ニュースレター(2025年8月8日)関税懸念とFRB利下げ期待が交錯、金先物価格は史上最高値を更新
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャート上の貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較して以下の通りです。
*金は午後3時の弊社チャート価格、銀は午後12時、プラチナとパラジウムは午後2時の価格。
**日本円価格はLBMA価格として発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。
金価格(ドル建て)は、LBMA金曜日価格で前週金曜日を上回り、2週連続の週間上昇。銀価格も前週の4週ぶりの安値から大きく上昇。プラチナも2週ぶりに上昇。パラジウムは大きく下落して7月10日以来の低値。
貴金属市場の動向(週間)
今週の価格変動は、トランプ大統領政権の関税政策、ウクライナ戦争停戦交渉、米経済指標の悪化、およびFRB高官の早期利下げ示唆に反応しました。
火曜日には半導体や医薬品への高関税を示唆、水曜日にはインドへの懲罰的関税を示唆。木曜日ロンドン時間遅くには、米国に輸入される1キロまたは100オンスの金地金への関税が発表され、市場の想定を超える展開となりました。
これを受け、金先物は史上最高値の3514ドルに急騰。現物価格も連れ高となりました。7月28日に主要先物契約が12月物に移行して以降、先物と現物の価格差は拡大しており、本日は約100ドル差とパンデミック期以来の水準です。
本日は金先物価格(水色)、金現物価格(緑)、一月の金現物リースレート(赤)の昨年トランプ政権発足以来の動きを示すチャートをお届けしましょう。トランプ政権発足以来、金の関税への懸念で金先物と現物価格の差は広がり、リースレートはロンドンの現物不足からも急騰していましたが、4月2日に金に関税が課されないとの判断で平常へ戻っていました。
パラジウムを除く他の貴金属は週間上昇。パラジウムは前週に他の貴金属とは異なり若干上昇していたこと、そして工業需要の多さからも、経済指標悪化が逆風となり重しとなりました。
今週の貴金属相場の動き(日次)
月曜日
金は先週金曜の急騰を引き継ぎ上昇。一時3385ドルと7営業日ぶりの高値をつけた後、3377ドルで終了。背景には経済指標悪化や、トランプ大統領による労働統計局長官の解任、パウエルFRB議長への批判、クグラー理事の辞任、米原潜2隻のロシア近海配備など一連の混乱があり、早期大幅利下げ観測が強まりました。
火曜日
米ISM非製造業景況指数(50.1)が予想(51.5)を下回り、金は3390ドルまで上昇後、3383ドルで終了。トランプ大統領は半導体への追加関税や輸入医薬品への最大250%の関税を示唆し、市場心理を悪化させました。
水曜日
経済指標の発表は少なく、金は一時下落後に持ち直し3370ドルで終了。午後にはドルが7月末以来の安値水準に下落し、金を押し上げました。要因は、①インドへの追加25%関税署名、②カシュカリ総裁による利下げ容認発言。銀も37.89ドルと7月30日以来の高値。
木曜日
FRB高官の利下げ示唆を受け、金は一時3397ドルまで上昇。その後トランプ政権が金地金関税を発表し、先物は3509ドルの史上最高値、現物は3409ドルまで急伸。
米新規失業保険申請は予想をやや上回り、継続申請は2021年11月以来の高水準。イングランド銀行(BOE)は金利を0.25%下げ4.00%に引き下げたが、理事会では意見が割れポンドはやや上昇。
金曜日(本日)
金は前日の上昇分を一部失いながらも3398ドル前後で推移。コメックス保管場所には依然として年初比7割増の金があり、建玉の86%に相当。流動性への懸念は低い状況です。
一部市場関係者は、今回の関税は誤りで訂正される可能性を指摘。今回関税対象と判断されたキロバーを「半製品(関税対象)」とするか「未加工品(関税対象外)」とするかが関税可否が左右されます。
また、トランプ大統領はスティーブン・ミラン氏をFRB理事に指名。ハト派的な姿勢から、FOMC内の利下げ圧力増加が見込まれます。
その他の市場のニュ―ス
- 中国人民銀行は7月に2トン金準備増加。9ヶ月連続の増加で今年累計は21トンで送金準備は2300トン。
- 中央銀行全体では6月に純購入量22トン(IMF報告ベース)、3か月連続で月ごとの増加。
上半期(H1)では、中央銀行の純購入量は123トンで、2024年上半期と比べるとわずかな減少となりました。 - コメックス(COMEX)の貴金属先物・オプションにおける資金運用業者のポジションは、7月29日までの週に発表されたデータで、翌日の米ADP雇用統計と第2四半期のGDPデータを待つ中で、パラジウムを除くすべての貴金属でネットロングが減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションにおける資金運用業者のネットロングポジションは16.4%減少して、444.30トンと2週ぶりの減少で、前週の4月1日までの週以来の高水準から下げていたこと。価格は前週比2.7%安のトロイオンスあたり3316.50ドルで、前週の4月22日までの週(過去最高値)以来の高値から下げていたこと。建玉は14.5%減少し、2月27日までの週以来の低い水準へ。
- 銀のネットロングポジションは3.6%減の6,786トンと2週ぶりの減少で、前週の7月1日までの週以来の高さから下げていたこと。価格は前週比1.9%安の38.11ドルで、7月8日までの週以来の低値と前週の2011年9月20日までの週以来の高値から下落。建玉も7.0%減少し、前週の6月17日までの週以来の高さから下げる。
- プラチナのネットポジションは、5月20日からネットロングへ転じ、2.9%減の25.9トンと、前週の6月24日までの週以来の高さから下落。価格は前週比3.5%安で1397ドルと、7月8日までの週以来の低さで、前週の2014年8月12日以来の高値から下落。建玉は2週連続で減少して5月27日の週以来の低さへ。
- パラジウムは2022年10月半ばからネットショートが継続。22.4%減で5.85トンと、3週連続で減少して、2024年10月29日までの週以来の低さ。価格は前週比2.0%安の1243ドルで、前週の2023年8月22日の週以来の高値から下げていたこと。建玉は減少して、前週の2024年8月27日の週以来の高さから下落。
- 最大の金ETFであるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週木曜日までに6.0トン(0.6%)増の959.09トンと、2022年9月21日以来の高さで、週間ベースで増加。
- 第2の規模の金ETF、iShares Gold Trustの残高は2.11トン(0.2%)増の452.15トンで、2023年6月20日以来の高さ。10週連続の週間増加。
- 銀ETFの最大銘柄、iShares Silver Trustの残高は55.61トン(0.4%)増の15,112.28トンと、7月30日以来の高さで、週間の増加傾向。
- 金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週90台半ばで始まり、昨日には87台中ばと7月末以来の低さをつけ、本日は88台半ばへ上昇して終える見込み。2024年平均は84.75、2023年は83.27、5年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。
- 金価格との差であるプラチナディスカウントは、今週2039ドルで始まり、本日2064ドルへと6月19日以来の大きさへと拡大して終了する傾向。2024年平均は1431ドル、2023年は975ドル、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの価格差は、2月6日以降パラジウムがプラチナを上回る「プレミアム」が継続。今週は112ドルのプレミアムで始まり、本日は191ドルと7月17日以来の高値で終える傾向。2024年平均は28ドルのディスカウント。2023年は371ドル、2022年は戦争影響で1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)とロンドン価格の差は、今週プレミアムに戻し、週平均は4.35ドルと前週の12.48ドルの7月初旬以来の高さから下げていたこと。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景にあります。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週の貴金属相場は、トランプ大統領の関税政策発表に加え、ウクライナ停戦交渉やFRB高官の利下げコメント、悪化する経済指標に反応しました。
来週も関税問題、ウクライナ停戦、FRB高官発言が重要な焦点となるほか、火曜の米消費者物価指数、水曜の卸売物価指数にも注目が集まります。
詳細は、主要経済指標(2025年8月11日~15日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年8月4日~8日)今週のの結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年8月11日~15日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2025年8月4日)金価格、「金曜の混乱」からの反発を継続
- 【金投資家インデックス】金投資、4年ぶりの高水準から後退 - 2025年初の月間価格下落
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。
ロンドン便り
今週英国では、トランプ米大統領の関税政策とウクライナ停戦に関わる言動、来週と示唆されているプーチン露大統領との停戦交渉会談、イスラエルのガザ地区戦闘再拡大について、大きく伝えられています。英国内のニュースとしては、イングランド銀行が昨日0.25%の利下げをしたこと、本日バンス米副大統領が英国で休暇中にラミー英外務大臣との会談を行い、ウクライナ戦争停戦、イスラエルとパレスチナ武装勢力・ハマス紛争停戦について話し合われたことも伝えられています。
そこで、本日イスラエル治安閣議が、パレスチナ自治区のガザ市を占領する計画を承認したと発表し、再び戦線拡大へとカジを切ったことが伝えられていますので、この件に関する英国の立ち位置をお伝えしましょう。
スターマー英首相は、イスラエルの本日の決定を「誤った」ものと明確に断じ、即時の再考を求めました。彼はこの政策が人質の解放を妨げ、人道的被害を深刻化させると批判し、停戦、より多くの人道支援、人質の解放、そして「ハマスを排除した交渉による和平解決」の必要性を強調しました。そして、スペイン、ドイツ、EU、トルコ、中国、オーストラリア等の国々も、本日批判を表明しています。
ドイツはこれに加えて、「ガザ地区で使用可能な軍事装備に対しては」輸出許可を当面停止すると表明しています。
スターマー首相は、先月末に「9月の国連総会までに、イスラエルがガザへの支援継続・停戦・西岸への併合断念・二国家解決へのコミットを実質的に示さなければ、英国はパレスチナ国家を承認する」と述べ、G7の国としては初めて、フランスやカナダとともに2025年9月の国連総会で承認する予定です。
イスラエル国内でも、イスラエル政府の決定に対し、「人質と兵士を見捨てる決定だ」と人質や兵士の安全を危惧する声や、「惨事への道を進めるものだ」という批判も高まっているとのこと。
参謀総長エヤル・ザミル・イスラエル軍首脳は、都市侵攻のリスク、特に密集した市街地における抵抗や人質への危険を指摘し、この計画に慎重な姿勢を示しているとも伝えられています。
長年続くパレスチナを巡る中東の緊張は、2023年10月のハマスによるイスラエル攻撃以降、一層複雑かつ深刻な様相を呈しています。今回のイスラエル政府の決定は地域のさらなる不安定化を招く恐れがあり、国内外からも慎重な対応を求める声が上がっています。
英国をはじめとする国際社会は、人道状況の改善と停戦に向けた外交的な努力を継続するとともに、事態の悪化を防ぐための現実的な対応を模索し続ける必要があるでしょう。今後も情勢の推移を注視しつつ、引き続き英国の立場や動向に注目していきたいと思います。