ニュースレター(2023年11月10日)リスクオン基調の中、金価格はハマスとイスラエル紛争勃発以来の上げ幅を削る
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1942ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から2.6%安で3週ぶりの低さへ下げています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から0.7%安のトロイオンスあたり22.49ドルと4週ぶりの低さで週間の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から8.3%安のトロイオンスあたり853ドルと昨年9月後半以来の低さへ下げています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は13.3%安のトロイオンスあたり962ドルと2018年8月半ば以来の低さへと下げています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属市場は全般下げていますが、金と銀の下げとプラチナとパラジウムの下げは異なっていますので、それぞれ解説をします。
まず金は、10月7日のハマスによるイスラエルへのテロ攻撃以来最大で9.6%上昇をしていたことから、この紛争が硬直化する中でWar premiumと呼ばれる地政学リスクの上げ幅を削っている状況となります。特に、紛争ぼっ発後2週間のコメックスの金先物・オプションのポジションの(ショート巻き戻してロングを積み上げる)切り替えによる購入は史上2番目の規模となっていましたので、この調整が入っている模様です。
銀は工業用途が6割を占めて、経済の先行きなどに金よりも影響を受けますが、同時に通貨として使われていた歴史からも、安全資産としての需要もあり、金の動きにも影響を受けます。そこで、金同様に10月7日以来価格を9.7%ほど上昇させていましたが、将来の景気後退懸念などからもその上げ幅を金以上に削っている模様です。
プラチナとパラジウムは安全資産等の需要がなく、ほぼ経済の先行きに左右され、主要中央銀行の金融引き締めが長引くことによる景気後退、また中国経済の停滞懸念からも、今週それぞれ一年と5年を超える期間の最低値へと大きく価格を下げており、特にパラジウムに関しては先物・オプション市場の取引量が急増し、建玉も2020年来の高さに昨日上昇していることから投機的ショートが積もっている可能性があります。
今週は、10月7日のハマスとイスラエルの紛争の始まり以来のそれぞれの貴金属の価格の最高値と本日ロンドン夕方までの価格変化のチャートを下記に添付します。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、前週中東紛争勃発以来初めて週間の下げを見せた後にその基調を受け継ぎ、トロイオンスあたり1976ドルで終えていました。
これは、地政学リスクによる上昇基調への疲れともアナリストは分析していましたが、地政学リスクで急騰していた原油価格はほぼその上げ幅を失っていました。
また、イスラエルとハマスの紛争で地政学リスクが高まっていた10月と今月初旬に、通常金は実質金利と米ドルと負の相関関係であるものの正の相関関係に転換していたもの、その強さが弱まる等と、危機時の動から正常化しつつあること、リスク資産がFOMCと米雇用統計後に急騰して米株価指数は軒並み年初来の最大上げ幅を記録してリスクオン基調であることも、金の頭を押さえていた模様です。
火曜日日金相場は、ドルが2営業日連続で上昇する中で、トロイオンスあたり1956ドルと10月24日以来の低さへ一時下げた後に、1968ドルで終えていました。
これは、FOMCの投票権を持つハト派で知られているミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は前日に、米経済の底堅さを背景に米連邦準備理事会(FRB)はインフレを抑制するにはまだやることがあると述べたことが伝えられ、やはり投票権を持つシカゴ連銀のタカ派のグーズビー総裁もまたFRBは政策金利の判断を先走りしないと述べたことからも、前週のややハト派的FOMCと悪化していた米雇用統計以降下げていた反発が、ドルの上昇の背景であったようです。
水曜日金相場は、長期金利とドルの動きに反応しながら、トロイオンスあたり1947ドルと3週ぶりの低さまで一時下げた後に1952ドルで終えていました。
同日はFRB高官のコメントが多く行われ、パウエル議長はスピーチでは、金利や経済の見通しについてはコメントはなかったものの、木曜日の金融政策の課題に関するパネルディスカッションでは何らかのコメントが出ると予想されていました。
そこで、前週の若干ハト派的FOMCと予想を下回る米雇用統計で7週ぶりの低さを試したドルインデックスと6週ぶりに低さ水準である長期金利が戻し、金は10月7日のハマスのイスラエル攻撃以来の上げ幅を戻すこととなりました。
木曜日金相場は同日夜のパウエルFRB議長のIMFの討議でのコメントを待つ中で、トロイオンスあたり1965ドルまで上昇後して推移しています。
これは、ドルが3営業日連続の上昇もあり、また同日欧州中央銀行高官の「高インフレが十分な下落傾向になったとは思えない」というタカ派的発言でユーロが強含んだことで相対的に多少ながら下げていることへ反応していた模様ですが、金価格が今週昨日までで2%下げていることからも、自律的反発もあったようです。
その後のパウエル議長の発言は「FRB十分制限的スタンスを達成したとは確信していない」といったタカ派的コメントではあるものの、直近のFRB高官のコメントと同様なものとはなっていましたが、同日行われた米30年物国債入札は低調で国債利回りは上昇し、終値ベースで13ベーシスポイント上昇となったことで、金は上げ幅を削って1960ドルを維持して終えていました。
本日金曜日金相場は、ドルが5営業日連続の上昇で、前日上昇していた長期金利がその水準を維持する中で、株価が上昇に転じて今年一番の週間の上げ幅となる傾向とリスクオン基調の中、トロイオンスあたり1937ドル前後へ下げて10月半ば以来の低い水準で推移しています。
その他の市場のニュ―ス
- ワールドゴールドカウンシルによると、10月に中国の中央銀行は23トン金準備を増加させ、12か月連続の増加で年初から204トン(10.1%)増の2215トンとなったとのこと。また、ポーランド中銀も10月に6トン増で、7か月連続の増加で今年年初からは111トン増(48.5%)の340トンとしたとのこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの10月31日分が発表され、米雇用コスト指数が予想を上回り価格が下げていた際に、銀を除く全ての貴金属で強気ポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは3週連続でネットロングで17%増の331トンで、7月25日以来の高さとなっていたこと。この間建玉は1.6%減と前週の5月半ば以来の高さから下げ、価格は前週比1.69%高でトロイオンスあたり1996.90ドルとLBMAのPM価格の火曜日の価格において5月16日以来の高さへ上昇していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、3週連続でネットロングで26%減の1032トンと前週の9月初旬以来の高さから下げていたこと。価格は2.02%高でトロイオンスあたり23.20ドルと9月19日以来の高さへ上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、5週ぶりにネットロングへ転換して6.6トンとなっていたこと。価格は前週比5.98%高でトロイオンスあたり940ドルと9月19日以来の高さ。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートで、7.6%減の30.9トンと2週連続で2006年に取引が開始されて以来の高さから下げていたこと。価格は前週比1.4%高でトロイオンスあたり1136ドルと、前週の2018年11月半ば以来の低さから上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で4トン(0.5%)増で867.28トンと2 週連続で週間の増加の傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で全く動きがなく402.01トンと引き続き2020年4月半ば以来の低い水準で、15週連続の週間の減少後に減少傾向を止める傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で22.8トン(0.17%)増で、13,727.97トンで、10月末以来の高さで週間の増加傾向。
- 金銀比価は、今週85台後半で始まり、週半ばで87を超えたものの、本日86台半ばへと下げて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1055ドルで始まり、本日1097ドルと、LBMA価格が発表された1990年以来の高さで終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは197ドルで始まり、本日104ドルと2018年8月中ば以来の低さへ下げ終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週平均は48ドルと前週の41ドルから上昇していたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は18%増で3週ぶりの高さ、銀は24%増で5週ぶりの高さ、プラチナは19%増6週ぶりの高さ、パラジウムは94%増で2020年1月以来の高さ。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は今週も正の相関関係で0.112と週半ばで多少強めた後に前週末の水準へ下げていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は11月3日から負の相関関係で-0.26と未だ弱い関係、S&P500種と金の相関関係は引き続き負の相関関係で、-0.52と前週の6月初旬以来の強さから弱まっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週はイスラエルとハマスの紛争が他の中欧諸国へ拡大する傾向が見られず、また重要指標が少ない中で、再び主要中央銀行の金融政策が市場を動かし、FRB高官による発言に市場は注目していますが、来週もこの傾向は続きます。
そのような中で、火曜日には米消費者物価指数、水曜日は英消費者物価指数、米卸売物価指数、金曜日にはユーロ圏の消費者物価指数が発表されて、市場は注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2023年11月13日~17日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年11月6日~10日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年11月13日~17日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年11月6日)金価格は原油が地政学リスクの上げ幅を失う中で「疲れ」を見せる
- 【金投資家インデックス】金価格が記録的な高値を付けても「ゴールドラッシュ」は起きていない
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では引き続きイスラエルとハマスの紛争についてがトップニュースで伝えられていますが、その他、チャールズ国王が英国議会で戴冠後初めて政府の施政方針を代読したこと、今週末の第一次世界大戦終結を記念した、あらゆる戦争で亡くなった方を追悼するリメンブランス・デーに親パレスチナデモが行われることに対する政府の対応などが大きく伝えられています。
そこで、本日はリメンブランス・デーについて説明をし、今回なぜ親パレスチナデモが問題となっているのかについても追加解説してみましょう。
まず、リメンブランス・デーは、1918年11月11日11時に第一次世界大戦が終結したことから、毎年この日に戦没者追悼行事がイギリス連邦諸国では行われています。通常は、ロンドン中心部の慰霊碑に国王を含めた王室関係者と、首相と野党党首等の主要政治家が11時に献花を行い、退役及び現役兵士が行進を行い、英国全土と英国連邦諸国でこの追悼のイベントへむけて、象徴とされているポピーの花が飾られ、人々もボタンホールに紙でできたポピーをつけて戦没者を想います。
そのような中、今年はイスラエルとハマスの紛争以降毎週土曜日に、親パレスチナのデモンストレーションがロンドン中心部で行われており、今週末も行われる予定で、過去数週間に一部のより過激派組織ハマスに近い人々による反イスラエル的行動で逮捕者が出るなど、政府と警察は警戒感を高めていました。
そこで、英国政府は戦没者記念日にデモを控えることを訴えていましたが、昨日はスエラ・ブレイバーマン英内務大臣が、このデモンストレーションの警察の対応が甘いと非難する記事を新聞へ投稿したことで、大きなニュースとなっています。
ブレイバーマン氏の言い分は、警察は攻撃的な右翼のデモ参加者には「当然厳しい対応」がとられ、「親パレスチナ派の暴徒」への対応が甘いと主張していました。
そこで、親パレスチナ派を「暴徒」と言い切ってしまっていること、また、このコメントは発表前にスナク首相官邸を通していなかったことも問題とされ、野党はもちろんですが、一部与党幹部もブレイバーマン氏の辞任を求めています。
戦没者記念碑は英国の様々な行事の中でも重要な日であり、この日にデモンストレーションを行うことをどのような団体も避けてほしいというところが政府の本音のようですが、言論の自由を認めている英国で、デモンストレーションを禁止することはできず難しいところではあるようです。
また、米国や欧州諸国同様に、英国は基本人道的な理由の休戦は求めているものの、停戦は求めていないことからも、これを求めるでモンストレーションに対する警戒感を対外的にも政府は強めていることも背景のようです。
戦没者追悼の日は、全ての戦争で亡くなった人々を追悼する日であり、現在進行中の戦争と切り分けて、デモンストレーションはすべきではないと述べる英国政府のスタンスは、発言の自由を認めている英国らしからぬ対応のように個人的には感じています。
同日は戦没者追悼を親パレスチナのデモンストレーションが妨げることなく、お互いの目的を尊重して何事もなく終わることを希望しています。