ニュースレター(2023年12月1日)政策金利が高く長く継続される観測が後退し、金価格は月末価格で史上最高値へ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり2046ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から2.29%高で3週連続の週間の上昇で、米国の地銀破綻による金融危機懸念で史上最高値を付けた5月初旬以来の高さへ上昇しいます。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から0.78%高のトロイオンスあたり25.16ドルと7月下旬以来の高さで週間の上昇となっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から1.88%高のトロイオンスあたり929ドルと3週連続で週間の上昇となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は3.50%安のトロイオンスあたり1011ドルと2週ぶりの週間の下落で2018年9月以来の低さとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属価格はパラジウムを除き、FRBの利上げ終了及び来年早ければ5月の利下げ観測が広がることで、大きく上昇することとなりました。
この背景は、主要国のインフレ指標がインフレ鈍化を示し、経済指標では景気がリセッションに行かないほどのスローダウンを示唆していること、そして、FRB高官が相次いで現在の金融政策がインフレを目標水準へ落とす適度なものであるとコメントしていたことからでした。
そこで、ドルと米長期金利がそれぞれ今年8月と9月以来の低さへ下げる中で、ドル建て金価格が心理的節目のトロイオンスあたり2000ドルを超えて維持したことで更なる上値を追うこととなった模様です。
本日のチャートとしては、昨日が11月末でしたので、主要通貨建ての金価格の月末価格の推移のチャートをお届けします。ここで、ドル建てに関しては月末で史上最高値を更新していることが見られます。他の通貨においては引き続き高い水準であるものの、対ドル強含んだことでそれぞれの通貨建ての金価格は引き続き史上最高値水準であるものの10月末から若干下げていることが分かります。
なお、パラジウムの下げは、需要の8割がガソリン車の排ガス触媒であり、電気自動車への移行による需要減少観測と、ロシアのウクライナ侵攻以来パラジウム価格が急騰したことと、ロシアが供給の4割を超えていることもあり、経済制裁の関係からも、パラジウム利用を避けて、プラチナなどの他の金属に取り換えることが進んでいることも背景と伝えられています。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、ハマスとイスラエルの停戦延長の可能性が週末に伝えられる中で、前週2000ドルを維持して終えた後に6か月ぶりの高値のトロイオンスあたり2017ドルをロンドン時間早朝につけて押し下げられたものの、再び上昇に転じて2017ドルで終えていました。
これは、直近の経済指標がインフレ鈍化、景気低迷を示唆し、FRBを含む主要中央銀行の金利引き上げが終わり、来年以降引き下げに入る観測の広がりが背景となっていました。
火曜日金相場はドルが8月来、長期金利が9月来の低さへ下げる中で、トロイオンスあたり2041ドルと、5月初旬の米地域銀行の破綻以降の金融危機懸念で急騰して史上最高値の2078ドルをつけた直後以来の高さへと急騰して、2049ドルで終えていました。
これは、同日FRB高官の講演が多く行われる中で、ウォーラーFRB理事が、「現行の金融政策が景気を減速させ、インフレ率を2%に戻すに十分な位置にあるという確信を強めている」と述べ、グールズビー・シカゴ連銀総裁も現行のインフレの高さに懸念を示しながらも「2023年にはインフレ率が過去71年間で最も低下する方向にある」と述べたことが背景となっていました。
水曜日金相場はドルと長期金利がFRBによる利上げ終了と来年の利下げ観測が広がる中で前日の数か月ぶりの低さからさらに下げ、トロイオンスあたり2051ドルまで一時上昇後、2046ドルで終えていました。
これは、同日発表された米第3四半期GDPが5.2%と2年ぶりの高さとなり、四半期コアPCEが若干下げて2.3%となっていたことで、FRBの金融政策が緩和へ向かうという観測が広がったことからでした。
また、同日もFRB高官のコメントが伝えられ、ボスティック・アトランタ連銀総裁は、前日のウォーラー理事に近いコメントで、インフレがしっかりと下降線をたどっているという確信を深めていると述べていたことも先の観測をさらに広げたようです。しかし、リッチモンド連銀のバーキン総裁は中央銀行は利上げの選択肢を残すべきと述べていました。
木曜日金相場は、ドルと長期金利がそれぞれ8月と9月以来の低さから多少上昇に転じる中で、トロイオンスあたり2042ドルと前日終値から多少下げて終えていました。
同日発表されたFRBが注目するインフレ指標のPCEコア・デフレーターは、3.5%上昇と予想と同水準で、前月の3.7%から下げて、インフレの鈍化を示していました。
また、今週末にFOMC前のブラックアウト期間に入る前に、同日もFRB高官のコメントが伝えられ、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、基準貸出金利はピークかそれに近い水準にあり、政策は「かなり制限的」だと繰り返し、サンフランシスコ連銀のメアリー・デイリー総裁は、利下げは考えておらず、利上げが終了するかどうかを判断するのは時期尚早だとしながらも、金利はインフレ抑制のために「非常に良い」状態にあると述べていました。
そこで、ドルと長期金利の上昇は今週大きく下げていたことからも自律反発もあり、また同日のユーロ圏の消費者物価指数が予想を下回ったことで、ユーロが弱含んだことで相対的にドルを押し上げて金の頭を押さえていた模様です。
本日金曜日金相場は、ドルは前日に続き8月以来の低値から上昇し、長期金利は9月以来の低値水準で推移する中で、トロイオンスあたり2034ドルまで一時下げたものの、2059ドル前後へと上昇しています。
本日発表された米製造業PMIとISM製造業景況指数は、前回及び予想を下回ったことが、ロンドン時間午後の金相場の反発の背景の模様です。しかし、パウエル議長が米アトランタの大学の懇談会に参加して米国時間午後に発言機会があることから、この内容に応じては動きが出る可能性があります。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週金曜日に最新データの11月21日分が発表され、インフレ鈍化からもFRBの金利引き上げ終了観測からもドルと長期金利が下げる中で、全ての貴金属で強気ポジションが増加していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは6週連続でネットロングで24%増の357トンと2週ぶりに増加していたこと。この間建玉は5.7%増と2週連続に増加して5月16日以来の高さで、価格は前週比1.9%高でトロイオンスあたり2006.60ドルと5月16日以来の高さへ上昇していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、6週連続でネットロングで74%増の2592トンと8月29日以来の高さへ増加していたこと。価格は5.3%高でトロイオンスあたり23.53ドルと9月19日以来の高さ。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、3週連続でネットショートであったものの、99%減で0.4トンへ減少していたこと。価格は前週比6.2%安でトロイオンスあたり931ドルと2週ぶりに上昇していたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートで、15%減の29トンと8月22日以来の低さへ減少していたこと。価格は前週比7.5%高でトロイオンスあたり1075ドルと上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で5.8トン(0.7%)減で876.52トンと4 週ぶりの週間の減少の傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.41トン(0.1%)減で396.18トンと2020年4月初旬以来の低い水準で、19週連続の週間の減少傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で188.03トン(1.37%)減で、13,502.90トンで、2020年5月半ば以来の高さで週間の減少傾向。
- 金銀比価は、今週81台前半で始まり、本日80台後半へ下げて3か月ぶりの低さへ下げて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1056ドルで始まり、1110へと上昇して終える傾向。これは、価格が公表された1990年以来の低さ。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは136ドルで始まり、本日82ドルと2018年7月中ば以来の低い水準。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週平均は30ドルと8月初旬以来の低さで前週の34ドルから下げていたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は10%増で3月24日の週以来の高さ、銀は16%増で2021年11月以来の高さ、プラチナは4%減、パラジウムは51%減。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は11月27日に負の相関関係となり、-0.726と強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は11月21日から負の相関関係へ転換して-0.80と10月初旬以来の強さ、S&P500種と金の相関関係は正の相関関係に11月27日に転換し、0.49と関係を強めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週はFOMC前のブラックアウト期間に入る前であることからもFRB高官の発言が続き、またインフレ鈍化と経済の堅調さを示す経済指標で市場が動いていますが、来週はブラックアウト期間となり、経済指標へ注目が入ることになります。
まず、金曜日の米雇用統計は最重要となりますが、その他火曜日の米雇用動態調査、水曜日の米ADP雇用統計も、FRBbの金融政策に影響を与える可能性があることから注目されることとなります。
詳細は主要経済指標(2023年12月4日~8日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
日本のコモディティー先物取引や為替証拠金取引の大手サンワード貿易のウェビナーで12月5日(火)日本時間午後8時、英国時間午前11時から「金市場の今年を振り返り2024年に向けて」という題で日本貴金属マーケット協会の池水代表理事とお話をさせていただきます。参加は無料ですので下記のリンクでぜひお申し込みください。
https://www.sunward-t.co.jp/seminar/2023/12/02_7/index_wh.html
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年11月27日~12月1日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年12月4日~8日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年11月27日)ハマスとイスラエルが停戦延長を協議する中で、金価格はドル建てで急騰
- 金価格とのプラチナディスカウントが史上最大を記録
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、引き続きイスラエルとハマスの紛争関連ニュースがトップで伝えられているものの、前週来行われているコロナ危機下の政府対応に関する公聴会についてや、スナク首相がギリシャ首相との対談をパルテノン神殿の彫刻の返還をめぐりキャンセルしたこと、そして国連の気候変動対策会議のCOP28で本日チャールズ国王が演説したこと等が大きく伝えられています。
そこで、本日は12月1日といよいよ師走に入りましたので、英国名物のクリスマス商戦用に大手デパートやスーパーマーケットが発表したコマーシャルに関するニュースと合わせて、北アイルランドの小さなパブの低予算のコマーシャルが大きな反響を呼んでいることついてもお届けしましょう。
まず、クリスマスコマーシャルをひと月前に早々に発表した大手スーパーのマークス・アンド・スペンサーは、その内容が伝統的なクリスマスを否定するようなもので、クリスマスカードやクリスマスディナーでかぶる紙の帽子を暖炉で焼いてしまうものであったことから、ソーシャルメディアなどで批判が相次いで謝罪をして修正することになったことから始まりました。また、このコマーシャルはイスラエルとハマスの紛争前に作られたものではあるものの、この焼かれている帽子の色がパレスチナ国旗の色であったことも、人々の気持ちを逆なでしていたようでした。
そのような中発表された、大手デーパートのジョンルイスのコマーシャルはその質の高さからも、毎年人々が最も楽しみにしているものですが、「The Perfect Tree(完璧なクリスマスツリー)」という、男の子が育てて心が通じている食虫植物が、クリスマスツリーとしても家族に受け止められるものという心温まるもので、メディアからも高い評価を得ていました。
そして今週は、多くの主要メディアで北アイルランドの小さなパブ「Charlie’s Bar」が700ポンド(13万円)で作成したコマーシャルが大きな反響を呼んでいることを伝えています。
このコマーシャルではおそらく奥様を亡くしたと見られる孤独な高齢の男性が墓地に花を捧げた後に入ったパブの入り口で一緒になった若いカップルとその飼い犬と知り合い、共にパブで時間を過ごしている様子を、解説もなく坦々と映しているものですが、最後に下記の言葉がパブの名前と共に表示されます。
「There are no strangers here, Only friends you haven’t yet met. W. B. Yeats (ここには見知らぬ人はいない。ただ未だ会ったことのない友達のみだ。W. B. Yeats作)」
バックグラウンドにはBirdyという歌手の「People help the people(人は人を助ける)」という歌が流れていますが、この曲も見事にビデオにマッチしていて見る人の心に響くようです。
ちなみに、ジョンルイスのクリスマスのコマーシャルの作成費は700万ポンド(13億円)とのことで、パブのオーナーの方もジョンルイスのコマーシャルと共にメディアで取り上げられていることで驚いているとのこと。
毎年この季節にクリスマスのコマーシャルが発表されるのを英国の人々は楽しみにしていますが、ジョンルイスやCharlie’s Barのような心温まるものを、ウクライナ戦争やイスラエルとハマスの紛争の悲惨さを目の当たりにしている中、人々はより求めているのでしょう。