ニュースレター(2023年10月13日)金価格はイスラエルとハマス紛争悪化でほぼ3週ぶりの高さへ急騰
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1909ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午前3時)から4.95%高と2週半ぶりの高さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から4.66%高のトロイオンスあたり22.10ドルと2週ぶりの高さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から2.83%高のトロイオンスあたり882ドルと2週ぶりの上昇となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は0.06%高のトロイオンスあたり1146ドルと2週ぶりの若干の上昇となっています。
金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、週末のハマスによるイスラエル攻撃とその後の紛争の展開による地政学リスクの高まりで、安全資産の需要で金が購入される中、同様に安全資産として国債が買われて、利回りが下がったこともサポートとなり、市場が注目していた米消費者物価指数は予想の水準でインフレが高止まりしていることを示唆していましたが、全般大きく上昇して、日本円建て金価格においては本日9月20日につけた史上最高値のグラムあたり9248円を再びつけています。
先に加え、今週に入り多くのFRB高官が長期金利が高止まりする中で、抑制的な環境であり、追加利上げの必要がないというハト派的コメントを出していることも、貴金属相場を支えることとなりました。
そのような中、本日は一般的に地政学リスクによる上昇幅は長持ちしないと言われていますので、過去のデータを調べてみましたので、地政学リスクによる同日と一か月後の価格の上昇率のチャートをご覧ください。
当然その地政学リスクが原油価格を上昇させる等の追加的要因があるか、またその危機的状況が長期化するかなど様々な要因にも影響されるので一概には言えませんが、一部例外を除き、一か月後に上げ幅を戻したケースが多く見られています。
そうではない例外的なケースは、直近の地政学リスクである昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻ですが、3月初旬に欧米諸国がロシアへ経済制裁を行ったこともあり、一か月後も価格の上昇は支えられていました。
その他の価格が一か月後も保たれたケースは、1990年8月のイラクのクウェートと1979年12月のソ連のアフガニスタン侵攻時となりますが、後者のケースはひと月後に価格が40%上昇しており、これはイラン革命等で原油価格高騰して高インフレであったこと等他の要因も重なり合っていたことが背景にあります。
そこで、今回の地政学リスクもまた、この紛争に原油産油国のイランなどの周辺国が巻き込まれることになるのか等で状況が変わるものと思われます。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金価格は、週末のハマスによるイスラエル攻撃で中東地域の地政学リスクが高まり、市場明けとともに1週間ぶりの高値を付け、その後その水準を上回るトロイオンスあたり1862ドルで終えていました。
同日は地政学リスクの影響で原油が上昇し、株価全般は下げ、安全資産としてドルが買われる中、通常同様に安全資産として買われる米債券は、コロンバスデーの祝日で債券市場は休場となっていました。
火曜日金相場は、長期金利とドルが若干下げる中で、前日の上げ幅をほぼ維持してトロイオンスあたり1859ドルで終えていました。
これは、前日FRBのジェファーソン副議長やダラス連銀のローガン総裁が追加利上げに慎重なコメントを発し、同日ボスティックアトランタ連銀総裁が、現在の長期金利の高い水準が十分に追加利上げの効果を持っていることからも、追加利上げに慎重な見方を示したことで11月のFRBによる利上げ観測が後退し、ドルが5営業日連続で下げており、長期金利も地政学リスクの高まりによる米国債の安全資産の需要で下げていたことが背景となっていました。
水曜日金相場は、ロンドン時間夜に発表されるFOMC議事要旨を前に、予想を上回る米卸売物価指数が発表されたものの、ドルと長期金利が引き続き弱含む中で、トロイオンスあたり1875ドルへと上昇して終えていました。
この間サンフランシスコ連銀のデイリー総裁が利回り上昇に伴う金融状況の引き締まりが、利上げに相当するとして、更なる利上げの必要はないとしたものの、ボウマンFRB理事は更なる利上げが必要な可能性に触れたものの、これまでほどのタカ派的トーンではなかったこと等は、ドルや長期金利の上昇を抑え、金のサポートとなっていました。
また、イスラエルとハマスの紛争の激化は、安全資産としての金や国債需要を高めて(国債利回りを下げて)いることも背景となっていました。
木曜日金相場は、市場注目の米消費物価指数が予想を上回り、FRBによる年内金利引き上げ観測が広がりドルと長期金利が上昇したことで、トロイオンスあたり1884ドルから1870ドルまで下げて終えていました。
米消費者物価指数のコアは、前年同月比4.1%と予想と同水準で、前回の4.3%を下回り、前月比では0.3%と前回と予想と同水準でした。しかし、FRBが目標とする2%からははるかに高く、根強いインフレの印象となった模様です。
そこで、FEDWatchツールの年内12月の利上げ観測が発表直後に前日から10ベーシスポイント上昇し、ドルと長期金利を押し上げていました。
本日金相場は、イスラエルとハマスの紛争激化観測とFRB高官のハト派的コメントで、長期金利が下げる中、トロイオンスあたり1914ドルと急騰することとなりました。
本日イランはイスラエルとの紛争の可能性を示唆し、イスラエルはガザ地区北部からの退避を民間人に勧告し地上戦の観測も広がっている模様です。
また、本日フィラデルフィア連銀のパトリック・ハーカー総裁は、ディスインフレが進行中であり、データに急激な変化がない限り、金利は現状維持が望ましいと繰り返したことで、今週前半に広がっていたFRBによる利上げ終了の観測も広がり、FEDWatchツールの年内利上げ観測が再び30%ほどまで下げたことも背景のようです。
その他の市場のニュ―ス
- ポーランドの中央銀行が金準備を19トン増加させ330トンとし、将来的に外貨準備高の20%(約600トン)とすることを希望しているとのこと。
- 中国中央銀行が9か月連続で9月も26トン金準備を増加させ、2023年に181トン増で総量を2192トンとしていたこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に最新データの10月3日分が発表され、米雇用動態調査(JOLT)求人件数が予想を上回り価格が下げていた際に、パラジウムを除き貴金属はすべて強気ポジションを減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションはネットショートへと昨年の11月初旬以来初めて転換して、前週のネットロング111トンからネットショートの9.3となっていたこと。この間建玉は5.9%増で、価格は前週比4.44%安でトロイオンスあたり1822.45ドルとLBMAPM価格では昨年12月20日以来の低さへ下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、6週ぶりにネットショートへ転換し287トンとネットロングの909トンから大きくロングポジションを減少させていたこと。価格は8.51%安でトロイオンスあたり21.06ドルと3月初旬以来の低さへ下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングは、2週連続でネットショートで14.97トンと458%増。価格は前週比2.76%安でトロイオンスあたり881ドルと昨年9月下旬以来の低さへ下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションはネットショートであったものの、6.1%減の27.3トンと4週連続で減少していたこと。価格は前週比2.47%安でトロイオンスあたり1183ドルと2018年11月下旬以来の低さへ下落していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの1週間で3.5トン(0.4%)減で862.37トンと今週水曜日に6営業日ぶりに多少増加したものの、2019年8月以来の低い水準で、6週連続で週間の減少の傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.12トン(0.03%)減で408.86トンと、7営業日ぶりに昨日多少増加したものの、2020年4月半ば以来の低い水準で、12週連続の週間の減少傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で22.8トン(0.16%)減で14,008.84トンで週間の減少傾向。
- 金銀比価は、今週85半ばで始まり、週半ばで85を割ったものの、本日85前半へ上昇して終える傾向。5年平均は82.24。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、964ドルで始まり、本日1015と9月半ばの高さへ上げて終える傾向。2022年平均は839.64ドル。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは272ドルで始まり、本日267ドルへ下げて終える傾向。2022年の平均は1153ドル。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。2021年の平均は1305ドル。5年平均は918.27。
- 上海黄金交易所(SGE)は中国のゴールデンウィーク後に週平均はほぼ58ドルと、ゴールデンウィーク前の週平均83ドルから下げていたこと。2022年の平均は11.03ドルと、前年の4.94ドルを大きく上回る。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、木曜日までで前週平均比で、金は16%減9月末以来の低さ、銀は36%減で7月下旬以来の低さ、プラチナは21%減で8月半ば以来の低さ、パラジウムは9%減で9月末以来の低さ。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は今週-0.872へと若干8月末以来の強さから下げていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は8月24日以来負の相関関係で-0.74と10営業日連続で弱め、S&P500種と金の相関関係は正の相関関係で、5営業日連続で弱めて0.64となっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週はハマスのイスラエル攻撃を受けて安全資産の金の需要が増し、水曜日のFOMC議事録の内容と昨日の米消費者物価指数が注目されていましたが、来週もイスラエル情勢に加えて、引き続き主要中央銀行の金融政策に影響を与えるイベントや指標が重要となり、木曜日のパウエルFRB議長の発言等が注目されることととなります。
その他、水曜日の中国のGDP、英国とユーロ圏の消費者物価指数、米地区連銀経済報告、木曜日の米新規失業保険申請件数等も重要となります。
詳細は主要経済指標(2023年10月16日~20日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
本日金相場がほぼ3週ぶりの高さに急騰していることを伝える主要米経済サイトのMarketWatchの記事で、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが引用されています。
ここでエィドリアンは、金への「安全な逃避先」の流入の話は、ほとんどの金ETFが、今週は拡大するどころか、縮小を続けているという事実を見逃しているとし、地域の緊張が悪化しているにもかかわらず、株式市場も上昇を続けているため、投資家は、少なくとも今のところは、中東からのニュースよりも、金利期待がどうなるかに注目しているようだと述べています。
ちなみに、この記事では弊社の顧客においても購入が売却を上回るネットの売りとなっていることも紹介されています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2023年10月9日~13日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2023年10月16日~20日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2023年10月9日)ハマス・イスラエル戦争で地政学的懸念が高まり、金価格は1週間ぶりの高値をつける
- 中央銀行の金準備について
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、週末のハマスによるイスラエル攻撃以来この関連ニュースがトップニュースで伝えられていますが、その他、野党労働党の党大会、ラグビーワールドカップでイングランドが4勝全勝で8強入りしたこと、サッカーの欧州選手権2028年大会が英国とアイルランド共催で行われること等も大きく伝えられています。
そこで、今週は先週与党保守党の党大会でのスナク首相の演説をまとめましたので、それに対する野党労働党のスターマ党首の演説の主要な点についてご紹介しましょう。
1. 経済成長を最も優先し、150万戸の住居の建設を約束
2. よりグリーンなエネルギー政策
3. 国民保健サービス(NHS)の立て直し
4. 警官の採用を進める
5. 機会均等のためにあらゆる障壁を取り除く
今回スターマ党首の演説開始と共に、民主主義のスローガンを叫ぶ男性がステージに表れて中断をせざるを得なくなりましたが、その後の演説には影響は無く、終始スターマ党首の持ち味の落ち着いたものとなっていました。
そのような中、英国の本来保守党に近い新聞で、本来野党労働党に厳しいタブロイド紙のサンや主要日刊紙のタイムズが、批判を抑えて伝えていたことがニュースになっていました。サンは150万戸の新たな住宅建設を称え、タイムズ紙はどのように目標を達成するかが説明されていないものの、「何かを達成するかもしれない安全な手腕」とほぼ好意的な表現を用いていました。
1997年にトニー・ブレア氏が16年ぶりに保守党に打ち勝ち労働党政権を築いた際に、タブロイド紙のサンがブレア氏を支持したことは大きなニュースとなり、この勝利を導いた要因ともいわれていました。
今回これらの右派新聞は労働党を支持はしていませんが、厳しい批判をしていないことは、注目に値することなのでしょう。