ニュースレター(2023年5月12日)根強い高インフレとその長期化予想で金は週間の上げ幅を失う
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり2020ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.96%高と3週連続で上昇しています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から7.70%安のトロイオンスあたり23.85ドルと週間の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から3.65%高のトロイオンスあたり1082ドルと2週ぶりの週間の上昇となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は6.39%高のトロイオンスあたり1548ドルと2週ぶりの週間の上げとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週金相場は、米地域銀行破綻と米債務上限問題への懸念が広がる中で、今週発表された米消費者物価指数と卸売物価指数の数値を若干の鈍化と見るか、高止まりと見るかを市場が消化する中で本日のミシガン大学消費者態度指数の消費者物価指数の予想値が、今後5年から10年の長期で2011年来の高い数値で推移することが予想されていたことからも、週間の上げ幅を失って終える傾向となっています。
なお、今週工業用途の割合が60%と金より多い銀は、前週まで金と同様に安全資産需要でひと月ぶりの高さへ上昇していたことからも、今週は中国の経済指標の悪化などで工業用途減少懸念からも、上げ幅を大きく失うこととなりました。
この間、プラチナとパラジウムは金と銀のように、米地域銀行懸念等の安全資産としての需要からの上昇がない中で、先月は景気後退等の懸念で押し下げられていたことからも、購入機会とも見られ、南アフリカの電力問題や世界需要の4割を占めるロシアからの供給不足なども意識されて上昇と異なる動きをしていました。
本日のチャートは、米中銀の主要金利のフェデラルファンドレート(FFレート:青)と米酒飛車物価指数(赤)をお届けしましょう。
最新のFFレートのターゲットは5月に0.25%引き上げられて5%から5.25%と2007年以来の高さとなる中で米消費者物価指数は今週水曜日に4月の数値は前年同月比4.9%と2021年5月以来の低さへは下げていたことが発表されていました。ちなみに、米中銀の目標はインフレ率は2%であることから、未だ2倍以上となります。
高インフレによる実質金利の低迷はインフレヘッジとして金や銀をサポートしますが、貴金属は金利を産まないことからも、高インフレに対するためのFRBによる金利の引き上げ、もしくは維持は貴金属相場へネガティブに働くことになります。
英国祝日明け火曜日の金相場は、前日月曜日同様に狭いレンジながら、ドルと長期金利が若干上昇していながらも、トロイオンスあたり2036ドルへ上昇して終えていました。
前日英国が祝日の中のニュースは、FRBが発表した第1四半期の融資担当者調査で、大企業・中堅企業の商工業ローン向けの貸し出し基準が前回の調査に比べ厳しくなっていることが明らかとなっていたことから、安全資産の需要が高まっていたようでした。
また、翌日の市場注目の米消費者物価指数を前に、同日はバイデン大統領と野党共和党のマッカーシー下院議長が債務上限引き上げを巡って協議する予定でもあり、このリスクも意識されて金のサポートにもなっていました。
水曜日金相場は市場注目の米消費者物価指数が多少ながらインフレの鈍化を示すものであったことから、トロイオンスあたり2048ドルへ一時上昇した後に、2032ドルへと戻してロンドン時間終えていました。
米消費者物価指数は、前年同月比で4.9%と2年ぶりにの低さで、予想と前回の5%を下回り、コアにおいても5.5%と前回5.6%を多少ながら下回っていました。
そこで、FRBの利上げ停止観測からもドルと長期金利が一時下げたことに金は反応したものの、実際はインフレが高止まりしていることは明らかで上げ幅を戻すこととなりました。
木曜日金相場は、発表された米卸売物価指数が多少さげていたものの、根強いインフレを示唆したことで、FRBの利上げ継続観測でドルインデックスが強含み、トロイオンスあたり2016ドルへ下げて終えていました。
卸売物価指数は前月比0.2%と予想の0.3%を若干下回ったものの、エネルギーと食品を除くコア指数は0.2%と市場と同水準で、前月0.1%を若干上回っていました。
しかし、ロンドン時間昼過ぎに発表された米新規失業保険申請件数は予想と上回っていたことで、一時2040ドルまで上げていましたが、その後上げ幅を失っていました。
しかし、同日米地銀のパックウエスト・パンコープの預金が前週1割弱減少したことが明らかとなり、同銀を含む地銀を中心に金融株が下げていたことは、金をサポートしていたようでした。
なお、同日行われたイングランド銀行の金融政策発表では、予想通り0.25%の利上げで、4.5%と2008年以来の高水準となったこと伝えられていましたが、金市場への影響は限定的となっていました。
本日金曜日金相場は、ロンドン時間午後にトロイオンスあたり2019ドルまで一時上昇したものの、その上げ幅を削って夕方に2010ドル前後を推移しています。
これは、まずロンドン時間午後の上昇は、バイデン大統領と共和党のマッカーシー下院議長が、本日予定されていた債務上限引き上げのためのミーティングを月曜日以降へ延期したことで、事前に時間をかけて計画することで合意の可能性が高まったという観測で株価が上昇し、ドルと長期金利が多少ながら下げたことが背景にあった模様です。
しかし、その後ロンドン時間午後に発表されたミシガン大学消費者態度指数のインフレ予想値が、今後5年から10年に年率3.2%と2011年以来の高さと発表されて、FRBの高い金利継続観測でドルが2月以来最大の週間の上げを記録する傾向で長期金利もまた上昇したことで、金が押し戻されている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- 今週ワードドゴールドカウンシルは中国中銀の金準備が4月に8.1トン増で、6ヶ月連続で増加して2076.5トンとなっていたことを明らかにしていたこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの5月2日分が発表され、前日にファースト・リパブリック・バンクがJPモルガンに救済合併された後も米地域銀行への懸念が高まっていた際に、金は3週ぶりに強気ポジションを増加させ、銀は3週連続で強気ポジションを増加させ、プラチナは2週ぶりに強気ポジションを減少させ、パラジウムは13週週連続で弱気ポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から11%増加して459.8トンと3週ぶりに増加していたこと。この間建玉は、5.7%増と5週ぶりの低さから増加し、価格は前週比0.4%高でトロイオンスあたり1999.40ドルと3週ぶりに上昇していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは7週連続でネットロングで、前週比7.8%増の4219トンと1月半ば以来の高さで、価格は0.52%安でトロイオンスあたり24.77ドルと3週ぶりの低さ。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、12.6%減で33.18トンと3月8日の週以来の高さから減少していたこと。価格は前週比2.74%安でトロイオンスあたり1049ドルと2週ぶりの低さ。
- コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、0.75%増の3トンと13週連続で増加して12月末以来の大きさへ増加。価格は前週比2.74%安でトロイオンスあたり1453ドルと、2週連続で下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で6.1トン(0.7%)増で937.84トンと、昨年10月17日以来の高さで、3週連続の週間の増加の傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で2.33トン(0.51%)増で454.76トンと昨年11月4日以来の高さで、前週の7週ぶりに週間の下落から一転して週間の増加傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で137.12トン(0.95%)増で14,621トンと4月24日以来の高さで、週間の増加の傾向。
- 金銀比価は、今週79台前半で始まり、本日84を割る3月末以来の高さで終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、953ドルで始まり、本日917ドルまで下げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、466で始まり、本日478へ上昇して終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週人民元建て価格が前週の史上最高値から下げる中で、2営業日ディスカウントへ下げたものの、週間の平均では2.65ドルと前週の2.61ドルと昨年6月半ば以来の低さから上昇していたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は昨日までで、前週平均比金は4%増で7週ぶりの高さ、銀は2%減、プラチナは16%増で3週ぶりの高さ、パラジウムは36%増と12週ぶりの高さであったこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週も主要中央銀行の金融政策に関わる指標等で市場は動いていますが、来週も指標や、米地域銀行関連、そして米債務上限問題関連ニュースに市場は注目することとなります。
指標関連では、火曜日の米小売売上高、水曜日のユーロ圏消費者物価指数、金曜日のパウエル議長の発言等となります。
詳細は、主要経済指標(2023年5月15日~19日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今月5月31日日本時間午後7時から(英国時間午前11時から)日本のコモディティ先物会社のサンワード貿易主催で、私は日本の貴金属ディーリングの第一人者の日本貴金属マーケット協会代表理事の池水雄一氏と「世界経済と金のこらから」のウェビナーを行います。
下記のイメージをクリックいただくと登録ページに入ります。無料で参加できますので、よろしければご登録の上でご参加ください。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年5月8日~12日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年5月15日~19日)来週の予定をまとめています。
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、先週末に行われたチャールズ国王の戴冠式と関連のイベントについて、昨年から継続している鉄道等のストライキについて、英仏海峡を渡って英国で難民申請をする人々減らすための新法について、上院で英国国教会の長であるカンタベリー大主教が政府を非難していたことについて、また欧州放送連語加盟放送局によって開催される年次音楽コンテストのユーロビジョン・ソング・コンテストの決勝がリバプールで今週末行われることから大きく伝えられています。
そこで、今週はチャールズ国王の戴冠式について、興味深い情報をリストアップしてお伝えしましょう。
1. 戴冠時の年齢が最高
この戴冠式は5月6日に行われましたが、故エリザベス女王が70年と史上最長の在位期間であったことからも、チャールズ国王は戴冠時の年齢は73歳と最高で、王位継承者としての在位も最長とのこと。
2. 戴冠式関連費用は推定1億ポンド(約168億円)
チャールズ国王は、高インフレ等による生活水準を下げている国民のためにも、税金で賄われる戴冠式関連儀式は小規模とすべきとし、戴冠式の招待客もエリザベス女王の戴冠式の8000人から2000人へ縮小したとのこと。なお、チャールズ国王の戴冠式関連費用は発表されてなく推定ですが、約1億ポンドで168億円相当。エリザベス女王の戴冠式関連費用は当時157万ポンドで現在の価値では4600万ポンドとほぼ2分の1とのこと。なお、観光関連収益等の戴冠式による経済効果は大きいとされています。
3. ウェストミンスター寺院は1066年から全ての戴冠式がおこなわれている
ウィリアム征服王とも呼ばれているウィリアム1世以来その戴冠式の数は40に至り、10人の王族がここで葬られているとのこと。ちなみにチャールズ国王の母親の故エリザベス女王は彼女の父、母、妹と夫と共に、ウィンザー城の中にある教会の故エリザベス女王が父親のジョージ6世のために建立したメモリアルチャペルに葬られているとのこと。
戴冠式当日は雨模様でしたが、故エリザベス女王と故ジョージ6世の戴冠式の際も雨が降っていたとのことで、英国の伝統といえば伝統であるのかもしれません。
チャールズ国王は今回の戴冠式で始めて、世界中の英国および英連邦の市民に、新君主とその後継者に対する忠誠の誓いを唱える機会を与えることを望んだようですが、事前にこれが伝えられた結果、世論の批判が入ったようで、結果的には忠誠の誓いを完璧に行うのではなく、「神よチャールズ国王を救いたまえ。」と唱えるだけにしたようです。
新たな国王が長く続く王室の伝統をどのように継続、そして改革していくのかを見守りたいと思います。