金市場ニュース

ニュースレター(2024年4月12日)地政学リスクの高まりからも金価格は主要通貨建てで史上最高値を更新

週間市場ウォッチ

今週金価格は弊社チャート上の金曜日午後3時にトロイオンスあたり2402ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM金価格(午後3時)から4.5%高で、本日までの6営業日中の水曜日を除く5営業日でLBMA・PM価格で史上最高値を更新する傾向で、この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から8.6%高のトロイオンスあたり29.08ドルと2021年1月以来の高い水準へ上昇しています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から8.4%高のトロイオンスあたり1000ドルと今年1月初旬以来の高さへ上昇していました。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から7.6%高でトロイオンスあたり1074ドルと上昇しています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週金相場は、ドル建て金相場は水曜日に予想を上回る米国消費者物価指数で若干下げたことを除き史上最高値の更新を続け、また他のすべての主要通貨では史上最高値の更新を日々続けることとなりました。

また、今週銀価格はドル建てで3年ぶりの高値、日本円では史上最高値をつけていました。

この間、水曜日に発表された米消費者物価指数は予想を上回るもので、FRBによる政策金利引き下げ観測は6月はほぼ無く、年内3回の利下げからほぼ2回へ減少し、ドルと長期金利が昨年11月以来の高さへ上昇していました。

そこで、本来政策金利が高い水準で長く続く観測、ドル高および長期金利高は、金利を生まない、米ドルで値がつけられている貴金属全般にネガティブ要因であるはずですが、今週の強さに関しては、イスラエルのシリアのイラン大使館への空爆によるさらなる紛争悪化や、ロシアとウクライナがお互いのエネルギー施設を攻撃していることなどからも地政学リスクをアナリストは挙げています。

それに加え、地政学リスクによる原油高もありインフレ懸念、そして、中国の需要の高さが上海先物取引所(SHFE)の取引高の急増や上海黄金交易所のロンドン価格とのプレミアムの高さから示唆されており、中国がけん引しているとも分析されています。

そこで本日は、主要通貨建て金相場を指数で示してその急騰ぶりが確認できるチャートを下記に添付します。

主要通貨建て金価格を指数化したチャート 出典元 ブリオンボールト

このチャートでも見られるように、3月からの上昇率は急激なものがあり、ロンドン貴金属市場協会の世界指標ベースでは、年初からの上げ幅はドル建てで18%、英国ポンド建てでほぼ20%、ユーロ建てで22%、日本円建てで31%となっています。

プラチナとパラジウムの価格は、金と銀には劣るものの、今週は大きく上昇しており、他の銅やニッケルが供給不足による上昇をしていることからも、これらのコモディティー価格や金と銀の上昇に引っ張り上げられている模様です。

今週の金相場の動きと背景について

月曜日金価格は再び取引時間中に史上最高値を主要通貨建てでつけ、ドル建てではトロイオンスあたり2351ドルをつけた後に多少上げ幅を削って2338ドルで終えていました。

同日は直近の金の高騰ぶりの背景をモメンタムとFOMO(Fear of Missing Out:乗り遅れることを恐れる)センチメントが背景とも分析されていました。

火曜日金相場は、ロンドン貴金属市場協会の午後3時の世界指標で8営業日連続で史上最高値のトロイオンスあたり2355ドルを超える価格をつけ、史上最長の最高値更新を記録していました。ちなみに、7営業日連続の史上最高値は世界金融危機時の2008年3月に記録され、6営業日連続は過去3回となっています。

その後、翌日は市場注目の米消費者物価指数が発表されることから、その警戒感からもドルと長期金利が上昇して、金価格は2354ドル前後へ下げて終えていました。

水曜日金相場は、米消費者物価指数が予想を上回ったことで、ドルと米長期金利が昨年11月以来の高さへ上昇したことで、ドル建てにおいては8営業日ぶりの下げで、一時今週の上げ幅をほぼ失って3月8日の150ドルを超える下げ幅で、その後多少下げ幅を削ってトロイオンスあたり2335ドルで終えていました。

米消費者物価指数は、前年同月比3.5%と前回の3.2%と予想の3.4%を上回り、コアにおいても3.8%と前回同様で予想の3.7%を上回っていました。

そこで、FRBによる利下げが遅れる観測が一気に広がり、6月の利下げ観測は前日の60%弱から40%弱へと下げ、年末の金利はほぼ5%と、前日の4.7%から急激に上げていました。

ただ、同日の金の動きはドルの動きに反応していたことから、他の主要通貨における下げ幅は限定的となり、対ドル弱含んだ英国ポンド、ユーロ、日本円では、同日も取引時間中にそれぞれトロイオンスあたり1871ポンド、2186ユーロ、gあたり11547円と史上最高値を更新していました。

木曜日金相場は、市場注目の米卸売物価指数が予想を下回り、米新規失業保険申請件数は若干予想より良好であったものの、前日の予想を上回る米消費者物価指数の下げ幅を削ってニューヨーク時間終了後にも上昇を続けてトロイオンスあたり2376ドルと史上最高値をつけて終えていました。

同日発表された米卸売物価指数は、前年同月比2.1%と前回の1.6%を上回ったものの、予想の2.2%を下回り、前月比0.2%と予想の0.3%と前回の0.6%を下回っていました。そこで、前日の消費者物価指数よりも良いニュースとして市場はとらえたようですが、FRBによる利下げが遅延する観測は続き、ドルインデックスと10年物国債利回りは前日の昨年11月以来の高さから若干上昇していました。

しかし、ウクライナとロシアの紛争、またイランとイスラエル、そしてイランが米国をターゲットとすることにも言及していることから地政学リスクは高まっており、金のサポートとはなっていた模様です。

なお、同日欧州中央銀行は金融政策発表で金利を据え置いたものの、利下げ転換を示唆したことでユーロは対ドル弱含み、日本円も対ドル34年ぶりの低さへ下げて、相対的にドルが強含んだことで、ユーロ建て、ポンド建てでは、世界指標でロンドン時間で午後3時につけられるLBMAのPM価格で史上最高値をつけて、トロイオンスあたり2185ユーロと1870ポンドをつけ、日本円建てでも終値でgあたり11709円と史上最高値で終えていました。

本日金曜日金相場は、前日の上昇基調を受け継ぎ、ドルが前日の昨年11月以来の高さからさらに上昇し、米長期金利は前日の昨年11月以来の水準から若干下げているものの、全ての主要通貨で史上最高値を更新して上昇し、米国ドル建てではトロイオンスあたり2431ドルと取引時間中の史上最高値を更新した後、上げ幅を削ってロンドン時間夕方にトロイオンスあたり2345ドル前後を推移しています。

この背景は、今週の貴金属市場全体を解説しているまとめで記載していますが、地政学リスク、高インフレ懸念、中国需要等が挙げられています。

過去1週間のドル建て金相場のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 中国の中銀が3月も5トン金準備を積み増し2262トンとしていたこと。これは、17ヵ月連続の金購入。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に4月2日のデータが発表され、前週継続的に金価格が史上最高値をつけていた際に、金と銀とプラチナで強気ポジションを増加させ、銀で弱気ポジションを増加させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、13%増で554トンと2020年7月半ば以来の高さへ増加していたこと。価格はこの際3.9%高でトロイオンスあたり2264.50ドルと再びLBMAのPM価格で史上最高値を更新していたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、5週連続ネットロングで13%増の5301トンと前々週の2022年4月19日以来の高さを若干下回る水準へ増加していたこと。価格は3.3%高のトロイオンスあたり25.65ドルと2022年4月半ば以来の高さへ上昇していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは1月23日の週以来ネットショートからネットロングへ転換し、0.01トンとなっていたこと。価格は2.1%高でトロイオンスあたり925ドルと上昇していたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、6.0%増の33トン3週ぶりの高さへ増加していたこと。価格は1.1%高でトロイオンスあたり1016ドルへ上昇していたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに、週間としては4.3トン(0.5%)増で830.75トンと2週ぶりの週間の上昇の傾向で4月4日以来の高さとなっていたこと。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに全く増減が無く383トンと、引き続きパンデミック最中の増加分を失って2020年3月末以来の低さで、1月最終週以来週間の増加が無いこと。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで232トン(1.7%)増で13,497トンと3週ぶりの週間の減少傾向で4月初旬以来の低さであること。
  • 金銀比価は、今週84で始まり本日82台前半と12月初旬以来の低さへ下げて終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、月曜日に1399ドルと過去最大で始まり、週半ばで若干下げたものの、木曜日に1395ドルと再び1990年3月にLBMA価格が公表されて以来の最大の高さの水準となっていたこと。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは今週76ドルで始まり、金曜日に57ドルと2月末以来の低さに下げて終える傾向。2023年平均は371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
  • 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週SGEの金価格が今週も木曜日以外は史上最高値を更新する中で、週間の平均が46ドルと2月半ば以来の高さで、前週の36ドルから上昇していたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までで前週平均比で、金は4%増で3月初旬以来の高さ、銀は8%増で2021年2月一週のSNSの投稿によりシルバーショートスクイーズが行われて銀価格が急騰していた際以来の高さ、プラチナは26%増で3月半ば以来の高さ、パラジウムは50%増で3月初旬以来の高さでること。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は昨年11月24日からの負の相関関係を3月27日から正の関係として0.70と週間で関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は昨年11月20日からの負の相関関係を3月28日から正の関係として本日は0.73と関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は正の相関関係に3月1日から転換して木曜日に0.05と今週その関係を弱めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は水曜日発表の米消費者物価指数、木曜日の欧州中央銀行の金融政策発表へ市場は注目し、それと共に中東情勢等で動くこととなりました。

来週も中東及びウクライナ情勢は重要となりますが、主要指標では、火曜日の中国の小売売上高と鉱工業生産と第1四半期GDP、水曜日の英国とユーロ圏の消費者物価指数、木曜日の米国新規失業保険申請件数、そしてFRB高官のスピーチ等が重要となります。

詳細は主要経済指標(2024年4月15日~19日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、イスラエルがシリアのイラン大使館を空爆して軍司令官等7人が死亡したことと、それ以降のイラン、米国、主要国の反応について、そして英国内のニュースとしては、英国議会で公聴会が行われている郵便局のスキャンダルについて大きくメディアが伝えています。

そのような中、英国人男性が先週末325日をかけてアフリカ全長を走り終えたことが伝えられていましたので、ご紹介しましょう。

この男性は27歳のラッセル・クック(Russell Cook)氏で英国南西のウェスト・サセックス州出身で、走ることを始めたのは、精神衛生、ギャンブル、飲酒の問題を抱えていたことから、自分自身を変えたかったことが動機とのこと。

その後、アジアからロンドンまで66日間で71回のマラソン走破、スズキ・アルトを引っ張りながら海沿いのマラソンを走るなど、多くの耐久チャレンジに挑戦し、「Hardest Geezer(最もハードな風変りな男性」というニックネームで知られていました。

そして、今回はアフリカの16か国、1万マイル(16000キロ)を走破することを計画し、当初は休みなく240日間で360回のマラソンを走る計画であったようですが、アルジェリアのビザが取れなかったこともあり、計画を変更せざるを得なかったとのこと。

また、アンゴラでは、カメラ、携帯電話、現金、パスポートを盗まれ、そしてナイジェリアでは腰痛のために医療検査を受けつ必要が発生し、45日目には尿に血とタンパク質が検出されて休養をせざるを得なくなる等、多くの障害を乗り越えて達成したとのことです。

そのような中でも、アルジェリアのビザ取得が難しい状況下においては、X(旧ツイッター)でその問題を伝えたビデオがXのオーナーのイーロン・マスクを含む1100万人に閲覧され、結果的に英国アルジェリア大使館から表敬ビザが発行されるなど、多くのサポートも得られたようです。

ちなみに、今回クック氏がアフリカ全長を走破することを目標として集まった寄付金は100万ポンド(1億9000万円)を超え、ホームレスの若者をサポートするチャリティー団体のThe Running Charityとサハラウィ難民をサポートする団体へ寄付されるとのことです。

ストイックな英国人の典型ともいえるクック氏が、様々な問題を乗り越えて、自分の人生を変えると共に、多くの人々の人生を変えたであろう今回の挑戦は、世界のランナーの中でも、長く語り継がれることでしょう。

 

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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