金市場ニュース

ニュースレター(2025年12月5日)銀が主導し貴金属全面高:金銀比価は2021年以来の低水準へ

昨日は午後休暇をいただいていましたので、一日遅れましたが今週のニュースレターをお届けします。

週間市場ウォッチ

今週金曜日のLBMA貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較して以下の通りです。

今週の貴金属価格の変動率 出典元 ブリオンボールト

*日本円価格はLBMA価格として発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。

  • :ドル建て価格は4週連続の週間の上昇。金曜日の価格としては過去最高。
  • 2週連続で週間で上昇し、金曜日価格では史上最高値。
  • プラチナ2週連続の週間の上昇で、金曜日価格では2013年以来の高値。
  • パラジウム2週連続の週間の上昇で、金曜日価格では2023年以来の高値。

貴金属市場の動向(週間)

今週の貴金属相場は、史上最高値の更新が続いた銀価格に牽引され、全ての貴金属が週間ベースで上昇しました。銀価格の上昇は、以下の複合要因が市場に織り込まれつつあることに起因すると考えられます。

  • 長期的な銀の割安推移に伴うバリュエーション調整
  • 過去5年間にわたる、需要が供給を恒常的に上回る構造的供給不足
  • トランプ政権下の関税政策を背景にNY市場へ現物が集中し、その後改善したもののロンドン市場の流動性が低下し、短期リースレートが急騰後に高止まり
  • 米国政府による銀の「重要鉱物」指定を受けた、政策リスクや関税へのヘッジ需要の拡大
  • ETFを中心とした投資需要の増勢

これらを踏まえると、市場は銀の供給制約や政策リスク、さらに割安修正圧力を背景とした中期的な上昇トレンドを意識し始めているとみられます。

年初来の銀の上昇率は金曜日時点で+101.0%となり、金(+62.5%)、プラチナ(+80.0%)、パラジウム(+60.5%)を大きく上回りました。金銀比価は一時71台まで低下し、2021年以来の低水準を記録しました。

そこで、本日は金銀比価の動きを示すチャートをお届けします。

 

ドル建て銀価格と金銀比価 出典元 ブリオンボールト

今週の貴金属相場の動き(日次)

月曜日

金・銀相場は前週の上昇基調を引き継ぎ堅調に推移。金は4,264ドルと6週ぶり高値、銀は58.52ドルと2営業日連続の史上最高値を更新しました。
背景には、パウエルFRB議長の後任がすでに決定済み(氏名は非公表)とするトランプ大統領の発言を受け、ハト派とみられるケビン・ハセットNEC委員長が後任となるとの観測が強まり、ドル安が進行したことが挙げられます。
円建て金価格も21,291円と史上最高値を記録しました。

 

火曜日

金相場は、株式市場のボラティリティの低下とドル指数の底堅さを受け、直近の上昇に対する反動が出て一時4,165ドルへ下落。その後は4,211ドルまで戻して引けました。
銀相場は58ドル近辺で堅調に推移し、金銀比価は72台まで低下。昨年の年間平均(84台)からの割安修正が加速した形です。

 

水曜日

金はADP雇用統計の弱さを材料に一時4,241ドルまで上昇しましたが、引けにかけて4,211ドルへ戻しました。
銀は3営業日連続で史上最高値となる58.97ドルを更新。引けは58.44ドルでした。
金銀比価は72割れとなり、2021年以来の銀割安是正水準に到達しました。
ADPは予想(+1万人)に対し、-3.2万人と大幅な下振れとなり、来週のFOMCでの利下げ観測を強め、貴金属の上昇要因となりました。

 

木曜日

金相場は一時4,181ドルまで下落した後、4,201ドルへ戻して終了しました。
米新規失業保険申請件数は予想を下回り20229月以来の低水準となりましたが、感謝祭周辺の季節要因の影響が大きいため、市場の反応は限定的でした。利下げ織り込みは依然として約9割で推移。
銀は3日連続の最高値更新後に利益確定売りが入り、一時56.51ドルまで下落し、終値は57.00ドル。ただし年初来騰落率は+97%と金(+61%)を上回り、1979年オイルショック期以来の歴史的上昇率となっています。

 

金曜日

金・銀相場は、9月の米インフレ指標(PCE)の発表を受けて一段高となり、金は一時4,259ドル、銀は59.32ドルと史上最高値を更新。その後は週末を控えた調整により上げ幅を削りました。
LBMA価格(金曜日基準)では両者ともに最高値を更新しました。
一方で、年初来の急騰を背景に、2026年を見据えたポートフォリオ・リバランスが一部投資家の間で進み始めているとの指摘も出ています。
PCEコア・デフレーターは前月比+0.2%と予想通り、前年同月比は2.8%とわずかに低下したものの、FRB目標の2%を依然として上回っていました。

一週間のドル建て金価格チャート 出典元 ブリオンボールト20年間のドル建て銀価格チャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックス(COMEX)のデータは、米政府機関の閉鎖解除後、1021日までのデータが発表され、金と銀が史上最高値の更新を続けていた同日までの一週間では、金が7週連続、銀が4週連続、プラチナが3週連続でネットロングを減少させ、パラジウムはネットショートを8週連続で減少させていたこと。

  • 金曜日までのコメックスの取引量においては、銀が週初めから3営業日連続で最高値をつける中で、金が週間で前週比18.7%減少させて8月末以来の低さへ下げ、銀は、10.2%増加で11月半ば以来の高さ、プラチナは前週の16.9%増で10月半ば以来の高さ、パラジウムは、29.6%減で7月末以来の低さとなっていたこと。

  • ETFの最大銘柄であるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週金曜日までに4.80トン(0.46%)増で1050.25トンと、2週連続の週間の増加。金曜日に0.33トン(0.03%)減少するまでは、1023日以来の高さへ増加。

  • ETFの最大銘柄であるiShareシルバーの残高は、今週122.85トン(0.78%)増の15,925.21トンで、4週連続の週間の増加。金曜日に169.24トン(1.06%)減少するまでは、2022711日以来の高さ。

  • 金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週74台前半で始まり、金曜日一時71台へと2021年以来の低さへ下げて、72台後半で終えていたこと。2024年平均は84.752023年は83.275年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。

  • 上海黄金交易所(SGE)とロンドン価格の差は、1028日以来継続的にプレミアムであったものの、1113日にディスカウントへ転換し、週間の平均は、前週の11.80ドルのディスカウントから21.89ドルのディスカウントと今年10月初旬に金価格が最高値の更新を続けていた際以来の幅に拡大させていたこと。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景にあります。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は、水曜日の米ADP全国雇用者数や金曜日の個人消費支出(PCE)など主要経済指標を見極める展開となりました。

 

来週は、市場の最大の注目イベントである米連邦公開市場委員会(FOMC)が火曜日と水曜日に開催され、ドットプロットを含む政策判断とパウエル議長の会見に市場の視線が集まる見通しです。


このほか、発表前日の火曜日には米雇用動態調査(JOLTS)求人件数、翌木曜日には米卸売物価指数(PPI)や新規失業保険申請件数が予定されており、いずれも短期的な金利観測に影響する重要指標となります。

 

その他、主要経済指標の発表スケジュールの詳細は、主要経済指標(2025128日~12日)ご覧ください。

 

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。

ロンドン便り

今週英国では、ウクライナ戦争の停戦に向けた主要各国の動きが大きく報じられました。国内では、レイチェル・リーブ財務大臣が前週に発表した秋季予算案をめぐり、財政状況について正確でない説明を行ったのではないかという疑念が取り沙汰されたほか、予算発表前に内容を誤って公表した財政責任局(Office for Budget Responsibility: OBR)のトップが責任を取り辞任したことも話題となりました。

そのような中、私は水曜日にロンドン貴金属市場協会(LBMA)が毎年この時期に開催する年次セミナーとディナーに参加しましたので、その概要をお伝えします。

年次セミナーとパーティーは、ロンドン市長公邸であり、英財務大臣の演説場所としても知られる金融街中心部のマンションハウスで行われました。

セミナーではまず、LBMA CEORuth Crowell氏が、LBMAの今年の取り組みと今後の方向性を説明し、新会長のPeter Zoellner氏を紹介。Zoellner氏はご自身がオーストリア中銀やBISで貴金属に携わってきた経歴を述べた上で、今後の貴金属業界が進むべき方向性について提言しました。

続いて、UBSSimon Penn氏が金市場をマクロ面から解説し、Family Officeなどの投資主体がトランプ政権の政策を背景にドル離れを進め、その資金の受け皿として金が選好されていると指摘。来年の金価格が5,000ドルに到達する可能性にも言及しました。

次に、ワールド・ゴールド・カウンシルのJohan Palmer氏と、University College CorkFergal O'Connor教授が、世界のGDPや経済データをもとに金価格の動きを数理モデルで説明できるかという研究成果を発表しました。

最後に、Metals FocusPhillip Newman氏が銀の需給構造について解説しました。銀価格が上昇する中で、AISCAll-in Sustaining Costs)と比較して採算性は高まっているものの、銀は金や銅などの副産物であるため産出量は容易に増加しない点を指摘。今年で5年目となる供給不足は今後も数年続く可能性があるとしました。また、工業用途の比率が高い現状を説明し、価格上昇を受けて太陽光パネルでは銀使用量の削減が進む一方、AI向け用途は増加していると述べ、銀価格60ドルは唐突ではないとして強気姿勢を示しました。

その後の年次パーティーには、世界の貴金属業界から約350名が参加しました。ゲストスピーカーとしてエコノミストのDavid McWilliams氏が登壇し、アイルランド中央銀行での勤務経験や、貴金属業界との関わりについてユーモアを交えて講演しました。

ロジスティクス、ブリオンバンク、投資銀行、市場運営など、同じ貴金属業界の中でも専門分野を超えてネットワークを構築し、市場情報を交換できるこうした場は非常に貴重であり、多くの参加者が時間を忘れて交流を深めていました。

年次ディナーの会場写真を添付します。

LBMAディナー会場の写真 出典元 ブリオンボールト

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者であると共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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