金市場ニュース

需要欠落の中で金・銀価格が高値をつけている現状ついて

誰も金地金を購入しないのに、なぜ金地金価格が上昇するのでしょうか?
 
ブリオンボールトのエィドリアン・アッシュは、中国は6月に2ヶ月連続で中央銀行の金準備としての金地金を購入しなかったことに関して解説しています。
 
そして、中国の消費者は国内の宝飾品店から姿を消し、インドの一般家庭も購入をしていません。
 
銀のETF投資ファンドは、先月の4年ぶりの低水準から5%未満しか成長していません。そして、 金ETFも6月は2019年以来の低い残高で上半期を終えていました。
 
そして、2021年から2022年に大きく業績を上げていた貴金属の小売業と造幣局は、貴金属の高値が高金利と組み合わさり、地金コインと小型な地金の欧米の需要を減少させるために、困難な状況となっています。
 
それでも価格は高騰しています。
過去20年のドル建て金・銀のチャート 出典元 ブリオンボールト
 
 
この春、世界の地金市場は 連日金価格の史上最高値を更新し、2450ドルまであと1セントに迫っていました。
 
その一方で、銀は2012年以来初めて32.50ドルを超え、11週間で銀価格はドル建てで45%近くも上昇しました。
 
その後、当時の勢いは失われています。しかし、銀は先週、金曜日の終値としては、ロンドン市場で5月下旬につけた11年ぶりの高値以来の高値を更新し、週末のピークからわずか2.2%の下落にとどまっていました。
 
また、金相場は、米国とユーロの投資家にとって、金曜日午後3時の基準値として過去5番目の高値を記録していました。
 
そして、日本円建てで取引時間に金曜日最高値を更新していました。
 
労働党が保守党に地滑り的な勝利を収め、英国ポンドが強含んだにもかかわらず、金はポンド建てで史上6番目の週末価格を記録していました。
 
2024年の価格急騰の前に地金を購入した投資家にとっては素晴らしいことで、2023年や2020年の価格上昇以前に買った投資家にとってはなおさらでしょう。しかし、貴金属鋳造所や地金小売店の販売チームにとっては、直近の価格上昇は、新規ビジネスの観点では厳しいものであることでしょう。
 
米国造幣局のゴールド・イーグルの売上は、年初来で3分の2に減少しています。オーストラリアのパース造幣局は人員整理をしています(2022年から23年にかけての雇用数の約1/3以下ではありますが)。かつて、貴金属市場を牽引していたドイツの小売店は「非常事態」に直面しており、過去10年間の購入者が利益確定を行うために、売り戻しが中古コインの市場に溢れて需要を満たし、現金を流出させている。
 
ブリオンボールトは、コインを販売せず、代わりに個人投資家が1グラムから大口地金を売買できるようにしているにもかかわらず、この現状から必ずしも免れていません。
 
貴金属は、ブリオンボールトで4四半期連続で売り越しとなっている。金地金の流出量は、第1四半期の記録的な利益確定売却の3分の2まで減少したものの、顧客の保有金地金総量は、2020年第2四半期以来の四半期末の最少量となっていました。
 
一方、銀は記録的な大量の利益確定売却で、6四半期連続で売り越しとなっていました。その結果、顧客の保有量は、2020年第4四半期以来の低水準となっていました。
 
しかしながら、ブリオンボールトで 保管されている銀地金の評価額は、2024年第2四半期末に過去最高の11億ドルとなっていました。
 
そして、顧客の金地金の保有評価額は、前四半期末に過去最高である33億ドルを記録していました。
 
さらに、ブリオンボールトにおける4月から6月までの金地金の取引量は、第1四半期から25%増加し、記録的な価格下でも取引が行われています。
 
これらを総合すると、ブリオンボールトの安定した、長期的で収益性の高いビジネスモデルが証明されたことになります。これは、貴金属投資を引き上げるというものからは程遠いものです。これは、常に新しい商品を売る必要のある貴金属小売ビジネスとは対照的なものです。
 
インド(金世界第2消費国)のベンガルールのある宝飾店経営者は、 フィナンシャル・タイムズ紙の取材に応じ、2024年の価格高騰を非難している。
 
「100グラムや200グラムを買う余裕があった人が、50グラムや60グラムにシフトしてしまったのです。」
 
中国でも宝飾品のバイヤーがストライキを起こし、金の世界最大の消費国である中国では、店舗が空っぽになっています。
 
China Observerの取材に答えてくれた販売員は次のようにコメントしていました。
 
「金を販売することが難しくなっています。今年の前半、金の価格は上昇していました。」
 
中国経済の減速と金融不況の中、 需要は大きく落ち込み、Chow Tai Fook(CFT)のような大手小売業者による突然の大幅値引きでさえ、メーデーの連休中の売上を伸ばすことはできませんでした。
 
中国の宝飾品需要の減少は、すでに業界に波及しています。中国の深センにあるCTFの工場で働く従業員の一人は、解雇された後、5月に金融ニュースサイト『Lanjinger』に次のように語っていました。
 
「私は常にCTFを定年退職するのだと思っていました。そして、 工場が突然閉められるなどとは思ってもいませんでした。」
 
オーストラリアの大手造幣局パース造幣局も、世界的な金貨の需要不振のおかげで人員削減を行っています。経営陣は、過去5年間で最低の販売量となった「市場の弱体化」を非難しています。しかし、これまでに提示された50人の人員削減は、パース造幣局が6月までの 過去12ヶ月間に行った新規雇用の半分にも満たない。
 
 ショッピングモールやオンライン・コイン・ディーラーもまた、特にヨーロッパで大成功を収めた後、この不振に陥っていました。しかし、2020年から2022年にかけてのコロナ危機、そして高インフレに続き、現在は欧米の銀行金利の急上昇が起きているのです。
 
インフレを下回るリターンが何年も続いた後、現金はより魅力的な資産となりました。
 
そして、金の記録的な高値は、過去10年間の買い手を利益確定に誘い続ける一方で、新たな買い手を遠ざけています。
 
この金小売業者における高値不況は、1年半も続いています。2014年から2022年にかけて、ユーロの銀行口座の金利がインフレになる前からゼロ以下となった際に、地金コインや小型尾地金の買い手であったドイツの新しいディーラーは、かつて熱心であった買い手に売却した金地金を買い戻すための資金が不足するリスクを抱えています。
 
不要になった中古コインが業界にあふれ、新しく鋳造された製品の販売にさらに打撃を与えることになります。
 
金ETFもまた、今年第2四半期に再び縮小し、アジア上場商品の伸びは、欧州ファンドの大量の売りによって相殺されていました。
 
金ETFの残高とドル建て金価格のチャート 出典元 ワールドゴールドカウンシル
 
世界最大の金ETFの銘柄であるSPDRゴールドシェアは、今月に入り若干の資金流入が見られるものの、第2四半期を通じて横ばいで推移した後のことです。そして金ETFの第2規模のiShareゴールドは、コロナ危機以前の規模に縮小しています。
 
そして、金の2大消費市場である中国とインドの消費者は宝飾品の購入を減少させています。
 
金と銀は、ブリオンボールトで継続的な(しかし緩やかな)利益確定売りが行われています。
 
地金コインと小型の地金の買い手は、ヨーロッパで欠落し、北米で需要を減らしています。
 
その間、金ETFからは資金が流出しています。
 
そして今、中国人民銀行でさえも、金準備の積み増しを停止しないまでも、一時停止しています。
 
では、なぜ金は昨年の上昇を維持し、今春の上昇も維持しているのでしょうか?
 
中央銀行は全体で、6月に インド、ポーランド、チェコ共和国を筆頭に、毎月毎月保有量を増やし続けています。鉱業界のワールド・ゴールド・カウンシルが発表した 調査によると、中央銀行の3分の2以上が、今後12ヶ月間、世界的に保有量が増加すると答えていました。公式データもそれを裏付けており、過去10年間で中央銀行の3行に1行が金を追加し、鉱山からの新規供給量の1年分以上を購入しています。貴金属専門コンサルタント会社のMetals Focusは、報告されていない需要は考慮されておらず、50%も上乗せされていると見ています。
 
投機的資金は依然としてネットロングとなっていますが、焼け石に水と言えるでしょう。コメックス先物・オプションの投機筋は、弱気ポジションを差し引いた金に対する強気ポジションは、先月のスタート時と同じで、2020年春のコロナ危機以来の最大規模に近い状態で6月を終えていました。同グループの銀デリバティブの強気ポジションは後退していましたが、長期平均より50%近く大きいままとなっています。
 
タイとベトナムでは、景気低迷が懸念される中、貯蓄家や投資家がディーラーの棚を空にしており、 本物のゴールドラッシュが起きているようです。米国では、 ファミリーオフィスやその他の裕福な投資家が、11月の大統領選挙を前に、ゆっくりと静かに金地金の保有量を増やしているようです。いずれにせよ、マクロン大統領の突然な(そして愚かな)選挙を控えて、西ヨーロッパでは他のどのような変化にも勝る、 フランス在住の新規顧客の急増が見られていました。
 
ブリオンボールトの顧客保有高に加え、 貴金属の世界的な取引と保管の中心地であるロンドンの保管場所における 金及び銀地金の総保有高は、6月に再び上昇し、2024年の上半期を1月以来の高水準で終えました。この増加は、民間の保有量によるものであり、 イングランド銀行に保管されている中央銀行の金は、5月の4ヶ月ぶりの高水準から少し減少していました。
 
最後に、赤道の北側は 夏市場となり。そのため、 金価格の下落はニュースではありません。
 
インドはこの時期いつも閑散としています。(来週以降、今年は10月までヒンズー教の結婚式の吉日がありません。)中国もそうです。(1月か2月の旧正月が宝飾需要のピークとなります。)また、金融取引もこの間小康状態になるのが一般的です。(株式市場の投資家は「5月に売れ」と昔から言われています。)
 
 このように、6月や7月に金や銀の価格が軟化したり、下落したりすることはよくあることです。そして2024年の夏はどうでしょうか。
 
  •  欧米の投資家の利益確定売りは今に始まったことではありません。現在、貴金属業界では雇用が失われていますが、2023年と2024年の銀と金の急騰を頓挫させることはできませんでした。
  • 中国の中央銀行による買いの一時停止は、より広く埋蔵量の継続的な増加とは対照的です。
  • 中国とインドの宝飾品需要の鈍化は、季節的なパターンに合致しており、他のアジア市場とは対照的です。
  • 政治的リスク、とりわけ地政学的ショックは、2024年後半にかけて投資需要を喚起し、価格を下支えする可能性が高いと言えるでしょう。
  • 【ブリオンボールト半期アンケート結果】2025年の金価格予想は2538ドル
  • 米国FRBは、昨年クリスマス以来、投機トレーダーが期待してきた利下げを、延期に延期を重ね、9月に実施する見通しとなっています。
 
その前に、金と銀は、投資の低迷、閑散とした宝飾品店、そして、取引量が減少する夏の低迷期を乗り切らなければならないかもしれません。
 
金と銀の保有を始めたい、あるいは増やしたいと考えている方は、先を考慮すべきでしょう。

 

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチダイレクターとして、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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