金市場ニュース

ニュースレター(2023年9月22日)金価格はタカ派的FOMC後の下げ幅を削り、週間の上昇

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1926ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.08%安と若干ながら週間の下げとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から2.65%高のトロイオンスあたり23.67ドルと2週連続の週間の上げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から1.45%高のトロイオンスあたり940ドルと2週連続の週間の上げとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は0.82%高のトロイオンスあたり1280ドルと2週連続の週間の上げとなっています。

金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、FOMCで政策金利は据え置かれたものの、年内の利上げ可能性と来年の金利予想がより高いものと予想を上回るタカ派的内容で、ドルインデックスが3月以来の高さ、米10年物国債利回りが2007年以来の高さへ上げたことからも、全般下げ幅を広げたものの、本日若干ながらドルと利回りが下げたことで、本日は終値ベースですべての貴金属が週間の上昇で終える方向となっています。

10年物国債利回りからインフレ予想を差し引いた実質金利も、2009年1月以来の高さへ今週上昇しており、金利を生まない貴金属にとっては厳しい環境の中で、貴金属の動きは堅固なものと言え、金と実質金利(10年物物価連動債)の相関関係は本日今年1月以来の弱い関係、つまりは実質金利が上昇することで多くの場合は金は下げる負の関係であるものの、その関係が薄くなっています。

そこで、今週は金と実質金利のチャートを下記に添付します。金融危機時の2008年から2012年、その後2018年から2020年に実質金利が下げることで金が上昇し、金融危機後2012年から2013年や2021年から2022年に実質金利が上昇することで金が下げていたことが見ることができます。しかし、2021年から実質金利が急激に14年ぶりの高さへ上昇する中で、金の下げ幅は限定的なものとなっていることも分かります。

金価格と実質金利のチャート 出典元 ブリオンボールト

これは、政策金利にかかわらず購入をしている中央銀行や、先週お伝えした金の輸入規制と中国需要の高さで世界指標との価格差が史上最高値をつけている中国などの金購入が背景とも分析されています。しかし、政策金利に敏感な金や銀のETFからは資金の流出が多少スローダウンしたものの続いており、先物・オプション市場のネットロングも抑えられていることから、しばらくは貴金属価格の頭は重いものとはなりそうです。

今週の金相場の動きと背景について

週明け月曜日金相場は、今週FOMC、イングランド銀行、日本銀行の金融政策発表が予定されていたことからも、狭いレンジで推移してトロイオンスあたり1934ドルと上昇して終えていました。

同日は原油価格が今年の最高値を付ける中でインフレ懸念で10年物米国債利回りが16年ぶりの高さへ一時上昇したものの、その後利回りが下げに転じて金は上昇に転じていました。

なお、先週中国の需要の高さと政府による輸入制限により、史上最高のロンドン価格との差トロイオンスあたり121ドルをつけた人民元建て金価格は、ファイナンシャルタイムズが中国政府の金輸入規制が一時的に緩和されたと伝える中で、69ドルまで下げていました。

中国の輸入規制及び緩和に関して、日本貴金属マーケット協会(JBMA)の池水代表理事の分析では、許可が入ることで、ロンドンで金を買い、上海で金を売る裁定取引が起こり、世界指標が押し上げられているとしていました。これは、上海黄金交易所の取引量を見ると、金曜日に取引量が急増する中、世界指標が1%上げていたことがも見られるとしていました。

火曜日日金相場は翌日のFOMC後の発表を待つ中で、ドルが3月初旬以来の高値、長期金利も2007年11月以来の高値を維持する中で、トロイオンスあたり1931ドルと前日終値から若干下げて終えていました。

同時CMEのFEDWatchツールでは米中銀が99%の確率で据え置きをすると予想していたものの、同日も原油が今年の最高値を更新するなど、インフレ要因があることからも警戒感が強く、米株価指数は全般押し下げられていました。

そのような中、円建て金相場は円が対ドル弱含み前年11月の水準へと近づく中で、同日も史上最高値を更新してgあたり9199円をつけていました。

水曜日金相場は、同日夜のFOMC後の政策発表とパウエル議長の記者会見を待つ中で、トロイオンスあたり1947ドルと9月4日以来の高さへ一時上昇していました。

これは、FRBが金利を据え置くと予想される中で、前日まで2007年10月の水準へ上昇していた長期金利が調整もあり若干下げていたことからですが、FOMC後の発表とパウエル議長の記者会見後に金利とドルが一転上昇に転じていました。

FOMCでは政策金利は予想通り5.25~5.50%へ据え置かれましたが、年内の更なる一回の利上げと来年の利下げペースが予想を下回るなど、全般タカ派的内容であったことから、発表後にトロイオンスあたり15ドルほどの同日の上げ幅を失い、1929ドルで終えていました。

同日日本円建て金相場は、円が対ドル昨年11月以来の148円まで下げたことで、前日の史上最高値をさらに更新して、gあたり9248円をつけていました。

木曜日イングランド銀行の政策金利が発表され、5対4とメンバー内の意見は分かれていましたが、15会合ぶりに政策金利を5.25%に据え置いていました。

この金相場への影響は、ポンドが発表直後に弱含んでポンド建て金相場がトロイオンスあたり7ポンドほど上昇して6月初旬以来の高値の1559ポンドをつけたものの、ほぼ即座に上げ幅を失って発表直後の水準に戻していました。

この間ドル建て金相場は、ドルと長期金利が前日の上げ幅を広げて今年3月以来と2007年10月以来の高さへとそれぞれ上昇する中で、さらに下げてトロイオンスあたり1914ドルまで一時下げて、1921ドルで終えていました。

これは、来年の利下げ幅が減ったことで、予想されるインフレを考慮すると実質金利がプラスで今年よりも上昇することからも、金利を生まない金の頭を押さえていたようでした。この実質金利は、同日2009年初旬以来の高さへと上昇していました。

また、同日発表された米新規失業保険申請件数は今年1月以来の低さへ下げ、ロシアがガソリンとディーゼルの輸出を禁止したことも伝えられ、原油価格が上昇を始め、インフレ上昇懸念も長期金利を押し上げていたことも金にとってはネガティブに働くこととなりました。

本日金曜日金相場は、ドルと長期金利が若干ながら前日の6か月ぶり、16年ぶり高さから下げる中で、トロイオンスあたり1926ドル前後へと前週終値を上回る水準へ上昇しています。

市場注目の日本銀行の金融政策決定会合では、金融政策は据え置かれ、植田日銀総裁は政策修正時期の「決め打ちは到底できない」と述べて、引き締め局面の主要中銀との政策の違いが意識されて、日本円は1ドル148円へと円安となっていました。

なお、今週米株価指数は本日反発していますが、米連邦準備理事会のよりタカ派的スタンスで、米株価は全般今週下げ、S&P500種は今週3月以来の下げ幅をつける傾向となっています。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの9月12日分が発表され、米消費者物価指数が発表される前に警戒感で価格が下げていた際に、パラジウムを除きすべての貴金属で強気ポジションを減少させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から25%減で155トンと2週ぶりに減少していたこと。この間建玉は、0.16%減と3週連続で減少し、価格は前週比0.9%安でトロイオンスあたり1908.55ドルと2週連続で下げていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、4週連続でネットロングであったものの、91.5%減の184トンと下げていたこと。価格は2.76%安でトロイオンスあたり22.90ドルと3種ぶりの低さへ下げていたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、2週ぶりにネットショートで、7.9トン。価格は前週比4.76%安でトロイオンスあたり900ドルと2週連続で下げていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、3.5%減の31.77トンと減少していたこと。価格は前週比0.58%高でトロイオンスあたり1212ドルと2週ぶりに若干上昇して、前週の昨年11月末以来の低い水準から上げていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で1.4トン(0.2%)減で878.83トンと2019年9以来の低い水準で、3週連続で週間の減少の傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.88トン(0.21%)減で426.07トンと、2020年5月6日以来の低さへ下げて、9週連続の週間の減少傾向。しかし、その週間の減少幅は縮小。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で253.81トン(1.85%)増で13,980.77トンで、3週連続の週間の増加傾向。
  • 金銀比価は、今週83で始まり、本日81前半と9月初旬の低さへ下げて終える方向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、993ドルで始まり、昨日1000を超えたものの、本日990ドルと9月初旬の低さへ下げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは320ドルで始まり、本日347ドルへと上昇して終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
  • 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、先週人民元建て金価格が史上最高値を5営業日連続で更新し、プレミアムが史上最高値の121ドルをつけた後、前週金曜日に中国政府が輸入規制を一時的に緩和したと伝えられる中で、プレミアムは週平均で80ドルと前週平均の93ドルのSGEでFix価格を公表を始めた2016年以来の最高値からは若干下げているものの、引き続き高い水準。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は10%増、銀は3%減で、プラチナは17%増で、パラジウムは36%増。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は今週-0.123へと下げて年初以来の弱さへ負の相関関係を下げていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は今週正の相関関係(二つの数値が同じ方向へ動く)で0.44と強め、S&P500種と金の相関関係は正でありながら、0.40へと7月半ば以来の弱さとなっていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は水曜日のFOMCに注目し、イングランド銀行と日銀同様に政策金利は据え置かれたものの、FOMCのタカ派的内容で貴金属価格は下げ幅を広げていました。

そこで、来週も主要中央銀行の政策金利に影響を与える指標が重要となり、木曜日の米第2四半期GDPとFRBがインフレ指標として注目する金曜日の個人消費支出PCEコアデフレーター等へ市場は注目することとなります。

詳細は主要経済指標(2023年9月25日~29日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、15会合ぶりに金利が据え置かれたイングランド銀行の政策金利発表、チャールズ国王がフランスの議会で演説をしたこと、そしてスナク首相が、気候変動対策の一環としてガソリン車とディーゼル車の新車販売の禁止の目標期限を2030年から2035年へと延期したことなどが大きく伝えられています。

そこで、本日はスナク首相の環境問題にかかわる今回の発表の背景や反響なども含めてご紹介しましょう。

まず、今回延期を決めた理由としては、消費者に過度の負担を強いるとして、ジョンソン元首相が目標期限を当初の2040年から、2035年、そして、第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)を前に主催国であったことからも、2030年へと早めたことは当初から「正しいとは思わなかった」と説明していました。

そして、電気自動車(EV)への選択を決めるのは消費者であるべきで政府が強制するべきではないと述べながらも、2050年までのネットゼロ達成は目指しているとも言明していました。

参考までに、ガソリン車とディーゼル車の新車販売禁止の他の主要国の目標期限を見てみましょう。

目標年 国名
2025年 ノルウェー
2030年 スウェーデン、オランダ、アイスランド、アイランド等
2035年 英国、ユーロ圏諸国(目標を案として合意)、韓国、シンガポール、中国及び日本(ハイブリットを除く)、米国(一部州のみ)
2035年~2040年 オーストラリア、ベルギー等
2040年 ドイツ(目標は2030年)、フランス、スペイン、カナダ、イスラエル、ニュージーランド、台湾等

 

この発表に対し、ジョンソン元首相、野党、環境活動家、そしてフォード車もこの変更へ反対姿勢を見せ、保守党内でも一部反発の声は上がっていますが、多くは他の主要国と比べても現実的であるという評価ではあるようです。

英国は2025年1月までに総選挙が行われます。

そこで、日々のニュースでは、多少価格上昇のペースは落ちてはいるものの、8月は前年同月比6.7%と高インフレが続いていることが大きく取り上げられていることからも、労働党に大きく支持率で差をつけられている与党保守党の票集めの一策とも一部メディアは伝えています。

パフォーマンス的な政策を打ち出していたジョンソン元首相、状況を見ずに猪突猛進しようとしていた前トラス首相を経て、政権を安定させることが第一とせざるを得なかったスナク首相がいよいよ彼の持ち味を出そうとしているであれば、その手法をしっかり拝見したいものです。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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