ニュースレター(2025年7月25日)金が3週ぶりに反落、銀は2011年以来の高値を更新
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャートの貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較すると、下記のようになります。
金価格(ドル建て)は3週ぶりの下落でLBMAの金曜日価格で3週ぶりの低さ、銀価格は4週連続の上昇で、2011年9月以来の高値を更新。プラチナは週間の下落で前週の2014年9月以来の高値から下落。パラジウムも4週ぶりの週間の下落で、前週の2023年8月以来の高値から反落。プラチナとパラジウム共に、前週の大幅な上昇分(プラチナ7.7%、パラジウム10.3%)の一部を削る形となりました。
貴金属市場の動向(週間)
今週の貴金属市場は、銀を除く全ての貴金属で週間ベースの下落となりました。これは、金は過去3週にわたって上昇、プラチナとパラジウムは前週に急騰していたことの反動も影響しています。
金価格の下落には以下の要因が影響しています。
- トランプ大統領の関税政策について、主要貿易相手国との合意が近いとの観測が浮上することで懸念が後退。
- トランプ政権によるパウエルFRB議長への批判が継続しているものの、「解任はない」との見方が広がり、FRBの独立性への不安がやや後退。
- リスク資産である株式市場が上昇。S&P500種指数は4営業日連続で史上最高値を更新。
これらにより、安全資産としての金需要がやや後退しました。
ただし、貴金属価格は年初来では依然として株価を上回る上昇率を維持しており、以下では本日ロンドン時間午後3時過ぎ時点までの、S&P500(青)、金(黄色)、銀(水色)、プラチナ(オレンジ)、パラジウム(紫)の価格推移チャートを掲載しています。
今週の貴金属相場の動き(日次)
月曜日
金相場は、前週までのプラチナ現物市場の逼迫を背景に、プラチナ価格が主導して上昇した流れを引き継ぎ、ドル安も後押しとなって、主要通貨建てで約1カ月ぶりの高値を記録しました。日本円建てでは過去最高値を更新しました。
ドル安の背景には、8月1日に迫るトランプ大統領の関税交渉期限への懸念、またFRB内での利下げをめぐる意見の分裂が挙げられます。
こうした状況を受け、ロンドン時間内取引では以下のような価格が記録されました:
- ドル建て:トロイオンスあたり3402ドル(5週ぶりの高値)
- ポンド建て:2520ポンド
- ユーロ建て:2910ユーロ(いずれも4週ぶりの高値)
- 日本円建て:グラムあたり16,120円(史上最高値)
なお、円相場は、前日の参議院選挙で自民党が惨敗したにもかかわらず、石破首相が続投を表明したことで、政権の継続性が意識され、やや円高に振れる展開となりました。
火曜日
金相場はドル安と米長期金利の低下を背景に、一時トロイオンスあたり3433ドルまで上昇し、心理的節目である3400ドルを突破しました。
背景には以下の要因がありました:
- 8月1日の関税交渉デッドラインを巡る不透明感
- トランプ政権によるパウエルFRB議長への批判の継続
- 来年5月のFRB議長交代への思惑(ハト派寄りになるとの観測)
これらを受けて、安全資産としての金需要が強まりました。銀も同様に堅調で、トロイオンスあたり39.19ドルと、2011年8月以来の高値を記録。39ドルの節目を超えたことで、さらなる上昇への期待も高まっていました。
水曜日
金相場は前日の上昇を失い、3395ドル前後で推移したのち、3390ドルで終了しました。これは、米国と日本、また米国とEUとの関税合意が近いとの報道を受けて株式市場が上昇し、リスクオンの流れが強まったことが背景にあります。
『ファイナンシャル・タイムズ』はロンドン時間夕方に、米国がEUとの関税率を「15%にする方向で詰めの交渉に入った」と報じ、S&P500種指数とダウ平均はいずれも最高値を更新しました。
一方、日本円建ての金価格は、早朝に「石破首相が8月末をめどに退陣する」との報道で円安が進行し、グラムあたり16,202円の史上最高値を記録。その後、石破首相が辞任を否定したことで円が反発し、金価格も下落するなど、神経質な値動きとなりました。
木曜日
金相場は、良好な米経済指標を受けてFRBによる利下げ観測が後退し、ドル高も相まって一時トロイオンスあたり3351ドルまで下落。その後は3369ドルまで回復し、ロンドン時間を終えました。
同日発表の新規失業保険申請件数は6週連続で減少し、これは2022年以来最長の連続減少となりました。これを受けて、年内の利下げ見通しは「2回」から「1回」へと修正されつつあります。
そのような中でも、銀価格は比較的高値を維持。現在はトロイオンスあたり39ドル付近で推移しており、金銀比価は年初来で最も低い86台まで下落、銀の割安感はやや緩和されました。
金曜日(本日)
本日の金相場は前日の下げ基調を引き継ぎ、ロンドン時間昼過ぎにトロイオンスあたり1336ドルまで下落して推移しています。
背景には以下の要因が挙げられます:
- トランプ大統領が「8月1日までにほとんどの合意が成立する」と発言したことにより、米国の関税交渉が順調に進んでいるとの見方が広がり、株高・ドル高を招いた
- トランプ政権がパウエルFRB議長を批判していたにもかかわらず、「解任の必要はない」と大統領が述べたことで、FRBの独立性をめぐる懸念がやや後退
その他の市場のニュ―ス
- コメックス(COMEX)の貴金属先物・オプションにおける資金運用業者のポジションは、7月15日までの週に発表されたデータで、米消費者物価指数が予想を上回ったことによる利下げ観測の後退を背景に、プラチナを除くすべての貴金属でネットロングが減少しました。
- コメックス金の先物・オプションにおける資金運用業者のネットロングポジションは6.5%増加し、446.82トンとなり、4月1日までの週以来の高水準でした。価格は前週比0.9%高のトロイオンスあたり3345.10ドルで、6月17日までの週以来の高値。建玉は1.9%減少し、6月24日までの週以来の低水準へ。
- 銀のネットロングポジションは0.7%増の6831トンで、3週ぶりの増加。7月1日までの週以来の水準へ戻りました。価格は前週比4.0%高の38.26ドルで、2011年9月以来の高値。建玉も8.0%増加し、2週ぶりの高さとなりました。
- プラチナのネットポジションは、5月20日からネットロングへ転じており、7月中旬のデータでは4.9%減の22.13トンと、6月6日までの週以来の低さ。価格は前週比1.2%高で1389ドルと、2014年9月9日以来の高値。建玉は2週連続で増加し、2006年6月の記録開始以来の最高だった6月24日までの週以来の水準へ。
- パラジウムは2022年10月半ばからネットショートが継続。先週火曜日までに8.4%減で8.39トンとなり、2週ぶりに減少して、2024年5月11日までの週以来の低さ。価格は前週比9.3%高の1219ドルで、2023年9月19日の週以来の高値。建玉は2週ぶりに減少し、4月8日の週以来の高さから反落。
- 最大の金ETFであるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週木曜日までに13.5トン(1.4%)増の957.09トンと、4月16日以来の高水準。3週ぶりに週間ベースで増加。
- 第2の規模の金ETF、iShares Gold Trustの残高は2.64トン(0.6%)増の449.60トンで、2023年6月以来の高水準。8週連続の週間増加。
- 銀ETFの最大銘柄、iShares Silver Trustの残高は549.61トン(3.8%)増の15,207.82トンと、2022年7月26日以来の高水準。2週ぶりの増加。
- 金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週87台半ばで始まり、昨日には年初来の低さとなる86台前半まで下落。本日は86台半ばへ若干戻して終了する見込み。2024年平均は84.75、2023年は83.27、5年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。
- 金価格との差であるプラチナディスカウントは、今週1912ドルで始まり、水曜日には1982ドルまで拡大。その後は本日1956ドルへとやや縮小。2024年平均は1431ドル、2023年は975ドル、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの価格差は、2月6日以降パラジウムがプラチナを上回る「プレミアム」が継続。今週は176ドルのプレミアムで始まり、昨日には119ドルまで縮小。本日は178ドルへやや反発。2024年平均は28ドルのディスカウント。2023年は371ドル、2022年は戦争影響で1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)とロンドン価格の差は、今週ディスカウントに転じ、週平均は1.33ドル。これは2月初旬以来のディスカウント幅で、前週の7.42ドルのプレミアムから大きく転換。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景にあります。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週の貴金属相場は、8月1日の関税交渉期限を控え、トランプ政権の動向に注目が集まりました。木曜日の欧州中央銀行(ECB)の政策金利発表は想定通りの内容で、市場への影響は限定的でした。
来週は米国と日本の政策金利発表、米雇用関連データとインフレ指標の発表と、重要イベントが目白押しです。主な予定は以下の通りです:
- 水曜日:米JOLTS求人件数・FOMC後の米政策金利発表
- 水曜日:ADP雇用統計
- 木曜日:日銀の政策金利発表
- 金曜日:米非農業部門雇用者数、PCEコアデフレーター(FRBが重視するインフレ指標)
詳細は、主要経済指標(2025年7月28日~8月1日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年7月21日~25日)今週のの結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年7月28日~8月1日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2025年7月21日)金価格が1カ月ぶりの高値、トランプ氏とFRBウォラー理事が「利下げを」発言
- 中国の金地金および金貨への投資が金の宝飾品需要を圧倒
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。
ロンドン便り
今週の英国では、ガザ地区の「集団飢餓」に関する報道、トランプ政権と日本の関税交渉、英国とインドの自由貿易協定、河川の水質汚染対応としての水道規制の一元化などが大きく伝えられています。
また、スポーツではUEFA欧州女子選手権でイングランド代表が決勝に進出したことも報じられています。
そのような中、日本の新国立劇場バレエ団が初めてロンドン公演を行い、在英日本人社会でも話題となりました。昨日、私もロイヤル・オペラ・ハウスでの初日公演に足を運びましたので、その様子も含めてお伝えします。
ロイヤル・オペラ・ハウスは、世界的に著名なロイヤル・バレエ団の拠点です。夏季は同バレエ団が国外遠征に出るため、ウクライナ戦争以前は、ロシアの世界でもバレエ団として最高峰のボリショイ・バレエ団やマリンスキー・バレエ団などが招聘されていました。
日本のバレエ団がここで公演を行うのは今回が初めてで、新国立劇場が海外で主催公演を行うのも初となります。
今回の演目は古典バレエの名作『ジゼル』。公演は昨夜の初日を皮切りに、7月27日(日)までの4日間で全5回(うちマチネあり)実施されます。
芸術監督の吉田都氏は、かつてロイヤル・バレエ団で15年間プリンシパルを務め、その芸術性と技術力は世界的にも高く評価されています。今回の公演にも、英国の吉田氏のファンが大勢詰めかけ、全5公演はほぼ即座に完売。昨夜も満席での上演となりました。
本日発表されたレビューでは、The Standard紙が4つ星評価を与え、「米沢唯が主演として輝きを放ち、吉田都が愛情を込めて創り上げた公演は圧倒的な出来栄え」と絶賛。
The Independent紙も同じく4つ星で、「日本国立バレエ団が、ロマンティック・バレエ『ジゼル』の軽やかで洗練された解釈を英国初披露。吉田都の演出は、184年の歴史を持つ作品に新たな命を吹き込んだ」と高評価を与えました。
公演後、吉田氏も舞台に登場し、観客からの温かい拍手に包まれました。引退から15年が経っても、彼女の芸術性は今もロンドンのバレエファンの心に深く息づいています。次世代を導く芸術監督としての姿に、多くの人々が感動を新たにした夜となりました。