金市場ニュース

2023年下半期の金投資について:顧客アンケート調査結果

最新の貴金属価格の見通しについてまとめてみましょう。
 
ここで、ブリオンボールトのリサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュは、弊社顧客の半期に一度のアンケートの結果をまとめ、解説しています。
 
英語のことわざの「一羽の燕で春が来たとは言えない(One swallow doesn't make spring)」は、たった一つの良い出来事が全体の状況を改善する兆しとは言えない」という意味があります。
 
しかし、金価格の上昇に賭ける資金運用業者のポジションが増加したことは、この夏の金の低迷が終わる兆しであるかもしれません。
 
コメックス金先物・オプションの資金運用業者のネットロングの全建玉に対する割合のチャート 出典元ブリオンボールト
 
ブリオンボールトのホワイトハウス佐藤敦子が、月曜日の ロンドン金市場レポートで述べているように、ヘッジファンドや他のプロのトレーダーによる投機的な取引は、先週急増しました。
 
前週から3分の1以上増加し、金価格が5月の初めに「スポット」市場の新高値を記録して以来、同グループの弱気ポジションを差し引いた最大規模に達していました。
 
さらに、現在全てのコメックス金先物・オプション建玉と比較すると、最新のポジションは20%を超えていました。
 
これは、2019年後半に金価格が決定的に強気に転じて以来の最大の割合となります。
 
この市場の風向きが変わった兆しはETF市場にもでていました。
 
世界最大規模のSPDRゴールドシェア(GLD)の金ETFとその第2規模のiShareゴールド(IAU)が共に前週残高を増加させ、それぞれ週間ベースで4週間と7週間続いていた資金流出に歯止めがかかっていました。
 
これらの上昇が転換点であったとしてもるとすれば、おそらくは早すぎる結論であるかもしれません。というのは、GLDとIAUを合わせても、2020年夏に記録した史上最高の規模を現在未だ20%以上も下回っているからです。
 
そして、世界の金ETF全体では、2020年の残高の最高値から未だ10%少ない規模なのです。
 
コメックスの「資金運用業者」のトレーダーは、2019年9月の最高値の半分以下のネットの強気ポジションを現在保有しています。
 
そして、コメックスの金先物・オプションの契約全体に占める割合は、2009年10月のピーク時の5分の3以下でもあります。
 
言い換えれば、センチメントに変化が始まると動きが急激に進む余地があるということです。もし本当に価格の上昇が始まっているのであれば。
 
それでは、ここから何が金や他の貴金属価格を上下させるのかについて考えてみましょう。
 
ブリオンボールトの顧客の2023年の価格を動かす要因のチャート 出典元 ブリオンボールト
 
ブリオンボールトのアンケートにご協力いただいた方々にはお礼を申し上げます。
 
2023年下半期を前に、貴金属投資に関する考え方、動機、見通し、そして期待について、回答いただいたのは1,442名の方々で、個人投資家の貴金属投資に関するアンケートの規模としては最大規模であったと考えます。
 
そして、2023年7月の回答は、2014年以来年に2回行ってきたアンケート結果に加えられ、この調査は、金融市場の中の地金市場にとどまらず、個人投資家を対象とした最も一貫して行われてきた調査のひとつとなっています。
 
では、最新の調査で何が明らかになったのでしょうか。
 
まず、主要中央銀行の「金融政策」は、ここから2023年末まで貴金属価格を上下させる可能性のある他のすべての要因よりも上位に位置づけています。これは、3人に1人の顧客によって選ばれていました。
 
上のチャートから分かるように、これはここ数年、この調査で選ばれてきた中央銀行の影響力を更に上回るものでした。
 
実際、第一次コロナ危機の最中でさえ、中央銀行による金利の方向性と量的緩和の債券購入の規模は、この地金市場に最も明確な影響を与えるように見えていました。あるいは、そう考えている個人投資家もいたようでした。
 
注目すべきことに、少なくとも地金をポートフォリオに組み入れることを選択した投資家によれば、この要素は貴金属価格の主要な要因として、「インフレ」にすらも勝っていたことでした。
 
それでは、貴金属投資を行う主な理由は何だったのでしょうか?
 
ブリオンボールトの顧客による貴金属をポートフォリオに組み入れる主要な理由のチャート 出典元 ブリオンボールト
さて、これはある種の矛盾を示していると思われるかもしれません。
 
個人投資家は、金や他の貴金属の価格に影響を与える可能性のある主な要因に、「金融政策」を挙げているのです。
 
しかし、金利が(現在も)非常に低いことは、現物地金を所有する理由の第一位として、過去3年間で5%に留まっていました。
 
2020年から2022年までの夏の調査では、インフレから身を守る必要性が、投資リスクを分散させること(ここでは「分散」と名付けている)を上回っていました。
 
しかし、2023年も半ばを過ぎようとしている今、分散投資はトップに躍り出ています。
 
地政学リスクへの不安は理由として順位を下げ、貴金属の「強気相場」は貴金属を保有する理由としてほとんど選択されないままであり、経済見通しは(2020年半ばの数値を下回ってはいるものの)上昇に転じていました。
 
今回の貴金属投資をする理由の第1位は「分散投資」となっていました。これは、このアンケートの回答者が実際にどのように行動しているかということと一致しています。
 
ブリオンボールトのユーザーは、平均して、投資可能な資産の約5分の1を貴金属で保有していると回答しています。
 
これは、非常に多いように聞こえるかもしれません。それは、年金基金のファンドマネージャー、独立したファイナンシャル・アドバイザー、あるいは金融市場規制当局を懸念させるかもしれません。
 
しかし、ブリオンボールとを利用して貴金属をポートフォリオに組み込んでいる個人投資家の間では、彼らの資金のほぼ80%は貴金属以外のもので占められているのです。それは、株式、債券、不動産、コモディティ、外貨、個人事業、そして暗号資産や収集品等も含んでいます。
 
つまり、最新の調査によれば、分散投資は貴金属を保有するための主要な理由であり、また第一の用途でもあるのです。
 
別の言い方をすれば、強気相場に賭けるのではなく(繰り返しますが、「強気相場」を信じることは、この夏、貴金属を保有する理由の第1位としてはかろうじて5%にとどまっていました)、現物地金を保有している投資家は、リスクヘッジとして、保有している他のものに対する保険の一形態として、地金を利用していることが判明しているのです。
 
そして、アンケートに回答した投資家は、平均的な貴金属のポートフォリオの割合の4倍の量を所有しているのです。
 
言い換えれば、ブリオンボールトの顧客は、金及び銀地金投資家ではなく、金及び銀地金を所有する投資家であるということです。これは、微妙な違いのように思われるかもしれませんが、金融ジャーナリスト、アナリスト、そして他の投資家にとっても重要な違いなのです。
 
もちろん、誰も価値が下がることを期待して資産を購入するわけではありません。ブリオンボールトの顧客もそのようなこと信じていません。
 
ブリオンボールトの顧客による2023年末の金、銀、プラチナ、パラジウム価格予想 出典元 ブリオンボールト
 
この表の現在価格は、ブリオンボールトが6月末に2023年末の金、銀、プラチナ、パラジウム価格の調査を開始し、顧客が回答を行っていた7月半ばの価格を示しています。
 
その後、金とプラチナは上昇し、銀は一時的に弊社顧客の平均的な年末予想を上回っりましたが、パラジウムは現段階では動いていません。
 
さらに、ブリオンボールトを利用して貴金属現物でリスクを分散している個人投資家は、金が年末までに史上最高値を更新すると予想しています。
 
一方、銀は2023年の年末に2020年以来の高値をつけ、2022年末からトロイオンスあたりで1ドル以上上昇すると予想しています。
 
「地金投資家は強気」という見出しは、大した見出しには聞こえないかもしれません。
 
しかし、最近のアンケートで個人投資家が示した考察と分析の深さを考えると、このよう予想は可能であるばかりでなく、賢明にも見えます。特に、コメックスのポジションとETFに対する機関投資家の関心の高まりが続くならば。
 

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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