金市場ニュース

ニュースレター(2023年8月25日)金価格は経済指標悪化の上げ幅をパウエルFRB議長のスピーチで削る

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1916ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から1.2%高と4週ぶりの上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から6.2%高のトロイオンスあたり24.20ドルと2週連続の上げで3週ぶりの高さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から5.1%高のトロイオンスあたり950ドルと5週ぶりの週間の上げほぼ4週ぶりの高さとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は0.47%高のトロイオンスあたり1235ドルと週間の下げとなっています。

金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、前週までに主要中央銀行のさらなる利上げ観測で、長期金利が16年ぶり、ドル2か月ぶりの高さへ強含む中で、金においては5か月ぶりの低さへ大きく下げていたことからも、自律的反発で上昇で始まっていました。

その後、水曜日の主要国の購買担当者景気指数(PMI)が悪化していたことで、主要国の利上げ停止観測から上昇をしていましたが、本日のジャクソンホールでのパウエルFRB議長のスピーチでさらなる利上げの可能性が言及され、全般タカ派的という解釈で、上げ幅を削って終える傾向となっています。

なお、銀価格は今週金を上回るペースで上昇していたことから、金銀比価が79と7月末の低い水準と銀の割安さが軽減されていました。

今週の貴金属価格の上げは、コメックスの先物・オプション市場でショートポジションが増加していたことからも、価格の上昇時に起こるショートカバーでさらなる価格の上昇が起きているようでした。

今週末に今週火曜日までのデータが発表されますが、前週火曜日の段階で金と銀のショートポジションは今年米シリコンバレーバンクの破綻で地域銀行の危機が高まる前の3月上旬の高さへ上昇し、銀においては資金運用業者のネットポジションがネットショートでマイナス1040トンと3月初旬以来の高さへと増加していました。つまりは、上昇のエネルギーを蓄えていたという事になります。そこで、今週はコメックスの銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションの推移のチャートを下記に添付します。

コメックスの銀先物・オプションの資金運用業者のネットポジションと銀価格の推移 出典元 ブリオンボールト

なお、プラチナとパラジウムも先物・オプションの資金運用業者のネットポジションはネットショートで、プラチナは昨年9月初旬以来の大きさ、パラジウムはほぼ記録が始まって以来の高さとなっていました。

今週の金相場の動きと背景について

週明け月曜日は、取引開始後トロイオンスあたり1884ドルと5か月ぶりの低値を更新後に、ロンドン昼過ぎに1898ドルへと上昇した後に1896ドルで終えていました。

この動きは、長期金利が2007年11月以来の高い水準で推移する中で、ドルが高い水準ながらも若干下げていたことで、安値の買いが入っていた模様です。

同日は、午前中に中国の予想を下回る利下げで為替市場を多少動かしていましたが、週後半のジャクソンホールでのパウエル議長のタカ派的コメントへの警戒感からも長期金利が上げ幅を広げていました。

火曜日金相場は、前日の上げ基調を受け継ぎトロイオンスあたり1904ドルへと一時上昇したものの、1898ドルへ押し下げられて終えていました。

同日はドルが2か月ぶりの高値を再びつけていたものの、前日16年ぶりの高値を付けた長期金利が若干下げたことに金は反応していたようです。

なお、同日は今年FOMCで投票権は持っていないものの、中道とみられているリッチモンド連銀バーキン総裁が、FRBが国民の信頼を維持するためには、2%のインフレ目標を守る必要があると述べたことが伝えられていたことは、金の頭を押さえていた模様です。

水曜日金相場は、欧米の経済指標が悪化していたことから、中央銀行の利上げ停止観測が広がり、トロイオンスあたり1920ドルと8月11日以来の高さへ一時上昇して1918ドルで終えていました。

発表された経済指標は製造業及びサービス部門のPMI(購買担当者景気指数)で、ドイツ、英国、ユーロ圏は全て経済の縮小を示す50を下回り、米国は50を上回っていたものの、予想と前回を下回っていました。また、欧州の総合PMIはパンデミック時を除くと2013年4月以来の低さとなっていました。

また、コメックス先物・オプション市場で、ショートポジションが積み重なっていたことからも、ショートカバーが価格を押し上げていた模様です。

木曜日金相場は、前日の上げ基調を受け継いでトロイオンスあたり1922ドルまで上昇後に米指標発表後上げ幅を失い1916ドルへと下げて終えていました。

同日発表された米指標は、耐久財受注で前月修正値の4.4%と予想の-4.0%を下回る‐5.0%と、パンデミック中の2020年4月以来の下げのペースとなっていました。

しかし、新規失業保険申請件数は予想と前回修正値の24万件を下回り23万件であったこと、そして同日FRB高官がタカ派的コメントをしたことが伝えられて、前日のPMIの悪化でFRBによる利上げ停止観測が広がっていたものの、ドルと長期金利が上昇したことからも上げ幅を失うこととなったようです。

このFRB高官は、今年のFOMCで投票権を持たないボストン連銀のコリンズ総裁が、さらなる利上げの可能性に言及したこと、そして、今年投票権を持つフィラデルフィア連銀のハーカー総裁は年内に追加利上げを実施する必要があるとは想定していないと述べたものの、利下げの時期については準備ができていないとしたことが伝われていました。

本日金曜日注目のパウエルFRB議長のスピーチがジャクソンホールのシンポジウムで行われ、ドルと金利が神経質に動いた後に上昇に転じたことからも、金価格はトロイオンスあたり1910ドル前後へ押し下げられています。

パウエル議長は、「さらなる利上げの用意はある」とし、インフレ鎮圧には「まだ長い道のりがある」と強調するなど、タカ派的発言との解釈となった模様です。一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの8月15日分が発表され、中国のサプライズ利下げと良好な米小売売上高で価格が抑えられた際に、パラジウムを除き強気ポジションが減少していたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から38%減で145トンと4週連続で減少して、米地域銀行危機以前の3月初旬以来の低さだったこと。この間建玉は、1.9%増と3週ぶりに増加し、価格は前週比1.2%安でトロイオンスあたり1903.85ドルと4週連続で下げて、3月初旬以来の低さとなっていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、2週連続でネットショートで、78%増の1040トンと3月初旬以来の高さとなっていたこと。価格は1.2%安でトロイオンスあたり22.41ドルと下げて3月半ば以来の低さとなっていたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、2週連続でネットショートで、59%増の20.6トンと、昨年9月初旬以来の高さ。価格は前週比1.8%安でトロイオンスあたり890ドルと4週連続で下げて、昨年9月末以来の低さとなっていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、12%減の26.6トンと3週ぶりに減少して2006年以来の大きさから下げていたこと。価格は前週比2.6%高でトロイオンスあたり1240ドルと3週ぶりに上昇していたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で6.1トン(0.7%)減で884.09トンと2020年1月16日以来の低さへ下げて、5週連続の週間の減少の傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で1.7トン(0.4%)減で437.03トンと、2020年5月21日以来の低さへ下げて、5週連続の週間の減少傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で162.6トン(1.16%)減で13,876.67トンで、2020年5月19日以来の低さで、2週連続の週間の減少傾向。
  • 金銀比価は、今週82台後半で始まり本日79台前半へ下げて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、981ドルで始まり、昨日990まで上げたものの、本日974ドルへとほぼ2か月ぶりの低さへ下げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは335ドルで始まり、本日302ドルと一月ぶりの低さへ下げて終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
  • 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、人民元がドルに対し建て昨年11月以来の弱さから若干強含む中で、週平均で51.55ドルと2016年に記録がつけられて以来の高さへ上昇していること。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は1%増で未だ前年平均を下回る低い水準。銀は36%増、プラチナは9%増、パラジウムは104%増。木曜日の取引量はロシアがウクライナに侵攻した際以来の高さ。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は今週-0.88まで前週の-0.91から負の相関関係を弱める。(負の相関関係は-1の場合二つが相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金も-0.93から-0.78へ弱め、S&P500種と金の相関関係も0.93から0.89と正の相関関係ながらその関係を若干弱めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週はジャクソンホールのパウエルFRB議長のスピーチに市場は注目する中で、水曜日の主要国の購買担当者景気指数(PMI)が悪化していたことから、主要国の利上げピークアウト観測で金価格が上昇していましたが、来週も主要国の金融政策に影響を与える指標に市場を注目することとなります。

そこで、火曜日の米雇用動態調査(Jolt)、水曜日の米ADP雇用統計、木曜日のユーロ圏消費者物価指数、そしてFRBがインフレ指標として重要視する個人消費支出コアデフレーター、金曜日の米雇用統計と重要指標が続くこととなります。

詳細は主要経済指標(2023年8月28日~9月1日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、週末に惜しくも決勝で敗退したサッカーの女子ワールドカップのイングランドチームについてとスペインのサッカー連盟会長の問題行為に絡む処分について、義務教育終了後の全国学力試験(GCSE)の結果について、またロシアの、民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が搭乗していた飛行機が墜落して同氏が死亡したこと等が大きく伝えられています。

そのような中、世界の観光客が訪れる大英博物館の所蔵品が紛失、盗難、もしくは損傷されたとして、職員一人が解雇され、本日は館長が責任をとって退任したことが伝えられていますのでご紹介しましょう。

大英博物館の所蔵品としては、古代ギリシャ・アテネのパルテノン神殿を飾っていた「エルギン・マーブル」やエジプトで発見されたエジプトの神聖文字(ヒエログリフ)、民衆文字(デモティック)、ギリシャ文字の3種類で記述されているロゼッタストーン等が有名ですが、約800万点の歴史的価値のあるものが揃っているとのこと。

今回紛失しているのは、先の所蔵品の大半が収められている保管室に会った金、宝飾品等とのことです。

今回ハルトヴィヒ・フィッシャー館長が退任したのは、2021年にすでに所蔵品が紛失していることがアンティークディラーによって報告されていたにもかかわらず、十分な対応が行われていなかったどころか、その事実を隠そうとしていたことが明らかになったからとのこと。

ちなみに、盗まれた所蔵品のいくつかはeBayなどで本来の価値よりもかなり低い価格で売却がされていたとのことです。

弊社は今年5月から8月まで行われていたLuxury and power:Persia to Greeceを共催し、大英博物館で働くキュレーターやマーケティング方々とも知り合う機会があったことから、個人的にもこのニュースは驚きであるとともに、興味深く追っていました。

近年大英博物館が所蔵する品々、特にエルギンマーブルについてはギリシャによって返還が求められていますが、かつて財務大臣も務めた大英博物館のオズボーン理事長は、一つを返還すると多くの所蔵品の返還要求が起こる可能性があるとし、ギリシャへの貸し出しの可能性は否定はしないものの、恒久的な返還は無いとしています。

先の近年の動きについて弊社が共催したエキジビションのキュレーターのJamie Fraser氏に意見を聞いたところ、彼は大英博物館に多くの時代と国を超えた所蔵品があるからこそ、より深い歴史を通した大きな枠組みで見た展示を行うことができ、それを常設展では無料で世界からの訪問者の人々に見せることができ、このためにも所蔵品は大英博物館が保有し続けるべきと述べていました。

大英博物館は警察と協力して、今後時間をかけてでも紛失、盗難している所蔵品を取り戻すとコメントを発表していますが、それが実現することを祈る限りです。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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