ニュースレター(2023年5月26日)FRB利上げ継続観測の広がりで金は銀行不安以前の水準へ下げる
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1948ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.7%安と2週連続の下落となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から2.2%安のトロイオンスあたり23.15ドルと3週連続の週間の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から3.9%安のトロイオンスあたり1029ドルと2週連続の下落となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は4.9%安のトロイオンスあたり1518ドルと2週連続の下げとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、米債務上限協議が合意に至らない中でも、FRB高官のタカ派的コメント、経済の堅調さと高インフレが根強いことを示す指標で、FRBが近い将来に利上げを停止し、年末までに利下げが行われるという観測が一気に後退し、年内のさらなる利上げ観測が広がることで、大きく下げることとなりました。
そこで、今週のチャートはCMEのFEDWatchツールのデータを元に、年末の金利予想の変化を金価格の動きとともに表したものをお届けしましょう。
ここで、3月初旬のシリコンバレーバンク破綻以降の銀行不安でFRB政策金利の年末の水準が大きく下げ、金価格が上昇していることが確認でき、その後年末の金利が直近で上昇するとともに、金が下げていることを見ることができます。
金利を産まない貴金属にとって、金利上昇はネガティブな要因となります。
今週の金相場の動きと背景について
週明け月曜日も、金市場は米債務上限関連の進展を見守る中で、前週のパウエルFRB議長や他のFRB高官の利上げ、もしくは利上げ停止関連コメントを消化する中で、金曜日の上げ幅をほぼ半分ほど失って、トロイオンスあたり1970ドルを若干割る水準で終えていました。
同日はタカ派で有名な今年FOMCの投票券を持つミネアポリス連銀のカシュカリ総裁が、6月の利上げ一時停止は5分5分と述べて、金曜日のパウエル議長の利上げ一時停止を示唆するコメントの上げ幅を削る形となっていました。
火曜日金相場はロンドン時間午後に長期金利が3月の銀行懸念前の水準を維持しながらも若干下げていることで、トロイオンスあたり1975ドルへと前日の下げ幅を削っていました。
この背景は、米債務上限関連の協議は行われていたものの、デッドラインの6月1日が近づきながらも合意に至っていないこと、また同日発表された経済指標の米国を含む主要国の製造業のPMIが予想を下回る弱いもので、米リッチモンド連銀製造業は-15と前回の-10と予想の-8も下回っていることで、リスクオフで株価が下げ、国債が買われて長期金利が下げてたことが、金を押し上げていました。
この間、FRB高官のコメントは多く発せられており、投票券をもたないもののブラード・セントルイス連銀総裁の「年内に2回以上の利上げが必要」が伝えられていますが、投票券を持つディリー・サンフランシスコ連銀総裁とボスティックアトランタ連銀は、一旦利上げを停止するべきともコメントしていたことも、金のサポートとなっていました。
水曜日金相場は、ロンドン時間夕方のFOMC議事録の発表を待つ中で、前日の上昇分をほぼ失って、トロイオンスあたり1961ドルへと下げていました。
その後発表されたFOMCの議事録は、ハト派とタカ派的コメントがあったものの、同日の下げ基調を受け継いで、1959ドルで終えていました。
同日は、ロンドン時間午後に債務上限協議が再開されることが伝えられてドルと長期金利が上昇していました。
また、同日もFRB高官のコメントが多く発せられて、ウォラーFRB理事は6月か7月の利上げを支持し、対インフレのためにさらなる利上げは必要と述べたことが伝えられていました。
木曜日金相場は、ドルと長期金利が3月の銀行不安以前の水準へと上昇する中で、トロイオンスあたり1940ドルと3月下旬の水準へと下げていました。
同日発表された米第1四半期GDPは1.3%と予想と前回の1.1%を上回り、新規失業保険申請件数も予想を下回ったことからも、前日のFOMC議事録では意見が割れていた今後の利上げについて、次の2回のミーティングで少なくとも25ベーシスポイントの利上げが行われるという観測が広がっていたことが、ドルと長期金利を上げて金を押し下げていました。
また、トロイオンスあたり1950ドルは直近のサポートラインであったことからも、これを割ったことでさらなる売りが出ることとなりました。
本日金曜日金相場は、ロンドン午前中は前日の調整からもトロイオンスあたり1957ドルまで一時上げたものの、その後発表された経済指標が根強い高インフレと堅固な米経済を示唆したことで、FRBによるさらなる利上げ観測が広がってドルは高止まりし、長期金利は3月上旬の高い水準へ上昇していることで、上げ幅を失って1942ドルまで下げて推移しています。
本日発表された指標は、FRBがインフレデータとして注目する米個人消費支出(PCE)コア・デフレーターが、4.7%と前回と予想の4.6%を上回り、耐久財受注はマイナス1.0%予想が1.1%、ミシガン大学消費者態度指数も59.2と前回と予想の57.7を上回るなどと、経済の堅固さも示唆し、CMEのFEDWatchツールにおいては、前週までの6月の利下げ一時停止が8割を超える予想から本日は4割を割る水準へ下げて、25ベーシスポイントの利上げが前週の2割弱から6割と急増しています。
なお、米債務上限の協議は合意に至っていないものの、妥協案が浮上するなど協議進展期待が広がっており、米株価指数は前日のAI関連株のエヌピディアの急伸で引き上げられていたハイテク株は続伸しており、全般リスクオン基調であることも、金の頭を重くしている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- フィッチ・レーティングとムーディーズ格付会社が米国の最上位の「AAA」の格付けを、債務上限協議次第では下げる可能性があるとし、フィッチは先行き見通しには格下げの可能性が高い「ネガティブ」へ変更したことを発表。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの5月16日分が発表され、予想を上回る経済指標とタカ派的FRB高官のコメントで金価格がトロイオンスあたり2000ドルを割った際に、金と銀とプラチナは強気ポジションを減少させ、パラジウムは14週ぶりに弱気ポジションを減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から10%減で410トンと2週連続で減少していたこと。この間建玉は、3.1%減と2週ぶりに減少し、価格は前週比1.1%安でトロイオンスあたり2007.45ドルと下落していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは9週連続でネットロングで、前週比50.5%減の2091トンと1月17日の週以来の高さから急落し、価格はほぼ7%安でトロイオンスあたり23.79ドルと前週の3月初旬以来の高さから6週ぶりの低さへ下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、11.4%減で30.78トンと前週の3月10日の週以来の高さから3週ぶりの低さへ下げていたこと。価格は前週比1.38%安でトロイオンスあたり1070ドルと前週の2021年6月初旬以来の高さから4週ぶりの低さへ下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、0.58%減の3トンと14週ぶりに減少して12月末以来の大きさから多少ながら下げていたこと。価格は前週比3.12%安でトロイオンスあたり1521ドルと下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で1.5トン(0.2%)減で941.29トンと、4週ぶりの週間の減少の傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.12トン(0.03%)増で455.70トンと昨年11月3日以来の高さで、3週連続の週間の増加傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で7.13トン(0.05%)減で14,566トンと5月9日以来の低さへ下げて、2週連続の週間の減少の傾向。
- 金銀比価は、今週83台前半で始まり、昨日85まで上げて、本日84へ戻して終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、907ドルで始まり、火曜日に900を割ったものの、本日924ドルまで上げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、443で始まり、昨日376と5月初旬来の低さへ下げた後に本日412へ上昇して終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週人民元建て価格が4月末以来の低さへ下げる中で、週間の平均では8.61ドルと前週の6.29ドルから上昇して3月末以来の高さへ上昇。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は昨日までで、前週平均比金は5%増、銀は11%増、プラチナは19%増、パラジウムは155%増と昨年2月末にロシアがウクライナへ侵攻して以来の高さであったこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は米債務上限の協議関連のニュースとFRB高官の今後の米中央銀行の金融政策関連コメント及びそれに影響を与える経済指標データが市場を動かしていますが、来週もこの傾向は続くこととなります。
そこで、最大の注目イベントは6月1日がデットラインとされている米債務上限協議となりますが、経済指標では金曜日の米雇用統計が重要で、その他水曜日の米雇用動態調査求人件数、木曜日のADP全国雇用者数と新規失業保険申請件数等も注目されます。
詳細は、主要経済指標(2023年5月29日~6月2日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
私は、今月5月31日日本時間午後7時から(英国時間午前11時から)日本のコモディティ先物会社のサンワード貿易主催で、日本の貴金属ディーリングの第一人者の日本貴金属マーケット協会代表理事の池水雄一氏と「世界経済と金のこらから」のウェビナーを行います。
下記のリンクで無料で登録できますので、よろしければご登録してご参加ください。
また、本日のBBCのビジネスニュースで、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュが金相場と中央銀行の記録的な金購入について解説しています。
ここでエィドリアンは、この数年金相場が上昇している背景は、パンデミック、ウクライナ戦争、米地域銀行への不安などと、外的要因が他の市場への懸念があり、そのような中で歴史的な水準で世界の中銀が金を購入していることがサポートになっているとし、米国との関係が良好でないロシアや中国の国々での金購入が進んでいると説明しています。
英国にお住まいの方はこのリンクで13分20秒へ早送りしていただくとご覧いただけます。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年5月22日~26日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年5月29日~6月2日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーニュース(2023年5月22日)投機家が強気ポジションを減少させる中で、金相場はパウエルFRB議長のハト派的コメントの上げ幅を半減
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、生活費関連ニュースで、英国の消費者物価指数が二桁は避けたものの高止まりをしていること、定期的に上限が見直されるエネルギー価格も下げてはいるものの、一般的家庭の7月からの上限は年間で2074ポンド(約36万円)と、これまでの2500ポンド(約43万円)からは下げるものの、パンデミックとウクライナ戦争以前のほぼ2倍であることなどが伝えられています。
そのような中で、本日英国サイクリング協会が、トランスジェンダーの女性を大会の女性カテゴリーから禁止すると発表し、大きく伝えられていますのでご紹介しましょう。
これは、9ヶ月近く検討と協議の結果で、今後は女性のレースは出生時に性別が女性である人のみとなり、トランスジェンダーの女性は男性のカテゴリーに追加される別枠での参加となるとのこと。
この決定以前には、男性ホルモンが規制を満たせば、トランスジェンダーの女性もエリート女性のイベントに参加でき、英国にはエミリー・ブリッジス選手というトランスジェンダーで有名なサイクリング選手がいることからも、彼女のこの決定を非難するコメントとともにトップニュースで伝えられています。
ちなみに、トランスジェンダーの女性は、男性ホルモンを抑制する薬を服用した後でも、女性アスリートと比較して心肺機能や筋力に優れていることが、多くの研究によって示唆されているとのこと。
そこで3月には、英国の陸上協会も、トランスジェンダーの女性が、その大会やイベントの女性カテゴリーに出場することを禁止し、水泳、トライアスロン、ラグビーの両競技種目でも同様の動きが起きていました。
多様な生き方が認められる社会は必要と考えますが、明らかに生まれた性別によって運動機能に優位性を持っていることが科学的に証明されているのであれば、今回の結果は仕方がないことと個人的には思い、近年の行き過ぎた「Woke(人種的偏見と差別に対する警告)」の動きがよりバランスの取れたものとなることを希望しているところです。