ニュースレター(2023年11月24日)感謝祭の薄商いの中、金価格は2000ドルを試す
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり2001ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から1.03%高で2週連続の週間の上昇で3週ぶりの高さへ上昇しいます。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から1.19%安のトロイオンスあたり23.710ドルと週間の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から1.88%高のトロイオンスあたり918ドルと2週連続で週間の上昇となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は0.91%高のトロイオンスあたり1049ドルと2週連続の週間の上昇となっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、銀はLBMA価格では週間の下げであるものの、終値ベースでは週間の上昇と、全ての貴金属がドル建てベースで2週連続の週間の上昇を記録する傾向、そして金においては今週3度超えることを試みている心理的節目の2000ドルをめぐる攻防となっていました。
この背景は、前週の米インフレ指標でインフレ鈍化が確認されたことで、FRBによる利上げ終了観測からもドルインデックスとが9月以来の低い水準を維持し、長期金利は今週多少上昇しているものの、未だ4.5%を割って、一時の5%からは下げていることから上昇基調となっているようです。
そのような中、米株価指数のS&P500種は4週連続の上昇を記録する傾向など、主要国株価指数は全般上昇しており、リスクオンとも言える中での金の堅調さは見られています。
そこで、本日はドル建て金価格とS&P500種のチャートを下記に添付します。直近では金とS&P500種の相関関係は負(一方が上昇すると他方が下げる)の関係ですが、-0.19(-1が 最も強い負の関係)とかなり弱いものとなっています。
負の相関関係が強まったのは、2020年のコロナ危機や2022年のロシアのウクライナ侵攻時等の危機時で経済への懸念が高まった際ですが、2023年は全般正の相関関係で、これは金とS&P500種を動かす主要因が共にFRBの政策金利観測であることが背景のようです。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金価格はドルインデックスが2か月ぶりの低値をつける中で、前週の2%を超える一月ぶりの上げ幅からも、多少その上げ幅を削ってトロイオンスあたり1986ドルで終えていました。
同日は今月初旬に米30年物国債の入札が不調に終わったことからも、20年債の入札に注目がいっていましたが、堅調なものとなり、長期金利が下げたことで金を押し上げていました。
火曜日金相場は、ロンドン時間昼過ぎに一時2007ドルへと上昇後、1997ドルへ上げ幅を削って終えていました。
先の動きは、同日午後に発表された米中古住宅番外件数が予想を下回り、ドルと長期金利が下げたことで上昇したものの、その後FOMCの議事録発表を待つ中でドルが多少戻し、利益確定の売却も入り上げ幅を削ることとなりました。
同日のFOMCの議事録要旨は、「インフレ低下の進展が不十分であった場合にのみ金利を引き上げる」というもので、予想以上のタカ派的内容ではなかったことで、市場への影響は限定的となっていました。
水曜日金相場は、ドルと長期金利が若干上昇する中で、心理的節目のトロイオンスあたり2000ドルを維持できず1992ドルへと下げて終えていました。
同日発表された米新規失業保険申請件数は20.9万件と予想の22.9万件を下回り労働市場逼迫による賃金インフレ懸念で、ドルと長期金利を押し上げることとなりました。また、翌日米国は感謝祭の祝日で金曜日を休暇としてロングウィークエンドとする市場参加者も多く、ポジション整理も起きていたようです。
木曜日金相場は、米国が感謝祭の祝日である中、ロンドン時間午前中に多少上昇した後、前日終値のトロイオンスあたり1993ドルへ戻して終えていました。
同日は米国関連指標の発表がない中、英国とユーロ圏の製造業とサービス部門のPMIが発表され、引き続き経済が縮小していることを示唆していたものの予想を上回っていたことで、欧州経済への悲観的な見方が多少和らぎ、ユーロが対ドル強含んだことでドルが相対的に下げたことが金を押し上げていた模様です。
しかし、米国が本日祝日で明日も多くの市場関係者は休暇を取っていることからも、薄商いで狭レンジの取引となっていました。
本日金曜日は市場は再開しているものの、時間が短借されていることもあり、休暇を取る市場関係者も多く薄商いの中、金相場は一時トロイオンスあたり2000ドルを超えたものの、押し下げられて1998ドル前後を推移しています。
本日長期金利は前日ドイツが来週の補正予算で債務ブレーキ一時停止を含む観測が広がり、国債市場の需給バランスが崩れる懸念でドイツの長期国債の利回りが上昇したことを受けて、米長期金利も上昇する中で、ドルインデックスは下げており、金相場は心理的節目の2000ドルを一時超えた後に1997ドルへと戻して推移しています。
ドルインデックスの下げは、FRBの利上げが終了したという観測が背景とされていますが、本日発表の米製造業PMIは予想を下回り経済縮小を示唆する中で、サービス部門PMIは予想を上回り経済拡大も示唆しており、まちまちなものとなっています。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週金曜日に最新データの11月14日分が発表され、予想を下回る米消費者物価指数が発表された後にもかかわらず、銀を除く全ての貴金属で弱気ポジションが増加していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは5週連続でネットロングであったものの12%減の288トンと2週連続で減少していたこと。この間建玉は0.34%増と若干2週ぶりに増加し、価格は前週比0.43%高でトロイオンスあたり1969.05ドルと上昇していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、5週連続でネットロングで330%増の1490トンと9月5日以来の高さへ増加していたこと。価格は0.84%安でトロイオンスあたり22.35ドルと4週ぶりの低さ。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、2週連続でネットショートで25.9トンへ増加していたこと。価格は前週比2.45%安でトロイオンスあたり877ドルと2週れ族で下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートで、4%増の33.95トンと2週連続で増加し、3週前の2006年に取引が開始されて以来の高さ以来の高さへ増加していたこと。価格は前週比6.54%安でトロイオンスあたり1000ドルと、2018年9月半ば以来の低さへと下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で1.1トン(0.13%)減で882.28トンと3 週ぶりの週間の減少の傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で1.01トン(0.25%)減で397.06トンと2020年4月初旬以来の低い水準で、18週連続の週間の減少傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で126.80トン(0.93%)増で、13,722.27トンで、10月初旬以来の高さで週間の増加傾向。
- 金銀比価は、今週84台半ばで始まり、週半ばで83台へ下げたものの、84台前半へと上げて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1073ドルで始まり、若干週半ば下げたものの、本日1075ドルへ上げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは157ドルで始まり、本日131ドルと前週と前々週に続く2018年8月中ば以来の低い水準。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週平均は34ドルと8月初旬以来の低さで前週の54ドルから下げていたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は32%増で10月20日の週以来の高さ、銀は8%減、プラチナは8%増、パラジウムは97%増で少なくともブリオンボールトで記録を始めた2021年12月以来の高さ。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は今週も正の相関関係ではあるものの0.074へと下げていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は11月21日から負の相関関係へ転換して-0.23、S&P500種と金の相関関係は引き続き負の相関関係であるものの、-0.19と弱まっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は米国が木曜日感謝祭の祝日であることから、週前半に重要指標が発表されて、FOMC議事録が注目されていましたが、来週も主要中央銀行の金融政策に影響を与える指標と中銀高官のコメント等が引き続き重要となります。
特に木曜日発表の米個人消費支PCEコア・デフレーターは、FRBがインフレ指標として注目しているために重要となります。その他水曜日の米第3四半期GDP、木曜日のユーロ圏の消費者物価指数、米新規失業保険申請件数、金曜日の主要国の製造業のPMI等へも注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2023年11月27日~12月1日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年11月20日~24日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年11月27日~12月1日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年11月20日)SPDRゴールドシェアが増加しコメックスのロングが減少する中で金と銀価格は下げる
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では本日行われたハマスによる人質解放を含むハマスとイスラエルの紛争関連ニュースが引き続きトップニュースですが、水曜日に行われた英国政府の秋季経済計画、昨夜のアイルランドの首都ダブリンでの暴動等が大きく伝えられています。
そこで、本日は英国政府の秋季財政報告について簡単にお伝えしましょう。
スナク政権は来年の総選挙を前に野党労働党に支持率で20ポイントほど下回り、次回選挙で政権を維持するのがかなり難しい状況となっています。
そこで、当然あらゆる機会で支持率を高めるインパクトのあるものを出していく必要があり、今回は主要なポイントとして下記を発表しています。
- 2023年のスナク首相の年頭演説の5つの優先事項のうち、インフレ率は半減(11.1%から4.6%)、経済成長(2023年に0.6%、2024年に0.7%)、政府債務削減(2023年予想から低下)という3つにおいて達成。
- 家計支援策として、低所得者向け社会保障給付(ユニバーサル・クレジット)の支給額と国家年金の支給額を、2024年4月からそれぞれ6.7%、8.5%増額。酒税は2024年8月1日まで凍結。
- 国民保険料の従業員負担分を2024年1月6日から12%から10%へ削減。個人時業種向けの国民保険料制度においても2024年4月6日より削減。
- 国家最低賃金を11.44ポンド(2128円)へ10.42ポンド(1938円)から引き上げのほか、現在23歳以上としている対象年齢を21歳以上に引き下げる。
- 成長に向けた取り組みとして今後2年間で5000万ポンド(約93.5億円)を拠出し、エンジニアリングや成長セクターの職業実習制度拡充。
- 3月の予算発表で盛り込んだ、工場設備や機械などへの投資額の全額費用化(税優遇)について、2026年3月までとしていた期間を撤廃し、恒久化。
ハント財務相は、就任以来高インフレを抑え込み、財政正常化をするためにも減税の時期ではないと述べていました。それが、今回国民保険料を下げるという実質減税を行ったのは、多くのメディアは来年の総選挙を睨んでの動きと解説しています。
それでは、これは支持率を上げるに十分な内容であったのでしょうか。これについても多く経済専門家は、現在政権による税率は英国の歴史的にも高いものであり、本来小さい政府、低い税率を目指す保守党を支持する人々にとって、今回の発表が十分であるかは疑問が残るというものが多いようです。
一人のアナリストのコメントが先の状況をよく表していると思いますので、ご紹介しましょう。
「国民保険料の引き下げは歓迎すべきことだが、所得税の全体的な基準額凍結という観点では、車を盗んだ犯人が窓を開けて財布を投げ返すのを見るようなものだろう。」
全ての人々を満足させる経済案を出すことはほぼ不可能なことでしょう。しかし、保守党が本来の党の原点に戻って低い税率で、ビジネスや人々が得た収入を最大限自由に使え、成長へと向かうことができる環境をぜひ作ってもらいたいものです。