされた試合で、2セットすでに取ってはいるものの、36歳のマリー選手にとっては厳しいところかもしれないですが、頑張ってほしいところです。
今週末から来週末まではウィンブルドンでの英国の選手と日本の選手の応援に忙しい日々が続きそうです。