金市場ニュース

ニュースレター(2023年10月6日)金価格は良好な米雇用データと米中銀高官のタカ派的発言で2週連続の下げへ

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1822ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から2.62%安と2週連続の2%を超える下げで、今年3月初旬の米地域銀行破綻以前以来の低さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から8.56%安のトロイオンスあたり21.10ドルと2週連続の週間の下げで3月初旬以来の低さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から6.91%安のトロイオンスあたり859ドルと2週連続の週間の下げで2022年9月以来の低さとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は10.69%安のトロイオンスあたり1151ドルと2018年11月以来の低さとなっています。

金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は前週に続き、米中銀高官のタカ派的コメントと、雇用関連の強さが見られたデータからも、FRBによる長期の高い水準の金利が続く観測で大きく下げることとなりました。

まずFRB高官の発言では、前週金曜日にウィリアムズNY連銀総裁は「(金利はピークに近づいているが)制約的水準の金利を継続すべき」と述べ、月曜日にはFOMC投票権を持つミシェル・ボウマン理事「(高インフレを抑え込むために)さらなる数回の利上げが必要」、また投票権を今年持たないメスタークリーブランド連銀総裁は「インフレが高すぎるために利下げの時期ではない」とし、やはり投票権を持たないバーキン・リッチモンド連銀総裁も「(金利を)高い水準を長期で維持すべき」と述べていました。

そして、火曜日の雇用動態調査(JOLTS)求人件数が予想を上回ったことで、売りが売りを呼びトロイオンスあたり25ドルほど大きく下げることとなりました。その後米ADP全国雇用者数は予想を下回り、本日の米雇用統計の非農業部門雇用者数は予想を大きく上回りましたが、金価格はほぼ火曜日の終値の水準前後を推移しています。

そこで、今週末発表されるコメックスの貴金属の資金運用業者の今週火曜日までのポジションでロングが大きく減少していることが予想されていますが、前週火曜日までのポジションのチャートを本日は添付します。

コメックスの金先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジション 出典元 CFTC、LBMAデータからブリオンボールトが作成

前週金先物・オプションのロング(将来価格が上昇すると予想)ポジションは、前週からほぼ半減して、今回同様に堅調な米経済指標とFRB高官のタカ派的コメントで長期金利とドルが急騰していた8月半ば以来の5週ぶりの低さの110トンへと下げていました。

今週の金相場の動きと背景について

週明け月曜日長期金利が2007年後半以来の高さへと再び上昇する中で、ドル建て金価格は3月初旬以来の低さのトロイオンスあたり1825ドルまで押し下げられて終えていました。

米政府機関閉鎖の閉鎖は回避されたものの、それによって11月の利上げ観測が広がっており、ドルも上昇することで、株や他の投資商品とともに金は大きく押し下げられていました。

また、同日はFRB高官のタカ派的コメントが相次いでいたことも、金を下げる要因となっていました。

火曜日金相場は、長期金利とドルが強含む中で、一時トロイオンスあたり1815ドルと3月8日以来の低さへ下げた後に1823ドルと前日終値を若干下回って終えていました。

同日は英国時間午後に発表された米雇用動態調査(Jolts)求人件数が、予想の880万件と前回の882.7万件を上回る961万件がサプライズで、長期金利とドルがそれぞれ2007年8月と昨年11月以来の高さへ上昇し、金が押し下げられていました。

水曜日金相場は、米経済指標が悪化していたことで、ドルと長期金利が多少下げたことで、トロイオンスあたり1830ドルまで一時上昇したものの、1822ドル前後まで再び下げて終えていました。

同日発表された経済指標は、米ADP雇用統計で8.9万人と前回修正値の18万人と予想の15.3万人を下回り、2021年初頭以来の低さとなっていました。

そこで、FEDWatchツールの11月の金利引き上げ予想は前日から10ベーシスポイント下げて18.5%となり、ドルと長期金利が下げていました。しかし、長期の高い水準の金利維持は変わらないことからも、金の頭は重くなっていました。

木曜日金相場は翌日の米雇用統計を待つ中で、引き続きドルと米長期金利の動きに反応して動き、トロイオンスあたり1821ドルで終えていました。

同日午前中はドルと長期金利が多少下げたことで、一時1829ドルをつけたものの、その後発表された米新規失業保険申請件数が20.7万件と前回修正値の20.5万件は上回ったものの予想の21万件を下回り、堅調な雇用市場と受け止められて、ドルと長期金利が上昇したことに反応して1813ドルまで一時下げていました。

本日金曜日金相場は、米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数は33.6万人と予想の17万人と前回修正値の22.7万人を大きく上回りました。 失業率は3.8%と前回と同水準、予想の3.7%を上回り、平均時給は前月比は0.2%で前回と同水準、予想の0.3%を下回り、前年同月比は4.2%と前回と予想の4.3%を下回っていました。

そこで、発表を受けてドルと長期金利がそれぞれ昨年の11月と2007年7月以来の高さへ一時上昇し、金相場もトロイオンスあたり1814ドルまで下げていました。

ちなみに、このデータ発表後にCMEのFEDWatchツールでは次回11月のFOMCの利上げ確率が10ベーシスポイント上昇して30%を超えていることからも、利上げ予想が広がってはいるようです。

しかし、来週月曜日が米国のコロンブス・デーの祝日であることからも、ポジションの調整もあるためか、ロンドン時間夕方にドルが下げに転換したことで、下げ幅を取り戻して1833ドルまで上昇して推移しています。

ドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 今週水曜日にロシアの非政府系通信社のインテルファクスが、ロシア財務省が1日あたり181.2億ルーブル(1.8億ドル)を10月6日から11月7日まで外貨と金の購入に充てると発表していたこと。
  • ワールドゴールドカウンシルによると、世界の中央銀行は8月も金準備を増加させ、77トンと前月の38%増で、6月からの3か月で219トン購入していたとのこと。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの9月26日分が発表され、FRB高官の発言や主要経済データで長期の高い金利観測が広がる中で、ドルが昨年11月来、長期金利が2007年10月来の高さへ上昇し、価格が下げる中で、金とプラチナは強気ポジションを減少させ、銀とパラジウムは増加させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から47%減で111トンと減少していたこと。この間建玉は3.8%減で、価格は前週比1.44%安でトロイオンスあたり1907.05ドルと8月半ば以来の低さへ下げていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、6週連続でネットロングで、148%増の909トンと増加していたこと。価格は2.66%安でトロイオンスあたり23.02ドルと前週の8月初旬以来の高さから下げていたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、ネットショートに再び転換して2.68トン。価格は前週比4.43%安でトロイオンスあたり906ドルと下げていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートであったものの、0.9%減の29.11トンと3週連続で減少していたこと。価格は前週比4.64%安でトロイオンスあたり1213ドルへ下落していたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で6.1トン(0.7%)減で867.58トンと2019年8月以来の低い水準で、5週連続で週間の減少の傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で1.62トン(0.39%)減で410.34トンと、2020年4月半ば以来の低さへ下げて、11週連続の週間の減少傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で287.53トン(2.09%)増で14,031.64トンで8月21日以来の高さで、週間の増加傾向。
  • 金銀比価は、今週84後半で始まり本日86後半へ上昇して終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、925ドルで始まり、本日961と9月末の高さへ上げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは336ドルで始まり、本日290ドルと9月初め以来の低さへ下げて終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
  • 上海黄金交易所(SGE)は今週末までの中国のゴールデンウィークで休場中。ちなみに前週は、木曜日に輸入許可が出たことでプレミアムは42ドルまで下げ、前週平均ではプレミアムは83ドルまで上昇していたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は17%減、銀は11%増で8月末以来の高さ、プラチナは28%減で、パラジウムは40%増で8月末以来の高さ。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は今週-0.882へと8月末以来の強さへ上げていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は8月24日以来負の相関関係で-0.81と強め、S&P500種と金の相関関係は正で、7営業日連続で強めて0.71となっていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は火曜日の米雇用動態調査(JOLTS)求人件数が予想を上回り、本日金曜日米雇用統計も非農業部門雇用者数が予想を上回り、市場はFRBの長期の高い金利観測を広げていますが、来週も主要中央銀行の金融政策に影響を与える経済指標に市場は注目することとなります。

最も重要とみられているのは木曜日の米消費者物価指数で、前日の米卸売物価指数、そして金曜日のミシガン大学消費者態度指数のインフレ期待度等も注目されることとなります。

詳細は主要経済指標(2023年10月9日~13日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

ブリオンボールトが毎月の顧客の金と銀の取引データを元に個人投資家の投資傾向を指数化している金投資家インデックスを解説している弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが時事通信社の購読者のみ閲覧できるコモディティーニュースの記事「〔NY金分析情報〕下値もみ合い=短期的な売られ過ぎ感台頭」で取り上げられました。

ここで、9月の弊社顧客の金購入が4年ぶりの低さになったことを紹介し、「金利上昇が金保有者の利益確定売りを誘うとともに、新たな需要を抑止している。金利が低下するか、金融市場で何かが起こり、再び『保険』として金への関心が高まるまで、この状況は続くと思われる。」を引用しています。

9月金投資家インデックスを解説している記事は【金投資家インデックス】金購入が4年ぶりの低さへでご覧いただけます。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、週末の米国と欧州対抗ゴルフトーナメントのライダーカップで欧州が勝ったこと、与党保守党の党大会でスナク首相が高速鉄道計画を縮小を発表したこと、そして昨日行われたスコットランドの補欠選挙でスコットランド独立党を破り、労働党が大きく躍進したこと等が伝えられています。

本日は、与党保守党のスナク党首が来年実施が見込まれる総選挙を前に、今回の党大会で彼が示した新たな政策の内容について簡単にまとめてみましょう。

1. 英イングランドの大都市を結ぶ次世代高速鉄道計画「ハイスピード2(HS2)」の建設が始まっていない区間の建設中止

建設コストが2倍に膨れ上がったことが理由。これによって浮いた360億ポンド(436億6000万ドル)を別の交通網の整備に充当すると約束。同計画には既に23億ポンドが投じられているとのこと。

2. 大学入学前の試験を受ける18歳まで英語と数学が必須科目

3. 喫煙が合法的に認められる年齢を段階的に引き上げる計画を打ち出す

現時点で14歳の場合合法的にタバコを購入できなくなり、次世代の若者にたばこの購入を禁じる措置。

4. トランスジェンダーのアイデンティティについて

女性ではないトランスジェンダーが女性として病院の病棟に入ることができない等、本来女性や男性として生まれた人々とトランスジェンダーの区別を明確にすること

前月半ばの与党保守党の支持率はリサーチ会社のYouGovでは、スナク首相が政権を握ってから多少上昇してはいるようですが27%と、野党労働党の43%を大きく下回っています。

コロナ禍のパーティー問題等の自身のモラルの低さ等が明らかとなり辞任せざるを得なかったジョンソン元首相、そして予算なき大幅減税を掲げて英国の株、債券、通貨危機を起こして史上最短の首相就任期間で辞任したトラス前首相後に、安定政権を作ることを第一の目標としていたスナク首相ですが、今回の党大会演説が、次回総選挙に向けて有権者のより多くの支持を得られるものなのとなるのか...、興味深いものです。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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