ニュースレター(2025年7月18日)プラチナが急騰する中で、貴金属相場は全面高
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャートの貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較すると、下記のようになります。
LBMA価格ベースで、ドル建て金価格は3週連続の上昇で、金曜日価格では6月20日以来の高値、銀価格も3週連続の上昇で2011年9月以来の高値。プラチナは週間の上昇で2014年7月以来の高値、パラジウムは4週連続の週間の上昇で、2023年8月以来の高値となっています。
貴金属市場の動向(週間)
今週の貴金属相場は、プラチナとパラジウムを筆頭に全般的に上昇しました。週間の上げ幅の順は、パラジウム、プラチナ、銀、金の順となっています。
この背景として、プラチナ現物のDislocation(必要な場所に現物が無い状態)を発端とした、現物リースレートの高騰が価格を押し上げ、その影響が他の貴金属にも波及しているとみられます。
パラジウム価格の大幅な上昇は、市場規模の小ささによるボラティリティの高さ、また主な需要がガソリン車の排ガス処理装置の触媒であることから価格が抑えられていた反動も背景にあるようです。
銀の上昇は、他の工業用貴金属同様、米国の関税対象となる可能性への懸念に加え、金と同様に歴史的に通貨としての役割を持つことから、安全資産としての需要が高まっていることが背景と考えられます。
金相場については、トランプ大統領の関税政策への懸念や、同政権によるパウエルFRB議長への批判から、中央銀行の独立性喪失への懸念が支援材料となりました。
今週のチャートとして、年初から本日までの貴金属の上昇率を示すものをお届けしましょう。
- プラチナ(青):61.6%
- パラジウム(緑):45.2%
- 銀(灰色):32.5%
- 金(茶色):28.5%
金の上昇率は昨年の26.6%を上回るペースで推移していますが、それ以上に他の貴金属の上昇が顕著であることが分かります。
今週の貴金属相場の動き(日次)
月曜日
金価格はロンドン時間昼過ぎに一時トロイオンスあたり3374ドルと3週間ぶりの高値をつけましたが、その後上げ幅を縮小し、3345ドルでロンドン時間を終えました。
銀はドル建てで約14年ぶりの高値を記録し、ユーロ建てではLBMA価格で史上最高値を更新しました。
背景には、トランプ前大統領が発表したメキシコおよびEUからの輸入品への30%関税方針があり、これにより世界経済への悪影響が懸念され、安全資産としての金需要が高まりました。また、先週の銅への関税に続き、他の貴金属にも関税が課されるとの見方が広まり、ロンドンの現物市場では供給不足が発生。これにより現物リース価格が急騰し、価格を押し上げました。
火曜日
米消費者物価指数(CPI)が予想を上回る内容となったことで、FRBによる早期利下げ観測が後退。これによりドル高・長期金利上昇が進み、金価格は一時3320ドルまで下落し、3331ドルで終えました。
CPIは全体として市場予想を上回り、コア指数も5か月連続で予想超え。これは企業が関税コストを価格に転嫁し始めている可能性を示唆し、CME FedWatchツールでは、FOMCが想定する年内2回の利下げを上回る利上げ観測が示されました。
水曜日
金価格は一時$3376と再び3週間ぶりの高値を更新。これは、トランプ氏がパウエルFRB議長の解任を示唆した報道を受け、米株価・ドル・米国債利回りが急落したためです。
その後、トランプ氏が「議長が自発的に辞任しない限り解任の可能性は低い」と述べたことで、市場はやや落ち着きを取り戻し、金価格は3346ドルで終えていました。
同日発表の米卸売物価指数は前日のCPIとは対照的に予想を下回り、インフレ圧力の後退を示唆。これにより年内2回の利下げ観測が再浮上し、株式市場は上昇、金の上値も抑えられました。
木曜日
金相場は下落基調を引き継ぎ、一時3311ドルと1週間ぶりの安値を記録。その後3340ドルまで回復して終了しました。
米国の発表指標(小売売上高、フィラデルフィア連銀指数、新規失業保険申請件数)はいずれも堅調で、S&P500種株価指数は最高値を更新。
金の反発は安値圏での買い戻しによると見られます。パウエル議長の解任は否定されたものの、FRBの独立性を巡る懸念や関税政策の影響が依然として市場の背景にあります。
同日、プラチナはトロイオンスあたり1441ドルと2014年9月以来の高値、パラジウムもトロイオンスあたり1271ドルと2023年9月以来の高値を更新しました。プラチナ上昇は、関税懸念に伴う現物のロンドン→ニューヨーク移送と、ロンドンの1か月物リースレートの高止まりが背景。パラジウムのリースレートもやや上昇しているものの、プラチナほどではなく、プラチナ価格上昇に連れ高した可能性があります。
金曜日(本日)
金相場は、プラチナおよびパラジウム価格の急騰に連動して、週中の下げを回復し、ロンドン夕方には3354ドル前後まで上昇しています。
プラチナのリースレートは本日約30%と記録的な高さとなっており、ロンドンおよびチューリッヒの地金現物の逼迫を示唆しています。価格は1449ドルと前日の高値を更新し、パラジウムも1281ドルと2023年9月以来の高値を更新。
この間、FRBのウォーラー理事が7月の利下げ見送りに反対する可能性を示唆し、米株価は上昇、長期金利は低下しています。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に7月8日までのデータが発表され、トランプ政権が日本と韓国への関税率を発表したものの、ほぼ予想通りで、しかも交渉の余地があることを示唆し、金価格が下げていた際に、全ての貴金属で、ネットロングが減少。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、1.4%減で419.41トンと、4月15日までの週以来の高さ。その際の価格は前週比1.0%安でトロイオンスあたり3314ドルと6月24日までの週以来の高さ。建玉は0.37%減と12月31日までの週以来の低さへ減少。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、4.4%減で6781トンと3週連続で減少。価格は前週比0.7%高で、トロイオンスあたり36.78ドルと2週ぶりの高さ。建玉は2週ぶりに上昇して2週ぶりの高さ。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングであったものの、5月20日からネットロングへ転換し、前週火曜日までに3.4%減の23.27トンと、6月6日までの週以来の低さ。価格は前週比1.0%高でトロイオンスあたり1373ドルと、2014年9月9日までの週以来の高さ。建玉は2週ぶりに増加し、この記録が始まった2006年6月以来の高さであった6月24までの週以来の高さへ増加。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに4.1%増で15.43トンと2週連続で増加して、6月17日までの週の高さへ増加。価格は0.9%安でトロイオンスあたり1115ドルと、前週の2023年12月26日の週以来の高さから下落。建玉は2週連続で増加して、4月8日の週以来の高さへ増加。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、昨日木曜日までに週間で0.9トン(0.24%)増加して948.50トンと前週木曜日以来の高さで、週間の増加傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日まで3.02トン(0.68%)増で446.08トンと2023年7月11日以来の高さで、7週連続の週間の増加傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で63.57トン(0.43%)減で14,649.95トンと、6月17日以来の低さで、2週連続の週間で減少傾向。
- 金銀比価はLBMA価格ベースで、今週86台前半と昨年12月半ば以来の低さで始まり、昨日88台前半まで上昇後に、本日87台前半へと若干上昇して終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1961ドルで始まり、本日金曜日に1880ドルと今年2月初旬以来の低い水準へ下げて終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週168ドルのプレミアムで始まり、本日金曜日に145ドルへ下げて、6月6日以来の低さへ下げて終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)の今週のロンドン価格との差は、引き続きプレミアムで、週平均は7.42ドルと6月20日の週以来の低さへ、前週の10.96ドルから下げて終えていたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
今週の主要イベント及び主要経済指標
今週の貴金属市場は、米国の消費者物価指数(CPI)や卸売物価指数(PPI)などの主要経済指標に注目が集まったほか、トランプ政権による関税政策やFRB高官による利下げに関する発言にも反応しながら推移しました。
来週も、トランプ政権やFRB高官の発言に注目が集まると見られます。加えて、主要経済指標としては、火曜日のパウエル議長の発言、木曜日に発表される主要国の製造業・サービス業PMI、そして金曜日の米耐久財受注などが重要な材料となるでしょう。
詳細は、主要経済指標(2025年7月21日~25日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年7月14日~18日)今週のの結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年7月21日~25日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2025年7月14日)銀がユーロ建てで新記録を更新、トランプの関税がEUとメキシコを直撃
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週の英国では、トランプ前政権の関税政策に関する動向、イスラエルによるシリア暫定政府軍本部への空爆、また、英国ではアフガニスタンを巡る情報漏洩に関連し、特殊部隊やスパイの身元に関わる機密が流出したこと、そして数千人規模のアフガニスタン人協力者がすでに英国に移住していたことなどが大きく伝えられています。
スポーツでは、UEFA欧州女子選手権でイングランド代表が準決勝へ進出したニュース、また今週開幕した全英オープンゴルフの話題も広く取り上げられています。
本日は、その中でもとりわけ注目を集めている「アフガニスタン協力者に関する情報漏洩」について詳しくお伝えします。
■ 2021年の情報漏洩、なぜ今週明らかになったのか
2021年8月、アフガニスタンからの欧米軍撤退に伴い、イスラム主義組織タリバンが政権を掌握し、「カブール陥落」が起こりました。その約半年後、2022年2月、英国防省の職員がアフガニスタン人協力者約1万9000人の個人情報を含むデータを、誤って外部にメール送信し、情報が漏洩していたことが明らかになりました。
前保守党政権は、この漏洩により最大10万人以上が危険にさらされる恐れがあるとして、2023年9月1日、英高等法院に「Super Injunction(超差し止め命令)」を申請し、報道規制を敷いたとされています。これは、「差し止め命令が存在すること自体」を報じることも禁じる極めて厳しい措置です。
しかし今週、新たに発足した労働党政権のジョン・ヒーリー国防相が、司法による差し止め解除を発表したことで、この情報漏洩事件がようやく公のものとなりました。
■ 移住支援と費用の現実
この情報漏洩を受け、前政権はアフガニスタンで英国に協力していた人々の保護を急ぎ、すでに約36,000人のアフガニスタン人が英国に移住したとされています。しかし、漏洩で危険が高まったとされる約8万人には、いまだ移住の選択肢が提供されていないという指摘もあります。
これまでの移住支援にかかった費用はおよそ4億ポンド。今後さらに4億5千万ポンドが必要とされており、政府の試算では、2021年以降の総費用は55~60億ポンドに達する見込みです。
■ 情報管理体制への疑問
このような重要情報が、一人の防衛職員による単純なミスで漏洩した事実に対し、専門家からは「英国政府の情報管理体制の脆弱さが露呈した」との厳しい指摘が出ています。
差し止め命令の解除により、今もアフガニスタンに残るかつての英国協力者が新たな危険にさらされないよう、政府が迅速かつ慎重な措置を講じることが強く求められています。