ニュースレター(2023年7月21日)主要中央銀行の政策金利発表を前に金相場は週間の上げを維持
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1962ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.4%高と3週連続の上昇で金曜日の価格ベースで6月半ば以来の高さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から0.08%安のトロイオンスあたり24.75ドルと2週ぶりの若干ながら週間の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から1.6%安のトロイオンスあたり961ドルと2週ぶりの週間の下げでとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は2.38%高のトロイオンスあたり1297ドルと3週連続の上昇となっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、来週のFOMC前のFRB高官が発言を控えるブラックアウト期間中で材料薄である中で、週半ばに発表された米経済指標が予想を下回り、FRBによる利上げが7月で終了する観測が広がり、軒並み上昇したものの、その後の労働市場関連指標が必ずしも労働市場の逼迫状況が緩和されていないことも示唆し、金に関しては上げ幅を削り、銀とプラチナは前週終値比下げて、パラジウムは上昇して終える傾向となっています。
なお、前週3年来の上げ幅を見せていた銀価格とやはり大きく上昇していたプラチナ価格は、今週中国の経済指標の悪化で工業用途需要減少の懸念からも、下げ幅を広げている模様です。
今週のチャートは、来週のFRB、欧州中央銀行、日本銀行の政策金利発表を前に、現在までの政策金利の推移を表したものをお届けしましょう。
FRBが現在の5.00-5.25%で最も高い水準ですが、来週25ベーシスポイント引き上げの5.25-5.50%、欧州中央銀行も現在の4%からの25ベーシスポイント利上げが予想されており、再来週のイングランド銀行も5%から5.25%への利上げで、日銀のみが-0.1%で据え置きと予想されています。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、ロンドン時間昼過ぎにドルインデックスが上昇に転じていた事から、金価格がトロイオンスあたり1946ドルまで一時押し下げられ、その後下げ幅は削られて、ほぼ前週末の水準のトロイオンスあたり1955ドルへと戻して終えていました。
同日の先のドルインデックスの動きは、アジア時間に発表された中国のGDPが予想を下回ったこと、また前週昨年11月以来の下げ幅をつけていたことからも、調整の動きであった模様です。
火曜日金相場は、米経済指標が予想を下回ったことで、FRBの金利引き上げ早期終了観測が広がり、トロイオンスあたり1984ドルと6月初旬以来の高さへと大きく上昇して、1977ドルで終えていました。
この経済指標とは米小売売上高と鉱工業生産で、それぞれ予想をを下回っていました。しかし、来週のFRBによる利上げは確実視されており、次回9月の利上げ予想は13%ほどと米CPI発表後からは大きな変化は見られはいませでした。
また、欧州中銀高官が、次回会合の利上げ以降の利上げを疑問視するコメントしたことが伝えられていました。
水曜日金相場はドルが上昇し、長期金利が下げる中で、トロイオンスあたり1980ドルを一時つけてロンドン時間夕方に1977ドルで終えていました。
同日は、英消費者物価指数が前年同月比で予想の8.2%と前回の8.7%を下回り、7.9%と下げ、コアも6.9%と予想と前回の7.1%を下回り14ヶ月ぶりの低さとなったことで、今月のイングランド銀行の金融政策決定会合で0.5%の利上げが予想されていたものの、0.25%の観測も広がり、英国ポンドが弱含み、相対的にドルを強めることとなりました。
なお、同日中国の人民元建て金価格はgあたり461元と史上最高値をつけていました。これは、人民元が中国の景気停滞懸念からも対ドル下げていること、そのための安全資産需要増となり、また中国中銀が金の輸入制限をしているともレポートされており、国内需要の逼迫もあった模様です。そこで、中国国内金価格は世界指標に対し、史上最高値にも関わらずトロイオンスあたり11ドルのプレミアムと過去平均の8ドルを上回る水準で推移していました。
木曜日金相場はドルインデックスと長期金利が反発したことから、ロンドン午前中に5月半ば以来の高値のトロイオンスあたり1987ドルを一時つけた後に1965ドルへと下げて、その後$1972ドルで終えて、今週の上げ幅をほぼ半減していました。
同日のドルと長期金利の動きは、本日発表の米新規失業保険申請件数が予想を下回り、米経済の強さを示唆したことで、予想を下回った米インフレデータ以降の下げの調整が入っていたようです。
本日金曜日は、ドルインデックスが4営業日連続で上昇し、長期金利が昨日の上昇分を多少ながら削る中で、トロイオンスあたり1960ドルと下げていますが、前週終値比では上昇して終える傾向となっています。
本日は来週の主要中央銀行の金融政策発表を前に大きな指標等も無い中で、来週FRBによる25ベーシスポイントの利上げが先物市場で99.8%と確実視されていることからも、相対的にドルが強含んでいることから、本来負の相関関係がある米10年物物価連動債が2ヶ月ぶりの低さへ下げているものの、金の頭を抑えている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの7月11日分が発表され、米消費者物価指数の発表前に、金価格が上昇していた際に、金はネットロングポジションを増加させ、銀はネットロングを減少させ、プラチナは2週連続でネットショートでそのポジションを増加させ、パラジウムのネットショートポジションは、2006年6月に記録を開始して以来の高い規模へと更に増加していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から1.43%増で312.96トンと2週連続で増加して4週ぶりの大きさ。この間建玉は、7.7%増と2週連続で2月末以来の低さから増加し、価格は前週比0.27%高でトロイオンスあたり1933.95ドルと2週連続で3月半ばの低さから上昇していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週比37.9%増の1003トンと3月21日以来の低さへ減少していたこと。価格は1.58%高でトロイオンスあたり23.14ドルと3週ぶりに3月21日以来の低さから上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、2週連続でネットショートで、そのポジションは29.64%増で6.65トン。価格は前週比1.76%高でトロイオンスあたり927ドルと昨年10月25日以来の低さから上昇していたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、4.59%増の24.55トンと。記録が始まった2006年6月以来の大規模。価格は前週比0.24%高でトロイオンスあたり1236ドルと2018年11月27日以来の低さから上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で0.9トン(0.09%)減で913.80トンと、5週連続の週間の減少で3月10日以来の低さ。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.77トン(0.17%)増で446.02トンと、7週ぶりの週間の上げの傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で159.83トン(1.12%)減で14,099.41トンと、4週連続の週間の減少傾向で6月29日以来の低さ。
- 金銀比価は、今週78台後半で始まり、昨日78.71と4月20日以来の低さへ下げた後に、本日79台で終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、984ドル強で始まり、本日1002ドルへと上げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、295ドルと2018年11月以来の低さで始まり、327ドルで終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週人民元建て金価格が水曜日に史上最高値のgあたり461.27元をつけて若干下げ、人民元が中銀の介入で対ドル若干強含む中で、週平均で16.15ドルと、前週の今年3月24日の週以来の高さであった16.36ドルから下げていたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週平均比で、金は14%減、銀は19%減、プラチナは20%減、パラジウムも9%減と前週価格の上昇もあり全ての貴金属で前週比増加していたことからも、下げていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は来週の主要中銀の金融政策決定会合を前に、FRB高官の発言が控えられるブラックアウト期間の中、米経済指標の弱さや英国消費者物価指数が予想を下回ったこと等で市場が反応することとなりました。
来週は米国が水曜日、欧州が木曜日、日本が金曜日に中央銀行の金融政策決定会合後の発表を行い、市場の注目が集まることとなります。
その他、木曜日の米国GDP、金曜日のFRBがインフレデータとして注目する米第2四半期雇用コスト指数と個人消費支出コアデフレーターもまた重要指標となります。
詳細は主要経済指標(2023年7月24日~28日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
昨日金価格が6週間ぶりの高値から下げていることを伝える、米主要経済サイトのMarketWatchがブリオンボールトのリサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントを紹介していました。
ここでエィドリアンは、米インフレが鈍化したにもかかわらず金価格が上昇していたことを不思議に思う人々も多いかもしれないが、FRBによる政策金利観測が現在はより影響を与えていて、「長期の高い金利」から「近い将来金利がピークアウトする」という観測は金を押し上げていたとコメントしています。
また、ブリオンボールトのリサーチダイレクターがオンライ経済情報会社のProactiveのインタビューに答えて、現在の金市場とそのニュースを解説していました。
ここで、現在金価格が主要国の政策金利が引き上げられているにも関わらず上昇を続けている背景を解説し、アジア市場の動きについても触れていました。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年7月17日~21日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年7月24日~28日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年7月17日)中国GDPの悪化を受けてドルインデックスが上昇する中、金価格はインフレ減速後の急上昇から後退
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では決勝が行われたウィンブルドン、全英ゴルフトーナメント、そして昨日始まったFIFA女子ワールドカップ等のスポーツ関連と共に、インフレが6月に予想以上に鈍化したこと、ジュニアドクターに加えて、シニアドクターのストライキ、そして昨日行われた下院補欠選挙の結果が大きく伝えられています。
そのような中、今週スナク英首相は、同性愛者であることを理由に解雇されたり、嫌がらせを受けたLGBT(性的少数者)の退役軍人に謝罪したことが伝えられているので、この件についてお伝えしましょう。
英国では1967年にイングランドとウェールズで、そして1980年代初めには英国全土で同性愛行為が合法化されましたが、軍隊では2000年まで同性愛が禁じられていました。
しかし、1999年に同性愛者であることを理由に解雇された4人の軍人が欧州人権裁判所で勝訴したたことで、2000年に当時の労働党政府が軍隊における同性愛を禁じる規律を解除すると発表したのでした。
そして、LGBTへの理解が深まる中で、20年以上を経て昨年独立機関の調査が入り、政府に対し正式な謝罪及び5000万ポンド(90億円)相当の補償をするべきとの報告書がまとめられ、昨日正式謝罪が行われたのでした。
この報告書では政府による正式謝罪と金銭的補償に加えて、①解雇や除隊の際に変換しなければならなかった勲章の回復、②年金受給権の明確化、③退役軍人としての特別なバッジの贈呈も含まれているとのこと。
LGBTの権利への理解が進んでいるとも見られる英国において、23年前とつい最近まで軍隊で同性愛が禁じられていたこと自体が驚きですが、その謝罪に20年以上を必要としたことは更に驚きであると言えるでしょう。