ニュースレター(2025年7月4日)米株最高値更新の中、貴金属は買い戻し優勢で上昇
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャートの貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較すると、下記のようになります。
金は前週の4週ぶりの低値から上昇、銀は2週ぶりの高さ、プラチナは2014年10月以来の高さ、パラジウムは昨年11月初旬以来の高さへ上昇。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週の貴金属価格は、前週に下落した金と銀が反発し、プラチナおよびパラジウムとともに全般的に上昇して終える傾向となりました。
金価格の上昇要因としては、ひと月ぶりの安値に対する買い戻しの動き、トランプ前大統領による「大きくて美しい法案」と称される財源裏付けのない大型減税案への懸念、さらに本日明らかになった新たな関税政策への警戒感などが挙げられます。
一方で、金の上値を抑える要因としては、予想を上回る米雇用統計などから米経済の堅調さが示されたことで、米連邦準備制度理事会(FRB)による早期利下げ観測が後退し、リスクオンの姿勢が継続していることが挙げられます。今週は米S&P500種株価指数が3度にわたり史上最高値を更新するなど、株式市場の強さも目立ちました。
こうした中、工業用途の需要割合が高い銀やプラチナは、金以上の上昇を見せています。パラジウムに関しては、その約8割がガソリン車の排ガス浄化用触媒として使用されていることから、電気自動車(EV)へのシフトが進む将来を見越して、上昇幅は限定的となっている模様です。
今週は、年初来の金(黄色)、銀(水色)、プラチナ(オレンジ)、パラジウム(紫)、そしてS&P500種(青)の価格動向を示したチャートをお届けします。
S&P500種は今月に入り史上最高値の更新が続いていますが、年初来の上昇幅はおよそ6.8%となっています。これに対し、金・銀・パラジウムはいずれも約27%前後の上昇となっており、プラチナは54.5%と、貴金属の中で最も大きな上昇を示していることがご覧いただけます。
今週の貴金属相場について
月曜日の金相場は、ドルが3年ぶりの低水準へ下落する中、前週のひと月ぶりの安値から反発し、トロイオンスあたり3312ドルでロンドン時間を終えていました。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に6月24日までのデータが発表され、イランとイスラエルの停戦が発表された翌日までに、金と銀価格が下げて、プラチナとパラジウム価格が上昇する中で、金と銀はネットロングが減少し、プラチナとパラジウムはネットロングを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、4.5%減で405.85トンと、前週の4月15日までの週以来の高さから減少していたこと。価格は前週比2.5%安でトロイオンスあたり3302ドルと前週の5月6日までの週以来の高さから下げていたこと。建玉は5.9%減と6月20日までの週以来の低さへ減少していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、8.7%減で7105トンと減少して、前週の2020年2月25日までの週以来の高さから下げていたこと。価格は前週比2.7%安で、トロイオンスあたり36.07ドルと、前週の2011年9月20日までの週以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングであったものの、5月20日からネットロングへ転換し、17.9%増の30.79トンと、2月18日までの週以来の高さへと増加していたこと。価格は前週比2.9%高でトロイオンスあたり1304ドルと、2017年9月23日までの週以来の高さとなっていたこと。建玉は、前週の記録が始まった2006年6月以来の高さから若干下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに15.9%減で13.59トンと6週連続で減少して、昨年11月5日までの一週間以来の低さへ下げていたこと。価格は2.5%高でトロイオンスあたり1071ドルと昨年9月17日までの週以来の高さへ上昇していたこと。建玉は前週の5月20日までの一週間以来の高さから若干下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週金曜日が米独立記念日の祝日であることから、木曜日までに7.2トン(0.8%)減少して947.66トンと、6週ぶりの週間の減少となっていたこと。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.32トン(0.07%)増で442.24トンと2023年8月2日以来の高さで、5週連続の週間の増加であること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに2.55トン(0.02%)増で14,868.74トンと、3週連続の週間の増加であること。
- 金銀比価はLBMA価格ベースで、今週91台前半で始まり、水曜日に91台後半へ上昇後に、本日90台半ばと6月10日以来の低さへ下げて終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1919ドルと今年3月初旬以来の低さで始まり、本日金曜日に1958ドルへと上昇して終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週208ドルのプレミアムと6月12日以来の低さで始まり、本日金曜日に239ドルへ上昇して終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)の今週のロンドン価格との差は、引き続きプレミアムで、週平均は14.24ドルと前週の13.83ドルから上昇して、6月13日までの週以来の高さとなっていたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
今週の主要イベント及び主要経済指標
今週の貴金属相場は、米国の雇用関連データを受けたFRBの利下げ観測により大きく動きました。また、トランプ大統領が言及した「大きくて美しい法案」の議会通過に関連して、財源の裏付けがない減税策への懸念から、ドル安や米長期金利の上昇といった動きも見られ、市場に影響を与えました。
来週は、水曜日に公表される先月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録が重要な材料となる見込みです。加えて、FRB高官の発言や、トランプ大統領による関税政策に関するコメントにも市場の注目が集まるでしょう。
詳細は主要経済指標(2025年7月7日~11日)ご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年6月30日~7月4日)今週のの結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年7月7日~11日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2025年6月30日)金相場、世界金融危機以来最大の半期の上昇率を記録
- 【金投資家インデックス】欧米のの金投資、4年ぶりの高水準に―強気相場が継続
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週の英国では、次の話題が大きく報じられています。
- イスラエルとハマスの停戦交渉の行方、およびガザ地区における人道的危機(援助物資の不足など)
- ロシアによる攻勢が続くウクライナ戦争と、それに関連した米国・ロシア・ウクライナ間の外交的接触や停戦模索
- 英国内では、社会保障関連法案をめぐり、与党・労働党内の強い反発があり、政府が法案を大幅に修正せざるを得なかったこと。また、リーブ財務相の辞任観測が一部で浮上し、それを受けて英国債利回りが一時上昇したこと
このほか、先週末に開幕したウィンブルドン選手権や、昨日交通事故で亡くなった英プレミアリーグ選手ディオゴ・ジョタ氏に関する報道も注目を集めています。
今週のレポートでは、政権復活から1年を迎えた労働党政権の党内混乱と政権運営の課題に焦点を当ててみましょう。
労働党政権の社会保障改革と党内の混乱
今回の問題の発端となった社会保障制度の改革は、労働党が掲げていた重要公約のひとつです。パンデミック後の経済的影響を受け、2030年までに社会保障費は1000億ポンドに達する可能性があると予測されています。これに歯止めをかけ、財政の健全化を進めるべく、レイチェル・リーブ財務相は約50億ポンドの歳出削減を目指していました。
政府が提出した法案の主な柱は以下の通りです:
- 社会保障受給資格の厳格化
- 健康関連手当の支給額削減
- 就労支援の強化
しかし、党内から強い反発が起こります。約100人を超える労働党議員が、「改革によって25万〜30万人が貧困に陥る可能性がある」として反対に回り、政府は大幅な修正を余儀なくされました。
まず、修正後の法案では、現行受給者は対象外とし、新規申請者のみに新基準を適用、さらに健康関連手当の削減は先送りとされました。
それでも党内の不満は収まらず、政府は新基準の導入を2026年秋まで凍結することで合意。結果として、当初目標だった50億ポンドの歳出削減は、ほぼすべてが棚上げとなりました。
この混乱のさなか、国会ではリーブ財務相が涙を流す場面も報じられ、彼女の辞任説が一部で取り沙汰されました。スターマ首相がこれを否定するまでの間、英国債やポンドが売られるなど、金融市場にも一時的な影響が及びました。
政権運営への懸念と支持率の低迷
2024年7月の総選挙で過半数を超える議席を獲得した労働党ですが、政権運営には不安定さが目立ちます。最新の世論調査によれば、労働党の支持率は20%前半にまで低下し、改革派政党「リフォームUK」の30%前後を下回る結果となっています。これは過去30年で最低水準のひとつとも言われています。
外交分野において、スターマ政権は米国との関税交渉、ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス間の停戦に関する対応では一定の評価を得ているものの、国内政策、とりわけ社会保障や経済運営に関しては厳しい視線が注がれているようです。