ニュースレター(2023年8月18日)実質金利が14年ぶりの高さへ上昇する中で、金は5か月ぶりの低値へ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1894ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から1.2%安と4週連続の下げで3月半ば以来の低さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から0.4%高のトロイオンスあたり22.78ドルと4週ぶりの多少ではあるものの上げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から1.0%安のトロイオンスあたり902ドルと5週連続の週間の下げで7月半ばの低さとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は8.1%安のトロイオンスあたり1218ドルと週間の下げとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週金相場は、長期金利が2007年10月以来の高さとドルインデックスも2か月ぶりに大きく上昇する中で、心理的節目のトロイオンスあたり1900ドルを割り、3月の米シリコンバレーバンクの破綻による米地銀懸念が高まる以前の低い水準へと下げることとなりました。
ドルインデックスの上昇は長期金利の上昇が背景となっていますので、その要因を下記にリストアップしてみましょう。
- 米経済指標の強さによる景気の底強さが高インフレ継続観測を広げてFRBが長期の高金利を維持する観測が広がったこと。
- 前回7月のFOMC議事要旨でも多くのメンバーがインフレが予想より上振れするリスクからも更なる利上げが必要な可能性があるとタカ派的であったこと。
- 米債務上限問題が先延ばしされ、金利支払い増加もあり、国債の発行が増加する懸念で国債が売られていること。
- 中国の景気低迷で中国中銀がサプライズの利下げを行い、相対的に米長期金利が上昇。
- 日本の20年物国債の入札が低調で日本国債利回りが上昇したこと。
金利を生まない金にとって、実質金利の上昇はネガティブ要因であり、今月に入り負の相関関係(片方の値が上昇すると、もう一方の値が下げる)を強めて本日は-0.91(-1が最大の負の相関係数)まで上昇しています。そこで、本日は実質金利と金のチャートを下記に添付します。
銀、プラチナ、パラジウムは前週から中国の景気低迷を示唆するデータが出ていたことで、工業用途需要の多いこれらの貴金属は、金よりも価格が押し下げられていましたが、本日は、銀の金銀比価が83まで戻し、プラチナの金に対するディスカウントも1000ドルを割ってともに数週間ぶりの低さへと下げています。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、長期金利とドルが上昇する中で、一時1902ドルまで下げたものの、1907ドルへ戻して終えていました。
同日の長期金利とドルの上昇は、 中国の不動産開発大手、碧桂園が先週社債の利払いを履行できなかったことに加え、オンショア社債11本の取引を同日から停止することを公表し、同社の株価が急落して最安値を更新するなど、中国不動産セクターや経済全体への懸念が広がったことが背景となりました。
また、日銀とFRBの金融政策の違いからも、ドル/円も今年の最安値の145.35円をつけたこともドルを押し上げることとなりました。
火曜日金相場は、中国中銀のサプライズの利下げや予想を上回る米小売売上高でトロイオンスあたり1900ドルを一時割ったものの、その後上昇して1901ドルで終えていました。
同日の中国の利下げで人民元は昨年11月以来の低さへ下げ、相対的にドルを強含め、また米指標の強さはFRBの利上げ継続観測を広げ、長期金利を上昇させ、ドル建て金は押し下げられていました。
しかし、同日発表のニューヨーク連銀製造業景気指数は予想を大きく下回っていたことは長期金利の上げ幅を削り、そして1900ドルを割ったところで金の安値買いも入り、金を押し上げていました。
水曜日金相場は、ロンドン時間夕方に発表されたFOMC議事要旨の発表を待つ中で既にトロイオンスあたり1900ドルを割っていましたが、FOMC発表後さらに下げ幅を広げて1893ドルで終えていました。
FOMC議事要旨前の下げは、米鉱工業生産や住宅着工件数が予想を上回っていたことで、米経済の底強さが高インフレ継続によるFRBの高金利継続観測を広げたことが背景となっていました。
その後発表された、7月に行われたFOMC議事要旨では、大半の参加者がインフレが想定より上振れするリスクがかなりあるとみて「さらなる金融引き締めが必要になるかもしれない」と指摘しているなど、予想を上回るタカ派的内容との解釈で、長期金利が昨年10月以来の高さから2007年末以来の高さへ上昇し、ドルは2か月ぶりの高さへ強含み金を押し下げることとなりました。
木曜日金相場は、前日のFOMC議事要旨発表後の弱気基調が継続し、長期金利が前日の2007年来の高い水準からさらに上げ、ドルが2か月ぶりの高さをほぼ維持する中で、トロイオンスあたり1889ドルへロンドン早朝に一時下げた後、1904ドルと上昇したものの、ロンドン夕方に1891 ドルと6月下旬以来の低さで終えていました。
ロンドン早朝の下げは、日本財務省が実施した20年物国債入札が低調となり、利回りが6か月半ぶりの高さへ上昇したこともきっかけとなり、世界の国債が売られて、利回りが上昇することとなりました。
そして、1900ドル割れは買いも入り1900ドルを超えて上昇していたものの、同日ロンドン時間午後に発表された米経済指標の新規失業保険申請件数が予想を下回るなど、米経済の堅固さが見られる中で再び長期金利が上昇したことで再び金は押し下げられることとなりました。
本日金曜日は長期金利とドルが引き続き高い水準ながら若干下げる中で、トロイオンスあたり1893ドルと前日終値よりも上昇して推移しています。
長期金利の下げは調整と低値での買い、ドルの下げは長期金利の下げに加え、本日の中国恒大集団の破産法適用申請で中国当局が人民元安阻止目的で人民元買い介入を強化するとの思惑も要因となっているとも分析されていますが、この間世界株価はほぼ全般下げており、世界株価指数は、3月の米地域銀行危機以来の最大の下げ幅をつける傾向となっています。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの8月8日分が発表され、中国関連のデータが悪化していたことからも金、銀、プラチナ、パラジウムの価格が下げる中で、全ての貴金属の強気ポジションが減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から24%減で235トンと3週連続で減少。この間建玉は、2.1%減と3週連続で減少し、価格は前週比1.1%安でトロイオンスあたり1926.40ドルと3週連続で下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、ネットショートに転換し、584トンとなっていたこと。価格は7.5%安でトロイオンスあたり22.69ドルと下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、3週ぶりにネットショートへ転換し、12.9トン。価格は前週比2.6%安でトロイオンスあたり906ドルと3週連続で下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、9.7%増の30.2トンと3週連続で増加していたこと。価格は前週比1.9%安でトロイオンスあたり1214ドルと3週連続で下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で12.1トン(1.4%)減で887.50トンと2020年1月16日以来の低さへ下げて、4週連続の週間の減少の傾向。週間の減少量は昨年FRBの長期の金利引き上げ観測で価格がコロナ危機が始った2020年3月の水準まで押し下げられていた11月初旬以来の大規模なもの。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.7トン(0.16%)減で439.30トンと、2020年5月27日以来の低さへ下げて、4週連続の週間の減少傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で8.56トン(0.06%)減で14,067.80トンと、前週の6週ぶりの週間の増加後に週間の減少傾向。
- 金銀比価は、今週84台前半で始まり火曜日にほぼ85まで上昇後に、本日83へ下げて終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、997ドルで始まり、水曜日に1011へ上昇後、本日991ドルへとほぼ3週間ぶりの低さへ下げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは393ドルで始まり、本日323ドルへ下げて終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、人民元がドルに対し建て昨年11月以来の弱さとなる中で、週平均で45.81ドルと2016年に記録がつけられて以来の高さへ上昇していること。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週平均比で、金は12%増であるものの引き続き前年平均を下回る低い水準。銀は20%減、プラチナは12%減、パラジウムも22%減。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は今週-0.91まで上昇。(負の相関関係は-1の場合二つが相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は-0.93.それに対し、S&P500種と金の相関関係は0.87と正の相関関係。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は水曜日のFOMC議事録要旨に市場は注目し、FRBによる更なる利上げ観測で金は押し下げられていますが、来週も主要中銀の金融政策に影響を与える経済指標やイベントが重要となります。
そこで、水曜日の主要国の製造業及びサービス部門のPMIと翌木曜日の米耐久財や新規失業保険申請件数が重要となりますが、それに加え、24日から始まるジャクソンホールで行われる経済シンポジウムにおいては、過去にFRB総裁が金融政策に触れたこともあるために、26日に行われるパウエル議長のスピーチへも市場は注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2023年8月21日~25日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年8月14日~18日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年8月21日~25日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年8月15日)堅調な米小売売上高と中国のサプライズ利下げ後、金は1900ドルを維持
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、7月の消費者物価が6.8%と未だ高い水準ながらも2か月連続で下げたこと、今週発表された英国の大学入学のための統一試験のAレベルの結果について、イングランドチームが初の決勝進出を決めたサッカーの女子ワールドカップ等について大きく伝えられています。
そこで、今週はこのワールドカップ関連の話題をお届けしましょう。
なでしこジャパンが準々決勝でスウェーデンに敗れてしまったのは残念でしたが、イングランドチームが決勝に進んだのは、1966年に男子チームが優勝して以来の快挙となります。そこで、メディアを含めてイングランド全体での盛り上がりは想像していただけることでしょう。
そこで、決勝前の盛り上がりを感じていただけるニュースをリストアップしてみましょう。
1.イングランドチームが優勝したら翌日は祝日との希望は政府が却下
この呼びかけは、一般の人々や野党党首から入っていましたが、英国政府は別のより適当な方法でお祝いをするとしています。この間、イングランドチームに敗れてはいますが、オーストラリア政府はもしオーストラリアチームが優勝した場合は翌日を祝日にすると述べていました。
2.決勝戦の応援のためにウィリアム王子とスナク首相はオーストラリアに渡航しないことへの非難
本日は、決勝に英国政府からは外務大臣のジェームズ・クレバリーが行くと発表され、イングランド・サッカー協会の会長であるウィリアム王子、そしてスナク首相も観戦しないことが伝えられて、一部ファンからの非難の声や男性チームが決勝に出ていたら応援に駆け付けたのではないかなどの言葉まで伝えられています。
そのような中、対戦チームのスペインのレティシア王妃はソフィア王女と応援にオーストラリアへ渡航することが伝えられています。
3.パブでアルコールを提供できる時間を10時に早めるべき
決勝戦はロンドン時間で11時から始まりますが、多くのイングランドファンは地元のパブで友人達と観戦することを希望しているために、法律で決められているパブのお酒を提供できる時間を、通常パブが得ているライセンスで決められている11時もしくは正午から10時へと変更することが呼びかけられていました。
しかし、これを全国的に行うためには法律改正が必要で、現在議会は休会中であるために、政府から地方政府にできる限り柔軟に対応すべきという手紙を発信したことも伝えられていました。
英国の人々にとってサッカーは国技であるクリケットよりも国民に親しまれているように見受けられますが、普段はサッカーに興味を持っていない人々もイングランド女子チーム(ニックネーム:ライオネス)の活躍を楽しみにしているようです。