ニュースレター(2024年10月18日)金価格は主要通貨建てで史上最高値を更新し、心理的節目の2700ドルを超える
週間市場ウォッチ
金曜日の弊社チャート上の午後3時の金価格は、前週金曜日のLBMAのPM金価格から2.5%高でトロイオンスあたり2714ドルと史上最高値を3営業日連続で更新して週間でも上昇しています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から3.1%高のトロイオンスあたり32.15ドルと、2週連続で上昇して12年ぶりの高さであった9月末以来の高さへと上昇しています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から3.6%高のトロイオンスあたり1012ドルと2週ぶりの上昇で9月末以来の高さとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から0.2%安でトロイオンスあたり1070ドルと週間で若干ながら前週の9月末以来の高さから下げています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属はパラジウムを除き全般大きく上昇することとなりました。
この背景は主要中央銀行の利下げ観測、地政学リスクが継続すること、11月の大統領選の政治リスク、そしてトランプ氏、もしくはハリス氏が大統領になったとしてもすでに膨大な水準となっている米債務赤字は増加すること等ですが、上げが上げを呼んでいる模様です。
なお、本日の最高値は、ドル建てでは今年34回目の更新で心理的節目のトロイオンスあたり2700ドルを超えることとなりましたが、週間での上昇は今年42週中23週目で、年初来の上げ幅は世界指標のLBMA価格ベースで30.6%(ポンド建てで27.5%、ユーロ建てで33.2%、日本円建てで38.5%)となっており、年間パフォーマンス(上昇率)は、2010年以来最大となっています。
そこで、本日はドル建て金価格の年間のパフォーマンスとドル建て価格のチャートをお届けしましょう。なお、2024年のパフォーマンスと価格は本日の午後3時の弊社チャートの価格で算出しています。
過去に今年の上昇率を上回ったのは、1971年のニクソンショック後の3年間、1978年、1979年のソ連のアフガニスタン侵攻以降、2007年の世界金融危機の始まりと6回のみとなっています。
今週の銀とプラチナの価格の動きは金に引っ張られているものとなり、本日の中国政府と人民銀行の景気刺激策による中国の景気回復期待もまた押し上げる要因となっている模様です。パラジウムにおいては、前週までにすでに上昇をしていたことからも、上げ幅が抑えられた模様です。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、ドル建てとスイスフラン以外の主要通貨建てで、ロンドン時間早朝に史上最高値をつけていました。この背景は、直近の金価格上昇同様に複合的な要因となりますが、金ETFが直近の5か月で残高を増やしていること、コメックスの金先物・オプションの資金運用の強気ポジションが評価額ベースでほぼ史上最高であること、そして中央銀行の需要、それに加えて世界第二の貴金属消費国のインドが、金購入が盛んとなるディワリの祭典に近づく中で、価格がプレミアムに先週転換していた等、金のセンチメントが強いものであることであったようです。
火曜日金相場は、ロンドン時間午後にドルと長期金利が下げる中で、トロイオンスあたり2668ドルを一時つけて2660ドルで終えていました。
この背景は、同日発表されたニューヨーク連銀製造業景気指数が、-11.9と前回の11.5と予想の3.9を大きく下回っていたことや、同日イスラエルがイランの原油関連施設への攻撃を避ける可能性があるとも伝えられていたことから、原油価格が下げると共に長期金利は下げていたことが背景とも分析されていました。
なお、同日S&P500種は前日に最高値をつけた後、米国がチップメーカーへの輸出を国別に制限する可能性が伝えられ、関連株価が下げると共に、調整などもあり同日は下げていました。
水曜日金相場はドル建て世界基準価格(LBMA価格)で今年32回目の史上最高値トロイオンスあたり2675ドルをつけ、ポンド及びユーロ建てでも最高値、そして日本円建てでは取引時間内にgあたり12901円とやはり史上最高値をつけていました。
これは、同日英国消費者物価指数が3年ぶりの低さでイングランド銀行の利下げ観測が進み、翌日の欧州中央銀行も直近の経済指標が弱いことからも利下げが予想されており、世界の長期金利が下げていることに反応していたようです。
また、金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は前日まで3営業日連続で増加し、中国の金価格は未だ対ロンドン価格でディスカウントではあるものの、5ドルへと下げており、金のセンチメントの回復は見られていました。
木曜日金相場は、主要通貨建てで再び史上最高値を更新し、ドル建てにおいては取引時間内にトロイオンスあたり2696ドルをつけ、世界指標では2688ドルの最高値を記録していました。
同日は米小売売上高が0.4%と予想の0.3%と前回の0.1%を上回り、FRBによる大幅な利下げ観測は引き続き後退し、ドルと長期金利は上昇し、金価格は若干押し下げられていたものの、強いモメンタムで上げ基調を維持した模様です。
なお、同日欧州中央銀行は予想通り9月から連続の0.25%の利上げを行い、中銀預金金利を3.25%へ引き下げを全会一致で行いました。
そこで、ユーロは対ドル弱含み、日本円も同日円安が進んで1ドル150円台まで下落したことで、それぞれ史上最高値トロイオンスあたり2696ユーロ、gあたり13004円をつけていました。
本日金曜日は3営業日連続で主要通貨建てで史上最高値を更新し、ロンドン時間午後4時の段階でドル建てにおいてはトロイオンスあたり2717ドル、日本円ではgあたり13091円の最高値をつけています。
この背景は、前日同様に上昇基調が背景ですが、本日中国人民銀行が更なる刺激策として、企業の自社株買いを支援するための専門的な再融資制度や機関投資家に株式購入の流動性を提供するスワップ制度を開始したことが好感されて、貴金属の最大消費国である中国の経済回復への期待からも金を押し上げている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に10月8日までの一週間データが発表され、ヒスボラが停戦の準備があると伝えらえ、強い米経済指標でFRBの大幅な利下げ観測が後退して米長期金利が8月以来の高さに上昇した際に、全ての貴金属でロングポジションが減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、9.1%減で704トンと2週連続で減少して8月半ば以来の低さへ下げていたこと。価格は1%安でトロイオンスあたり2636ドルと下げていたこと。建玉は4.3%減で2週連続で減少して9月徐淳以来の低さへ下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、9.5%減で5403トンと2週連続で減少して9月上旬の低さとなっていたこと。価格は前週比0.3%安で、トロイオンスあたり31.28ドルと前週の5月末以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、4週連続でネットロングで、33.9%減で19.6トンと前週の5月末以来の高さから下げていたこと。価格は前週比2.5%安でトロイオンスあたり965ドルと4週ぶり7月上旬以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、4.2%増で25.0トンと2週連続で増加し9月初旬以来の高さとなっていたこと。価格は1.2%高でトロイオンスあたり1015ドルと上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で6.6トン(0.8%)増で884.43トンと昨年9月以来の高さで、3週連続の週間の増加傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.65トン増(0.17%)増で376.43トンと8月6日以来の高さであり、9週連続の週間の増加傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに106.37トン(0.73%)増で14,727トンと昨年3月以来の高さで2週連続で週間の増加傾向。
- 金銀比価は、今週85台前半で始まり、木曜日に84台半ばで終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1673ドルで始まり、本日1961ドルと1990年3月以来最大で終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差は9月10日から再びディスカウントへ転換し、75のディスカウントで始まり、本日は54ドルで終える傾向。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924のディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)は今週火曜日からゴールデンウィークの休暇を終えて市場が再開し、週間のロンドン価格とのディスカウントは、ほぼ10ドルと前週のほぼ27ドルから9月半ば以来の低さへ下げていたこと。上海黄金交易所とロンドン金価格の差は今年8月19日からディスカウントで、2023年平均は29ドルのプリミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までの週の平均は前週比で、金は16%減で2月初旬以来の低さ、銀は18%減で1月半ば以来の低さ、プラチナは2%増で9月末以来の高さ、パラジウムは22%減で9月末以来の低い水準。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は10月7日から正の相関関係で0.19と週間ではその関係を弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金も10月7日から正の関係へ転換しているものの、0.37と前週から関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は8月6日から正の関係で、前週から0.35と関係を弱めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標。
今週は中東の紛争関連ニュースの影響が限定的である中、欧州関連経済指標が欧州中銀やイングランド銀行の利下げ観測を広げる中で、金価格は史上最高値の更新を続けることとなりました。
来週もまた主要中央銀行の利下げ観測を市場は注目し、その関連指標やイベントが重要となり、水曜日の米地区連銀経済報告(ベージュブック)や、木曜日の主要国の製造業及びサービス部門のPMIや米新規失業保険申請件数、金曜日の米耐久財受注やミシガン大学消費者物価指数等が重要となります。
詳細は主要経済指標(2024年10月21日~25日)ご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年10月14日~18日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年10月21日~25日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年10月14日)金価格はディワリを前にインドでの需要が戻る中、ドル建て以外の主要通貨建てで史上最高値をつける
- ロンドン貴金属市場協会(LBMA)の年次会議のまとめ
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、ハマスの指導者がイスラエルによって殺害されたことを含む中東の紛争について、ウクライナのゼレンスキー大統領がEU首脳会議とNATOの国防相会議に出席をして今後の「勝利計画」を説明したこと、チャールズ国王がカメラ王妃と共にオーストラリアを公式訪問していることが伝えられています。
そこで、今週はチャールズ国王が国王に就任して初めての公式訪問についてご紹介しましょう。
オーストラリアは英国のコモンウェルスと呼ばれるイギリス帝国を構成していた諸国が加盟する英連邦王国の一員で、チャールズ国王を元首としています。しかし、オーストラリアのアルバニージ首相は共和制派であり、今回国王が訪問するオーストリアの6州すべてのレセプションに参加しないとのこと。
また、多くの共和制を支持する人々は、今回のチャールズ国王の訪問を「お別れツアー」と呼んでいるとのこと。
1999年にオーストラリアは英国の君主を元首とする君主制を廃止すべきか存続させるべきかをめぐって国民投票を行い、54%が君主制廃止に反対し、現在も君主制が継続しています。
チャールズ国王は、オーストラリアが共和制に移行するかどうかは国民の問題と述べ、このスタンスは故エリザベス女王も同様であったとのことです。
今週オーストラリアのニュースコープ紙に掲載された世論調査では、立憲君主制を継続することを支持するのは45%で、共和制の支持は33%、残りは未定であったとのこと。
本日チャールズ国王とカミラ王妃がシドニーに到着したことからも、シドニーオペラハウスには過去のチャールズ国王のオーストラリア訪問時の写真が投影されたことが伝えられていますが、共和制となるかどうかの議論は今回の訪問を機会に高まることでしょう。