ニュースレター(2023年2月10日)金価格は前週の良好な雇用統計に続くFRB高官のタカ派的コメントでひと月ぶりの低さへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1862ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.74%安で3週連続の下げで1月初旬以来の低さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から5.79%安のトロイオンスあたり22.13ドルと3週連続の週間の下げで昨年11月末以来の低さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から3.75%安のトロイオンスあたり967ドルと5週連続の週間の下落で11月初旬以来の低さとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は4.04%安のトロイオンスあたり1559ドルと2019年9月以来の低さとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、ドル建てにおいて先週の良好な米雇用統計後の下げ幅を広げて、金の一月ぶりの低さ、パラジウムにおいては3年を超える期間ぶりの低さへ下げることとなりました。
しかし、1月に金は全ての主要通貨建てで大きく上昇していたこともあり、昨年末比では、ドル建てで2.1%高、£建てで1.9%高、ユーロ建てで2.2%高、円建てで2.1%高と上げ幅を保持しています。
それに対し、工業用途需要の割合が大きい銀は前年末比7.6%安、プラチナがほぼ10%安、パラジウムは13%安と、主要中央銀行の高インフレに対する利上げ継続と高い金利が長期で維持されることによるリセッション懸念の広がりからも押し下げられて推移しています。
今週は、週初めにロンドン貴金属市場協会が毎年著名アナリストの次年度の価格予想をまとめていますので、それをご紹介しましょう。
ドル建て金相場は年平均で3年連続で上昇して過去最高値を更新していますが、アナリストは今年の年平均も前年比3.3%上昇することを予想しています。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は金曜日の米雇用統計とISM非製造業景況指数が予想を大きく上回っていたことによる、FRBの利上げ長期継続観測での急落から、ドル高と長期金利高にも関わらずロンドン昼過ぎにひと月ぶりの低値から若干上昇してトロイオンスあたり1869ドルで終えていました。
本来ドルと金相場はドル建て資産であることからも逆相関で動く傾向がありますが、週末に米国が中国の偵察気球撃墜に関連して米中緊張が高まっていることを金の堅固さの背景に上げているアナリストもいました。
なお、日本円建ては同日日銀次期総裁としてハト派として知られている雨宮副総裁が打診されたとの日経の報道で円が対ドル弱含んで上昇してグラムあたり7994円まで一時上げて、7968円で終えていました。
火曜日金相場は、同日夜行われるパウエル議長のインタビューを前に、トロイオンスあたり1871ドル前後の狭いレンジで動いていました。
同日は、FOMCで投票権を持つタカ派と知られているミネアポリス連銀カシュカリ総裁が1月の米雇用統計は利上げを継続する必要性を示しているとし、個人的にはターミナルレートは5.4%前後と12月の予想中央値の5.1%を上回る水準を挙げていました。
そして、市場注目のパウエルFRB議長のインタビューは、FOMC後の記者会見同様に「ディスインフレ(インフレの鈍化)」が見られるものの、米雇用統計の結果からも政策金利は継続高い水準を維持するべきと述べていました。
しかし、これはFOMC後の記者会見から変化はなく、良好な雇用統計後によりタカ派的発言が出ることへ警戒していた市場にとっては、ハト派的とも捉えらて、前日終値比若干上げて1876ドルで終えていました。
水曜日金相場はドルと長期金利が先週の予想を上回る米雇用統計後の上げ幅を若干削る中で、トロイオンスあたり1874ドルと、前夜のパウエルFRB議長のインタビューの内容と今週発言したFRB高官のタカ派的コメントも消化しながら、前日終値から若干下げて終えていました。
木曜日金相場はロンドン時間午後にトロイオンスあたり1890ドルまで上げたものの、その後上げ幅を削って1862ドルと前日終値比0.7%ほど下げて終えていました。
ロンドン午後の上げは、同日発表の米国新規失業保険申請件数が予想を上回ったことでドルが弱含んだことに反応していましたが、その後、来週火曜日の米消費者物価指数の発表を前にFRB高官のタカ派的コメントが多く伝えられており警戒感からも長期金利が上昇したことで金は押し下げられることとなりました。
このタカ派的発言とは、ニューヨーク連銀のウィリアム総裁は今年一杯需給のアンバランスに働きかけなければならないとし、クック理事は小幅な(継続的な)利上げが妥当と述べていたことなどでした。
金曜日金相場は、ドルと長期金利が1月初旬以来の高さへと上昇する中で、1月初旬の低値水準の前日終値前後を狭い範囲で動いています。
本日は、日銀の黒田東彦総裁の公認に経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏が起用されると伝えられ、よりタカ派的金融政策観測で日本円が強含んで日本円建て金価格は下げていましたが、植田氏の日銀の既存の金融政策継続すべきというコメントが伝えられて円がその後弱含んだことで円建て金相場もほぼ前日終値に戻しています。
その他の市場のニュ―ス
- 今週金業界団体のワールドゴールドカウンシルは前週発表の通年の金の需給レポートの中央銀行の需要の箇所を訂正し、1136トンの需要は過去2番目に多いのではなく、史上最高であったとのこと。
- 中国の中央銀行が、11月と12月に続き1月も金準備を15トン積みまして2025トンとしていたこと。
- 1月の金を裏付けとしたETFの残高は全体で26トン(0.8%減)。この内北米のETFとその他の地域は増加していたものの、英国とドイツが牽引した欧州とアジアのETFの減少でマイナスとなっていたとのこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、派生商品の取引の管理、決済、取引などを行っているION社がサイバー攻撃を受けたことで前週末発表のデータが公開されていないこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で0.5トン(0.1%)増で920.8トンと、4週連続の週間の増加傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で2.66トン(0.58%)減で450.5トンと、6週ぶりに週間の下落傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で226トン(1.52%)増で15,047トンで、週間の増加の傾向。
- 金銀比価は、今週火曜日に84を超えたものの、その後83台で推移。2022年平均は83.39と前年の71.83からは増加。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、木曜日に873と週初めの900を超える水準から下げていること。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、前週末の2019年9月以来の低さの600を割る水準からは上昇して本日653。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)は、人民建て金価格がひと月ぶりの低さへ下げる中で、週間の平均が18.11ドルと、前週の16.09ドルから上昇して、1月半ば以来の高さ。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は31%減、銀は13%減、プラチナが7%減、パラジウムは39%増で昨年2月末にロシアがウクライナに侵攻した週以来の高さ。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は、前週の雇用統計の結果を消化する中で、大きな経済指標がない中で、FRB高官の発言に注目する日々となりました。
来週もこの傾向は続きますが、それに加え、米国消費者物価指数が火曜日、英国は水曜日、そして木曜日には米国の卸売物価指数が発表され、主要中央銀行の金融政策に影響を与えるインフレが鈍化しているのかに市場は注目することとなります
その他詳細は、主要経済指標(2023年2月13日~17日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年2月6日~10日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年2月13日~17日)来週の予定をまとめています。
- 【金投資家インデックス】危機の無い価格の急騰で個人投資家は購入を抑えて利益確定の売却を進める
- 2023は、金、銀、プラチナ価格にとって大きな年となるのか
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、トルコと北シリアで起きた大地震、またウクライナのゼレンスキー大統領の英国及び欧州訪問、そして本日は英国の第4四半期のGDPが前四半期比増減なしではあるもののリセッション入り(2四半期連続のマイナス成長)を逃れたことについて大きく伝えられています。
そこで本日は英国政府がトルコ・北シリア大震災の被災者を支援するチャリティー団体をまとめる緊急災害委員会(DEC)への人々の寄付と同額を5百万ポンド(約8億円)までを同様に寄付すると述べたことが伝えられていますので、この緊急災害委員会への寄付と同額を寄付する英国エイドマッチ(UK Aid Match)という仕組みについてお伝えしましょう。
まず、緊急災害委員会(DEC)は非営利団体で、海外の災害時の募金を短期に集中的に集めるために1963年に結成された組織で、OXFAM、セーヴ・ザ・チルドレン、アクションエイド、英国赤十字社などの英国の主要15のチャリティー団体がメンバーになっています。
災害発生時には、メンバー団体からの資金要請を取りまとめて、新聞、テレビ、ラジオなどでアピールを出し、DECに集まった募金は、それぞれのメンバー団体に配分されます。
そこで、英国政府は2013年から2016年に第1フェーズとして、DECが関わった22カ国の360万人が被災した59の災害の寄付金募集に関して1.2億ポンド(約190億円)を寄付し、2016年から現在は第2フェーズで今回のトルコ・北シリア大地震の募金に関しても5百万ポンドを上限に寄付を約束しています。
今週はチャールズ国王もDECへ寄付を行ったことも額の公開は控えられていましたが伝えられていました。
ちなみに昨年は、ウクライナ戦争関連の寄付金としてこのUK Aid Matchでは2500万ポンド(約40億円)が同額を寄付する上限として設定されて、現在も続いています。
そして、すでに募金活動が終了している案件では、2020年のコロナ危機時のアピールではUK Aid Matchの1000万ポンド(約16億円)を含めた6200万ポンド(約98億円)の寄付が集まったとのこと。
英国のチャリティー文化は人々の生活に根付いていますが、このような災害や危機時に人々が恵まれない人々へ手を差し伸べる優しさには未だ心を打たれ、私も常に見習いたいと思っています。