ニュースレター(2025年12月12日)FOMC実質緩和で貴金属高騰 銀は史上最高値更新
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャート上のLBMA価格がオークションで決まる時間の貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較して以下の通りです。

*金は午後3時の弊社チャート価格、銀は午後12時、プラチナとパラジウムは午後2時の価格。
**日本円価格はLBMA価格として発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。
- 金:ドル建て価格は5週連続の週間の上昇。LBMA価格ベースで史上最高値。
- 銀:3週連続で週間で上昇し、スポット及びLBMA価格ベースで史上最高値。
- プラチナ:3週連続の週間の上昇で、2011年以来の高値。
- パラジウム:3週連続の週間の上昇で、10月17日以来の高値。
貴金属市場の動向(週間)
今週の貴金属価格は、前週同様に銀に牽引されて全般多く上昇しました。銀の上昇の背景は前週のレポートでも述べたように、金と比較した割安水準、供給不足、トランプ政権の関税政策、米政府による「重要鉱物」認定、投資需要の急増などとなります。
今週の貴金属全般の上昇背景は、FOMCで予想通り利下げが実施され、来年の利下げ1回というフォワードガイダンスもほぼ予想通りだったものの、パウエルFRB議長の記者会見内容が予想ほどタカ派的ではなかったこと、さらに本日から実施される総額400億ドル規模の短期国債購入が事実上の金融緩和と捉えられたことによります。
本日貴金属は大きく上昇後に上げ幅を削りましたが、LBMA価格(米ドル)ベースでは次のように年初来の上昇幅を拡大しています。
- 金:66%
- 銀:123%
- プラチナ:94%
- パラジウム:69%
今週は、年初来の貴金属価格の上昇率を示したチャートをお届けします。

今週の貴金属相場の動き(日次)
月曜日
金・銀相場は、ロンドン午後に米ドル指数と米長期金利がFOMCを控えて上昇する中で下落し、金はトロイオンスあたり4,177ドル、銀は57.93ドルと前週終値を下回る場面がありました。
FOMCでは3会合連続の利下げが約9割の確率で織り込まれており、むしろよりタカ派的な内容への警戒感が相場の重しとなりました。
また、週末には以下が明らかとなり、ドルヘッジとしての金投資が進んでいました。
- 中国・ポーランド・ブラジル・ウズベキスタンが11月に金準備を増加
- 世界の金ETF残高が6ヶ月連続で増加
火曜日
金相場は、翌日のFOMCでタカ派的なシグナルが出るとの警戒感で下落していたものの、トランプ大統領がパウエル議長の後任候補として有力視するケビン・ハッセット氏が「0.25%を超える利下げも可能」と発言したことで、来年以降の金利低下観測が強まり、上昇に転じました。
銀相場はトロイオンスあたり60.56ドルと史上最高値を更新。金銀比価は70を割り込み、2021年7月以来となる割安感の解消局面に入りました。
背景には以下があります:
- 米10月JOLTS求人件数が予想・前回値を上回り、産業需要期待が増加
- 60ドル突破を契機としたテクニカル要因
参考:金銀比価の平均値
- 2010年代:67.6
- 2020〜2024年:82.5
- 2025年:89.2
水曜日
FOMC発表を控え、金相場はトロイオンスあたり4,200ドル前後でのレンジ取引、銀は一時61.60ドルと史上最高値を記録後、利確売りで軟化しました。
FOMC発表後はリスク選好が改善し、金は一時4,238ドルへ上昇、その後4,227ドル前後の高値圏で推移。銀も61.94ドルと過去最高値を更新しました。
FOMCでは0.25%の利下げが決定。反対票3票と見解の分岐が明確となり、ドットプロットでは2026年に向けた利下げ回数の中央値が「あと1回」にとどまりました。
また、12日から総額400億ドル規模の国債購入が再開され、流動性供給観測が高まり、実質金利の低下を通じて金・銀相場を支援しました。
木曜日
金相場はロンドンPMにかけてトロイオンスあたり4,279ドルと10月21日以来の高値をつけ、銀は64.05ドルと連日で史上最高値を更新しました。
前日のFOMC後の市場再評価が上昇の主要因であり、パウエル議長が労働市場減速リスクを明確に指摘したこと、総額400億ドル規模の国債購入再開が示されたことで、金融環境が市場予想ほど引き締まらないとの見方が広がりました。
米ドル指数と米長期金利はともに低下し、実質金利低下が金・銀相場を押し上げています。
また、オラクル決算の下振れを受けてハイテク株に売りが広がり、リスク資産から安全資産への資金シフトも貴金属の需要を下支えしました。
金曜日
金相場はLBMA価格(PM)で新高値をつけ、日中スポット価格もトロイオンスあたり4,352ドルと10月21日以来の高値を記録。銀相場は5営業日連続で最高値を更新し、スポット価格は64.65ドルまで上昇しました。
これは、FOMCで名目上は金融緩和とされなかったものの、実質的な緩和策となる総額400億ドル規模の国債購入再開が発表されたことが背景とされています。
日本円建てにおいては、前日に続き本日も金価格はgあたり21,811円と最高値をつけています。
その後、金・銀価格は午後にかけて高値から反落し、ロンドン時間午後には金4,284ドル、銀は64ドル前後で推移しました。

その他の市場のニュ―ス
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コメックス(COMEX)のデータは、米政府機関の閉鎖解除後、11月4日までのデータが発表され、金が10月21日に最高値をつけた後に調整の動きもあり大きく価格を下げていた際に、金と銀はネットロングを減少させ、プラチナはネットロングを2週連続で増加、パラジウムはネットショートを減少させていたこと。
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木曜日までのコメックスの取引量においては、銀が火曜日から急騰して4営業日連続で最高値をつけ、金もまた上昇に転じる中で、金が週間で前週比0.1%増加させ、銀は2.2%減少して11月半ば以来の高さから下げ、プラチナは前週の2.5%増で10月半ば以来の高さ、パラジウムは、0.1%減で7月末以来の低さとなっていたこと。
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金ETFの最大銘柄であるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週木曜日までに0.58トン(0.06%)増で1050.83トンと、3週連続の週間の増加で10月23日以来の高さへ増加。
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銀ETFの最大銘柄であるiShareシルバーの残高は、今週157.95トン(0.99%)増の16,083.16トンで、12月4日以来の高さで、5週連続の週間の増加。12月月間ではすでに472.62トン(3.02%)増と、6月以来の高さ。
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金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週72台前半で始まり、金曜日に67台なかばと2021年以来の低さへ下げること。2024年平均は84.75、2023年は83.27、5年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。
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上海黄金交易所(SGE)とロンドン金価格の差は、10月28日以来継続的にプレミアムであったものの、11月13日にディスカウントへ転換し、週間の平均は、前週の21.890ドルのディスカウントから27.61ドルのディスカウントと今年10月初旬に金価格が最高値の更新を続けていた際以来の幅に拡大させていたこと。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景にあります。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は、水曜日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後に公表された声明や経済予測(ドットプロット)、さらにパウエルFRB議長の記者会見に市場の注目が集まり、それらを受けて相場が動く展開となりました。
来週は、木曜日のイングランド銀行(BOE)と欧州中央銀行(ECB)、金曜日の日本銀行(BOJ)と、主要中央銀行の政策金利発表が続きます。
加えて、米政府機関閉鎖の影響で遅延していた主要経済指標が相次いで公表されます。11月の米雇用統計が火曜日、11月の消費者物価指数(CPI)が木曜日、そしてFRBがインフレ指標として特に注目する11月の個人消費支出(PCE)コアデフレーターが金曜日に発表されます。これらは、発表が遅れていた数カ月間の米経済の現状を見極めるうえでも重要な指標となります。
その他、主要経済指標の発表スケジュールの詳細は、主要経済指標(2025年12月15日~19日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2025年12月8日~12日)今週のの結果をまとめています。
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主要経済指標(2025年12月15日~19日)来週の予定をまとめています。
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。
ロンドン便り
今週の英国では、引き続きウクライナ戦争の和平案をめぐる欧州首脳とゼレンスキー・ウクライナ大統領の会議、そしてそれに対するトランプ米大統領の反応が大きく報じられています。欧州で凍結されているロシア中央銀行資産をウクライナ戦争の費用として活用する案を検討する欧州首脳と、それに反発するロシアの動きも注目されています。
また、英国では「レジデンスドクター」と呼ばれる医師(資格取得後まもない医者)が待遇改善を求めてストライキに入る中、インフルエンザ患者が急増していることも大きなニュースとなっています。
こうした中、年末恒例となっている著名辞書出版社による「今年の言葉」が出揃いましたので、ご紹介しましょう。
◆ Cambridge Dictionary:Parasocial
意味: 有名人、架空のキャラクター、あるいは AI など、相手は自分を知らない存在に対して、一方的に親しみや感情を抱くこと・その関係性。
◆ Oxford University Press:Rage Bait
ネットや SNS で用いられる、わざと怒りや憤りを引き出すために投稿されるコンテンツ(記事・動画など)。クリック数やエンゲージメントを狙った「怒り釣り(outrage-baiting)」。
◆ Collins English Dictionary:Vibe Coding
自然言語で書いた指示(例:「この色気ある雰囲気で…」など)から、AI を使ってコードやデジタル作品を生成する、2025年に注目された技術的・社会的ムーブメント。
◆ Dictionary.com:67(Six-Seven)
明確な定義は定まっておらず、若者・ネットのスラングとしてバイラル化。文脈によって「いいね/よくないね/なんとなく…」といった曖昧なニュアンスを示すことが多い。
ご覧の通り、今年選ばれた言葉はいずれも AI やデジタル文化の影響を強く反映したものとなりました。
ちなみに、英経済誌 The Economist は “Slop”(混沌、雑多、質の低いもの、ごちゃ混ぜの物があふれる)を今年の言葉として選んでいます。これは、インターネットやデジタルメディア上で
- AI による低品質コンテンツの氾濫
- アルゴリズムが増幅するノイズ
- 情報の飽和と雑多化
といった問題が顕在化した一年だった、と同誌は分析しています。「質より量」「本質より見かけ」が溢れた社会状況を映し出していると言えるでしょう。
そしてこの数年、SNSを含むデジタル文化関連の言葉がその年の言葉として選ばれてきましたが、こうして見ると、2025年はAI 関連株が世界の市場を動かした一年であったのと同様に、言葉の世界でも AI が強い存在感を放った年だったと言えるでしょう。






