ニュースレター(2024年11月15日)「トランプトレード」の調整で金価格は2か月ぶりの低値へ
週間市場ウォッチ
金曜日の弊社チャート上の午後3時の金価格は、前週金曜日のLBMAのPM金価格から4.5%安でトロイオンスあたり2571ドルと、2週連続の下げで9月半ば以来の低さへ下げています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から2.9%安のトロイオンスあたり30.65ドルと3週連続の下げで、10月初旬以来の低さとなっています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から4.2%安のトロイオンスあたり945ドルと3週連続の下げで、9月半ば以来の低さとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から6.1%安でトロイオンスあたり951ドルと3週連続の下げで9月月初旬以来の低さとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は大きく下げることとなりました。これは、トランプ氏が大統領選で勝利した後に、議会の上院に加えて下院も共和党が抑えたことで、「トランプトレード」からも、株価やビットコイン等の暗号資産が急騰し、また新政権が財源なき減税や景気刺激策等を導入してインフレを引き起こす懸念もあり、FRBの利下げペースが遅延するという観測も広がり、ドルと長期金利が上昇する中で、価格の調整が入ったことが要因となっています。
金の週間の下げ幅(4.5%)はパンデミック最中に将来の利上げ観測で急落した(5.7%)2021年6月以来となり、前月米選挙への不透明感もあり、月間で4%急騰していた上げ幅を削ったこととなります。
今週のチャートは「トランプトレード」で急騰しているビットコインと、週後半に多少調整ははいっているものの、やはり今週月曜日に今年51度目の史上最高値をつけた米S&P500種の株価指数と金価格の今年年初からの推移のチャートをお届けしましょう。
ビットコインは通常ボラティリティは高いものの、年初来の上げ幅は100%を超え、S&P500種は25%弱、金は先月までは30%を超えていましたが、25%弱とS&P500種を若干上回る水準となっています。
なお、パラジウムの下げ幅が大きく、ほぼプラチナと同水準まで下げているのは、前月ロシアへの経済制裁を強めると発表され、ロシアが最大の産出国であるパラジウムが供給減観測で大きく上昇していたものが、トランプ氏が勝利したことで、その制裁が緩むという観測であるようです。
今週の金相場の動きと背景について
週明け月曜日は前週の米国選挙の結果が共和党が大統領と上院と共に下院も抑える可能性が高まっていたことから、「トランプトレード」と呼ばれる、テクノロジー株等がけん引して米国株価が市場最高値の更新を続け、ビットコインもトランプ新政権が積極的に暗号資産を支持するという観測で急騰する中で、金価格はドルインデックスが4か月ぶりの高さに上昇する中で、4週ぶりの低さへと急落して、トロイオンスあたり2623ドルで終えていました。
火曜日金相場は、ドルと長期金利が引き続き7月上旬の高さへと上昇する中で、前日の下げ幅を広げて、トロイオンスあたり2600ドルの攻防で2599ドルで終えていました。
この間今週史上最高値の更新を続けている米株価指数は上昇していましたが、多少上げペースを落とし、前日10%を超えて上昇したビットコインは2%近く下げていたこと等からも、金からの資金流出のペースも落ちていた模様です。
ちなみに、金ETF全体では前週ネットですでに減少していたことが確認され、最大銘柄のSPDRゴールドシェアは前週火曜日から連続で残高を減少させる等、前月米国大統領選の不透明感からも4%と大きく上昇していた金のセンチメントが今月に入り多少悪化していたことがETFの動きで見えていました。
水曜日金相場は、米消費者物価指数発表後上昇したものの、その上げ幅を失って、9月20日以来の低さのトロイオンスあたり2572ドルへ下げて終えていました。
同日発表された米消費者物価指数は、前年同月比前回と予想の2.4%を上回る2.6%であったものの、コアに関しては予想通りであったことから、インフレ上昇の懸念が後退し、来月のFOMCでの0.25%の利下げ観測が発表後に6割から8割まで上昇し、長期金利が下げて、金を2618ドルまで押し上げていました。
しかし、その後株価が上昇に転じ、ドルも強含み、長期金利も下げ幅を削ったことで、上げ幅を失うこととなりました。
木曜日金相場は、ドルが2022年6月の高さへ上昇する中で、トロイオンスあたり2543ドルまでいちじさげて、2566ドルと9月中旬の低さへ下げて終えていました。
これは、同日に発表された米生産者物価指数が前日の消費者物価指数が前年同月比増加してことに続き、前月比と前年同月比で上回っていたこと、そして、新規失業保険申請件数が予想を下回り半年ぶりの低い水準となったこと、それに加えて同日行われたパウエルFRB議長のスピーチで、「経済は金利引き下げを急ぐ必要があるというシグナルを送っていない」と述べたことで、FRBの利上げペースが遅くなる観測が広がったことが背景となっていました。
そこで、CMEのFEDWatchツールでは、来月のFOMCでは据え置きが前日の17.5%から51.7%へと一時大きく増加していました。
本日金曜日金相場は、前日終値のトロイオンスあたり2666ドル前後の20ドルほどの狭い範囲で推移しています。
昨日のパウエル議長のタカ派的コメントに続き、本日シカゴ連銀のグールズビー総裁が、部㏍上昇率がかなり高いとの認識を語ったことで、FRBの利下げペースが遅くなることが金の頭を押さえているものの、この観測とトランプ次期大統領の政策がインフレ再燃の懸念も高めて、今週トランプトレードで上昇を続けていた米株価が下げていることからも、リスクオフの金の需要もあり底値を固めている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に11月5日までのデータが発表されて、米国選挙結果が発表される前日に、全ての貴金属でネットロングポジションを減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、7%減で690トンと2週連続で減少していたこと。価格は1.0%安でトロイオンスあたり2742ドルと下げていたこと。建玉は2%減と2週連続で9月末以来の高さから減少していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、20%減で5143トンと2週連続に減少していたこと。価格は前週比4%安で、トロイオンスあたり32.65ドルと前々週の12年ぶりの高さから2週連続で下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、9月17日からネットロングで、28%減35トンと3週ぶりに2020年2月末以来の高さから下げていたこと。価格は前週比5%安でトロイオンスあたり1001ドルと5月末以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週までに58%増で8.4トンと3週ぶりに増加して2022年12月末以来の低さから増加していたこと。価格は11%安でトロイオンスあたり1092ドルへ下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で9.5トン(1.1%)減で867.37トンと9月初旬以来の低さへ下げて、3週連続の週間の減少傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに8.4トン(2.2%)増で389.24トンと今年2月末以来の高さで、前週週間で11週ぶりに減少後に増加傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに216.91トン(1.5%)減で14,635.86トンと2週連続で週間の減少傾向。
- 金銀比価は、今週85台初旬で始まって徐々に下げて、本日金曜日に84台半ばで終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週16932ドルで始まり、本日1616ドルへ下げて終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差は9月10日から再びディスカウントへ転換し、月曜日11ドルで始まり、今週木曜日にプレミアムの7ドルをつけたものの、本日14ドルのディスカウントで終える傾向。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924のディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週間のロンドン価格とのディスカウントは12.50ドルと2週ぶりの低さで、10月初旬以来の高さへ前週の$16ドルから下げていたこと。上海黄金交易所とロンドン金価格の差は今年8月19日からディスカウント。2023年平均は29ドルのプリミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までの週の平均は前週比で、金は19%増で4月半ば以来の高さ、銀は1%増で3週ぶりの高さ、プラチナは4%増で3週ぶりの高さ、パラジウムは6%増で8月末以来の高さとなっていたこと。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は11月13日から負の相関関係で0.50と週間ではその関係を弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金も11月11日から負の関係へ転換し、0.95と前週から関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は11月5日から負の関係で、前週から0.77と関係を強めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標。
今週貴金属市場は、前週の米国の選挙結果を経て調整が起きていましたが、その間も水曜日の米消費者物価指数と木曜日の米生産者物価指数に注目し動いていました。
そこで、来週も米国や他の中央銀行の金融政策に影響を与える指標やイベントが重要となりますが、指標やイベント的には先週や今週ほどの多くは無く、火曜日と木曜日の米住宅関連指標、木曜日の米新規失業保険申請件数とフィラデルフィア連銀製造業景気指数、金曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMIと米ミシガン大学消費者態度指数等となります。
詳細は主要経済指標(2024年11月18日~22日)ご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年11月11日~15日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年11月18日~22日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年11月11日)大統領と議会を共和党が抑える「赤い波」の可能性で株とビットコインが急伸する中金価格は4週ぶりの低さへ
- 金の見えない間接的強気相場
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、ウクライナ戦争と中東の紛争関連ニュースの影が薄くなり、日曜日に行われた戦没者追悼式と月曜日の戦没者記念日について、英国国教会の最高位聖職者であるカンタベリー大主教が国教会関係者による長年の少年虐待への対応をめぐり辞職したこと、大統領選で圧勝したトランプ氏の新政権の人事について、それに加えてアゼルバイジャンで開催されている国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)などが大きく伝えられています。
そこで、本日は英国国教会を揺るがしている問題についてお伝えしましょう。
今回カンタベリー大主教が辞任することなったのは、英国国教内でキリスト教の宣教に積極的に関与していた英国の法廷弁護士が、1970年代から2018年に亡くなるまで、英国、ジンバブエ、南アフリカで少年に性的、身体的、精神的虐待をしたについて、英国国教会幹部は、その事実を把握しながらも、警察当局への通報を怠ったことへの批判が高まったことからでした。
今回問題が大きくなったのは、この件に関する調査が行われて、その結果が先週報告され、英国国教会内の対応に厳しいコメントが出されていたことからでした。
カンタベリー大主教は、英国国教会の最高地位で、英国国王(もしくは女王)に指名されますが、実際の選任は英国首相によって、聖職者と信徒からなる委員会が選んだ2名の候補から選択され、ジャスティ・ウェルビー氏が2013年に就任していました。
ウェルビー氏はこの問題を起こした人物との面識もあり、彼の素行について少なくとも就任時には何らかの認識があったようですが、調査を行うなどの事実解明の努力をしなかったことが問題視され、英国国教内からも辞任を求める嘆願書も出ていました。
カンタベリー大主教の任期は無く、通常70歳の定年まで続くものとのことです。そこで、今回ジャスティン・ウェルビー氏が定年を待たず66歳で辞任したのは、過去にも例が無いもののようです。
そこで、今回は大主教が辞任することで責任を取りましたが、英国国教会の組織的な問題も指摘されており、次期大主教が決まるまでには時間を要することになりそうです。
ジャスティン・ウェルビー氏は、同性結婚を認めない英国国教会の規定を支持していますが、ホモフォビアとなることには警笛を鳴らしており、女性主教の任命については強い支持者であり、2014年には任命が可決され、同年11月から実施可能となっています。そこで、同教会の保守的な人々にとっては、改革のスピードの速さへの懸念も挙げられていたようです。
カンタベリー大主教として、ヘンリー王子とメガン妃の結婚式を司り、エリザベス女王の国葬で弔辞を読み上げ、翌年のチャールズ国王の戴冠式の儀式を執り行うなど、この数年は王室関連の重要なイベントの中心的存在でもありました。
英国内の英国国教会の教徒はかつてに比べると少なくなっているとは言え、未だ英国の主となる宗教ではあります。
今回の問題を経て、より現在の英国国教会の教徒や一般国民の感覚に近い大主教が就任し、英国国教会の改革がさらに進むことを希望しています。