金市場ニュース

ニュースレター(2023年8月11日)米インフレデータを消化する中で金価格はひと月ぶりの低値へ

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1916ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から1.4%安と3週連続の下げとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から3.2%安のトロイオンスあたり22.69ドルと4週連続の週間の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から0.84%安のトロイオンスあたり911ドルと4週連続の週間の下げとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は5.22%高のトロイオンスあたり1324ドルと週間の上昇となっています。

金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週は米国の消費者物価指数が木曜日、卸売物価指数が本日と重要指標を消化して、パラジウムを除きドル建てで金、銀、プラチナは、それぞれ7月初旬以来の低値で週間で下げる傾向となっています。

これは、今週発表された米国インフレデータが、消費者物価においては若干のインフレ鈍化が見られていたものの、卸売物価指指数においては、若干ながらインフレ加速もあり、FRBによる利上げのピークアウト観測が後退し、米長期金利とドルが強含んだことで、これら貴金属は、7月初旬の雇用統計悪化とインフレ鈍化を示唆するデータによる政策金利ピークアウト観測の上昇分をほぼ失うこととなりました。

この間、日米の政策金利差と金融政策の違い(日銀が金融緩和継続を行うのに対しFRBの金融引き締め)による円安からも、日本円建て金価格においては週間で0.87%高となっています。

そこで、今週は7月末に円安からも史上最高値(gあたり9028円)を更新した日本円建て金価格も含む過去3か月間のチャートを下記に添付します。ドル建てではこの3週間の下げもあり、年初より5%強の上げ幅となる中で、日本円ではいまだ15%を超える上げ幅となっています。

過去3か月間の円建て金価格チャート 出典元 ブリオンボールト

なお、パラジウムの価格の上昇は、今年年初からの下げ幅が31%を超える中で調整が入っていることが背景と思われます。

今週の金相場の動きと背景について

月曜日は前週のまちまちであった米雇用統計を消化し、今週木曜日の米消費者物価指数データ発表を待つ中で、ドルと長期金利が上昇へ転じ、トロイオンスあたり1937ドルと前週終値比で若干下げて終えていました。

金ETFの最大、第2銘柄が共に前週までに2週連続で残高を減少させ、金先物・オプションもネットロングポジションを2週連続で減少させるなど、市場が金の近い将来の上げに懐疑的であることを示唆しているものの、同日中国中銀が9ヶ月連続で金準備を7月に増加させ、中国消費者の需要増を示すプレミアムも5ヶ月ぶりの高さとなっていました。

火曜日金相場は、株価が下げ国債が買われ長期金利は下げていたものの、ドルが上昇していたことから、トロイオンスあたり1926ドルと前日終値から下げて終えていました。

同日の金融市場の動きは、中国の輸出及び輸入データが予想を大きく下回り景気後退懸念が進み、イタリア政府が銀行に超過利潤税として40%課税することを突然発表して銀行株が下げ、米格付け会社が米地銀の債務格付けを引き下げ、大手銀6行も格下げ方向で見直すと伝えたことなどが背景となっていました。

それに加え、先週米財務省が発表した国債増発の定例入札が同日3年物420億ドル、翌日10年物380億ドル、木曜日は30年物230億ドルと予定されていたことから、この入札状況への警戒感もあった模様です。

水曜日金相場は、心理的節目のトロイオンスあたり1930ドルを前日割り、同日は1920ドルも割って1917ドルで終えていました。

この間、ドルと長期金利は高い水準ながら、翌日の米消費者物価指数の発表を待つ中で前日からは下げて推移しいたことから、金の下げは翌日発表の米CPIデータが前月の3%を上回る3.3%と予想となっており、根強いインフレを示す警戒感が背景となっていました。

なお、前日発表されて市場を動かしていたイタリア政府の超過利潤税は、「資産の0.1%」という上限を設定したことで、前日急落した銀行株上昇していました。また、前日行われた米3年物国債入札は十分な需要が見られていました。

なお、同日発表された中国の消費者物価指数は前年同月比0.3%下落と、2年5カ月ぶりに低下していたことで中国の景気停滞懸念は貴金属の心理的な重荷となっていました。

木曜日は市場注目の米消費者物価指数が発表され、ヘッドラインとコアはそれぞれ前年比3.2%と4.7%と共に予想を下回ったものの、ヘッドラインの指標は前月の3.0%を上回り2年ぶりの上昇とはなっていました。

しかし、9月のFOMCにおける利上げはほぼ無しとの観測は広がり、ドルと長期金利が発表後下げたことで、金は上昇で反応していました。

その後、ドルと長期金利が戻す中で金価格は上げ幅を削り、トロイオンスあたり1912ドルへと7月7日以来の低さへ下げて終えていました。

これは、米CPI発表後にサンフランシスコ連銀のでデイリー総裁が、次回会合巡る判断は時期尚早と述べたことが伝わり、FRBによる年内のさらなる利上げの観測が広がり、ドルと長期金利を上昇に転じたことからでした。

本日金曜日の金相場は、本日発表された米卸売物価指数が予想を上回ったことで、ドルと長期金利が上昇していることからも、前日の終値からは若干上げて、トロイオンスあたり1916ドル前後を推移しています。

卸売物価指数は、前年同月比で0.8%と前回修正値の0.2%と予想の0.7%を上回り、前月比も0.3%と前回修正値の0%と予想の0.2%を上回っていました。

そして、食料品とエネルギーを除くコアにおいては、前年同月比2.4%と予想の2.3%を上回り、前回と同レベルで、前月比は0.3%と前回修正値の-0.1%と予想の0.2%を上回っていました。

そこで、前日の若干予想を下回った米消費者物価指数でFedWatchツールでは、9月のFOMCの利上げはほぼ無しの90.5%へ85%から増加していたものの、本日は87.5%へと若干下げ、年内更なる利上げを行う予想が3割強へ若干上昇するなど、FRBによる利上げのピークアウト観測が後退している模様です。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの8月1日分が発表され、米雇用関係データのJOLTS雇用動態調査が予想を上回り、ドルと長期金利が7月初旬以来の高さへ上昇する中で価格が下げる中で、銀を除く金、プラチナ、パラジウムの価格が下げる中、銀を除く貴金属の強気ポジションが減少していたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から14.6%減で309トンと2週連続で減少。この間建玉は、9.6%減と2週連続で減少し、価格は前週比0.59%安でトロイオンスあたり1947.20ドルと2週連続で下げていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週比5.2%増の1,263トンと増加していたこと。価格は1.2%高でトロイオンスあたり24.52ドルと上昇していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、3週連続でネットロングであったものの48%減で5.6トン。価格は前週比3.83%安でトロイオンスあたり930ドルと2週連続で下げていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、13%増の27.5トンと2週連続で増加していたこと。価格は前週比4.03%安でトロイオンスあたり1238ドルと2週連続で下げていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で2.6トン(0.29%)減で903トンと3月10日以来の低さへ下げて、3週連続の週間の減少の傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.59トン(0.13%)減で440トンであるものの、木曜日に、前日の3月17日以来の低さからは0.3トン(0.07%)増と7月19日以来初の一日あたりの増加を見せたものの、3週連続の週間の減少傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で97.01トン(0.69%)増で14,062トンと、6週ぶりの週間の増加傾向で前週の2020年5月19日以来の低さから7月26日以来の高さへ増加していたこと。
  • 金銀比価は、今週82台後半で始まり、本日84半ばと水曜日のほぼ85と7週間ぶりの高さからは若干さげて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1009ドルで始まり、水曜日に2020年10月以来の高さの1025へ上昇後本日1002ドルへとほぼ3週間ぶりの低さへ下げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは343ドルで始まり、本日394ドルとほぼ8週ぶりの高さへ上げて終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
  • 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、人民元がドルに対し建てひと月ぶりの弱さとなる中で、週平均で35.54ドルと2022年10月21までの週以来の高さへ上昇していること。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週平均比で、金は11%減で昨年クリスマス直前以来の低さ、銀は41%増、プラチナは14%増、パラジウムも63%増。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週金市場は、米消費者物価指数と卸売物価指数に注目をしていましたが、その他中国の輸出減少、中国消費者物価指数がデフレを示唆したこと等にも反応することとなりました。

そこで、来週も主要中銀の金融政策に影響を与える指標やイベントは注目されることとなり、水曜日のFOMC議事録は重要ですが、その他水曜日の英消費者物価指数と金曜日のユーロ圏消費者物価指数も為替レートを動かす可能性があり注目されます。

詳細は主要経済指標(2023年8月14日~18日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、本日日本が残念ながら4強に残れなかったサッカーの女子ワールドカップで、イギリスチームが明日準々決勝で戦うことについて、また引き続き行われているジュニアドクターのストライキ、英実業家リチャード・ブランソン氏が設立した米宇宙企業のヴァージン・ギャラクティックが米ニューメキシコ州で2回目となる宇宙船の商用打ち上げを成功させたこと等が大きく伝えられています。

そのような中、近年英国への難民や移民の移住希望者が急増している中で、申請処理が終わるまでの期間の滞在先費用が膨大なものとなっているため、費用軽減目的の新たな措置として、まず500人を英国南西部の港にある荷船の一種の「バージ船」へ入居させる計画が今週開始されたことから、大きく伝えられていました。

英国へ移住を希望して小型ボートで英仏海峡を渡る人数は、この数年急増し、今年はすでに10万人近くにおよび、昨年年間の4万5700人を大きく超えています。

そして、これらの人々の申請処理が膨大な数であることからも遅れており、一日あたりのホテルなどの宿泊施設へ支払う費用が600万ポンド(約11億円)と膨れ上がっています。

そこで、英国政府は英仏海峡を小型ボートで渡る途中で亡くなる人々も後を絶たず、このような危険な旅路を選んでまで英国に来ることを防ぐことを直近の最優先課題の5つの一つに掲げています。

それを達成するために、フランス政府と協力してフランスで未然に渡航を防ぐことが話し合われ、フランスの海岸を警備する費用をフランスに支払うこと、密航業者を摘発することなどはすでに行われており、難民をルワンダへ費用を支払って移住させる方法も議論するなどと、英国の移民や難民への待遇の良さを動機として英国を目指す人々を未然に防ごうとしています。

そして、今回は移住申請中にホテルに滞在できるなどの優遇措置が動機づけになっている可能性を考え、より粗末な施設の滞在とすることで動機をなくし、費用を軽減するという目的であるようです。

しかし、人権団体からは安全性の面からも非難が上がっており、バージ船が停泊する地域の人々からも治安や病院などの公共サービスが十分に対応できないなどの理由で反対のデモが起こるなど、先行きは厳しいものでした。

そのような中、今週150人が入居したようですが、本日はバージ船上で感染症が見つかったとのことで、急遽入居者一部を他の宿泊場所へ移動させたことが伝えられています。

欧州では地中海に面するイタリアやギリシャも北アフリカからの移民・難民が地中海を超えて渡っており、2014年以降2万人を超える人々が海で命を落とし、今年だけでも1000人以上がすでに亡くなっているとのこと。

英国政府同様にそれぞれの政府がこの問題の対応をしているものの、欧州、また世界全体として、自国が戦火にあったり、ある一定の人種や宗教が迫害を受けているために自国に留まれない、さらにはより良い生活を求めて移住を希望する人々を受け入れる体制を議論して対応策を模索しない限りは、バージ船を用意するなどの小手先の施策では問題は解決できないように個人的には考えます。

スナク英首相が、より大きな視点で他国を巻き込んで問題解決を行うことに重点を置くスタンスに変わることを希望し、その日が近いことを祈りたいと思います。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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