金市場ニュース

ニュースレター(2023年11月17日)インフレ鈍化と景気低迷観測で金は2週ぶりに週間の上昇

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1981ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から2.04%高で2週ぶりの週間の上昇で、ほぼ2週ぶりの高さへ上昇しいます。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から6.69%高のトロイオンスあたり24.00ドルとほぼ11週ぶりの高さで週間の上げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から5.91%高のトロイオンスあたり903ドルと週間で上昇しています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は7.79%高のトロイオンスあたり1045ドルと前週の2018年8月半ば以来の低さから上昇しています。

金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、市場注目の米消費者物価指数とそれに続いた卸売物価指数がインフレの鈍化を示唆するもので、それに加えて新規失業保険申請件数等の経済指標が米経済の停滞を示唆していたことで、FRBによる利上げがピークアウトし、翌年の利下げ観測が広がることで、全般大きく上昇することとなりました。

そこで、今週は先物市場のFRBの金利予想で来年5月に金利予想で、利下げ観測が6割を超えていますので、そのチャートを下記に添付します。ひと月前の利下げ予想は3割を切っていたことがご覧いただけます。

2024年5月のFOMCの政策金利予想 出典元 FEDWatchツール

なお、銀に関しては、今週業界団体のシルバーインスティチュートが2023年の銀需給レポートを発表し、昨年に続き供給不足が予想されていることもあり、金と比較しても上昇幅を広げて、金銀比価を83以下と9月末以来の低さへ押し下げています。

今週の金相場の動きと背景について

月曜日金価格は、重要経済指標やイベントがない中で、ドルと長期金利の動きに反応して、早朝トロイオンスあたり1928ドルへ一時下げた後に、1949ドルへと上昇後に1946ドルで終えていました。

なお、同日のドルと長期金利の動きの背景に、日本円が年初来の安値を付けた後に何らかの介入が入る観測で強含んだことにより、ドルが相対的に動いたためとも分析されていました。

火曜日金相場は、市場注目の米消費者物価指数が予想を下回り、FRBによる追加利上げ観測が後退し、ドルインデックスが1%を超えて下げて9月初旬以来の低さ、長期金利も19ベーシスポイント下げの9月下旬以来の低さへ下げる中で、一時15ドル近く上昇してトロイオンスあたり1970ドルを一時つけた後に1963ドルで終えていました。

この10月数値は前月比0.0%と予想の0.1%と前回0.4%を下回り、前年同月比も3.2%と予想の3.3%と前回の3.7%を下回り、コアにおいても前月比0.2%と予想と前回の0.3%を下回り、コア前年同月比は4.0%と予想と前回の4.1%を下回っていました。

そこで、12月のFOMCでの利上げ予想は発表直後に、前日のほぼ15%から5%強へ下げ、来年6月の利下げ予想は80%と、前日の60%強から増加していました。

水曜日金相場は、前日の基調を受け継いで1974ドルまで上昇後に、前日の終値から下げてトロイオンスあたり1959ドルで終えていました。

同日は米卸売物価指数が発表され、前日の消費者物価指数同様に、予想を下回り前月比0.5%下落と予想の0.1%上昇を下回り、物価上昇の鈍化を示していました。しかし、同時に発表された小売売上高は、前月比-0.1と前回修正値0.9%を下回っていたものの、予想の-0.3%を上回り、11月ニューヨーク連銀製造豪景気指数も予想の-2.8を大きく上回る9.8と米経済の底強さも示していました。

そこで、前日8月末以来の低さで一日の下げ幅としては2022年11月以来の大きさであったドルインデックスと9月半ば以来の低さへ下げていた米長期金利が前日終値比上昇に転じたことで、金は押し下げられていた模様です。

本日金曜日金相場は、ロンドン時間午前中にトロイオンスあたり1993ドルまで上昇後に、1982ドルまで戻して推移しています。

午前中の上昇は今週発表された経済指標が米国のインフレ鈍化、並びに景気停滞を示唆していたことで、FRBによる金利引き上げがピークアウトし、来年の利下げ観測が広がっていたためですが、本日発表された米住宅指標の住宅着工件数と建設許可件数が共に予想を上回ったことで、この観測が若干後退し、米長期金利が9月半以来の低さから上昇したことが背景の模様です。

しかし、ドルインデックスは引き続き9月半ば以来の低い水準であることから、下げ幅は限定的となっています。

なお、今週デイリー・サンフランシスコ連銀総裁による、インフレがFRB目標の2%へと向かっているとは、政策立案者は確信していないや、メスター・クリーブランド連銀総裁の最新の消費者物価指数のデータは評価するが、もっと多くのデータを見る必要があるというもの、コリンズ・ボストン連銀総裁は労働参加率が上昇することで労働市場の逼迫が解消されて経済が成長することが、必ずしもインフレを引き起こさないと述べるなど、タカ派とハト派的コメントが伝えられています。なお、先の高官は皆今年FOMCの投票権は保有していません。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 今週シルバーインスティチュートが発表した銀需要レポートで2023年の全体の需要は10%前年比下げると予想されているものの、工業用需要が史上最高となり、今年も前年に続き需要が供給を上回る供給不足が予想されていると伝えられていたこと。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、月曜日に最新データの11月7日分が発表され、FRB高官によるタカ派的発言等で価格が下げていた際に、全ての貴金属で弱気ポジションが増加していたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは4週連続でネットロングで3.4%減の327トンで、前週の7月25日以来の高さから下げていたことこと。この間建玉は1.2%減と前々週の5月半ば以来の高さから2週連続で下げ、価格は前週比1.81%安でトロイオンスあたり1960.70ドルとLBMAのPM価格の火曜日の価格において前週の5月16日以来の高さから下げていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、4週連続でネットロングで66%減の347トンと前週の9月初旬以来の高さから3週ぶりの低さへ下げていたこと。価格は2.84%安でトロイオンスあたり22.54ドルと前週の9月19日以来の高さから下げていたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、前週5週ぶりにネットロングへ転換したものの、再びネットショートへ転換して2.1トンとなっていたこと。価格は前週比4.36%安でトロイオンスあたり899ドルと前週の9月19日以来の高さから下げていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートで、5.8%増の32.6トンと2週ぶりに増加し、2006年に取引が開始されて以来の高さへと近づいていたこと。価格は前週比5.81%安でトロイオンスあたり107ドルと、2018年10月初旬以来の低さへと下げていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で2.3トン(0.27%)増で870.45トンと10月3日以来の高さで、3 週連続で週間の増加の傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.68トン(0.17%)減で400.48トンと引き続き2020年4月半ば以来の低い水準で、17週連続の週間の減少傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で75.51トン(0.55%)減で、13,652.46トンで、9月初旬以来の低さで週間の減少傾向。
  • 金銀比価は、今週87台後半で始まり、週半ばで83へ下げて本日82台半ばへと下げて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1085ドルで始まり、若干週半ばで下げたものの、本日1085ドルと、引き続きLBMA価格が発表された1990年以来の高さで終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは120ドルで始まり、本日151ドルと前週の2018年8月中ば以来の低さからは上昇しているものの、未だこの低い水準。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
  • 上海黄金交易所(SGE)は、週平均は54ドルと前週の48ドルから上昇して4週ぶりの高さ。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は16%減で、銀は16%増でほぼ3か月ぶりの高さ、プラチナは11%減、パラジウムは11%減。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は今週も正の相関関係で0.131と昨日多少強めた後に若干下げていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は11月14日から正の相関関係へ転換しているものの0.19と未だ弱い関係、S&P500種と金の相関関係は引き続き負の相関関係で、-0.49と前週から若干弱まっていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は火曜日の米消費者物価指数を含む、主要国のインフレ指標に市場は注目し、中銀高官のコメントを含めて、これらの国々での金融政策見通し観測で市場は動くこととなりました。来週もこの傾向は続くこととなります。

そこで、火曜日のFOMC議事要旨、水曜日の米新規失業保険申請件数、耐久財受注やミシガン大学消費者態度指数、そして木曜日と金曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMI等が重要となります。

詳細は主要経済指標(2023年11月20日~24日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、引き続きイスラエルとハマスの紛争が大きく伝えられていますが、ブレーバーマン英内務大臣更送を受けて行われた内閣改造のこと、またそこでキャメロン元首相が外相に就任したこと、そして英最高裁が難民のルワンダ移送を違法と判断したこと等がトップニュースで伝えられています。

そこで、本日は内閣改造関連ニュースについてお伝えしましょう。

まず、月曜日早朝に、先週ここでお伝えしたようにパレスチナ支持者の大規模デモをめぐり取り締まりを強めるよう警察に圧力をかけていたブレーバーマン氏が解任されたことが伝えられ、内閣改造がその後刻々と伝えられていました。そしてまず内相にクレバリー外相が就任したことが伝えられ、その後任としてキャメロン元首相が就任したことも伝えられ、大きな見出しと共にニュースサイトのトップで伝えられていました。

キャメロン元首相は、2016年に行われたEU離脱の国民投票実施し、国民投票でEU残留派を率いて戦ったもの離脱派に負け、その責任を取って辞任していました。

そこで、議会内残留派と離脱派からともに支持をされていないものの、中道派議員から支持はあるとのこと。しかし、ひと月前に行われた世論調査ではキャメロン氏に好印象を持っているのは24%と良くない印象の45%を下回っていたようです。

ちなみに元首相の閣僚起用は1960年代に首相を務めたアレックス・ダグラス=ヒューム氏の外相就任以来で前例はあるとのことです。

来年の総選挙を前に、野党労働党に20ポイント支持率で差をつけられている保守党は、何らかの巻き返しを必要としていますが、この内閣改造がその巻き返しになるのかというのは難しいところのようです。

保守党右派はブレーバーマン氏の解任を含めて今回の内閣改造への不満を高めており、右派を代表するブレーバーマン氏は、オープンレターという形式で新聞にスナク首相への厳しい批判を投稿し、党内の亀裂も深まりつつあります。

そのような中、昨日はスナク政権の移民政策の柱であった英国への不法入国者を抑制するためのルワンダへの難民移送が、最高裁で違法という判断が下りており、スナク首相にとって大きな痛手となっています。

野党労働党が、イスラエルとハマスの紛争の停戦に関して、党内で意見が分裂していることが保守党にとってはかすかな救いになってはいるようですが、スナク首相は今後も厳しい政権運営をせざるを得なくなりそうです。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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