ニュースレター(2025年1月31日)トランプ新政権の関税懸念からも金価格は史上最高値へ
週間市場ウォッチ
今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格(午後3時)と比較すると、1.29%高でトロイオンスあたり2812ドルと5週連続の週間の上昇で、昨年10月末の史上最高値2790ドルを更新しています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格(午後12時)と比較して、2.59%高のトロイオンスあたり31.64ドルと2週連続の週間の上昇で、7週ぶりの高さへと上昇となっています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から2.69%高でトロイオンスあたり975ドルと2週連続で週間の上昇で、11月初旬以来の高さとなっています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA PMパラジウム価格(午後2時)から0.65%安でトロイオンスあたり995ドルと若干ながら週間の下げとなっています。
今週のの金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属市場は、パラジウムはLBMAの午後の価格では若干下げていますが、その後上昇して1000ドルを超えており、全般週間の上昇で終える傾向で、金においては日本円建てを除き主要通貨建てで全て史上最高値をつけています。
これは、下記の要因が重なったことからとなります。
- トランプ新政権の本日からカナダとメキシコへ25%の関税を課するということへの懸念から、a.金を筆頭にコメックスのショートポジションが2020年のコロナ危機以来の低さへと解消されることで価格を引き上げていること。b.先物取引の決済のために関税が課される前に現物がニューヨークへ集まり、ロンドンでのリースレートが急騰していることでロンドンでの現物不足への懸念が需要を高めていること。
- 今週のFOMCの声明とパウエルFRB議長の記者会見の内容が、予想よりもタカ派的ではなかったことで政策金利が、今年も段階的に下がるという観測の広がり。
- 本日発表のFRBがインフレ指標として重視する米個人消費支出PCEコア・デフレーターが予想とほぼ同水準でインフレの高まりへの懸念が後退し、FRBの政策に変化は無しという観測の広がり。
- トランプ新政権が打ち出そうとしている政策(新たな関税、安価な労働力を提供していた違法移民の本国への移送、減税等)が高インフレや更なる財政赤字の拡大となることへの懸念による安全資産の需要の高まり。
本日のチャートはニューヨークの金の在庫の急増のチャートをお届けしましょう。
この表で、2020年にコロナ危機のロックダウンで飛行機の定期便が飛ばなくなった際に、それまで必要に応じて定期便で動かしていた金が動かしにくくなったこと、またスイスの精錬所がロックダウンで現物供給がスムーズでなくなっていたこと、それに加えコロナ危機への懸念からも金の需要急増もあり、先物の決済を行うために金現物がニューヨークに集まっていたことが分かります。
そして、今回はトランプ氏が大統領選で勝利した後に、関税によって金や貴金属の移動が損なわれる懸念からも現物がニューヨークに集まっていることが分かります。
今週の金相場について
週明け月曜日金相場はロンドン時間午前中に、前週からの上げからも利益確定の売却による下げで始まり、その後世界株が下げる中で、一時下げ幅を取り戻したものの、リスクオフの急激な動きで金においても現金化が進み、トロイオンスあたり2730ドルとほぼ一週間ぶりの低さまで一時下げて、2740で終えていました。
この背景は、本日中国のスタートアップ企業のDeepSeekが世界のトップクラスのチャットボットに匹敵する性能をその数分の1のコストで実現するAIモデルを発表したことで、エヌビディアが17%ほど急落する等米AI関連株が大きく下げて世界株が全般下げたことからでした。
火曜日金相場は、前日急落した世界株式市場が落ち着く中で、前日の下げ幅を削りながら、トロイオンスあたり2763ドルへと上昇して終えていました。
前日は安価なAIモデルを発表した中国企業DeepSeekによって、Nvidiaを筆頭に米テクノロジー企業の将来への懸念が高まっていましたが、同日はこれらの株を下げで買うという姿勢もあり、下げ幅の半分以上を取り戻したこともあり、株価が全般上昇していたこともあり、金もまた前日の現金化後の買いが入いることとなりました。
水曜日金相場は、FOMCが終わるまで緩やかに下げ、FOMCの声明発表後さらにトロイオンスあたり2745ドルまで下げたものの、パウエル議長の記者会見で落ち着きを取り戻し2762ドルまで上昇して終えていました。
政策金利は事前予想通り4.25~4.50%で4会合ぶりに据え置かれ、声明では、インフレが目標の2%に向かって前進しているという文言が消去されていたことで、一旦タカ派的内容という判断でドルが強含み、長期金利も上昇し、株価が下げて、金も下げていました。
しかし、パウエル議長がインフレへの言及を消したのは文章を短くするための判断に過ぎず、何らかのシグナルを送ったのではないという説明をしたことで、その下げ幅を削ることとなりました。
木曜日金相場は、取引時間中にトロイオンスあたり2798ドルと史上最高値をつけ、日本円建て以外の主要通貨でも高値更新することとなりました。
この背景は、前日のFOMCの声明やパウエルFRB議長の記者会見が市場の予想よりもタカ派的ではなかったこと、また、同日のファイナンシャルタイムズが「金がニューヨークに集まり、ロンドンで在庫不足に」という記事を発信したことで、前日まで先物と現物価格の差がトロイオンスあたり7ドルまで下げていたものが、同日再び30ドルほどへ広げるなど、市場に流動性への懸念が広がったことも背景ではあったようです。
ちなみに、同日欧州中央銀行は0.25%の利下げを決めていましたが、米ドルと米長期金利は前日から若干下げて推移していました。
なお、同日発表された米第4四半期GDPは2.3%と前回の3.1%と予想の2.6%を下回っていたものの、同四半期のGDP個人消費は4.2%と前回の3.7%と予想の3.2%を大きく上回っていました。
本日金相場は市場注目のFRBがインフレ指標として重視するデータが予想と同レベルであったことで、FRBが利下げペースを維持するとの観測でトロイオンスあたり2815ドルと史上最高値を二日営業日連続で更新しています。
米個人消費支出PCEコアデフレーターは、前月比0.2%と前回の0.1%を上回ったものの予想と同水準で、前年同月比では2.8%と前回と予想と同水準となっていました。
また、本日のデータに加え、トランプ大統領が本日2月1日からカナダとメキシコの輸入品に25%の関税をかけると述べていることからも、それが実際に行われるのかヘの懸念からも、本日も金のリースレートは7%近くまで急騰し、先物と現物の交換取引のレートEFPはもまたトロイオンスあたり50ドルへと急騰していることもまた、金価格の上昇の要因となっている模様です。
ロンドン時間午後にFOMCで投票権を持つグーズブリー・シカゴ連銀総裁が、利下げペースを落とすことに問題はないと述べながらも、一年から一年半先の金利は現在よりも低いだろうと述べ、やはり投票権を持つボウマン理事はインフレのさらなる進展を見る必要性、経済の強さからも新政権の政策がどの程度制限的になるかも見極めたいと述べたことも伝えられています。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に1月21日までのデータが発表されて、トランプ大統領の就任式の翌日にプラチナを除くすべての貴金属で強気ポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、10.3%増で729トンと3週連続で増加して10月29日の週以来の高さとなっていたこと。価格は2.7%高でトロイオンスあたり2737ドルと11月初旬以来の高さへ上昇し、建玉は11.7増と3週連続で増加して11月19日の週以来の高さとなっていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、2.6%増で4595トンと3週連続で増加して12月10日の週以来の高さとなっていたこと。価格は前週比2.5%高で、トロイオンスあたり30.49ドルと上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングで、70.9%減で3.2トンと12月17日の週以来の低さへ下げていたこと。価格は前週比0.1%安でトロイオンスあたり947ドルへ下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに7.5%減で33.7トンと12月24日の週以来の低さとなっていたこと。価格は0.2%高でトロイオンスあたり944ドルと12月末以来の高さへ上げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに4.0トン(0.5%)増加して864.19トンと、1月22日以来の高さでで2週ぶりの週間の増加傾向であること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに全く変化なく391.84トンと11月中旬以来の低さであること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに243.58トン(1.71)減で13,961.78トンと2週連続で週間の減少傾向で、週間の減少量としては12月半ばの週以来の大きさで、7月半ば以来の低さであること。
- 金銀比価は、今週90台半ばで始まり、火曜日に91と2月初旬以来の高さへ上昇後に、本日88台半ばへ下げて終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1822ドルと1990年に記録が始まって以来の高さで始まり、水曜日に1800を割ったものの、本日1816ドルへ上昇して終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの差は、1月22日からディスカウントへと転換し、月曜日の25ドルから本日12ドルへ下げて終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドル。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)は、火曜日から来週の火曜日まで中国の正月の祝日であるため、月曜日の5.90ドルのプレミアムが週間の平均となり、前週の0.8ドルのディスカウントからは需要の高さが見られていたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプリミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までに週間で、金は0.2%減で1月一週目以来の低さ、銀は4.9%増で12月半ば以来の高さ、プラチナは17.2%増で1月2週目以来の高さ、パラジウムは22.0%減で1月一週目以来の低さとなっていたこと。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は1月21日から負の相関関係で本日0.78と週間ではその関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は1月23日から負の関係で、本日0.65と前週から関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は1月21日から正の関係で、木曜日までで0.75と前週から関係を強めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標。
今週市場はFOMCと欧州中央銀行の政策金利発表、そして米インフレ指標に注目する中で、月曜日には中国企業DeepSeekの安価なAIモデルの発表で米テクノロジー株の急落で始まり、今週末にトランプ政権がメキシコとカナダに関税を課すのかヘの懸念が高まって終える傾向となっています。
来週は米雇用関連データの発表が続き、火曜日に雇用動態調査(JOLT)求人件数、水曜日のADP雇用者数、金曜日の雇用統計となります。その他、トランプ大統領の関税関連の政策へは引き続き市場は注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2025年2月3日~7日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
先週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年1月27日~31日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年2月3日~7日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2025年1月27日)米AI産業への懸念から世界的な株安を受け、金相場は下げ幅を拡大
- 金投資が21世紀を制した理由(パート2):中国とインドの金の需要について
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、イスラエルとハマスの停戦中に行われている人質とパレスチナの囚人の解放について、アウシュビッツ解放80年の現地と英国で行われていた追悼式典について、トランプ新政権の関税関連の政策について、昨日のワシントンの旅客機と軍用ヘリの事故について、国内においてはリーブ財務相がヒースロー空港の新滑走路の建設計画を支持すると表明したこと等が大きく伝えられています。
そこで、本日はこのヒースロー空港の第三滑走路をめぐる議論についてお伝えしましょう。
ヒースロー空港は世界でもドバイ、アトランタ、羽田、上海空港に続き5番目に旅客者数が多い空港とされています。そこで、現在の2本の滑走路に加えて新たな滑走路が必要という提案は2006年末に運輸省が提出し、2007年に公開協議が行われ、多くの企業、空港業界、英国商工会議所、英国産業連盟等と共に当時の労働党政府によって公に支持されていました。それに対し、当時のロンドン市長であった後に首相となる保守党のボリス・ジョンソン氏や多くの環境保護団体、地元擁護団体等が反対していました。そこで、2010年に保守党と自由民主党の連立新政権によって拡張はいったん中止されていました。
しかし2016年に新しい北西滑走路とターミナルが保守党政府の中央政策として採択され、2018年に下院で3本目の滑走路が承認されていました。しかし2020年に、環境保護運動団体とロンドン市議会、サディク・カーン・ロンドン市長によって起こされた司法審査申請で、控訴裁判所は、パリ協定に基づく気候変動対策に関する政府の公約が考慮されていないということで、第3滑走路建設を進めるという政府の決定は違法という判決を下していました。
その後2020年に英国最高裁判所が第3滑走路の禁止を解除し、開発許可命令による計画申請を許可していましたが、コロナ危機による旅客者数減少と投資コストへの懸念から2023年に計画がとん挫していました。
そこで、今回リーブ財務相が改めて、現議会任期中に第3滑走路の建設を着工することが労働党新政権の計画と今週表明していたのでした。
労働党はヒースロー空港の拡張は経済立て直し策の目玉という位置づけで、積み上がる公債残高の早期削減を不安視する債券市場からの信頼を取り戻す方針とのこと。
カーン・ロンドン市長は今回も気候変動対策で温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする政府公約を損なうとして、環境団体と共に引き続き反対をしており、当初の提案から20年近くを経て今回こそは実際に建設に着手することができるのかというところでしょうか。
英国政府は技術の発展によって経済成長と環境問題は両立できると主張していますが、リーブ財務相が『ヒースロー空港の第3滑走路を10年以内に運用できる』と言い切った以上、その実現の可能性を見守ることになりそうです。