ニュースレター(2023年8月4日)金価格は良好な米雇用関連データの下げ幅を米財政懸念とまちまちな米雇用統計で削る
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1943ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から0.6%安と2週連続の下げでとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から3.2%安のトロイオンスあたり23.45ドルと3週連続の週間の下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から1.4%安のトロイオンスあたり920ドルと3週連続の週間の下げでとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は1.6%高のトロイオンスあたり1261ドルと週間の上昇となっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属価格は、火曜日の米雇用動態調査、水曜日の米ADP全国雇用者数が、米国の労働状況の逼迫を示唆していたことで、本日の米雇用統計はまちまちであったのものの、パラジウムを除き下げで終える傾向となっています。
なお、火曜日にフィッチ米格付会社は2011年から2度目の米国債の格付けを一段階下げていましたが、2011年8月の際のように、債権利回りが下げ、リスクオフからも金相場を急騰させたのとは異なり、国債が売られることで利回りが上昇し、金価格を押し下げていました。
しかし、その翌日に米財務省が国債増発を発表したことで、フィッチが格下げした理由の一つである米連邦政府の財政悪化が意識されたことは、安全資産としての金をサポートしたものの、銀とプラチナは下げ幅を広げることとなりました。パラジウムが他の貴金属と異なる動きをしているのは、年初からの下げ幅がすでに30%と大きいことや市場の規模などで多少調整が入っている模様です。
今週のチャートとしては、米公的債務の推移を見ていただきましょう。ご覧のように、6月に米国が債務上限を2025年1月まで上限の効力を停止したことで、6月の債務が急増していることが分かります。政策金利上昇による金利支払い増加もあり、今後この債務額は増加を続けることが予想されています。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日は、日銀が金曜日に発表したイールドカーブ・コントロール柔軟化にもかかわらず、長期金利が9年ぶりの高さの0.6%を超えたことで臨時の国債買い入れオペを行い、金融の正常化が遅れる観測で円売りが加速してたことで、日本円建て金価格がgあたり9028円と史上最高値をつけ、ドル建てにおいても1964ドルへ上昇して終えていました。
そして、7月最終日に主要通貨建てで金相場は3月以来の高い月間上げ幅をつけていました。
火曜日金価格はドルと長期金利が7月初旬以来の高さへ上昇する中で、一時トロイオンスあたり1941ドルをつけて、前週の木曜日の急落時の低値を超えて、1952ドルへ戻して終えていました。
これは、同日発表された、FRBが注目する6月雇用動態調査(JOLTS)求人件数が958.2万件と2年ぶりの低さで、前回の961万件と予想の982.4万件を下回っていましたが、引き続き高い水準で、FRBによる長期で22年ぶりの高金利を維持、もしくは年末までにもう一回の利上げがある観測が広がったことが背景となりました。
水曜日金相場は、ロンドン時間昼過ぎに発表された米ADP全国雇用者数が予想を上回り、ドルと長期金利が上昇に転じたことで、一時トロイオンスあたり1933ドルと7月12日以来の低値へと下げて1936ドルで終えていました。
ADP全国雇用者数は、前月比32.4万人と、前回修正値の45.5万人よりは下げていたものの、予想の18. 9万人を大幅に上回っていました。そこで、労働需給の逼迫からも、FRBの利上げ継続観測が広がることとなりました。
また、前夜フィッチ・レーティングズが米国の長期外貨建発行体格付を最上級の「トリプルA」から1段階引き下げ「ダブルAプラス」にしたことの影響は、世界株価が全般下げていることにでていましたが、前回2011年8月の格下げ時に金相場が翌営業日に3%高、2週間で400ドル上昇したような大きな反応は出ていません。
前回の格下げは金曜日の市場終了後の発表でしたが、翌営業日にS&P500種は6.5%下げと、本日のロンドン時間午後に1.2%下げとは異なり、前回の経験や米国の経済の底強さ等が今回の反応の弱さの背景とも分析されていました。
木曜日金価格は、長期金利とドルが前日同様に上昇する中で、前日の3週ぶりの低値から押し下げられながらもトロイオンスあたり1935ドル前後をほぼ維持して終えていました。
この背景としては、米格付けが引き下げられる中で、米財務省は債務残高の膨張と市場金利の上昇で支払い費用の負担増からも国債増発を水曜日に発表するなど、米債務急増へ懸念が高まっている模様で、株価は全般下げており、リスクオフ基調が金を支えいてた模様です。
なお、同日はイングランド銀行が政策金利を0.25%引き上げて5.25%と15年ぶりの高さとしていましたが、ポンド建て金相場がポンド安で上昇した以外は影響は限定的となっていました。
金曜日は市場注目の米雇用統計が先程発表され、非農業部門雇用者数は18.7万人と予想の20万人と前回の20.9万人を下回っていました。しかし、前回値は18.5万人と下方修正され、失業率は3.5%と前回と予想の3.6%を下回り、平均時給は前月比と前年同月比は共に前回同様の0.4%と4.4%と高止まりしていました。
この発表を受けて、今週ひと月ぶりの高さへ上昇していたドルと昨年11月以来の高さへ上昇していた米長期金利は下げに転換し、ロンドン時間午後に金価格は一時トロイオンスあたり1947ドルへ上昇後に、1941ドル前後を推移しています。
アトランタ連銀のラファエル・ボスティック総裁は米雇用統計後にこれ以上の利上げは必要ないと述べたことも伝えられたこともあり、世界株価は3営業日ぶりに反発していいます。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの7月25日分が発表され、主要国の製造業PMIが予想を上回り、FOMCの結果を待つ中で価格が下げる中で、金、銀、プラチナ、パラジウムの全ての強気ポジションが減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、前週から14%減で361.71トンと3週ぶりに前週の5月9日の週ぶりの大きさから減少。この間建玉は、2.44%減と3週ぶりに減少し、価格は前週比0.83%安でトロイオンスあたり1958.70ドルと3週ぶりに下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週比75%減の1201トンと前週の2022年4月19日の週以来の高さから減少していたこと。価格は2.65%安でトロイオンスあたり24.23ドルと下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、2週連続でネットロングであったものの4.26%減で10.93トン。価格は前週比1.63%安でトロイオンスあたり967ドルと前週の6月13日以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートで、0.8%増の24.32トンと増加していたこと。価格は前週比2.12%安でトロイオンスあたり1290ドルと2週ぶりに下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で6.9トン(0.8%)減で906トンと3月10日以来の低さへ下げて、2週連続の週間の減少の傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で2.92トン(0.66%)減で441.36トンと3月17日以来の低さで、2週連続の週間の減少傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で85.8トン(0.61%)減で13,965トンと、6週連続の週間の減少傾向で2020年5月19日以来の低さ。
- 金銀比価は、今週80台前半で始まり、本日82半ばと3週間ぶりの高さへ上昇して終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1025ドルと2020ン円11月初旬の高さで始まり、本日1017ドルへと下げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは313ドルで始まり、本日338ドルと4週ぶりの高さへ上げて終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)のプレミアムは、人民元建て金価格が今週7月半ばへ下げたことからも、週平均で28.24ドルと今年3月10日の週以来へ上昇していること。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週平均比で、金は42%減で昨年末以来の低さ、銀は1%増、プラチナは14%増、パラジウムも3%増。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週はイングランド銀行の金融政策発表と米雇用統計という重要イベント以外に米国債格付け引き下げなどの大きなニュースが入ることとなりましたが、来週も引き続きFRBの金融政策へ影響を与える関連指標やイベントへ注目が入り、木曜日の米消費者物価指数、金曜日の米卸売物価指数等が重要となります。
詳細は主要経済指標(2023年8月7日~11日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年7月31日~8月4日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年8月7日~11日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年7月31日)金価格が1940ドルのサポートラインから反発し、主要通貨建てで3ヶ月ぶりの月間上げ幅の中、日本円建ては史上最高値を更新
- 金価格ディリーレポート(2023年8月3日)金価格は米債券利回り上昇したにもかかわらず3週ぶりの低値を維持
- 【金投資家インデックス】金投資は強気傾向を続けるものの、新規顧客数は弱気市場の水準へ
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、ウクライナ戦争やトランプ前大統領の3回目の起訴に関して、そして昨日のイングランド銀行の金融政策発表を前後して、インフレと金利高による家庭への影響関連ニュースや、FIFA女子ワールドカップについてなどが大きく伝えられています。
そのような中で、今週環境活動家がリシ・スナク英首相宅の屋根に登って抗議をし、逮捕されたことが伝えられていますので、その背景なども含めてお伝えしましょう。
今週1日にスナク首相は、エネルギー自立に向けて、スコットランド沖の北海石油とガスの採掘に対し、新たに数百件のライセンスを付与する可能性を発表していました。
これは、近年の二酸化炭素排出量を抑えるために、化石燃料等の枯渇性エネルギー再生可能エネルギーにシフトする動きから反するように見えますが、ウクライナ戦争後のエネルギー危機を経験し、ロシアなどの他国へのエネルギー依存を軽減しエネルギー安全保障を強化することが目的とされています。
また、国内ガス生産の二酸化炭素排出量が、輸入する液化天然ガスの約4分の1にとどまるとの新たな試算を受けたことも後押しをした模様です。
そして欧州最大の二酸化炭素貯留能力を持つ北海を活用して、二酸化炭素を回収・貯留し、有効利用をする施設の支援も発表し、早期導入に最大200億ポンド(3兆6400億円)を資金提供し、民間投資と雇用創出をも促進するとのこと。
この発表を受けて、3日に環境保護団体のグリーンピースの活動化5人がスナク首相の私邸の屋根に登って建物を黒い布で覆い、「北海採掘が深刻な結果をもたらす」と訴え、「石油の利益か、私たちの未来か?」と書かれた横断幕を掲げ、警察に拘束されていました。
英国は風力や太陽光を利用した自然エネルギーの年間発電電力量に対する割合は2022年ですでに41%に達しており、欧州全体の平均を上回り、日本の22.7%も上回っています。
2021年にグラスゴーで行われた第26回気候変動枠組条約締約国会議の議長国を務め、気候変動対策として、2024年までに石炭火力発電より撤退し、国外の化石燃料発電事業に対する直接公的支援を停止等の様々な政策を掲げ、石炭火力発電所は一箇所を除き全て閉鎖されるなどと、着々と準備を進めて来ました。
今年は世界各地で気候変動の影響と思える異常気象が見られていますが、エネルギー安全保障と気候変動問題への対応は共存できるのか、今後の英国政府の動きに注目したいと思います。