ニュースレター(2023年7月28日)主要中銀の政策金利発表を経て、金は3週ぶりの週間の下げを記録
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1957ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.2%安と3週ぶりの下げとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から1.98%安のトロイオンスあたり24.24ドルと2週連続の週間の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から2.9%安のトロイオンスあたり933ドルと2週連続の週間の下げでとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は5.09%安のトロイオンスあたり1232ドルと3週ぶりの下落となっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週は、市場注目の米中銀のFOMCと欧州中央銀行の政策金利発表は、共に予想通りの0.25%の利上げで22年ぶりの高水準とし、今後の利上げはデータ次第とタカ派ともハト派とも取れる内容となっていましたが、市場はすでにこれらを価格に織り込んでいたことからも影響は限定的となっていました。
しかし、木曜日に発表された米GDPを含む経済指標が良好であったことで、貴金属価格は大きく下げ、本日の日銀のイールドカーブ・コントロールの柔軟化はサプライズであったものの、円建て金相場が、円が強含んだことで週間で1.14%安と、他の主要通貨のポンドが0.39%安、ユーロはユーロ安からも0.58%高としていたものと比較して、下げ幅をより大きくしていた以外は、影響はやはり限定的で終えることとなりそうです。
なお、今週下げ幅が他の主要通貨よりも大きくなった日本円ですが、2001年からの主要通貨の月末価格を指数化して表した下記のチャートをご覧いただくと、今年の日本円(赤)の上げ幅は14.38%と、他の通貨のドル建て(緑)の7.45%、ポンド(ピンク)の0.45%、ユーロ(青)の3.65%よりも引き続き大幅なものであることがご覧いただけます。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、ロンドン時間昼過ぎに発表された米国製造業PMIが予想を上回り、サービス部門PMIも予想を下回ったものの堅固さも見せたことで、午前中に発表されたユーロ圏のデータの弱さからすでに上昇していたドルインデックスが更に上昇し、金相場はトロイオンスあたり1954ドルで終えていました。
火曜日金相場は、翌日のFOMC後の政策金利発表とパウエルFRB議長のインタビューを待つ中で、トロイオンスあたり1965ドルと前日の終値から上昇して終えていました。
同日は午後にドルインデックスが6営業日ぶりに調整からも下げ、長期金利は横ばいで推移する中で金を押上げていました。
ちなみに、中国政府は経済成長への懸念が高まる中で、建設や企業投資関連の景気対策を前週金曜日から打ち出し、昨年11月以来の低さへ下げていた人民元が同日対ドル強含んいました。
金相場は同日夜のFOMC後の政策金利発表とパウエルFRB議長のインタビューを待つ中で、ドルと長期金利が若干下げ、トロイオンスあたり1973ドルへと上昇していました。
その後発表されたFOMC後の声明では、予想通り0.25%の利上げが行われ、パウエルFRB議長のインタビューでは、次回以降の利上げはデータ次第、年末以前の利下げはなし、景気後退なくインフレ率を目標値へ引き下げることができる、というハト派ともタカ派とも取れる内容でした。
そこで、金相場はトロイオンスあたり1978ドルまで上昇後1972ドルと前日終値からは上昇で終えていました。
木曜日金相場はロンドン時間午後に発表された米経済指標が予想を上回り、ドルと長期金利が上昇へ転じたことで、トロイオンスあたり1947ドルへ2週ぶりの低さへと下げて終えていました。
同日発表の経済指標は米第2四半期GDPで前期比年率2.4%増と前回の2.0%と予想の1.8%を上回り、耐久財受注と新規失業保険申請件数も経済の堅調さを見せるものであったことが、ドルと長期金利の上昇の背景となりました。
ちなみに、同日の欧州中央銀行の政策金利発表では、予想どおり0.25%の利上げで中銀預金金利を3.75%とユーロ導入以来の最高値とし、ラガルドECB総裁は今後の利上げはデータ次第とし、インフレを2%へ抑えるまでは、長期の高い水準の金利を継続とコメントしていましたが、市場への影響は限定的となっていました。
本日金曜日金相場は、本日発表の米指標が予想を下回りドルと長期金利が若干下げる中で、トロイオンスあたり1960ドル前後へ上昇して推移しています。
本日発表された指標は、FRBがインフレデータとして注目する個人消費支出コア・デフレーターで、4.1%と前回の4.6%と予想の4.2%も下回っていました。
なお、ドル・円は前日ロンドン時間終了後に日経新聞が本日の日銀の金融政策決定会合の結果発表前に、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール:YCC)の修正を議論すると伝え、実際に本日日銀はYCCの運用の柔軟化を決めて0.5%を目処で1%を事実上の上限としたことで、円が対ドル138円と強含み、10年物国債利回りも一時0.575%と約8年10ヶ月ぶりの水準へと上昇していました。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの7月18日分が発表され、米国経済データの鉱工業生産や小売売上高が予想を下回ったことから金価格が上昇していた際に、金と銀はネットロングポジションを増加させ、プラチナは2週ぶりにネットロングへと転換し、パラジウムのネットショートポジションは、2006年6月に記録を開始して以来の高い規模から3週ぶりに減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から35%増で422.7トンと3週連続で増加して5月9日の週ぶりの大きさ。この間建玉は、2.99%増と3週連続で2月末以来の低さから増加し、価格は前週比2.12%高でトロイオンスあたり1975ドルと3週連続で上昇して5月16日以来の高さとなっていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週比373%増の4746トンと2022年4月19日の週以来の高さへ上昇していたこと。価格は7.56%高でトロイオンスあたり24.89ドルと週間の上げ幅が10月初旬以来の大きさとなっていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、2週ぶりにネットロングへ転換してそのポジションは11.4トン。価格は前週比6.04%高でトロイオンスあたり983ドルと昨年10月25日以来の低さから6月13日以来の高さへと急騰していたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、1.7%減の24.13トンと。記録が始まった2006年6月以来の大きさから減少していたこと。価格は前週比6.63%高でトロイオンスあたり1318ドルと2018年11月27日以来の低さから2週連続で上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で3.2トン(0.3%)減で915.82トンと、前週金曜日に5.2トン(0.57%)増加して4週ぶりに週間の増加後、週間の減少の傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で1.21トン(0.27%)減で444.81トンと、前週7週ぶりの週間の上げた後に週間の減少傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で42.81トン(0.3%)減で14,056.60トンと、5週連続の週間の減少傾向で5月20日以来の低さ。
- 金銀比価は、今週79台後半で始まり、本日80後半と2週間ぶりの高さへ上昇して終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1000ドルで始まり、本日1009ドルへとほぼ3週ぶりの高さへ上げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、320ドルで始まり、昨日290ドルと2018年11月以来の低さへ下げて、本日若干上昇して終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、週平均で22.88ドルと今年3月10日の週以来へ前週の16.15ドルから上昇していること。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週平均比で、金は40%増で4ヶ月ぶりの高さ、銀は35%増、プラチナは7%増、パラジウムも49%増と、今週重要イベント後価格が昨日大きく動いたことからも上昇していること。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は昨日のFOMC、本日の欧州中銀の政策金利発表に加え、本日の日銀と重要イベントが続いていましたが、前日の良好な米第2四半期GDPでFRBのさらなる利上げ観測が広がり、金価格を大きく動かしていました。
そこで、来週も主要中央銀行の今後の政策金利観測に関わるイベントや指標が重要となり、木曜日のイングランド銀行の政策金利発表と金曜日の米雇用統計へ市場は注目することとなります。
その他、直近で経済指標の悪化が目立つドイツやユーロ関連指標も市場を動かす可能性があり、月曜日のユーロ圏GDPと消費者物価指数、火曜日の主要国製造業PMIや米ISM製造業景教指数や米雇用動態調査(JOLTS)求人件数、水曜日の米雇用統計の先行指標とも見られているADP雇用統計、木曜日の主要国サービス部門PMIと米新規失業者数も重要となります。
詳細は主要経済指標(2023年7月31日~8月4日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週火曜日に発表されたブリオンボールトの顧客アンケートの結果が、時事通信の購読者向けサイト時事速報ロンドン版で紹介されました。
ここで、2023年末の価格予想が10%高のトロイオンスあたり2125ドルであったことを紹介し、貴金属を購入する重要な目的や価格に影響を与える主要因などのアンケート結果も伝えています。
この記事は、英国日本人コミュニティー向け新聞の英国ニュースダイジェストでも「個人投資家の半数、金に強気―英ブリオンボールト調べ」と取り上げられています。
この詳細については、弊社での詳細をお伝えしていますので、2023年下半期の金投資について:顧客アンケート調査結果をご覧ください。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年7月24日~28日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年7月31日~8月4日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーニュース(2023年7月24日)コメックスの金先物の強気ポジションが急増し、金ETFの残高が増加する中で、FRB、ECBの政策金利発表前の経済指標悪化で金は堅固な動きとなる
- 2023年下半期の金投資について:顧客アンケート調査結果
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、前週末の全英ゴルフや本日イングランドがグループステージでデンマークに勝利を収めたFIFA女子サッカートーナメント、ロンドン市内の排ガス基準に適合しない車に通行料を課す「超低排出ゾーン」関連法廷闘争について、そしてナットウェストのCEOが辞任に追い込まれた、イギリス独立党のナィジェル・ファラージ元党首の銀行口座閉鎖を巡る問題等が大きく伝えられています。
そこで、現在も進行中ではありますが、このファラージ氏の銀行口座閉鎖関連ニュースを現時点まででまとめてみましょう。
ファラージ氏は、高校卒業後にロンドン金融街の投資銀行等のコモディティー取引部門で働いた後に、1999年からは欧州議会議員を5期務め、2006年からは、英国の欧州懐疑主義を掲げてEU離脱を公約とするイギリス独立党の党首を務めていました。
そして、彼の優れたディベート力や発信力からもイギリス独立党は知名度を高めて、党派を超えて欧州懐疑派を取り込んでいたことなどからも、キャメロン元首相が2016年に行われた英国のEU離脱を問う国民投票をせざるを得なくした流れを作った背景とも考えられています。
しかし、米トランプ前大統領と親しいことなどや、歯に衣を着せぬ話し方を嫌う人も多く、特にEU残留派の人々は、英国をEU離脱に導いた許せない政治家とも見ています。
今回は、ファラージ氏が保有していた英銀ナットウェスト傘下のプライベートバンクのクーツの銀行口座が6月に閉鎖され、同氏が多くのメディアを介して、政治的理由が背景と主張してその理不尽さを訴えていました。
当初メディアは口座閉鎖の理由はクーツでは100万ポンド(1億8千万円)に至らない口座は保有ができないため、ファラージ氏の残高がこの額に至らなかった商業的理由と伝えていました。
しかし、ファラージ氏が入手した内部文書では、クーツの風評リスク委員会が同氏の価値観と銀行の価値観が一致しないと判断していたことが明らかとなり、先の商業的理由と伝えていたBBCの情報入手先がナットウエストのCEOのアリソン・ローズ氏であったことが明らかとなり、個人情報保護方針からも問題となっていました。
そこでローズ氏が25日にBBCに話したことを認めたことで、翌朝辞任し、BBCも報道が正しくなかったことを謝罪し、昨日はクーツのCEOも責任を取って辞任しています。
英国の金融行動監視機構(FCA)は、ナットウエストの取締役会に対し、この問題を調査することを求め、グリフィス金融サービス相は今週銀行関係者と面会し、政治的見解を理由に銀行が口座を閉鎖したことを協議したと伝えられています。
多くの金融機関は、金融庁が不正資金洗浄法とテロ資金供与対策の取締を厳しくすることで、コンプライアンス部門はハイリスクな顧客等の取り扱いに神経質になっています。
しかし言論の自由を認める英国で、価値観の違いで銀行口座が閉鎖されるということは、問題であると政府及び金融庁も考えているようです。
ファラージ氏は、この問題が発生して以来、銀行によって口座を理不尽に閉鎖された軍人や母子家庭の母親等を同氏がプレゼンターを務めるニュース番組等でも取り上げ、この問題が必ずしもファラージ氏に限らない事も含めて社会に知らしめようとしています。
同氏の価値観を必ずしも共有しない人々にとっても、今回の一件は銀行による行き過ぎた行為とも思われ始めているようで、多くの人々が今後の成り行きに注目をしているようです。