ニュースレター(2023年4月14日)米インフレ鈍化でFRB利上げ終了が近い観測からも金価格は上昇
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり2024ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から1.09%高で昨年3月初旬以来の高さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から4.39%高のトロイオンスあたり26.03ドルと3週連続の週間の上げで2022年4月以来の高さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から4.38%高のトロイオンスあたり1043ドルと3週連続の週間の上昇で1月末以来の高さとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は2.99%高のトロイオンスあたり1488と3月末以来の高さとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、重要指標である米国消費者物価指数と卸売物価指数がインフレ鈍化を示唆し、FRBによる利上げが近い将来に終了する観測が広がり上昇をしていました。
しかし、3月に入りシリコンバレーバンクをきっかけとした銀行不安や経済指標悪化によるFRBによる利上げが近い将来終了する観測などからも3月に金はドル建てで8.5%上昇するなど急激な動きとしており、本日はFRBの理事のタカ派的コメントで次回5月に続き6月のFRBによる利上げ観測も広がっており、ドルと長期金利が上昇してロンドン時間夕方に今週の上げ幅を失って2000ドル前後まで押し戻されています。
ちなみに、一般的に現物の需要は金の底値を支えるとされ、金価格に大きく影響を与えるのは派生商品の動きとされていますが、前週火曜日の段階で金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジション(ロングからショートを差し引いたポジション)は、前年3月のウクライナ戦争勃発時以来の高さに増加するなど、かなり強気となっていました。
そこで、今週のチャートはコメックスの金先物・オプションの資金運用業者のネットポジションと金価格の動きを示すものをお届けしましょう。
そこで、本日の動きはこのロングが調整されたものと思われます。
今週の金相場の動きと背景について
欧州がイースター休暇中の月曜日は、イースター中に発表された米雇用統計が良好であったことからも、前週終値から下げてトロイオンスあたり1992ドルで終えていました。
金曜日に発表された非農業部門雇用者数は23.6万人と予想の23.8万人から若干下げていたものの、堅調な労働需要が確認されていました。また、失業率は3.6%から3.5%へと低下し、平均時給は前年同月比で4.2%と前月の4.6%から下げていました。そこで、次回5月のFOMCにおけるる利上げ観測が広がり、ドルと長期金利が上昇することで金相場は2000ドルを割って押し下げられることとなりました。
火曜日の金相場は、翌日の米消費物価指数の発表を前に、緩やかに上昇してトロイオンスあたり2004ドルで終えていました。
同日の上昇は、前日の下げの調整の動きのようでしたが、IMFが金融不安の影響で強い信用収縮や株安が重なれば、2023年は世界の成長率が1970年以降5回しかない2%割れになるとの試算を示したこともあり、米長期金利は多少上昇しているものの、米株価が全般下げていることもあり、金は堅固な動きを見せていました。
なお、同日日本円建て金相場は、円が対ドル弱含んでいることからも、gあたり8621円と史上最高値を更新していました。
この円安は昨日の植田日銀新総裁が就任会員で現行の大規模な金融緩和を継続する考えを示したことが背景となりました。
水曜日金相場は、市場注目の米消費者物価指数発表後に一時トロイオンスあたり20ドルほど急騰して2028ドルをつけた後に上げ幅をほぼ失うなど神経質な動きをした後に、前回FOMC議事録発表後に上昇を始めて2018ドルで終えていました。
同日発表された米消費者物価指数は前年同月比5%と前回の6%と予想の5.2%を下回っていましたが、コアは5.6%と予想と同レベルで前回の5.5%を上回っており、FRBによる利上げはピーク近いという観測であるものの、次回5月は0.25%の引き上げ予想が引き続き7割となっていることからも、金価格は上昇したものの上げ幅を失っていました。
また、同日夕方に発表された前回FOMCの議事録では、「多くの参加者が銀行不安後に金利目標を下げた」、また「今年後半からの穏やかなリセッションを予測」というハト派的内容が注目されて上昇基調となっていました。
なお、前日gあたり8626円と史上最高値を更新していた円建て金相場は、同日ロンドン時間午前中に再び8691円と最高値を更新していました。
木曜日金相場は、前日の米消費者物価指数に続き、重要指標の米卸売物価指数が発表され、インフレ鈍化が見られたこともあり、トロイオンスあたり2048ドルまで一時上昇後に2039ドルへ戻して昨年のウクライナ戦争勃発後の高値以来の高さで終えていました。
この卸売物価指数は前月比0.5%減と予想の0.0%を下回り、コア指数もまた0.1%減と0.3%を下回っていました。また、新規失業保険申請件数もまた、23.9万件と予想の23.2万件と前回22.8万件を上回っていたことからも、FRBの利上げ長期化懸念が後退したことが背景となりました。
なお、同日日本円建て金相場は再び史上最高値のgあたり8718円を記録していました。
本日金曜日金相場は、ロンドン時間午後にドルと長期金利が上昇したことで、トロイオンスあたり1997ドルまで下げて推移しています。
この背景は、クリストファー・ウォーラーFRB理事がインフレに対応するために、さらなる利上げを望むと述べたことが伝わり、次回5月のFOMCに続き6月にも利上げが行われる観測が急速に広がっていることからのようです。
そこで、ドルインデックスが今週の米消費者物価指数と卸売物価指数の鈍化で下げる前の水準、長期金利が3月末の水準へ上昇しています。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの4 月4日分が発表され、JOLTS求人労働移動調査の数値が予想を下回り、米経済停滞でFRBの長期の利上げ観測が後退して価格が上昇する中で、金と銀は4週続けて強気ポジションを増加させ、プラチナも2週ぶりに強気ポジションを増加させ、パラジウムのみが9週連続で弱気ポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から11%増加して451トンと、ロシアのウクライナ侵攻に対して欧米が経済制裁をしたことで強気ポジションが急増していたた前年3月半ば以来の高さへ急増していたこと。この間建玉は、5%増と前年4月半ば以来の高さへ増加し、価格は前週比2.4%高でトロイオンスあたり2009.60ドルへと上げてLBMA価格では2020年3月初旬以来の高さとなっていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは3週連続でネットロングで、前週比80%増の3032トンと1月末以来の高さ。価格は4.2%高でトロイオンスあたり24.02ドルと5週連続に上昇して昨年4月半ば以来の高さとなっていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、291%増で13.7トンと1月後半以来の高さ。価格は前週比4.7%高でトロイオンスあたり1001ドルと2週ぶりの上昇で前年11月半ば以来の高さ。
- コメックスのパラジウム先物・オプションのネットショートで、1.1%増の2.89トンと9週連続で増加して12月末以来の大きさへ増加。価格は前週比4.7%高でトロイオンスあたり1482ドルと2週ぶりの高さ。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で0.3トン(0.03%)減で930.61トンと、4週ぶりに週間の下げの傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で1.18トン(0.26%)増で448.33トンと2月半ば以来の高さで、5週連続の週間の上昇傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で74.31トン(0.51%)増で14,649ンと、3週連続の週間の増加傾向。
- 金銀比価は、今週79台後半で始まり、本日78台後半まで下げて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、994ドルで始まり、その後1000ドルを超えて、本日再び998まで下げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、435で始まり徐々に上げて本日448と6営業日ぶりの高さで終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、今週人民元建て価格が3日連続で史上最高値をつける中で、週間の平均が4.95ドルと前年7月初旬以来の低さで、前週の7.55ドルから下げていること。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は昨日までで、金を除くすべての貴金属で上昇し、金は11%減、銀は18%増、プラチナが4%増、パラジウムは11%増。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は米消費者物価指数と卸売物価指数の結果で市場が動いていましたが、その後FRBの交換のコメントで戻すこととなりました。そこで、来週も引き続き主要中央銀行の金融政策に影響を与える経済指標やFRB高官のコメントが重要となります。
そこで、月曜日の米ニューヨーク連銀製造業景気指数、水曜日の英国とユーロ圏の消費者物価指数、米地区連銀経済報告、木曜日の米新規失業保険申請件数、金曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMI等となります。
詳細は、主要経済指標(2023年4月17日~21日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
主要米経済サイトのMarketWatchが昨日金先物価格が史上2番めの高さをつけたことを伝える記事で弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントを紹介しています。
ここで、米卸売物価指数(PPI)が3年ぶりの大きな下げを見せたことを伝え、FRBの金融政策が引締めから緩和へ向かう可能性を市場に示唆したとし、エィドリアンの下記のコメントを引用しています。
「PPIデータに対する金の反応は、現在の上昇が、実際の地金に対する需要よりも、FRBの利下げへの期待によって、金派生商品市場に牽引されていることを物語っています。しかし、今のところ現物市場は明らかに2,000ドル以上の上昇を飲み込んでいる。(利益確定の売却をしている。)」
また、イースター休暇前にには、時事通信社が購読者向けのコモディティーニュースの金価格の動きを伝える記事で、弊社の金投資家インデックス記事で伝えている「中央銀行の記録的な金需要に加えて、新規の個人投資家による金地金購入などの動きからも金価格の底堅さは継続する」のコメントを紹介していました。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年4月10日~14日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年4月17日~21日)来週の予定をまとめています。
- 【金投資家インデックス】価格急騰で利益確定の売却は記録的な水準となったものの、新規顧客は倍増
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国ではバイデン米大統領の北アイルランドとアイルランド訪問について、チャールズ国王の戴冠式の詳細、そして今週4日間行われた若手医師のストライキやファッション・デザイナーのマリー・クワント氏が死去したことについて大きく伝えられています。
そこで、しばらくお伝えしていなかった英国の王室関連話題を取り上げてみましょう。
今週伝えられていたチャールズ国王の戴冠式の詳細は、戴冠式の5月6日当日のチャールズ国王とカミラ王妃のバッキンガム宮殿からウェストミンスター寺院へ向かうルートとその際に利用する馬車の詳細、当日着用される王冠等でした。
同日使われる馬車は故エリザベス女王の即位60年を記念して作られたよりモダンでエアコンがついているものを行きに使い、1830年以来全てのイギリス王の戴冠式で使用されたものをより短い距離の帰りに利用するとのこと。
また、戴冠式の規模は前回の故エリザベス女王の際よりも縮小して行われることは別途伝えられていました。
そして、昨日はヘンリー王子が一人で戴冠式に出席することが発表されていました。
公務を退いているヘンリー王子とメーガン妃については、個人的にあまり関心が無いのですが、ご夫妻のネットフリックのドキュメンタリー番組やヘンリー王子の回顧録などを、英国メディアは大きく取り上げていたことから、引き続き王室内の確執などに注目をしているようです。
今月王室関連で発表されて興味深かったのは、チャールズ国王が17~18世紀における英国王室と奴隷貿易の関係を探る独立した調査に協力をすると発表したことでした。
英国は18世紀の世界大戦ともされている七年戦争を経て世界商業の覇権を握り、広大な植民地帝国を形成し奴隷貿易を軸に大きな利益得たとされています。
現在英国を含む14カ国の英連邦王国の国々がチャールズ国王を国家元首としています。そして、チャールズ国王は立憲君主制か共和制かについては、英連邦の各国が独自に判断すべきであると述べているとのこと。
それは、英連邦の組織の始まりが「歴史の中で最も苦しい時期に深く関わっている」ことを理解し、過去の過ちを認めることやその議論を始める時期であると認識しているためとのこと。
古くからの伝統を守りながらも、新しい王室のあり方を見出そうという国王の意思表示なのでしょう。まずは、メディアの雑音に振り回されること無く、一歩一歩ご自身の王室を作り上げてもらいたいと思います。