ニュースレター(2024年1月19日)FRBによる利下げ観測の後退でドル建て金価格は下げ、円建ては史上最高値以来の水準へ上昇
今週のニュースレターをお届けします。なお、私は今週まで日本に入っていますので、ロンドン便りを除いた簡易的なニュースレターをお届けしますことをご了承ください。
週間市場ウォッチ
本日金曜日の午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり2031ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.2%下げていました。この間本日の弊社チャート上の午後12時の銀価格は、前週のLBMA価格(午後12時)から1.1%安のトロイオンスあたり22.81ドルと週間の下げとなっています。本日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMAのPM価格から1.7%安のトロイオンスあたり912ドルと3週連続の週間の下落となっています。本日金曜日の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMAのPM価格から5.24%安のトロイオンスあたり944ドルと4週連続の週間の下落となっていました。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週は年末から急激に進んでいたFRBによる早いペースの利下げ観測がFRB高官によるコメントや堅固な米経済数値で後退し、中東における地政学リスクによる安全資産の需要のある金ですらも頭を押さえられることとなりましたが、工業用途需要の割合が多い銀とプラチナとパラジウムは中国経済の停滞を示す指標などからもこの数週間下げ幅を広げることとなりました。
なお、FOMCのメンバーによる直近の今年の利下げ予想は3回である中、12月末には6回を市場が予想していたこともあり、調整が入っている模様です。
そこで、CMEのFEDWatchツールによると、一時9割がたが3月の利下げを予想していたものが、5割強まで下げ、年末までの利下げ予想は5回ほどへと下げてきています。
ところで、今週の金の動きはドル高に影響を受けているために、対ドル昨年11月末以来の安値水準である日本円であることからも、日本円建て金価格においては前週のLBMA価格が発表される金曜日午後3時と本日3時において1.3%高でgあたり9678円と12月4日の史上最高値以来の高値をつけています。そこで、過去3ヶ月の日本円建て金価格の動きが見れるチャートを今週は下記に添付します。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、紅海における地政学リスクの高まりの中で原油価格は下げていましたが、前週終値を上回る水準のトロイオンスあたり2051ドルで終えていました。
同日はキング牧師記念日で米株価および債券市場は休場で薄商いであった中で、ドルインデックスは若干上昇していましたが金は安全資産の需要もあり、春節前の中国での需要も高まる中で人民元建てでは史上最高値もつけていました。
火曜日金相場はドルがひと月ぶりの高さに上昇し、米長期金利もほぼ2週ぶりに4%を上回る中、トロイオンスあたり2028ドルへと下げて終えていました。
この背景は、タカ派で知られているFRBのウォーラー理事が「経済活動と労働市場は良好な状態で、インフレ率は漸進的に2%へと鈍化しつつあり、以前ほど急いだり迅速に利下げしたりする理由は見当たらない」と、急ペースの利下げにつながった過去の経済ショックを挙げて説明したことからも、今年最大6回の利下げがFRBは行うとの行き過ぎた予想への調整が入ることとなりました。
そこで3月のFOMCの利下げ予想は前日の80%から63%へと下げていました。
水曜日金相場は、米小売売上が予想を上回り、米長期金利が前日からさらに上昇し、ドルインデックスも前日のひと月ぶりの高さか更に上昇したことで、トロイオンスあたり2010ドルとひと月ぶりの低さへ下げて終えていました。
これは、前日のウォーラー理事で後退していたFRBによる利下げ観測がさらに後退することとなりました。CMEのFedWatchでは、3月の利下げ予想が前日の65%ほどから、57%へと更にさらに下げていました。
木曜日金相場は、ドルインデックスと長期金利が若干ながら上昇する中で、ひと月ぶりの低さへ下げた前日終値から上昇してトロイオンスあたり2023ドルへ上昇して終えていました。
同日発表された米新規失業保険申請件数は前回修正値の20.3万件と予想の20.7万件を下回る18.7万件で、今週進んでいた早期の利下げ観測がさらに広がり、ドルインデックスが前日のひと月ぶりの高さからさらに上昇し、長期金利もひと月ぶりの高さへと上げていました。
しかし、パキスタンが同日イランの武装勢力を標的に軍事攻撃を行ったと明らかにしたことで、地政学リスクの高まりもあり金をサポートしていたようです。
これは、イランが16日にパキスタン領内の武装組織拠点を攻撃したことへの報復とのことです。
本日金曜日金相場は、ロンドン時間午前中に今週上昇していたドルと長期金利が多少下げていたことから、トロイオンスあたり2038ドルまで上昇後、長期金利が上昇に転じ、本日の上げ幅をほぼ失い2024ドルへと下げて推移しています。
この動きの背景は、グールズビーシカゴ連銀総裁が同日のインタビューで市場の早期利下げ観測へのけん制のコメントが出ていたことからの模様です。
また、本日発表されたミシガン大学消費者態度指数が予想と前回を上回る堅固な数値であったことも、利下げ観測を後退させている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に1月9日のデータが発表され、同週に発表される予定の米消費者物価の発表を待つ中でレンジ内で金価格が動く中で、全ての貴金属において強気ポジションが減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、22.7%減で330ンと11月半ば以来の低さとなっていたこと。価格は1.58%安でトロイオンスあたり2034.90ドルと、前々週のLBMA価格で史上最高値の2069.40ドルから2週連続で下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、50.6%減と2週連続で減少して1226トンと11月初旬以来の低さへ減少。価格も3.42%安のトロイオンスあたり23.13ドルへ下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、7.9%減の6.8トンと12月半ば以来の低さ。価格は4.86%高でトロイオンスあたり940ドルと12月半ばの低さへ下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートで1.4増の22.08トンと12月半ば以来の高さ。価格は10.54%安で985ドルとやはり12月半ば以来の低さへ下げたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに1.7トン(0.2%)減で863.10トンと昨年11月初旬以来の低さで3週連続の週間の減少傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.35トン(0.09%)減の394.4トンと4週連続の週間の減少の傾向で前年4月初旬以来の低さ。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで31.32トン(0.23%)減と13,452.06トンと5週連続で週間の減少傾向で、前年2020年5月半ば以来の低さ。
- 金銀比価は、今週88台で始まったものの89台と10か月ぶりの高さへと上昇して終える傾向。2023年年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1138ドルと12月初旬の過去最大の水準で始まり1114ドルで終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは68ドルで始まり、33ドルと昨年11月初旬以来の低さで終える傾向。2023年平均は371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週平均は49ドルであったものの前週から若干下げた水準。これは、月曜日に人民元建て金価格が史上最高値をつけて40ドルを割る水準まで下げたため。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇していたこと。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週前週平均比で、金は10%減、銀は11%減、プラチナは26%増で昨年12月下旬以来の高さ、パラジウムは50%増で昨年12月初旬以来の高さ。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は11月27日に負の相関関係となり、本日-0.62と前週から弱めていたことこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は11月21日から負の相関関係へ転換して、本日-0.75と水曜日の12月末以来の弱さの-0.64から強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は正の相関関係に11月27日に転換し、昨日までに0.11と関係を昨年12月半ば以来の弱さへ下げていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週はFRB高官のタカ派的コメントや堅調な米小売売上高でFRBの早期の利下げ観測が後退し、金価格は押し下げられていますが、来週もFRBの政策金利に影響を与える指標やFRB高官コメント、また他の主要中央銀行の政策金利発表は重要となります。
そこで、火曜日の日銀金融政策決定会合後の政策金利発表、水曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMI、木曜日の欧州中央銀行の政策金利発表と米第4四半期GDP、金曜日のFRBがインフレ指標として注目する米個人消費支出PCEデフレーター等が重要となります。
詳細は主要経済指標(2024年1月22日~26日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年1月15日~19日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年1月22日~26日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年1月15日)金価格は中国で最高値をつけ、原油価格は紅海での地政学リスクの高まりにも関わらず下落
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
前年末から日本に入っていますので、ロンドン便りはお休みさせていただきます。