ニュースレター(2023年11月3日)金価格は重要イベントを経て市場がリスクオン基調に転換する中で頭を抑えられる
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1994ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.6%高と週間の上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から0.5%安のトロイオンスあたり22.65ドルと週間の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から3.62%高のトロイオンスあたり935ドルと4週連続の上昇となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は0.79%安のトロイオンスあたり1130ドルと週間の下げとなっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週金相場は、日銀、米連邦準備制度理事会、イングランド銀行の金融政策発表と米雇用統計の結果を経て、主要中央銀行による長期間の高い金利観測が後退する中でリスクオン基調となり、前週のハマスとイスラエルの紛争激化懸念によるトロイオンスあたり2000ドルを超える上昇の調整が入ることとなりました。
主要国の金融政策発表は予想通り金融政策は据え置かれ、米雇用統計は予想を下回るものとなっており、株価が全般上昇するなどリスクオン傾向となってます。また、米FOMCの発表直前に行われた米財務省の四半期の国債発行計画は、予想を下回ったことで、前回発表後にボラティリティを高めていた債券市場も落ち着きを取り戻し、長期金利が下げていたことも、リスクオン基調を強める背景となっていました。それに加え、イスラエルとハマスの紛争は、イスラエル軍がガザ地上攻撃を行っているものの、諸外国を巻き込むものとはなっていないことから、金の安全資産の需要が減少している模様です。
この状況は今週末に発表される金の先物・オプションの今週火曜日のポジションの動きで推測ができるかと思いますが、前週火曜日においては、過去2番目に大規模な金購入の動きが起きていました。そこで、本日はこの動きが見られるチャートを下記に添付します。
前週までの2週間のポジションの変化は重量にして328トンと、2019年11月にFRBによる金融緩和が期待されていた際以来の大きな規模となっており、これが前週金曜日の価格の急騰を引き起こした背景とされています。
今週の銀、プラチナ、パラジウムの動きは、銀は金の急騰に引っ張られて上昇していたことからも若干の下げで、他のPGM貴金属は金のような安全資産的需要が無かったことからも、売られすぎていたプラチナが、リスクオン市場の中で上昇し、中国の経済低迷やガソリン車の排ガス触媒需要が8割となっているパラジウムはEV化が進む中で需要減少観測があり、またウクライナ戦争勃発時にロシアの供給量が多く、経済制裁への懸念で高騰していたことからもその上げ幅を失って低迷を続けている模様です。
今週の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場は、前週金曜日取引終了直前の急騰でドル建てでは5月以来初めて超えた2000ドルの水準、日本円を含む他の主要通貨建てで史上最高値つけていたことから、調整の下げもありトロイオンスあたり1995ドルで終えていました。
前週の急騰はイスラエルがガザ地区へ地上部隊が入ったというニュースでさらなる紛争激化や他の中東地域への戦争の拡大が懸念され、週末を前に先物市場でショートポジションの手じまいとロングが買われたとされていたことから、これらのポジションの動きもあった模様です。
火曜日金相場は、ロンドン時間昼過ぎにトロイオンスあたり2000ドルを一時超えたものの、その後発表された米指標が高インフレを示唆し、ドルが強含んだことからも、1980ドルまで下げて終えていました。
同日発表された指標は、米雇用コスト指数で前四半期比1.1%上昇し、予想の1.0%を上回り、FOMCの発表を翌日に控えて、労働市場のひっ迫によるインフレ懸念が高まることとなりました。
また、金価格は10月初旬からイスラエルとハマスの紛争で9%を超えて上昇していたことからも調整が入っていた模様です。
ちなみに、同日日銀は金利操作で長期金利の1%超えを容認することを発表しましたが、マイナス金利などの金融政策は据え置いたことからも、円が対ドル弱含み、円建て金相場は同日再びgあたり9754円と史上最高値をつけていました。
水曜日金相場は、市場注目のFOMC後の金融政策とその前に米財務省の四半期の国債発行計画が発表され、神経質な動きでトロイオンスあたり1992ドルから1969ドルまで下げた後に、1984ドルまで戻して終えていました。
同日は、米財務省による国債発行計画では発行額は市場予想よりも少ない1120億ドルの長期債券を発行するとし、市場の警戒感は薄れて長期金利が下げている中で、FOMCでも2会合連続で利上げが見送られたものの、追加引き上げは否定しないという市場の予想通りのものとなっていました。
そこで、材料が出きったということで、イスラエルとハマスの紛争による安全資産需要で上昇していたことからも、価格の調整が入っていた模様です。
木曜日金相場は、トロイオンスあたり1985ドルと、前日終値とほぼ同水準で終えていました。
同日は前日のFOMCで将来の利上げの可能性を持たせていましたが、2会合連続の据え置きや長期金利が高止まりしていることや、経済指標が悪化している等の経済環境からも、利上げの終了との観測が広がり、米株価指数が3営業日連続で上昇し、国債価格も上昇して長期金利が下げていました。
そこで、本来長期金利の下げは金にとってポジティブであるものの、債券市場のボラティリティの高さは安全資産の金の需要を高めていたことからも、市場が落ち着きを取り戻す中で、イスラエルとハマスの紛争が他の諸国へ広がる懸念も後退する等、安全資産としての需要が下げて、前週の先物市場での急激なロング増加の調整も行われているようでした。
なお同日発表のイングランド銀行が政策金利では、欧州中銀、FRB同様で予想通りに2会合連続の据え置きとなっていました。
また、同日発表の米新規失業保険申請件数は21.7万件と予想の21万人を上回っていたことも、前日のADP雇用統計が11.3万人と予想の15万人を下回っていたことから、米雇用動態調査(JOLTS)求人件数は予想を上回っていたものの、労働市場の逼迫状況が改善しつつある観測が広がり、リスクオン基調を広めて金の向かい風となっていたようでした。
本日金曜日は、市場注目の米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数が15万人と予想の18万人と前回修正値の29.7万人を下回り、失業率も2.9%と予想と前回の3.8%を上回っていました。平均時給は前月比0.2%と予想と前回修正値の0.3%を下回り、前年同月比でも4.1%と前回修正値の4.3%を下回っていました。
そこで、発表後にFRBによる追加利上げへの警戒感が和らいだことで長期金利が下げて株価が上昇する中で金相場はトロイオンスあたり2000ドルを超えて上昇していましたが、その後上げ幅を削ってロンドン夕方に1993ドル前後を推移しています。
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ指導者ナスララ師は本日演説し、パレスチナのイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃を称賛しつつも「この戦いはパレスチナのもので、地域の他の問題とは関係ない」と述べたことも、市場の警戒感を和らげて、金の安全資産需要を減少させている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- 今週ワールドゴールドカウンシルが第3四半期の金の需給レポートを発表し、中央銀行の過去3番目に高い四半期需要の337トンにけん引されて過去5年の平均を8%上回る需要であることが明らかとなっていたこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの10月24日分が発表され、イスラム組織ハマスとイスラエルの紛争が激化する中で、長期金利が16年ぶりの水準であるにも関わらず価格が堅調に推移していた際に、プラチナを除く全ての貴金属で強気ポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは2週連続でネットロングで117%増の282トンで2週間で328トン増と、記録が始まって以来2番目に早い2週間の増加ベースを記録していたこと。この間建玉は10%増で5月半ば以来の高さで、価格は前週比1.84%高でトロイオンスあたり1963.65ドルとLBMAのPM価格において7月18日以来の高さへ上昇していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、2週連続でネットロングで78%増の1386トンと9月初旬以来の高さとなっていたこと。価格は0.26%高でトロイオンスあたり22.74ドルと9月26日以来の高さへ上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、5週連続でネットショートで、0.45%増の18.1トン。価格は前週比0.89%安でトロイオンスあたり887ドル。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートで、2.3%減の33.4トンと2006年に取引が開始されて以来高さへ増加していたこと。価格は前週比1.32%安でトロイオンスあたり1120ドルと2018年11月半ば以来の低さ。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で0.3トン(0.03%)減で861.50トンと9週連続で週間の減少の傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.09トン(0.02%)減で402.27トンと、2020年4月半ば以来の低い水準で、15週連続の週間の減少傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で97.01トン(0.70%)減で、13,705.17トンで週間の減少傾向。
- 金銀比価は、今週86台前半で始まり、本日87台後半と米地域銀への懸念が高まっていた3月21日以来の高さへ上昇して終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1079ドルで始まり、本日1058ドルと引き続き2020年8月初旬以来の高さの水準で終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは220ドルで始まり、本日191ドルと2018年9月以来の低さ水準へ下げ終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)は、人民元建て金価格が週初旬の史上最高値から下げる中で、週平均は41ドルと前週の40ドルから上昇していたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は19%減で5週ぶりの低さ、銀は4%増、プラチナは33%増で3週ぶりの高さ、パラジウムは12%減。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は今週も正の相関関係で0.231と前週の2022年4月以来の強さから下げていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は11月1日から正の相関関係で、0.3で、S&P500種と金の相関関係は引き続き負の相関関係で、-0.63と6月初旬以来の強さとなっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週はイスラエルとハマスの紛争と共に、日銀、FOMC、イングランド銀行の金融政策発表と本日の米雇用統計などと市場は注目イベント及び指標を消化して終えることとなりますが、来週も引き続き中東情勢、主要国の金融政策にかかわる指標へ市場は注目することとなります。
それは、月曜日のユーロ圏のサービス部門PMI、火曜日の中国貿易収支、木曜日の中国消費者物価指数、米新規失業保険申請件数、金曜日のミシガン大学消費者態度指数などとなります。
詳細は主要経済指標(2023年11月6日~10日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年10月30日~11月3日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年11月6日~10日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年10月30日)コメックスの金先物・オプションが記録的な急増をする中、2000ドルへ急騰した金価格は「一息をつく」
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週も英国ではイスラエルとハマスの紛争関連ニュースがトップで伝えられていますが、それに加え今週英国で行われていた「AI安全サミット」や、台風並みの低気圧であるストーム・キアランが英国各地にもたらした被害について、ビートルズの最後の新曲が発売されたこと等が大きく報道されています。
そのような中、英国の著名辞書のコリンズが今年の言葉を今週発表していますので、ご紹介しましょう。
奇しくも「今週AI安全サミット」が行われている中で、人工知能(Artificial Intelligence)の略のAIが今年の言葉として選ばれていました。また、今週発表されたビートルズの新曲もまた、AIを利用して亡きジョン・レノンの歌声を再生して行われているとのこと。
これは、その利用度が急激に増えていることが理由とのことですが、また今年多くの議論がAIに関して起きているからとのこと。
今年の言葉の候補として選ばれていた言葉も紹介されていますので、簡単に下記でお伝えしましょう。
- Bazball(バズボール): クリケットというスポーツで、バッティング側がとても攻撃的にプレーするスタイルのこと。
- Deinfluencing(ディスインフルエンシング): ソーシャルメディアなどで、フォロアーに一定の商品や生活スタイルを避けることを警告すること。
- Nepo Baby(ネポ・ベイビー): 特に芸能界において、有名人の親を持つことでキャリアを積んだとされる芸能人。
- Ultraprocessed(超加工食品): 複数の原材料を複雑な工業的手法で調理した食品で、栄養価のほとんどない原材料を含むことが多い食品。
- Canon Event(キャノンイベント): 個人の性格やアイデンティティの形成に不可欠な出来事。
- Debanking(デバンキング): 銀行から口座を閉鎖されるなど、銀行機能が奪われる行為。(追加解説:脱欧州連合を先導した政治家が、その悪いイメージからメインバンクから銀行口座を閉鎖され、それについて偽った情報をマスコミに漏らした銀行幹部が辞職に追い込まれて、デバンキングされた人々にスポットライトが当たり社会問題となりつつあることから。)
- Greedflation(グリードフレーション): インフレを口実に物価を人為的に高騰させ、企業収益を上げること。
- Semaglutide(セマグルチド): 食欲を抑え、高血糖をコントロールするために使用される薬の名前。
- ULEZ(ユーレズ): 超低排出ガス区域の略語で、汚染物質をほとんど排出しない自動車だけが、料金を支払わずに進入できる区域。(追加解説:今年ロンドンでエリアが拡大され、その地域で行われた補欠選挙で、導入した市長が労働党であったことから、労働党が議席をとれなかったことが有名となっていました。)
ちなみに、昨年の言葉は、Permacrisis(不安定で不安定な期間が長く続くこと)というパンデミック以降の世界の状況を表したものでした。
オックスフォード辞書などもこれから今年の言葉を発表すると思いますので、別途またお伝えします。