ニュースレター(2023年3月31日)今月の銀行懸念による上昇で金価格は月終値で史上最高値を更新
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1980ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.68%安で若干ながら4週ぶりの下げとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から3.11%高のトロイオンスあたり23.89ドルと週間の上げで2月初旬以来の高さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から0.48%高のトロイオンスあたり981ドルと週間の上昇となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は5.14%高のトロイオンスあたり1491と3週連続の上昇となっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、シリコンバレーバンク破綻後に起きていた欧米銀行懸念による前々週からの上昇は、銀行への懸念が後退して株式市場が落ち着きを取り戻す中で、金は前週比多少ながら下げ、他の工業用途需要の割合が高い貴金属は上げ幅を維持することとなりました。そこで、今週金銀比価は2ヶ月ぶりの低さへ下げています。
しかし、LBMA価格ベースの月末の金価格においては、米国のシリコンバレーバンクと欧州のクレディ・スイス破綻による銀行への懸念の急激な高まりからも、ドル建て、ユーロ建て、ポンド建て、日本円建てで史上最高値を更新しています。
そこで、今週は日本円建てを含む主要通貨の米国ドル、ユーロ、英国ポンドの金相場の月末価格の推移のチャートをお届けします。
ここでご覧になってお分かりになるように、他の中央銀行が2021年末以来大幅に政策金利を引き上げる中で、日銀がゼロ金利を続けていることとウクライナ戦争勃発後のエネルギー輸入国としての日本への懸念等からの円安で2022年からの円建て金価格(赤色)の上げ幅が他の主要通貨建て価格と比較しても大きいことがご覧いただけます。
ちなみに、本日日本円建て金相場は史上最高値を再び更新し、今月の銀行への懸念でドル建てがトロイオンスあたり2000ドルを超えた際につけたgあたり8459円を超えて8497円を記録しています。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、過去2週間の銀行関連懸念が落ち着く中で一時トロイオンスあたり1944ドルまで下げて、1958ドルで終えていました。
なお、前々週と前週の2週間で米国においては小中規模の銀行からの預金流出が金融危機以来の速さとなっていたことがセントルイス連銀のデータで週末に明らかになっており、FRB高官が信用収縮の可能性に触れるなど、危機への懸念が必ずしも払拭されていないようで、コメックスの金先物・オプションの強気ポジションと金ETFへの資金流入からも強気基調への変化が見られていました。
火曜日金相場は、今週に入り落ち着きを取り戻していた米株価が下げて、ドルも下げる中で、トロイオンスあたり1972ドルへ上昇して終えていました。
これは、同日セントルイス連銀ブラード総裁が高インフレに対応するために適当な金融政策を行うべきと述べたことが伝えられ、金融システムへの懸念が再燃したことからでした。
水曜日金相場は、株価市場が全般上昇する中で、金相場はトロイオンスあたり1963ドルと前日終値から10ドルほど下げて終えていました。
この背景は、前日のリッチモンド連銀製造業指数と米消費者信頼感指数も予想を上回っていたこと、また同日上院銀行委員会でのSVB破綻後の公聴会で、バーFRB副議長が「銀行システムの安全性と健全性を保つため、必要に応じてあらゆる規模の金融機関にすべての手段を講じる用意がある」と述べたこと等で市場のセンチメントが改善したことからでした。
木曜日金相場は、世界株価が上昇し、ドルと長期金利が下げる中で、トロイオンスあたり1978ドルで終え、今週の下げを取り戻していました。
同日発表された米GDPは前回と予想の2.7%を若干下回り2.6%で、米新規失業保険申請件数もまた予想を若干上回る等と、米経済にとっては多少ながらネガティブな結果となっていることや、前日パウエル議長が非公開の米連邦議会の議員との会合で政策金利に関して、前回のFOMCのメンバー予測の年内にもう一回の利上げを指摘したとのことも、政策金利の近い将来のピークアウト観測を広げて、金利を産まない金をサポートしていた模様です。
金曜日市場注目のFRBがインフレデータとして重要としている米個人消費支出PCEコア・デフレーターは前月比0.3%と前年同月比4.6%と予想の0.4%と4.7%を若干下回っていました。
これは、FRBの金融政策を変更する大きな動きではないという観測で、次回5月の25ベーシスポイントの利上げはほぼ50%強と前日までの予想を若干上回っていますが、長期金利に大きな動きはなく、ドルが若干上昇していることと株式市場が上昇していることで、金は頭を抑えられている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- ワールドゴールドカウンシルによると、シンガポールが2月に6.8トン金準備を積み増し、205トンとしていたこと。これにより同中銀の今年の増加分は51トンとのこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、3月21日にイエレン財務長官が必要であればさらなる預金保護を行うと述べたことで市場が落ち着きを取り戻す中で、金と銀においては引き続き強気基調を維持したものの、プラチナとパラジウムは弱気ポジションが増加していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、3月21日に前週から25%増加して333トンと、市場予想以上の大幅に良好な米雇用統計でFRBによる長期の高い金利予想で価格が急落した1月末以来の高さへ急増していたこと。この間建玉は、6.3%増と3週間連続で増加して1月24日以来の高さへ増加していたこと。価格は前週比2.36%高でトロイオンスあたり1952.50ドルへと上げて昨年4月19日以来の高さとなっていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションはネットショートからネットロングへと3週ぶりに転換して138トン。価格は3.84%高でトロイオンスあたり22.47ドルと3週連続に上昇して6週ぶりの高さとなっていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、23%減で4トン。価格は前週比0.2%安でトロイオンスあたり983ドルと3週ぶりの下げ。
- コメックスのパラジウム先物・オプションのネットショートで、3%増の2.79トンと7週連続で増加して12月末以来の大きさへ増加。価格は前週比5.95%安でトロイオンスあたり1406ドルと2019年6月初旬以来の低さ。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で5.5トン(0.6%)増で929.47トンと、昨年10月半ば以来の高さで3週連続の週間の増加傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で2.21トン(0.50%)増で443.82トンと3月初旬以来の高さで、3週連続の週間の上昇傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で191.51トン(1.34%)増で14,476トンと、5週ぶりの週間の増加傾向。
- 金銀比価は、今週85台後半で始まり、本日82台後半まで下げて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1000を下回って始まり、990台へ下げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、431で始まり徐々に上昇して本日508とひと月ぶりの高さで終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週人民元建て価格が前週の史上最高値からは下げたものの高い水準で推移する中で、週間の平均が10.94ドルと昨年12月初旬以来の低さへ、前週の18.63ドルから下げていたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は昨日までで、前々週が銀行への不安で全般記録的に高かったことから前週に続きすべての貴金属で下げ、金は29%減、銀は8%減、プラチナが23%減、パラジウムは4%減。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は金曜日のFRBがインフレデータとして注目する個人消費支出PCEコア・デフレーターのデータを市場は注目していました。
来週は、欧米はイースター休暇が金曜日から始まりますが、そのような中でも米雇用統計は金曜日に発表されるために、このデータへ市場は注目するものの、その反応はイースター休暇明けとなりそうです。
その他、月曜日の主要国の製造業PMIと米ISM製造業景況指数、火曜日の米雇用動態調査(Jolts)、水曜日のADP雇用統計と主要国のサービス部門PMI、米新規失業保険申請件数等も重要となります。
詳細は、主要経済指標(2023年4月3日~7日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
先週金曜日にドイツ銀行への懸念などから金価格が4週連続の週間の上昇をしたことを伝える主要米経済サイトのMarketWatchの記事で弊社リサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュのコメントが取り上げられました。
ここでエイドリアンは、ドル建て金価格が心理的節目のトロイオンスあたり2000ドルを維持できなかったことの落胆による下げも背景にあるとし「この節目価格の呪いが市場を再び襲っている。」と述べています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年3月27日~31日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年4月3日~7日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーニュース(2022年3月27日)金価格は銀行懸念のピークから2.7%下げる中、金先物とETFのより強気基調の資金流入の余地あり
- 銀行恐慌?米連邦準備制度理事会はすべての米国債利回りを超える水準へ政策金利を引き上げました
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、スコットランドのスタージョン前自治政府首相辞任により、後任としてユーサフ氏が選出されて就任したこと、チャールズ国王夫妻が初外遊でドイツを訪問していること、英国のTPP加入合意などが大きく伝えられています。
そのような中、本日英国ローンテニス協会(LTA)がウィンブルドンテニス選手権を含む英国国内で開催される国際大会について、昨年出場を認めなかったロシア及びベラルーシ国籍の選手のエントリーを条件付きで認めることを発表していますので、ご紹介しましょう。
昨年ロシアとベラルーシの選手の出場が認められなかったのは、「ロシア政権がこれらの選手の参加で何らかの利益を得ることを容認できない。」ということが理由となっていました。
しかし、この決定のために男子プロテニス協会のATPと女子テニス協会のWTAは、昨年のウィンブルドンはランキングシステムの整合性が損なわれるためにポイント対象外の大会し、この判断は「国籍による差別」として、LTAへ罰金支払いがそれぞれATPにより100万ドル、WTAにより750万ドル命じられ、さらには今年のLTAのスタンスによっては、この2つの団体のメンバーシップを失う可能性もあると告げられていました。
そこで、ウクライナ戦争の状況は昨年から変化はないものの、ウィンブルドンを除く英国の著名国際大会が昨年は行われなかったなど、経済的な打撃などからも今回の判断となった模様です。
今回のロシアとベラルーシ選手が英国での大会に参加するための条件とは下記のようになります。
- ロシアとベラルーシの国家またはその政権および指導者を支持しないことに同意。
- ロシアおよび/またはベラルーシの州から資金提供を受けていない (これらの国が運営または管理する企業からのスポンサーを含む)。
ちなみに、英国外において、ロシアとベラルーシ国籍の選手は中立の立場として昨年も引き続き国際大会に参加が許されていました。
来年行われるパリオリンピックにおいては、国際オリンピック委員会(IOC)は、ロシアとベラルーシの選手が参加を認めるかの判断は今年7月以降となることを本日発表していますが、国や地域を代表しない「中立」の立場と認められる個人の選手に限り参加を可能とすることを今月すでに勧告しています。
政治をスポーツの世界へ持ち込むべきではないというIOCの主旨は理解できますが、スポーツを政治に利用し、そのために国が集中管理しているスポーツやスポーツ選手があるとされる中で、個人的にはオリンピックに関しては安易な結論を出すことは避けて、十分な議論をしてほしいと思っています。