ニュースレター(2021年3月12日)景気改善期待で長期金利が再上昇する中で金は3週ぶりの週間の上げへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1705ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.5%高で3週ぶりに上昇しています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり25.47ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から0.5%高と、やはり3週ぶりに上昇しています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1189ドルと前週LBMA価格から5.9%高で、2週ぶりの上昇となっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週もほぼ米長期金利の動きに反応する形で貴金属価格は動くこととなりました。
週初めは長期金利は前週の高さを維持して始まったものの、今週火・水・木曜日に行われた米国債入札がほぼ問題なく終えたことなどからも金利上昇が一服し、昨日まで金は上昇に転じていましたが、昨日バイデン大統領が追加経済政策に署名し、インフレが高まる懸念が金利を再び上昇に転じ一年ぶりの高さとなる中、貴金属相場は全般押し下げられています。
しかし、工業用途需要の高い銀とプラチナは金に比べて価格を年初からは維持しており、特に昨日昨年の需給レポートで史上最高の供給不足が明らかとなったプラチナは上げ幅を広げています。
プラチナは2015年のフォルクスワーゲン社がディーゼル車の排ガス不正問題でディーゼル車の需要が急落し、この排ガス触媒に使われることからも供給過多からも価格を大きく下げて金価格とのディスカウントを広げていました。それが、昨今プラチナの水素エネルギー等のグリーンエネルギー需要が注目され、そして経済活動回復期待もあり堅固な動きをしています。
そのようなことから、金とのディスカウントを狭めていることは下記のチャートでもご覧いただけます。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場はトロイオンスあたり1676ドルと一時昨年4月以来の低さへ下げていました。
これは先週に引き続き、長期金利が1年ぶりの高さとドルが今年一番の高さへと上昇していたことからでした。
火曜日金相場は、長期金利の上昇が一服し、ドルも多少弱含む中で、前日の11ヶ月ぶりの低値からトロイオンスあたり44ドルほど一時上げて1720ドルを付けていました。
これは、同日行われた米国債入札が、2月末に市場を揺るがした低調な結果となった7年債とは異なり、無事に行われたことがきっかけで、長期金利、株価、貴金属相場などに全般調整が起きたことからでした。
このために、前日の13ヶ月ぶりの高さとなった米国債10年物利回りは6ベーシスポイント下げ、前日2.5%下げていたナスダック100種は同日11月以来の上げ幅の4%を超えて上昇していました。
水曜日金相場は、長期金利とドル高が前日同様一服する中で、トリオンオンスあたり1725ドルへ0.5%上昇して終えていました。
同日は市場注目の米消費者物価指数が発表され、市場予想と同じ前月比0.4%高、コアで0.1%上昇とインフレ圧力の高まりによる長期金利の上昇観測が後退し、長期金利は1.535%と前日比6ベーシスポイント下げていました。
しかし、前日4営業日ぶりに下げたドルは前日比上昇しており、株価もダウ工業株30種平均が4日連続続伸するなど全般上昇していることからも、頭は重たい状況となっていました。
木曜日金相場は、長期金利上昇が一服する中でドルが下げて、一時トロイオンスあたり1739ドルまで上昇したものの、その後長期金利が上昇を初めて上げ幅をほぼ失い、1724ドルで終えていました。
同日はECBの金融政策発表が行われ、資産購入枠と金利は据え置かれたものの、積極的に国債を購入することが伝えられ、欧州長期金利が下げて、金をサポートしていました。
また、同日の米30年物国債の入札は応札倍率は平均を下回ったものの、市場評価はほぼ問題なく終えたということで、長期金利の上昇を抑えていました。
しかし、前日米国下院はバイデン大統領の追加経済政策を可決し、同日バイデン大統領が署名して成立すること、同日の新規失業保険申請件数は予想を下回ったことで、世界株価が全般上昇し、米株価指標は史上最高値を上回っていた事からも、株式市場へ資金が流れて金を押し下げていたようです。
本日金曜日金相場は、長期金利が再び1年ぶりの高さへ上昇してトロイオンスあたり1700ドルを割ったものの、その後ドルが多少弱含み1720ドルへと戻し推移しています。
この金利上昇は、昨夜バイデン大統領が追加経済政策に署名をし、この中の一人あたり最大1400ドルの現金給付や失業給付の特例加算延長が、4月以降の個人消費を大きく押し上げることによるインフレ観測、そしてバイデン大統領が5月1日までに成人全員のワクチン接種ができる体制と述べたことで経済活動の正常化もこの観測を広げて長期金利を引き上げている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- 今週発表されたワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル発表の最新需給レポートで、昨年プラチナは百万オンス供給不足と史上最高を記録していたこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週火曜日2日に米長期金利が1年ぶりの高さながら一服して、貴金属価格が4日ぶりに前日比上昇した際に、パラジウムを除く全ての貴金属で減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、31%減の180トンと、米中貿易摩擦時の2019年5月末以来の低さへと減少していたこと。下げ幅は1月初旬以来。建玉は昨年9月末から100万枚を下回っていること。
- コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比20%減の4,900トンと8月11日以来の低さで下げ幅で減少していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比0.73%減の13.4トンと12週間連続で減少し、引き続き昨年11月17日週以来の低さとなっていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比41%増で5.3と増加していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で14トン(1.3%)減で1055トンと昨年4月末以来の低さで、9週連続の下げの傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週は週間で3.57トン(0.7%)減で506トンと昨年8月末以来の低さで、8週連続の減少傾向。また、1月19日以来増加していないこと。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週は週間で130トン(0.7%)減で18,427トンと5週連続の減少傾向であること。
- 金銀比価は、今週月曜日に価格が大きく下げる中で67を付け、その後価格が戻す中で木曜日に65台へ下げたものの、ほぼ66台で推移したこと。
- 上海黄金交易所(SGE)の価格は、ロンドン価格に対しプレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、今週の平均は11.6と2019年8月以来の高さとなっていたこと。
- コメックスの金、銀、プラチナの週間平均取引量は、金は前月比を上回る量である中、銀は過去数ヶ月の平均を大きく下回り、プラチナはほぼ前月比平均を推移していること。
来週の主要イベント及び主要経済指標
本日はECBの政策金利発表で、国債購入を積極的に進めるというコメントで欧州長期金利が下げていますが、来週も長期金利に影響を与える可能性の高い中央銀行の政策金利発表がFOMCは水曜日、イングランド銀行は木曜日、日銀が金曜日と行われて市場は注目することとなります。
その他、主要経済指標の詳細は主要経済指標(2021年3月15日~19日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
弊社グループ会社のスコッチ・ウィスキーを樽で熟成期間中に1リットルから投資ができるオンラインサービスのウィスキー・インベスト・ダイレクトが日経新聞の「上がるものなら何でも買う」高まる個人の投機熱の記事で取り上げられています。
ただ、このサービスは年率8%ほどのリターンへの投資というもので、あくまでも長期でご利用いただく投資家の方が多いために、投機資金が集まる場所というのは多少理解が正しくは無いのですが、よろしければ先のリンクでご覧ください。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2021年3月8日~3月12日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2021年3月15日~19日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2021年3月7日)金価格はETFからの資金流出とアジアの金需要が高まる中で「重要なサポートライン」を試す
- 【金投資家インデックス】ソーシャルメディアによって新たな投資家が急増する中で 銀投資需要が金を上回る
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、先週もお伝えしていたヘンリー王子とメーガン妃の米国の人気テレビ番組のインタビューが先週日曜日に行われたことから、その内容と王室の反応、そしてメディアの反応などが日々ニュースで取り上げられていました。
そのような中、昨年7月にここでもお伝えした、日本国籍で英国で活躍している歌手のリナ・サワヤマさんが今年の英国で権威のある音楽賞にノミネートされたことが今週伝えられているのでご紹介しましょう。
昨年お伝えしたのは、英国の著名音楽賞の候補資格規則が英国籍を持っている必要があったことから、英国で25年を超えて育ち、この地を拠点として活躍しているにも関わらず、候補に入ることもできない問題をリナさんが提起をしたということでした。
その結果、先月候補者資格規則が変更され、英国籍を持っている必要がなく、5年以上英国に住んでいれば良いとなったことが伝えられていました。
そして、昨日英国最大の音楽賞「ブリット・アワーズ」のノミネートが発表されて、リナさんが「ライジング・スター賞」の候補に選ばれたことが明らかとなっていました。
リナさんは英国の永住権を持っていますが、日本は2重国籍を認めていないために、日本国籍を維持しています。
今回の問題は、英国レコード産業協会の柔軟な対応からも、多様な国籍の人々が暮らし活躍する英国のその懐の広さを感じさせるものとなりましたが、その反面、日本が重国籍を認めていないために国際社会で活躍する日本人に制限を与えてしまっていることも明らかにしたように思います。
今後も世界で活躍をする日本人が増えてくることでしょう。彼らが、日本国籍を捨てざるを得ない状況とならないように、長年国外に永住する日本人が働きかけている、日本の国籍に対する議論が国内で進み、いずれは重国籍が認められる日が来ることを心から望みたいと思います。